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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第22話

 02, 2010 05:59
 ■特訓1-1■





 修学旅行で使ったスポーツバッグの中に、一週間は寝泊りできるだけの荷物を入れ、ヲタはその神社にやってきた。
 拝殿と神殿は小高い山の山頂にあるため、そこに行くためには三〇〇段の階段を登らなければならなかった。大きなバッグを抱えての「登山」はきつかった。昇りきったころには呼吸もままならず、ヲタは鳥居をくぐった直後に倒れてしまった。
 「なんや、もうヘバったんか?」鬼塚だまるの声がした。「さすが学年最下位の体力やな」
 空を見上げると、だるまが覗き込んでいた。手には串に刺さったたこ焼きを持っている。
 「――おめぇ、よく、こんなとこ、平気で登れる、な……」息も絶え絶えに言った。
 「なに言うてんのや。これから、毎日、ここを十往復するんやで」
 「十回も?」
 「強くなりたいんやろ?」だまるは人懐っこい笑顔を浮かべた。
 ヲタはだるまに「合宿」を頼んだことを、少し後悔した。
 「さ。立ちあがるんや」だまるはヲタの手をつかむ。それは想像以上の腕力で、ヲタは驚きとともに引き上げられた。
 「おめぇ、力あるな」ヲタはジャージについた土や砂をはらった。
 「まだまだや。これでも、あつ姐にはとても敵わん」
 ヲタはバッグを持って、拝殿に向かうだるまに続いた。
 マジ女からほど近いこの神社は、山の上にあるせいか訪れる者も少ない。手水舎も社務所も今は使われておらず、日中でも人気はほとんどなかった。見晴らしがいいのだけが長所で、北には山が、南にはマジ女の校舎が見える。ヲタはそれを一瞥した。そろそろ登校してくる生徒もいるはずの時間だ。四人のことが頭に浮かんだが、ヲタはすぐにそれをかき消した。
 「今日から最低一週間はお世話になるんや。まずは神さんに参拝せなあかんで」
 「こんなボロい神社に神様なんていんのかよ」
 「ボロは着てても心は錦、言うやろ」
 「そのたとえ、ちょっと違わねぇか?」
 拝殿の表に再び回り、二人は階段を登った。バッグは階段の横に置いた。
 「ほんまは手水で清めなあかんのやけど、あっこはもう涸れとるから省略や」そしてだるまは、ヲタに向かって手のひらを差し出した。「賽銭出せ」
 「なんでおれが?」
 「おまえのための特訓やないか。早よせぇや」
 ヲタはジャージのポケットから小銭の入った財布を取り出した。ファスナーを開けると、だるまの手がすかさず伸びて、中から五〇〇円玉をつまんだ。
 「あっ。てめぇ……」
 「神さんは、ケチは嫌いやで」言うが早いか、だるまはそれをさっと賽銭箱に投げた。五〇〇円玉は威勢のいい音を立てて、仕切り板の奥へ消えていった。
 「――ちょっ……もぉ、ふざけんなよ……」ヲタは消え入るような声で言って、自分は十円玉をつかんだ。だが、だるまの言葉が気になって、もう一枚だけあった五〇〇円玉を取り出し、断腸の思いでそれを放った。
 ヲタはだるまが二拝ニ拍手一拝するのを、見よう見まねで倣った。手を合わせ、目を閉じると、また四人のことを思い出した。
 神など信じてはいないが、作法に則っると敬虔な気持ちになるのは不思議だった。
 「さ。これで神さんへの挨拶はすんだ。早速、始めるで」だるまは階段を下りた。「なにしろおまえは基本的な体力がなさすぎや。パンチだのキックだの言う前に、まずは足腰を鍛えな、はじまらん」
 「それで階段十往復か?」
 「そや」
 「だけど、そんなの、マジ無理だって」
 「ええから、早よ、こいや……」面倒くさくなったのか、だるまはヲタの手を引いて、麓へ続く階段を下りはじめた。
 ヲタはだまるに引っ張られながら、彼女に「特訓」を頼んだことを後悔しはじめた。
