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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第59話

 21, 2012 06:01
 ■決戦前―3の1■



 小歌舞伎は大歌舞伎の右の耳たぶを折り曲げ、外からの音を聞こえないようにしてから、左の耳たぶをできる限り口の中に入れ、わざと唾液の音を立て、吸い、甘噛み、舐めた。
 いま大歌舞伎の頭の中には、性器への愛撫を連想させる淫靡な音だけが響いているはずだった。大歌舞伎の茂みの奥に指を侵入させれば、きっとそこはねっとりとした蜜が溢れそうになっているにちがいない。しかし小歌舞伎は左手を大歌舞伎のくびれた腰に這わせるだけで、それより下を攻めようとはしなかった。
 大歌舞伎が声を出さないのは、隣の個室にだれかが入っているからだ。大歌舞伎は右手で口を塞ぎ、小歌舞伎の練熟した性技に耐えている。この学園では、トイレの個室を利用して行為に耽るカップルなど珍しくはなかったが、快楽に耐える自分というシチュエーションが大歌舞伎に、より深い快感をもたらしているのだろう。そんな大歌舞伎を、小歌舞伎はかわいいと思う。
 早朝のトイレで行為に耽ったのは初めてだが、こんなに頻繁に人が出入りするとは思わなかった。昨夜は学園にいたすべての生徒たちが学校に泊まった。もちろん二人も例外ではない。しかし、今日これから始まるケンカのことを考えると、小歌舞伎は一睡もできなかった。
 二人は以前、森田涼花が率いる連中との戦いに敗れている。負けたというより、手も足も出なかったといったほうが正しいかもしれない。いいように遊ばれ、半裸にされた屈辱を、小歌舞伎は忘れてはいなかった。
 恐怖はある。相手はあまりにも強かった。また同じ結果になるだけのような気もする。
 だが今日こそ勝ってみせる。
 そのためには吹っ切らなければいけなかった。屈辱は反撃の糧にはなっても、決定打にはなれない。
 冷静に考えて、自分一人で森田涼花に勝つのは難しいだろう。しかし、二人なら? 大歌舞伎との完全なコンビネーション技が決まれば、勝てるかもしれない。この前の戦いは心の準備もないまま闘った結果、油断しただけだ。
 小歌舞伎は、大歌舞伎のセーラー服のスカートの中に手を入れた。まだ下着に手は届いていないというのに、スカートの中は湿気で充満しているように思えた。小歌舞伎の指先は大歌舞伎の太ももを、産毛だけに触れるような微妙なタッチで登っていく。女の体でもっとも敏感な部分に触れようかというところで、小歌舞伎はその手を止めた。
 「――姉貴」小歌舞伎は大歌舞伎の耳たぶから、ほんのわずかだけ唇を離した。「続きは今夜にしましょう」
 大歌舞伎は喘ぎながら「ど、どうして……?」
 「このムズムズした感じを、この消化不良な感じを、途中で止められたこの怒りを、アリジョの連中にぶつけてください」
 それこそが、小歌舞伎が早朝から行為に及んだ理由だった。大歌舞伎の体に火を点け、そのままほったらかす。もちろん小歌舞伎自身も、だ。触らなくても、自分の体が完全に反応していることを、小歌舞伎は知っている。
 「そんな……ねぇ、明日香……お願い、いかせて……一回でいいから……」
 大歌舞伎は小歌舞伎に抱かれているときだけ、小歌舞伎を名前で呼ぶ。
 「ダメです、姉貴」小歌舞伎は電気のスイッチを切るように、あっさりと大歌舞伎から離れた。「この先は勝ってから、です」
 小歌舞伎は服の乱れを直しながら、個室のドアを開いた。そして振り返って、大歌舞伎にこう告げた。「姉貴が本気になったらアリジョなんて目じゃねぇッス。勝てますよ、必ず」


