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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第62話

 29, 2012 06:28
 ■決戦前-4■



 カーテンを透かして部屋に入ってくる陽光の暖かさに、サドはゆっくりと目を覚ました。
 体を横にしたまま、薄目を開けてその光を見る。いつもとちがう目覚めの景色に違和感があったが、次第にここが自分の家の部屋ではなく、吹奏楽部部室の隣にあるタイマン部屋だということがわかってきた。自分はその部屋の隅にあるベッドの上にいて、隣には全裸のトリゴヤが寝ている。そういえば、昨夜はなかなか眠れないサドのために添い寝をしてくれたのだった。シーツの中でもぞもぞと動いたサドに反応して、トリゴヤは少し目を覚ましたのか、喘いだときに漏らす吐息に似た溜息をついた。トリゴヤの腰からお尻、そして太ももの肉感的なラインが、シーツの皺によって裸以上に強調されていた。
 上半身を起こしたが少し肌寒い。自分も裸だったサドは、シーツを胸元に手繰り寄せた。トリゴヤの太ももが付け根寸前まで露わになった。サドはそのトリゴヤの背中に、シーツ越しに中指を走らせた。トリゴヤはうーんと唸り、くすぐったさか性的に感じたのか、身をよじってサドの指から逃げた。
 ベッドから降り、全裸のまま窓際へ歩く。カーテンを思いっきり開けた。まぶしいほどの光ではなかったが、ぼんやりとした目には刺激的だった。窓の外は曇り空で、学校からほど近い山の頂には霞がかかっている。あの山の上には、優子と闘った神社があったはずだ。
 ――おまえはサドだな。
 あのときの優子の声をいまでも覚えている。
 そしてその日は「篠田麻里子」が初めて「サド」になった日でもあり、二人が初めて結ばれた日でもあった。
 男という生き物を心底軽蔑し、憎むサドは、優子によって新しい人生を獲得した。人を愛し、尊敬することに性別など関係ない。年齢も出自も――。
 だから。
 ――すべては優子さんのために……。
 今日これから自分がやろうとしていることは、突き詰めれば、たった一人の女を守ることだった。そのために数百人という人間を犠牲にしてでも、サドはやらなければならなかった。すべては優子に、残り少ない命を謳歌してもらうためだ。
 サドはその「罪」を一身で引き受ける覚悟もしている。今日の夜、サドは優子の病室を訪ね、すべてを打ち明けるつもりだった。今回の件は自分の独断と強権によっておこなったことであり他の者に咎は一切なく、どんな制裁も受け入れる――と。どんな罰でもかまわない。優子が腹を斬れと言えば、本当に斬ってみせる。もとより、優子に預けた命だ。惜しくはない。先にあの世で優子を待つのもいいかもしれない。
 ともかく――まずは全力でマジジョを守ることが重要だ。
 サドはベッドの傍らに戻り、床に落ちていた自分の下着を拾い、身に着けた。トリゴヤに脱がさせるといつもこうだ。まだ半分以上眠ったままのトリゴヤを一瞥し、肩から腰にかけて薔薇と髑髏の刺繍がしてあるセーラー服を着た。
 それから部屋の片隅にある小さな机の前に座り、鏡を見ながら髪を整え、化粧を始める。道具は常に常備してある。着替えてから化粧をするのは、セーラー服を被るときにファンデーションなどを付けないためだった。
 化粧を終えたサドは、入口の近くの壁にハンガーで吊るされている白のファージャケットを羽織った。
 スタンドミラーを覗くと、そこにはラッパッパ副部長のサドがいた。
 自信に満ちた鋭い瞳のサドは、鏡の中の自分に見下すような視線を浴びせ、踵を返すようにしてタイマン部屋を出た。
 扉の外の部室には、アンダーガールズの四人と四天王のシブヤとブラックがいた。全員が一斉に背筋を伸ばして直立し、「おはようございますっ」と声をそろえて頭を下げた。
 「ああ。おはよう」サドは挨拶を返した。「ちょっと校内を見回ってくる」
 すかさずアンダーガールズのジャンボが、「お供しますっ」
 「いや、かまわない」サドは片手でジャンボを制した。「ひとりで大丈夫だ」
 「はいっ。では、いってらっしゃいませっ」
 「いってらっしゃいませっ」
 ジャンボの言葉のあとに、部室にいた全員が続いた。
 アニメがさっと引き戸に駆け寄り、それを静かに開いた。
 サドはファージャケットのポケットに手を突っ込み、部室を出ると階段を降りた。