 バカの一つ覚えみたいにいつも「あつ姐っ」と前田にくっつき、役に立たないボディーガードを気取ってはいるものの、ヲタはだるまに対して尊敬に似た思いを持っていた。前田当人に鬱陶しいと感じられようと、それを貫くところはすごい(とは言え、自分が前田の立場なら、だまるをボコボコにしていただろう)。
 また、過去の自分にけじめをつけるため勝ち目の薄いシブヤと闘ったことや、山篭りをしたことなどにも、ヲタは密かに感動していた。そんなことを言えばチームホルモンのメンバーにからかわれるかもしれなかったから、それを口にはしなかったが。
 だるまはヲタに、結果がすべてではないことを教えてくれた。
 もちろん、本人が意図したわけではなく、ヲタが勝手にそう受け取っただけだ。負けても負けても、だるまは絶望しない。不屈の精神で立ち向かう。最初はだるまをウザいと思っていたにちがいない前田も、やがてだるまに絆されたのは、そうしただるまの一途さゆえからだろう。
 プリクラに負け、チームホルモンを解散したヲタに、守るべきものは残っていなかった。自分にどれだけ変化があろうと日常はそれまで通りに訪れた。朝、同じ電車の同じ車両に乗る顔ぶれは変わらない。クラスの喧騒も、授業の光景も、夕日も、なにもかも変わってはいない。ただ、自分だけが世界から突出してしまったような感覚があるだけだった。
 旧チームホルモンのメンバーたちは、昼休みや放課後に、プリクラの純情堕天使のメンバーと混じって学内を巡回しているようだった。ケンカ別れをしたわけではないので、ヲタは四人に会えば挨拶はする。だが、そこまでだった。自分はもう、チームホルモンのメンバーではない。話し込めば、リーダーだったころの口調と態度になるだろう。それはしたくなかった。メンバーたちも、それは察してくれているようで、必要以上に話すことはなかった。
 それを察知したらしいだまるがヲタに声をかけてきたのは、プリクラに負けた三日後の放課後だった。だるまは階段を下りるヲタの肩を抱いてきた。「お前ら、最近つるんでないやんか。ケンカでもしたんか?」
 「ケンカじゃねぇけど……」ヲタは答えた。「まあ、いろいろあってな……」
 授業中のホルモンタイムはもうなくなっていた。四人はダベるわけでもなく、とりあえずは授業を受けているように見えた。ヲタもなにもすることがないので、仕方なく教師の話を聞いていた。もっとも、小腹が空けば教室の後ろにある湯沸しポットで給湯し、カップ麺を食べてはいた。
 「オレでよかったら、相談乗るで……」
 「いや、もう解決したんだ」
 「ならええけど……」
 だまるは納得いかない様子だった。
 とはいえ、だまるに少し傾倒しているヲタは、その気遣いに感心した。だるまになら話してもいいかもしれない、とも思った。チームホルモンが解散したことは遅かれ早かれだるまの耳にも入るだろう。それなら自分から先に言っておいたほうが気が楽だ。だれかに一連の顛末を聞いてほしかった、という気持ちもあった。
 「あのな……」ヲタは立ち止まった。「聞いてくれるか」
 「なんでも聞くで」だるまは笑顔になった。間近で見るその表情は迫力満点で、ちょっと怖くて気持ち悪かった。
 ヲタはだるまを誘い、いつもの親水公園に行った。途中で買ったたこ焼きをつまみながら、ヲタはすべてを話した。できるだけ客観的に説明したつもりだが、だるまがどう感じたのかはわからない。だるまは茶化すこともなく、黙ってヲタの話に耳を傾けた。
 「そういうことやったんか。そんなら話は簡単やで」
 「なにが?」
 「つまり、おまえが朝日に勝てばええんや」
 「朝日に?」
 「そうすればおまえは自信を取り戻せる。リーダーとしてふさわしい自信と実力を手にすれば、またチームホルモンは復活できるかもしれんやないか」
 「それは無理だ。おれ……弱ぇえし」
 「だから強くなるんや」
 「どうやって?」
 「特訓しかあらへんやろ。オレがシブヤと戦うときにしたように……」
 「でも、おめえ、負けたんだろ?」
