・今回は性的描写を含みます。嫌いな方は読まないでください。
・キャラクターはあくまでもストーリーの中にだけ存在しているものです。
現実の人間ではありません。てゆーか、非実在青少年?
■強襲1-3■
女とキスをするのはもちろん初めてではない。大島優子、サド、トリゴヤ、シブヤ……彼女たちとはそれ以上のことも経験している。
初めては去年の秋の学芸会だった。当時演劇部に所属していたブラックは、一年後輩の学ランと舞台の上でキスをした。学ランは吸血鬼の男役、ブラックはその男に恋をする可憐な少女を演じた。学ランの男役は控えめに言っても美しく、普段はそんなものになど見向きもしないヤンキー女たちでさえ、固唾を呑んでしまうほどだった。リハーサルで何度も抱きしめられたブラックは、そんな気などないはずなのにと思いつつも、胸の鼓動を抑えられなかった。
とはいえ、肝心の芝居の出来は散々だった。吸血鬼が十字架のネックレスをしていたり、銀の弾丸で吸血鬼を殺そうとするキャラクターがいたり……(それは狼男に使うものだ)。穴だらけの脚本を書いて自ら演出したのはもう五十を過ぎた年齢の、言うことだけは立派な男の教師だった。多分、こいつは舌先三寸で世間を渡り歩いているのだろう、とブラックは感じた。
自分が同性愛者だと思ったことはないが、異性愛者だという自覚もない。自分の黒い心に少しでも白を足してくれるような人間なら、性別は関係なかった。
でも、まさか「敵」の行為を受け入れつつあるとは……。
谷澤恵里香は小鳥のように唇をついばんだ。その格別の柔らかさは、娘のそれを思い出させた。娘には、一方的に何百回も何千回もキスをした。触れたら壊れそうなほど柔らかい、その唇は今でもたまらなくいとおしい。
谷澤恵里香は急かさなかった。唇をついばむのは、ブラックがそれを受け入れるのを待っているかのようだった。
それでもブラックの心の中には、まだ抵抗しようとする意思も残っていた。自分はあくまでも谷澤恵里香を倒しに来た。その相手と口づけを交わしていてどうする。
両手どころか、体のどこも拘束されてはいない。頬を挟み込むように包んだ谷澤恵里香の心地よい温かさの手のひらだけが、唯一ブラックを縛り付けているだけだ。
相手はガラ空きだ、やるなら今……。どこからか聞こえる自分の声。だが、その信号は腕にも脚にも伝わらない。電気信号が快楽という膜に阻まれているかのようだった。
小鳥のキスは、濃密さを増してきた。谷澤恵里香の唇のあいだから、別の生き物がブラックの唇を這った。
その濡れた舌は閉じたブラックの唇を、優しく優しく愛撫した。男のようにあわてず、ブラックが受け入れるのを待っている。何度も触れては離れ、離れては触れ、の繰り返しだった。
唾液を飲んだ。
自分の息遣いが荒くなっているのがわかった。
腰から下の感覚が痺れていく。脚に力が入らない。
ブラックは体の中心が熱くなるのを感じた。じんじんと痺れるように、快楽のさざ波が打ち寄せてくる。
このままでは危険だ。
ありったけの力をふりしぼって、ブラックはフックを谷澤恵里香の腹に入れた。普段のフックよりも威力はないだろうが、それなりにダメージは与えられるはずだった。
だが、谷澤恵里香はびくともしない。どうなっているんだ、この女……。ブラックは恐怖を感じた。
「――私にはね……」谷澤恵里香が唇を重ねたまま言う。「打撃技、効かないよ」
アドレナリンが分泌されると、一時的にではあるものの、血が流れるほどの怪我や骨折であっても、痛みを感じなくなるという。
ラッパッパ四天王のゲキカラもそうだ。元来の性格もあるとはいえ(ゲキカラは究極のマゾだ)、一旦戦闘が始まればどれだけ殴られても傷つけてもお構いなし。失神するまで戦い続ける「機械」と化す。常人よりも大量にアドレナリンが分泌される体質らしい。身近にそのような人間がいるのだから、それがアリ女にいても不思議はない。
また、ふっくらとした体型である谷澤恵里香の皮下脂肪に守られた内臓は、打撃に対してダメージを受けにくいのかもしれない。ゲキカラは毎年の身体検査でも痩せすぎと指摘されるほど細いから、打撃に対してノーダメージではないが。
つまり、アドレナリンの大量分泌と、ふっくらとした体型、そしてフェロモンで相手を酔わすのが谷澤恵里香の「武器」なのだ。あの指に触れられた者は男女を問わず、その絶妙な動きによって性的興奮を呼び覚まされる。人間にとって最高の快楽である性感を刺激し、相手の抵抗力をなくすのだ。
人間は、快楽に購えない。
だとしたら、圧倒的なスピードと、それを利用して不意を突く攻撃スタイルのブラックに勝ち目はない。