 ひとりでいたかった。あと数時間もすれば心身ともに忙殺される。嫌でもだれかが隣にいる状態が延々と続くのだ。だから静かな今のうちだけでも、のんびりとしていたかった。
 三階の教室と廊下には、数十名もの生徒が思い思いの相手と、配給されたおにぎりを食べていた。その雰囲気は戦争前の張り詰めたものではなく、良くも悪くも一様に明るかった。それもそうだろうとサドは思う。三度のメシよりケンカが好きな連中が集まった学校だ。学校を挙げてケンカをするとなれば心躍らないわけがない。
 二階と三階を結ぶ西側の階段踊り場では、チームフォンデュの五人が、おにぎりとペットボトルの配給をおこなっていた。机の上には生徒名簿が置かれ、年増こと大場美奈が赤ペンでチェックを入れている。
 どこもガヤガヤと騒がしかったが、サドの心にはそれも心地よく響いた。食事をしない者、もしくは終わった者の中には、ケンカのときに使うのであろう、角材やバットや木刀で素振りや演舞をする者もいた。なにも持たない者も、組手の練習に余念がなかった。
 ただし、すべての生徒はサドを認識すると、あらゆる動作を止め、直立して挨拶をした。おにぎりが落ちようがペットボトルが倒れようが、サドへの挨拶はすべてに優先した。サドは一瞥さえくれず、自分の前を通り過ぎるというのに。
 二階から一階へと続く階段を降りようとしたとき、サドの正面に立つ者がいた。
 馬路須加女学園校長、野島百合子。
 なにがあっても生徒を見捨てない教師。
 サドは立ち止まり、敬意を込めて、おはようございます、と頭を下げた。
 「おはようございます。ミス・シノダ」目を伏せたままのサドに、野島百合子の声が聞こえた。「ミス・シノダ――勝てますか?」
 サドは頭を上げ、野島百合子を真正面から見据えた。
 「勝てるようにがんばります」
 「ミス・マエダは――」
 「前田は……」
 昨日の朝礼で前田が去ったことは、野島百合子も知っているはずだ。それでも野島百合子は信じているのだろう。前田が戻ってくる、と。
 だが、サドにとって、それは終わった話だ。
 サドはそのまま一礼して、野島百合子のかたわらを通り過ぎた。
 一階まで下りると、正面玄関のバリケード前にいた峯岸みなみと目が合った。峯岸は平松可奈子とともに、バリケードの強度の最終確認をしているところだった。
 「あ。サドさん。おはよう」
 「おはようございます」平松も丁寧に頭を下げた。
 「ああ。おはよう」サドは天井まで積み上げられた机を見上げた。天井まで届いているように見える、結束バンドとロープで固定された数十の机は、とても堅牢に思えた。「よくできてるじゃないか」
 「私が指揮を執ったからね」峯岸はそう誇った。「いま最後の確認をしているところ」
 「そのようだな」
 「サドさん。約束、忘れないでね」峯岸みなみは大きな瞳をより見開いて、サドに疑念とも信頼とも取れる視線を向けてきた。
 ――作戦運用ならびに指揮は生徒会の最高責任者である峯岸みなみに執らせること。
 ――今後五年間ラッパッパは生徒会を実力行為レベルで守ること。
 昨日、交わした約束だ。忘れていないし、反故にするつもりもない。
 「もちろんだ。準備ができたら部室に来てくれ」
 そう言って歩き出したサドを、峯岸は背後から呼び止めた。「サドさん」
 立ち止まり、横顔を峯岸に向ける。
 「これがすんだら奢らせて」峯岸はウインクをした。
 「喜んで」
 サドは短く言い、体育館へ向かった。
 体育館に入って最初に感じたのは、保健室と同じ、ツンとする薬品の臭いだった。だだ広いその空間には急ごしらえのベッドや椅子が並べられ(それらはあちこちから集められたために大きさも高さもバラバラだった)、テーブルの上には医療器具や薬が置かれていた。さながら野戦病院といった雰囲気だ。
 壁際には、普段は武器として使われているであろう、アルミニウムやスチールのパイプと、どこからかかき集めてきた毛布が十数と置かれていた。その前で、生徒会が集めた三十人ほどの生徒たちに、変態保健医のキケンが応急担架の作り方を教えている。いつになく真面目な表情で、サドはキケンの持つ真摯な面を見た思いがした。キケンのかたわらには生徒会の佐藤すみれが膝下まである長い白衣を着て、キケンの説明を実践してみせている。
 説明を受けていた生徒の一人がサドを発見し、直立して大声であいさつをしてきた。すると、それをきっかけにサドの存在に気づいた他の生徒たちが、輪唱のようにあいさつを繰り返した。キケンはサドに対する恐怖心を露わに瞳に浮かべ、佐藤すみれは手を止めた。