 チョウコクは百人一首部の部室で正座をし、瞼を閉じていた。
 心を落ち着けたいときは、ここでこうして正座をするか、街を走るかのどちらかを実践していたが、今日は学校から出ることを許されなかったし、朝の静寂には走って体を温めるよりも、冷たい畳の上で正座をするほうが気分が締まった。
 チョウコクは、数時間後に始まる闘いに思いを致す。もっとも大切なのは、自分は満足に闘えるだろうか、ということだった。それに比べれば、マジジョの勝敗など、どうでもいいという気持ちすらある。
 己が己であること――それこそが大切だ。それはケンカに対してだけではなく、チョウコクの生きざまそのものであるとも言える。
 閉じていた瞼を開き、正面の壁にある窓の外を見た。雲もほとんどない、気分のいい青空があった。空を飛ぶ鳥の数がいつもより多い気がする。
 そのとき、部室のドアがノックされた。こんな時間に百人一首部に訪れる者がいるとは考えにくい。チョウコク自身への来客と考えるのが自然だ。そしてチョウコクにはその人物に心当たりがあった。
 「あいている」と、小さいがはっきりとした響きを持った声で、チョウコクは応えた。
 ドアがガチャリと音を立てて開くと、そこにはチョウコクが想像したとおり、男子用学生服を着た人物が立っていた。
 「やっぱりここか」
 学ランが言った。
 面白い奴だ――チョウコクは思う。
 難しい言葉で言えば性同一性障害というらしい。体は女なのに心は男……。「普通」に考えればおかしなことなのかもしれないが、世の中にはそういう奴もいたほうが面白い。
 「おはよう」チョウコクは答えた。「眠れなくてね」
 「あんたもか。俺もだ」学ランは年下だが、チョウコクにはタメグチをきく。年功序列に厳格なヤンキーとしては本来は看破できない行為だが、学ランが相手なら許せてしまうのが自分でも不思議だった。
 「俺も付き合うぜ」学ランは近づいてきて、チョウコクの隣で正座をした。
 「私はもうじき終えるつもりだったんだがな」
 「いいじゃねぇか」
 チョウコクは苦笑して、学ランの行為を黙認した。
 チョウコクに対して、こんなふうに接する人間は過去にいなかった。大抵の人間はチョウコクに畏怖するか敵意を剥きだしにした。それはチョウコクみずからがそういう振舞いをさせるような態度をとり続けたからでもあった。
 中学生時代――チョウコクはある事件を起こした。きっかけはみずからの思慮のない、浅はかな行為によるものだったが、その後の展開はチョウコクの中に眠っていた大人への不信感を決定付けた。そしてチョウコクは坂を転がるようにヤンキーとなった。
 その後の「チョウコクの世界」には、基本的に「敵」しかいなかった。だから、これまで親友と呼べる者など一人もいなかった。
 つい、この前までは――。
 隣の学ランを見る。そのことに、瞼を閉じている学ランは気づいていない。
 チョウコクも瞼を下ろした。
 沈黙は武器にもなるが、ときとして自分を傷つけるものになりえる。だが、こうして自分だけの世界にいるときは、そのどちらでもなく心を安らかにしてくれる。特に戦いの前の静寂は大切だ。心の準備体操のようなもので、拳を交わすときに冷静でいられる。
 と――しばらくそうしていただろうか。不意に学ランが話し始めた。「闘わないと思ってたよ、正直言って……」
 「私が、逃げると?」
 チョウコクは瞼を閉じたままだった。学ランがどういう表情なのか、こちらを見ているのかもわからない。
 「そういうことじゃなくてさ……なんて言うか……あんたが学校のために闘うってのは、あんたらしくないって言うか……。だから、敦子が体育館から出て行ったとき、オレはあんたもそのあとに続くと思ったんだ。どうして残ったんだ?」
 「――あらためて言われると……なんでだろうな。月並みに言えば、私は私なりに、この学校を愛しているから、かな。それに、守りたいやつができたんだ。そいつは多分、私より弱い。けど、私を守ろうとしている。無茶を承知で。それに応えなけりゃ女じゃない」
 ふたたび、静寂があった。
 「学ラン……」チョウコクは瞼を開き、学ランを見た。「おまえの背中――私に守らせてくれ」
 チョウコクの視線に気づいたのか、学ランは目を合わせてきた。「それはこっちのセリフだ。惚れた女を守れないようじゃ、男が廃る」
 チョウコクは微笑んだ。
 学ランとなら、うまくやれそうな気がする。
 そのとき、外の鳥の鳴き声がにわかに大きくなってきて、チョウコクは窓を見上げた。
遠くの空にカラスの集団がいた。鳩や雀も。いつも目にする鳥たちだったが、どこか様子がちがう。理屈ではなく単なる直感であるものの、チョウコクの本能は得体の知れない不気味さを感じていた。それはもちろん、これから始まるアリジョとの闘いに対する不吉な予感だった。
 「――どうかしたか?」学ランが聞いてきた。
 「いや……なんでもない……」
 不安をいだかせたくないため、チョウコクは反射的にそう答えた。
 チョウコクは不安をかき消すため、瞼を閉じた。



 【つづく】

COMMENT - 5

上戸ともひこ  2012, 03. 31 [Sat] 07:47

Re: 胎動という名のキャンプから決戦前夜という名のオープン戦~開幕までの長い長い道のり~

>秋豚ジョンイルさん
 いつもコメントありがとうございます。
 執筆ペースを上げたいと一番思っているのはぼくですよ(笑)。一週間に一度の更新くらいが理想なんですが、体力的なこともあってなかなかできません。できる限りのことはしているので、末永くお付き合いください。前田敦子が卒業するまでにはなんとか完結させたいと思っていますが……。

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秋豚ジョンイル  2012, 03. 30 [Fri] 02:41

胎動という名のキャンプから決戦前夜という名のオープン戦~開幕までの長い長い道のり~

少しずつストーリーは進んでますね。まるで海外ドラマ24みたいに。このペースだと亜利絵根高校との戦いはいつなんだろう~。ちなみに今日からプロ野球が開幕しますが、亜利絵根との戦いが先か、プロ野球のクライマックスシリーズが先か、今から楽しみです。果たして、その時まであっちゃんは在籍しているのか…キリンみたいに首をながーーくして待ちます!!

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上戸ともひこ  2012, 03. 21 [Wed] 22:16

第59話あとがき

 歌舞伎シスターズと学ラン&チョウコクのみんなに、ここのところまったく出番がなかったので申し訳ない気持ちでいっぱいです(笑)。この二組ってちょっと他のキャラクターと絡ませにくいので、こんなかたちでの再登場となりましたが、いかがでしたでしょうか?
 さて、次回はこちらも久々の山椒姉妹、そして純情堕天使(元チームホルモン含む)の面々が登場します。お楽しみに!!!

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上戸ともひこ  2012, 03. 21 [Wed] 22:10

Re: タイトルなし

>トマトさん
 いつもコメントありがとうございます。
 ようやく秒読み段階までたどり着いた、という感じです。ぼく自身も決戦がどうなるか楽しみなんです(笑)。
 また読みにきてくださいね。

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トマト  2012, 03. 21 [Wed] 21:56

続き待ってました!

決戦開始まで秒読み・・・うずうずしてますっ!

これからもがんばってくださぃ!

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