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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第48話

 05, 2011 06:12
 ■胎動―2■


 
 サドが演台に向かうと、生徒たちの拍手は次第に小さくなっていった。
 サドがこんなかたちで全校生徒の前に立つのは、おそらく初めてだろう。そのせいか、峯岸が話していたときのような小声のおしゃべりや、隣の者と視線を交わすための衣擦れの音さえない。呼吸さえ我慢しているのではないかと思えるほどだった。いまガムを噛んだら、その音が演台のサドまで聞こえるにちがいない。そしてマイクのスイッチが入れられると、体育館の中をすさまじい緊張感が支配し、静まり返った。
 「――いま峯岸が話したとおり、明日アリジョが我が校にカチコミにやってくる。敵の目的は、おそらくラッパッパを潰すことだ」サドはゆっくりと、力強い語気で話し始めた。「私は、優子さんからこの学園を預かっている以上、それを阻止する責任がある。本来ならおまえたち全校生徒を巻き込むほどの抗争ではないが、正直に言おう。アリジョはハンパねえ」
 サドの思いもよらぬ言葉に、生徒たちは少しざわめいた。
 県内最強を誇るマジジョの実質的トップに立つサドが、相手を強いと認めたのだ。
 「おまえたちも知っての通り、ここ数日間、マジジョはアリジョに負け続けている。勝った者もいるが数少なく、四天王さえ二人もやられた……。そのアリジョが、明日、ここにやってくる。いいか、他のどこでもない、ここに、だ。このままなら私たちは負ける。だが、そんなことがあってはならねえ。勝つか負けるかわからない博打を打つわけにはいかねえ。やるからには絶対に勝つ。いいか――絶対に、だ」
 ――そりゃあ、そうでしょうね……。
 ネズミは思う。大島優子がいないあいだにマジジョがどこかの高校に負ければ、サドは責任を取らされる。学園を辞めるだけではすまない。いや、サドにとってそんなことはどうでもいいだろう。大島優子に見放されることが、サドの一番の恐怖のはずだ。
 「そのために、ラッパッパと生徒会は作戦を立てた。だがこの作戦は、多くの犠牲者が出ることを前提としている。たくさんの人間が使い捨てにされることで成り立つ作戦だ。本当はそんなことなどしたくない。しかし、これしかないんだ」
 サドと生徒会がどんな作戦を考えたのかはわからないが、どうやら高みの見物をしていたほうがよさそうだ。まあ――もっとも、最初からそのつもりだったが。
 「いまここにいる、ほとんどの者は傷つき、倒れる。私も四天王もそうなるかもしれない。だが、最後まで立っていられる人間が一人だけでもいればいい。その者は無条件でラッパッパ――吹奏楽部への入部を許可する。今回限りはなにも吹けなくてもかまわねえ。ラッパッパに入れるチャンスなど、めったにない。だからおまえたちは希望を持って闘え。それとも、このていどのアメでは不足か?」
 サドはそこで自嘲気味に笑った。場の空気が少し弛緩した。
 チームフォンデュのどっちが振り返って、ツリに話しかけた。「おい、聞いたか? サドさんの言葉っ」
 「ああ。たしかに聞いたぜ。うちらもうまくすればラッパッパに入れるかもしれねえ」
 「けどよ……」寒ブリが口を挟んだ。「そんな簡単にいくかよ。アリジョはヤベェって話だぜ、マジで……」
 「そもそもだ」年増がどっちとツリの肩のあいだから顔を出した。「武器もなんもねぇアタシらに勝ち目なんてねぇだろ」
 「ああ。そうだな」レモンがさらに年増の顔の横から、細い首を突き出してきた。「武器はあったほうがいい。とりあえず必要なのはレモンだな」
 「レモンをなんに使うんだ?」と、どっち。
 「汁を飛ばして目潰し」
 「おめえ、マジメに考えろよ」
 「いや。それ、アリだな」年増がうなずいた。
 「アリなのかよ」どっちが年増の胸元を掃うように突っ込んだ。
 ――最後まで残っているのはネズミさん……っすよ、チームフォンデュの皆さん。
 ネズミは想像した。自分と珠理奈以外の馬路須加女学園生徒すべてが死屍累々に横たわっている中、それらを踏みつけながらマジジョの校旗を掲げる自分の姿を――。