 「あいさつはいい」サドは言って、キケンを見た。「邪魔してすまない。続けてくれ」
 ふと視線を逸らすと、頭を下げる数人の生徒の向こうに、昨日、この体育館で前田の頬をはたいたエレナがいた。サドと目が合うと、エレナは無言で頭を下げた。彼女なりに前田を説得しようとしたエレナに敬意を感じていたサドは、自分も小さく頭を下げて応じた。
 これから数時間後、この体育館には百を越える生徒たちが運び込まれるだろう。サドは不揃いのベッドが並ぶさまを見回し、自分の立案した作戦の狂気を改めて感じた。しかし、もう後戻りはできない。このやり方が正しいかまちがっているかを問う段階はすでに過ぎている。
 体育館から出たサドは、吹奏楽部部室へと戻る廊下をゆっくりと歩いた。壁にスプレーで書きなぐられたいたずら書き。なにかで空けられた壁のあちこちの穴。割れた痕をダンボールで補修した窓。壊れたまま教室の隅に放置されている机や椅子。サンドバッグ代わりにされた、掃除用具が入れられているロッカー。
 まさにここは不良の吹き溜まりであり、サドが優子と出会った場所でもあった。
 もうすぐ卒業するのだと思うと、このデタラメで薄汚れた光景であっても、柄にもなく心に染みた。優子といたいためにわざと留年した一年を含め、サドが過ごした四年間という歳月の残滓があちこちに残っているこの学園から去るのは寂しくもあった。だから、最後の最後に、派手に暴れまわれる「ケンカ」の機会を提供してくれたアリジョの連中に、サドは感謝にも似た気持ちをいだいている。
 四階の吹奏楽部部室に続く階段を上ぼる。
 学園内には体育祭当日に似た高揚感が漂っていた。そして、だれもが勝ちを疑っていないように思えた。制限時間いっぱいにはなったが、一階のバリケードは完成したし、最低限の医療と通信体制は整えた。やれることはすべてやったという気迫が感じられる。士気も衰えていない。楽観はできないが、そう悲観することもなかろう……。
 だが。
 なにかをしくじっているような気がしてならない。
 昨日も感じた不安が、胸に空いた風穴から侵入してくる。
 階段の踊り場に響くのは、サドのショートブーツの足音だけ。
 ――と。
 サドは気づいた。
 静か過ぎるのだ。
 部室にはシブヤとブラックとアンダーガールズがいるはずだ。だれかが部屋を歩き回る気配や、話し声がしてもいいはずなのに、今は部室から誰もいなくなったように感じる。通夜だってもう少しにぎやかだろう。
 心がざわざわと揺らいだ。
 やや早足で階段を昇る。ロングスカートを踏まないよう、裾を持ち上げた。
 部室の前に立ち、叩きつけるように引き戸を開いた。大きな音がした。
 正面にシブヤとブラックが立っていた。その両脇に、アニメ、ジャンボ、昭和、ライスのラッパッパアンダーガールズたち四人。
 みんなはこちらに背を向けていたが、いまの音に全員が振り返った。
 その顔は、一様にこわばっている。
 尋常でない出来事が起きているのだと、サドは一瞬で悟った。
 「――どうした?」
 だれも答えない代わりにシブヤとブラックが左右に分かれた。アンダーガールズの四人もその動きに連動した。
 そしてサドは見た。
 部室の窓際に置かれた、金色のサテンが掛けられている一人用のソファ――そこにはいつも「部長様専用」と書かれた紙が置かれている――に座っている人物を。
 そのソファに座ることを許されている、たった一人の存在であるが、ここにいるはずのない人物を。
 「――よっ。サド」
 馬路須加女学園吹奏楽部部長――大島優子が右手を軽く上げて微笑んだ。



 【つづく】

COMMENT - 2

上戸ともひこ  2012, 05. 29 [Tue] 22:24

Re: タイトルなし

>トマトさん
 優子、ようやく帰ってきてくれました。ずいぶん前から考えていた展開で、もっと早くここに到達するつもりでしたが……。やっぱり優子は病院にいるより、あのソファに座っているほうが似合います。
 次回は泣かせますのでお楽しみに(笑)。

Edit | Reply | 

トマト  2012, 05. 29 [Tue] 08:35

優子帰ってきましたね!!!すごく嬉しいです!
次も頑張ってくださいね。応援してますょ。

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