「どうして……」谷澤恵里香はキスをやめた。ブラックの顔をさらに引き寄せ、耳元でささやいた。「どうしてみんな、痛いことでケリをつけようとするの? せっかく女の子に生まれたんだから、女の子にしかできない、気持ちいいことすればいいのに……」
耳たぶを口に含まれ、プラックは仰け反った。
谷澤恵里香の立てるぴちゃぴちゃという淫猥な音は、セックスそのものを連想させ、これがブラックの抵抗力を完全に喪失させた。谷澤恵里香の鼻息がうなじにまとわりつき、言い知れぬ快感がブラックを包んだ。
耳はブラックにとって最大の弱点だった。さらに谷澤恵里香の指は、顎のラインや首筋をねっとりと這った。
腰から下だけではなく、上半身も肩からも力が抜ける。
「ねぇ……」谷澤恵里香はブラックの顔を自分の胸に近づけた。いつの間にかブレザーとシャツのボタンは外されていて、豊満な胸を包む白いブラジャーが露わになっていた。「ヤザパイ、さわってみる?」
ブラックは操り人形のように、言われるままに谷澤恵里香の胸に手を伸ばした。下から持ち上げるように手のひらに包む。大きくてやわらかい。こんなおっぱいがあるんだ……。ゆすってみたら、たぷたぷと音がしそう。ブラックはこれをもっと触っていたいという気持ちになった。
谷澤恵里香はブラジャーの奥に、ブラックの指を導いた。今度は掴むように触れてみた。スライムを握ったときのように、指のあいだからあふれるような感覚があった。もちろん、実際になるわけではないが、そう思ってしまえるほどのやわらかさだった。
だが、唯一硬くなっている場所があった。ブラックはそれを親指と人差し指でつまんだ。
「そこ、一番、好き……」谷澤恵里香が胸を反らした。
谷澤恵里香はブラックの顔に、胸を押し付けた。やわらかな膨らみに顔を圧迫され、少し息苦しい。谷間に鼻をはめ込むようにすると、汗の匂いがした。しかしそれは不快ではなく、とても気持ちよかった。
ブラックは自分の体型にコンプレックスがあった。胸も大きくないし、なにより胴が長い。谷澤恵里香のようなぽっちゃり体型が憧れというわけではないが、少なくともこの胸のボリュームはうらやましかった。
舌を這わす。硬い蕾みを含んだ。娘に母乳を与えたときのことを思い出した。口の中で転がすと、谷澤恵里香が声を上げた。
「うまいね、とっても……」谷澤恵里香は息を荒げていたが、それを振り切るようにしてブラックを引き離した。「今度は私がするね」
もはやブラックには、抵抗する意思も力もなかった。セーラーの上着をめくりあげられると、あっというまにブラジャーのホックを外された。直後、あのしっとりとした感触の、谷澤恵里香のいたずらな指が背中をねっとりと攻めてきた。背骨のラインをつーっと触られるだけでも、ブラックは声を出しそうになった。触れるか触れないかの微妙なタッチだった。くすぐったさと快感の狭間で、ブラックは悶えた。
谷澤恵里香の指が背中から腹部へと移動し、そのまま上昇した。ブラックの膨らみを攻めるその動きは、男にはない繊細さだった。まるで山に登頂するように、谷澤恵里香の指は丘をぐるぐると周回した。焦らしている。それに反応したくはないが、早く一番敏感な部分に触れてほしいという二律背反した気持ちが、ブラックの中で渦巻いた。
気が付くと、ブラックは地面に寝かされていた。しかも、自分の手は谷澤恵里香の背中に回され、愛しそうにブレザーをさすっている。いま立ち上がれと言われてもできないだろう。腰が腑抜けているのは、体の奥から湧き出てくる熱いもののせいだった。
谷澤恵里香がようやく、もっとも敏感な部分を口に含んでくれた。ねっとりとした唾液に包まれると、ブラックはその快楽のあまり、腰が自然に上下動した。少しでも刺激を与えたくて、太ももをこすり合わせた。
触ってほしかった。
すると、その絶妙なタイミングで、谷澤恵里香の指がブラックのロングスカートの中に潜り込んできた。軟体生物のような湿った指は、膝の辺りから内腿を伝って、ゆっくりともどかしく登ってくる。
もう我慢できなかった。ブラックは観念し、歓喜の声を上げた。
そのあとの、細かな記憶はなかった。
何度も昇りつめたことだけは覚えている。サドはおろか、大島優子にさえ、これほど満足させられたことはなかった。
トンネルが、朝の光でぼんやりとその輪郭を浮き上がらせたころ、谷澤恵里香の姿はなかった。
ブラックは自分が負けたことをこのときになって悟った。
そして、サドからどれだけの懲罰を受けるのかと考え、戦慄した。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。