 ラッパッパなど潰し、あらたにネズミ帝国を「建国」する。
 そして、隣には珠理奈がいる。
 そうなれば最高の結末だ。
 「はっきり言っておこう。おまえたちは虫けら同然の存在だ。おまえたちは親に、兄弟に、家族に、教師に、大人たちに嫌われ、疎んじまれ、見捨てられ、その挙句、ここにいる。おまえたちが死んでもだれも悲しまない。むしろ喜ばれる。世の中から見るのも不快な虫けらが消えるのだから。私ももちろん、その虫けらの一匹だ。だが、虫けらには虫けらなりの意地がある。それを見せるときが来たんだ。お前たちはいま、どこにいる? なぜ、ここにいる? なんのために立っている? いままでに……ここに来るまでに、どれだけの怒りと悲しみを背負い込んだ? なにを守った? 大切なものはあるか? 同じ境遇にあって、いつも行動を共にするダチがいるか?」
 独特の雰囲気もあってか、サドの演説は大勢の虫けらどもの心に響いたようだ。あちこちから鼻水をすする音が聞こえ、涙をぬぐう仕草が見える。
 「いつも隣にいるダチのため――背中を守ってくれるダチのために闘おう。私たちはただの虫けらじゃないということを証明するんだ。安心しろ。私もおまえたちの背中を守ってやる」
 だれかが拍手をした。
 ネズミは白けて、鼻で笑った。
 だが、拍手は伝染していく。
 二人、三人、四人と伝わると、それは一気に大きなうねりとなって、体育館を震わせた。
 ヤンキーどものたったひとつの良心、弱い者同士が肩を寄せ合って生きていくためになくてはならないもの――それが友情だ。ダチのためなら命さえ賭けるバカさえいる。そして、それを美化するバカもいる。
 世間でさえ――普段はヤンキーを抑圧している者でさえ――、ヤンキーの友情には温かな視線を向ける。普段は暴力をふるう者が友にだけ優しさを見せるのと、だれにも危害を加えないおとなしい者が我慢に我慢を重ねて暴力をふるうのとでは、前者のほうが「実はいいやつ」と評価されるのだ。なにが「いいやつ」だ。そんな人間はくたばっちまえばいい。
 ヤンキーどもに、ちょっとでも想像力があれば、自分がイジメたりカツアゲをしたり殴ったりしている相手にも、友や家族がいることがわかるはずだ。自分が友を大切にしているなら、相手もそうしているだろう――と。
 なのに、人を踏みにじり、痛めつけるヤンキーどもに、友情を語る資格などない。ネズミは体の奥底から怒りが湧いてくるのを感じた。
 不意に、珠理奈が心の中にあらわれた。
 珠理奈との熱いキスの感触と、指を絡ませたときの触覚を思いだす。
 ネズミの思うヤンキーの中に、珠理奈は入るのか。
 当然、入る。
 では、珠理奈も「実はいいやつ」なのか。
 ネズミは少し混乱した。
 毎朝、顔を見合わせると笑顔であいさつをしてくる珠理奈。近づいてくると必ず指をからめる珠理奈。抱きしめられるとリンスのいい匂いがする珠理奈。やわらかい唇の珠理奈。
 ――ちがう。珠理奈だけはちがう。仮に「実はいいやつ」だとしても……そうだとしても、自分はそれを利用しているだけ……利用しているだけだ。
 だんだんと、拍手の渦が遠くでしているように聞こえる。何百人という人間が周りにいるのに、ネズミは途方もない孤独感に襲われた。
 ネズミを現実に引き戻したのは、ふたたび話し始めたサドの声だった。「――とはいえ、私のいまの話に納得できない者がいるかもしれない。私が甘言を弄し、おまえたちをその気にさせているだけだ、これは一種の洗脳みたいなものだ、と……。あるいはこうも思うかもしれない。ラッパッパの命令だから仕方なく賛成している。本心ではんなことはごめんだ……。なるほど、そうかもしれない。それなら、やりたくない者はやらなくていい。その代わり、いま、ここで堂々と帰れ。あとでこそこそと文句を言うのではなく、全員のいる、いまこの場所で意思を表せ。私はそいつにペナルティを加えたり、恨んだりはしない。そんな心の余裕はない。私の心は、ここに残ってくれる者へ感謝するだけで、すでにいっぱいだ」
 そして、サドは待った。
 帰る者など、一人もいないに決まっている。いくらサドがああ言ったところで、この雰囲気の中で体育館を出て行く者など一人もいな――
 ネズミがその人物の名前を思い浮かべると同時に、列の前方がざわついた。