 「あつ姐は、オレが勝ったと言ってくれたで。シブヤのアジトからオレを運んでくれたあとで……。感動の名場面や」
 「いや、それ、おまえを慰めるために言ったんだって。そんなこともわかんねぇのかよ」
 「あつ姐の言うことは正しいんや。だから、オレは勝ったんや……」
 「――わかったわかった。そういうことにしとくよ」
 「なら、おまえもやるな? 特訓」
 ヲタはそれも悪くない、と思い始めていた。自分には、もう失うものはない。それにもし、特訓の成果で朝日を倒せれば、それはさぞかし爽快だろう。
 なにより――「特訓」とは燃える響きではないか。
 「けど、おめえは前田にひっついてなくていいのかよ?」
 「あつ姐はもう大丈夫や。サドとのタイマンにも勝ったいま、あつ姐はマジ女最強や。手ェ出す奴はおらへんやろ」
 たしかにそれには一理ある、とヲタは思った。いまや、「マジ女最強」は前田であることに異論のある者はいないだろう。全盛期の大島優子が相手ならどうなったかはわからないが、架空の話をしても意味はない。
 ヲタはだるまの誘いに乗った。
 だるまがシブヤとタイマンを張る前に特訓をしたというこの神社に一週間泊り込み、特訓をおこなう計画だ。その間、学校には行かない。ヲタもだまるも、授業をきちんと受けているかはともかく、登下校だけはちゃんとしていた。そのため、一週間程度休んだところで問題はない。学校には病欠と一報を入れてある。仮病だとわかったところでお咎めもないだろう。
 階段は登るほうがキツいと思っていたヲタは、早くもその決めつけを粉砕された。
 登るだけで疲労困憊したヲタの脚はわずかに震えていて、一段降りるごとにそれは増した。太ももの筋肉も痛んだ。かばおうとすると体が前方に傾き、転落しそうになる。ヲタは階段の真ん中にある手すりにつかまりながら、だるまに続いた。
 「なんや、たらたらたらたら……」振り返っただるまがあきれたように言った。
 「うるせぇ。体がついていかねぇんだからしょうがねぇだろ」
 「普段、運動してない証拠や。ま、最初の二三日は筋肉痛で寝られんやろな」
 「マジかよ……」
 「しゃべる元気があったら脚に回せや」
 だるまはまた階段を下り始めた。ヲタは仕方なく、それに続いた。
 途中で何人かとすれ違った。腰が曲がっていてもおかしくない年代の人ばかりだったが、十七歳の自分以上に軽い足取りで階段を登っていくさまに、ヲタは驚いた。ラフな格好をしているから、おそらくは毎朝お参りしているのだろう。なるほど、この階段を何十年も上り下りしていれば自然と足腰が強化されるはずだ。
 やっとの思いで下山したころには、ヲタは汗だくになっていた。手すりにつかまり、肩で息をする。喉が渇いた。なにか飲みたいが、ペットボトルに入ったミネラルウォーターは上にある。三〇〇段登らなければ飲むことはできない。
一回往復しただけで、これだけの体力を消耗してしまうとは思いもよらなかった。
 「おまえ、どんだけ弱いねん」だまるは息ひとつ上がっていない。近所を散歩してきたというくらいのテンションだ。「そりゃ、プリクラにも負けるわけや」
 「うる……せ……え……」
 「さ。今度は登るで」
 「ちょっ……ちょっと……休……憩……」
 「休憩なんてあらへんっ」だまるが急に強い口調になった。「そうやって、辛いことから逃げまわってきたツケが、いま、おまえが感じてる辛さなんやっ。それからも逃げるんなら、いますぐ帰れや」
 「――わぁった……よ……」
 ヲタは手すりから離れ、歩き出した。今度はだるまは後ろからついてくる。もし自分が転がったら受け止めてくれるのだろうか。だるまの体型や力なら、それもできそうだ。
 もちろん上りも、地獄のような苦しさだった。ついさっき、下りのほうがキツいなどと考えた自分を呪いたくなった。なにが下りはキツいだ。上るほうがずっと辛いに決まっている。その証拠に、さっきよりも太ももの筋肉が痛くなってきた。足首から先が、まるで鉄下駄を履いているように重い。もっとも、鉄下駄など履いたことはなく、あくまでイメージだが。
