上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■決戦―14■
体育館へ通じる扉の外にいたチョウコクと学ランは、出て行くネズミに一瞥をくれただけでなにも言いはしなかった。
ネズミは出来る限り目立たぬよう、人を避け、校舎内を進んだ。廊下だけでなく、階段や踊り場には、停滞した状況の中、多くの生徒たちがどうしていいのかわからずに徘徊していた。ネズミはフードを被り、だれとも目を合わせないようにうつむき、しずかに階段を登った。鳥の《襲撃》はもう収まっていたが、床のあちこちに転がる鳥の死骸や、抜け落ちた羽根、そして飛び散った血は床だけではなく壁にも付着していて、気味が悪かった。
二階の図書室にはすぐに着いた。そっと扉を開け、中を窺う。ひと気はなかった。
ネズミは最小限に開けた扉の隙間から体を入れ、静かに閉めた。鍵はかけなかった。
珠理奈と初めてキスをした、窓際のテーブルを一瞥して、ネズミは図書室の奥にあるカウンターの向こう側へと回り込んだ。
そして、ふうっと行きを吐き、座り込んだ。背負っていたリュックをおろし、カウンターの壁に背をもたれた。
だれにも見られてなかったか。気づかれてなかったか。
ネズミはしばらくのあいだ、静かに息をした。
図書室は、階下でこれから祭りが起きるとは思えないくらい静まり返っている。
誰もいない――確信したネズミはふたたび大きく息を吐いた。
もうじきですべてが終わる――いや、始まる。
ここまでは、ほぼ順調に推移している。あとは、アリ女の連中とどう交渉し、いかに《力》を身につけるか……だ。
詰めを誤ってはいけない。
しくじるなよ、ネズミ……。
ネズミはリュックから、スタンガンを出して電源を入れた。スイッチを押すと、先端の金属の部分から八十万ボルトの放電光がバチッと音を立てた。
今度はしくじらない。一瞬でも身の危険を感じたら、その瞬間にアリ女の連中に向ける――いや、実際に使ってみせる。この前は余裕を見せすぎただけだ。今回はもうちがう。
ネズミはカウンターの壁と、自分のお尻の間にスタンガンを置いた。そして、さっと背後に腕を回し、スタンガンをつかみ、それを相手がいると想定した空間にすばやく向け、スイッチを入れた。
バチンッ。
相手の身長にもよるが、ネズミが想定した場所は、標的の股間にあたる部分だった。
バチンッ。
何度か繰り返すうちに、それらの一連の動作がスムーズにできるようになってきた。
バチンッ。
もちろん、使わないに越したことはない。
バチンッ。
このスタンガンは、いわば保険のようなものだ。
バチンッ。
だが、なんだか楽しくなってきて、何事もなくても使いたくなってきた。
バチンッ。
ネズミは笑みを浮かべ、そして待った。
【つづく】
体育館へ通じる扉の外にいたチョウコクと学ランは、出て行くネズミに一瞥をくれただけでなにも言いはしなかった。
ネズミは出来る限り目立たぬよう、人を避け、校舎内を進んだ。廊下だけでなく、階段や踊り場には、停滞した状況の中、多くの生徒たちがどうしていいのかわからずに徘徊していた。ネズミはフードを被り、だれとも目を合わせないようにうつむき、しずかに階段を登った。鳥の《襲撃》はもう収まっていたが、床のあちこちに転がる鳥の死骸や、抜け落ちた羽根、そして飛び散った血は床だけではなく壁にも付着していて、気味が悪かった。
二階の図書室にはすぐに着いた。そっと扉を開け、中を窺う。ひと気はなかった。
ネズミは最小限に開けた扉の隙間から体を入れ、静かに閉めた。鍵はかけなかった。
珠理奈と初めてキスをした、窓際のテーブルを一瞥して、ネズミは図書室の奥にあるカウンターの向こう側へと回り込んだ。
そして、ふうっと行きを吐き、座り込んだ。背負っていたリュックをおろし、カウンターの壁に背をもたれた。
だれにも見られてなかったか。気づかれてなかったか。
ネズミはしばらくのあいだ、静かに息をした。
図書室は、階下でこれから祭りが起きるとは思えないくらい静まり返っている。
誰もいない――確信したネズミはふたたび大きく息を吐いた。
もうじきですべてが終わる――いや、始まる。
ここまでは、ほぼ順調に推移している。あとは、アリ女の連中とどう交渉し、いかに《力》を身につけるか……だ。
詰めを誤ってはいけない。
しくじるなよ、ネズミ……。
ネズミはリュックから、スタンガンを出して電源を入れた。スイッチを押すと、先端の金属の部分から八十万ボルトの放電光がバチッと音を立てた。
今度はしくじらない。一瞬でも身の危険を感じたら、その瞬間にアリ女の連中に向ける――いや、実際に使ってみせる。この前は余裕を見せすぎただけだ。今回はもうちがう。
ネズミはカウンターの壁と、自分のお尻の間にスタンガンを置いた。そして、さっと背後に腕を回し、スタンガンをつかみ、それを相手がいると想定した空間にすばやく向け、スイッチを入れた。
バチンッ。
相手の身長にもよるが、ネズミが想定した場所は、標的の股間にあたる部分だった。
バチンッ。
何度か繰り返すうちに、それらの一連の動作がスムーズにできるようになってきた。
バチンッ。
もちろん、使わないに越したことはない。
バチンッ。
このスタンガンは、いわば保険のようなものだ。
バチンッ。
だが、なんだか楽しくなってきて、何事もなくても使いたくなってきた。
バチンッ。
ネズミは笑みを浮かべ、そして待った。
【つづく】