 ――前田敦子。
 方々から、つぶやくように、ときにははっきりとした声が、その名前を呼んでいた。
 馬路須加女学園の名だたるヤンキーたち、四天王、そしてサドをタイマンで倒した前田敦子に、いまや怖いものはないはずだった。だれもが認める馬路須加女学園最強の女。その孤高さゆえ、友も数人しかできず、この行為がどれほど空気の読めないものかわかっていないように思える。しかし、ネズミは逆の見方をしていた。前田は元々空気など読まない。
 2年C組の列が不規則に崩れ、その余波がネズミのクラスにもやってきた。ネズミは押し出されるようにして、二三歩後退した。
 列のあいだにできた隙間を、前田敦子はいつものように無表情のまま歩いてきた。眼鏡の奥のその視線はまっすぐ前を見つめ、迷いがなかった。この度胸はたいしたものだ。ネズミは感心した。
 前田敦子を止めるものはいなかった。罵声も目立ってはいない。しかしヤンキーどもの視線は熱かった。それだけで前田敦子を射ることができると信じているかのように、幾十もの目が前田敦子に向けられていた。
 だが前田敦子はそんなことなど意に介さず、ゆっくりと体育館の出入り口に向かっていく。
 これはサドにも予想外の出来事だっただろう。ネズミは壇上のサドを見た。
 が、サドには焦ったそぶりはなかった。いや、むしろ、こうなることを予見していたかのような、ある種の安堵の色さえ浮かべている。もしかしたら、ネズミの知らないところで二人が接触し、こうなる手はずが進んでいたのかもしれない。それはネズミにとって面白くないことだった。そう、実に面白くない。
 もっとも、これでマジジョの戦力がかなりダウンすることはまちがいない。前田に唯一負けていないゲキカラも、ネズミの情報網を駆使しているのにいまだに見つかっていない。この二人がいないのはマジジョにとってはつらい。ネズミにとっては歓迎するべきことだったが――。
 そのとき、突然、一年生の列がざわついた。
 続いて駆けるような足音。
 すでに列から出ていた前田敦子の元に、小柄な少女がやってきた。転校生のため、白いセーラー服で、胸元にはスカーフではなくチェックのリボンがつけられている。
 エレナが息を切らせて、前田の前に立ちふさがった。
 前田を潰すため、ネズミはエレナをさんざん利用してきた。すべてがうまくいかなかったが、エレナは単純で思いこみが激しく、とても動かし甲斐のある「駒」だった。ついこの前もエレナをエサに前田を釣った。だが、矢場久根女子高校に前田を始末させようとしたものの、サドに感付かれて企みは失敗に終わってしまった。
 前田敦子は立ち止まり、驚いた表情でエレナを見つめた。
 次の瞬間、ネズミでさえハッとするような出来事が起きた。
 エレナの平手打ちが、前田の左頬に命中したのだ。
 その音はやけに響いた。
 前田の眼鏡が勢いで吹っ飛び、ワックスがかけられている体育館の床に落ちた。
 「ヤベえよ……あいつ……」どっちがつぶやいた。「前田さんに殺されるぜ……」
 エレナの顔には、自分が暴力を振るったことに対する驚きがあらわれている。かなり衝動的なものだったのだろう。
 前田はこちらに背を向けているので、どんな表情かはわからない。
 体育館にあるすべての目が、前田敦子とエレナに注がれていた。
 「――あんたを……あんたを見損なったよ」エレナが特徴のあるハスキーな声で、静かに言った。ネズミからの距離では聞き逃してしまいそうなくらいだった。「あんたがみなみとした約束って、ダチを見捨てて逃げるってこと? それがホントに、みなみの言う『マジに生きる』ってこと?」
 「――ダチじゃねえよ……」前田敦子の声がかすかにネズミの耳に届いた。「――この学校にダチなんていねえ。わたしのダチは生涯みなみだけだ……」
 「みなみがここにいたら、どうすると思う?」
 前田は答えず、落ちた眼鏡を拾った。セーラー服のスカートから眼鏡拭きを取り出し、それでレンズをぬぐった。
 「みなみは――みなみはこんなこと絶対にしない。ダチを見捨てて自分だけが助かるなんて……それがマジだなんてまちがってる。やっぱりあんたは卑怯者だったんだ」
 「勝手にみなみを膨らますな――みなみは……もう、いないんだ」