 ――二十、二十一、二十二、二十三……って、まだ三十段も行ってないのか……。
 「キツかったら、手すりを掴みながらでもええで」
 ヲタはだるまの言う通りにした。それでも脚が笑って、思うように動かなかった。
 気温が高くなく、湿気もそれほどなかったのは幸いだ。これが真夏なら確実に倒れているところだった。
 一〇〇段を越えたあたりで、ヲタは数えるのをやめた。数えたって意味はない。三〇〇は三〇〇だ。終わるときは必ず来る。それよりも、次の一歩を確実に前に出すことこそが重要だと思った。
 だるまの言う通り、これは「ツケ」だ。自分はなにもしてこなかった。辛いことがあれば逃げ、逃げられないときは心を空にして、ただひたすら時が過ぎるのを待った。なにも生み出さず、なにも成長させなかった。毎日をだらだらと過ごし、明日も今日と同じ日が来ると無根拠に考えていた。その「ツケ」が、朝日とプリクラに負けるという具体的な現象として、ヲタだけではなく、仲間たちをも巻き込むかたちで訪れた。
 今度こそ、変わらなければならない。
 山頂の鳥居の笠木の部分が見えてきた。もう少しだ。
 自分の息が間近で聞こえる。
 体力は限界に来ていたが、なぜか自分の息遣いが支えになった。生きている実感があったからかもしれない。そういえば、プリクラと闘っているときも、生の実感に満ちていた。殴られて痛かったが、あれはとても充実した時間だった。
 そして今も。
 鳥居の貫、柱、藁座が順番に見えてきて、亀腹と台石が現れたときには、ヲタは思わず駆けだしていた。そんな体力があるとは思わず、ヲタは自分のとった行動に驚いた。
 鳥居をくぐっても、さっきのように倒れこんだりはしなかった。柱に手をついてはいたものの、二本の脚でしっかりと立っていられた。
 うつむいた顔の額からは滝のように汗が流れ、石畳の上に黒い点をいくつも描いた。
 一陣の風が吹き、ヲタの髪を揺らした。
 ――生きてるんだな、おれは。
 ヲタはこれまで感じたことのない充実感に満たされていた。
 「よく登りきったな。少し見直したで」だまるが後ろから肩を抱いてきた。
 少しかよ、と言おうとしたが声にならず、ヲタは深く頷いた。
 「水、持ってきてやるで……」
 だるまがそう言って歩き出したときだった。背後から、見知らぬ女の声が聞こえた。
 「あんたら、マジ女の生徒?」
 「ぁあ? だったらなんやねん?」だるまが声を荒げた。
 ヲタが振り返ると、そこには三人の女が立っていた。

 



【つづく】

 ※今日から旅行に行くので、次回の『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』の更新はけっこう遅れます。すみません。


 ・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
 ・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
 ・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。

COMMENT - 2

上戸ともひこ  2010, 07. 08 [Thu] 07:24

Re: タイトルなし

>ゴンさん
 旅行から帰ってきて風邪をひいてしまったので、公開はまだまだ先になりそうですが、待っていてくださいね。
 ヲタはいいキャラですよね、さっしーのビジュアルも含めて。

Edit | Reply | 

ゴン  2010, 07. 02 [Fri] 22:24

待ってます!

旅行羨ましいです。

あっ、そういえば、マジすかの中ではヲタが一番好きだから主役でうれしいです!

ありがとうございます!

Edit | Reply | 

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