 「みなみは生きてるよ。ここに……」エレナは自分の胸に拳を当てた。「そして、ここにいるみなみが言ってるんだ。あんたと一緒に闘えって……。あたしはケンカなんて得意じゃない。やりたくない。でも、あたしはやる。みなみだったら、きっとダチを見捨てたりしないから、あたしもやらなくちゃいけない」
 前田は眼鏡をかけた。
 エレナは拳を開き、前田の左手首をつかんだ。そしてそれを前田の目の前に掲げた。
 ピンクとブルーのシュシュ――。
 「――あんたのみなみは、ここにいる。あんたとずっと一緒にいるんだ。あんたはこれを見ても、まだ逃げるのかよ?」
 前田はしばらく動かなかった。
 エレナの真剣な顔だけが見える。
 体育館は静まり返っている。
 その静寂を破ったのは、生徒ではなかった。
 「――ミス・マエダ……?」コツコツと、ヒールの音が近づいてきた。「あなたのchoiceは正しいですか? 自分にHonestyですか?」
 野上百合子校長――食えない女……。
 前田はエレナに左手をつかまれたまま、野上百合子のほうを向いた。前田の横顔は、ネズミには少し怒っているように見えた。
 「ミス・マエダ。私は教育者です。教育者がケンカをしろとは言えません。しかしそれ以上に、友を捨てて逃げろと教えることもできません」
 校長はそれだけしか言わなかった。
 前田は動じず、校長に向かってこう言った。「I believe in my walk way.」
 ――私は自分の信じた道を行く……ね……。
 もはや、だれの説得も前田には通用しないだろう。まあ、いい。ネズミとしては歓こぶべき展開だ。
 校長もそう察したのか、反論はしなかった。ふうっと大きくため息をつき、ほんの少し笑ったように思えた。
 エレナが手を離すと、前田はふたたび歩き出した。その背中には、さびしさが滲んでいた。ネズミは思った。きっと、前田は闘いたいのだ。こんなに大きな舞台があり、そこに主演女優として立てる権利があるというのに、前田はそれを蹴った。亡くなった友との約束のために――。なんとも泣かせる話だ。もっとも、ヤンキー属性のないネズミの涙腺は、まったく刺激されなかったが。
 前田がスライド式の大きな扉の向こうに消えると、エレナと校長は自分の場所に戻っていった。
 「――みんな、前を向いてくれ」サドの声がスピーカーから聞こえた。「ご覧の通りだ。だが心配するな。前田の穴はラッパッパが埋める。これはピンチじゃない。おまえたちにチャンスがやってきたんだ。おまえたちの中のだれかが、前田の代わりに戦果をあげれば、必ず注目される。いまこそ、おまえたちの力を最大限に発揮するときが来たんだ。この戦いをきっかけに伸しあがれ。おまえたちの力と矜持を見せろ。いま、自分がここにいられることの幸せを噛みしめろ。おまえたちは歴史の主役になれる――わたしからは以上だ」
 サドが演台から離れると、峯岸がすぐに入れ替わってマイクの前に立った。「それでは詳しいことについてのプリントを配ります。各クラスの学級委員は前に出て――」
 ネズミは峯岸の言葉を最後まで聞かず、背を向けた。 
 ――すべては計画通り。
 あとはマジジョが再生不能なくらいの痛手を被れば完璧だ。しかし、まあ、そこまでは望みすぎだろう。腐っても県下一のヤンキー校だ。アリジョがいくら強いといっても簡単に負けはしないはず。いずれにしても、楽しいものが見れそうだ。
 ネズミは満面の笑みを浮かべた。



 【つづく】

COMMENT - 1

上戸ともひこ  2011, 07. 05 [Tue] 06:17

第48話あとがき

 しばらく更新できなくてすみませんでした。自分でも、この遅筆度合いにイライラします(笑)。
 この章は今回でおしまいです。次回はどのシーンにするか考えチユウですが、なんにしても早く書けって感じですよね。
 文中の英語は翻訳ページで出てきたものをそのまま使っているので、合っているかどうかはぼくにはわかりません(笑)。英語の得意なかたがいましたら、ご指摘願います。
 ここにきてのエレナの登場は唐突過ぎたかも……。もっと前に、少しでも出しておくべきでした。

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