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『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』 第75話

 27, 2014 23:04
 ■決戦―11■



「やっと終わった……のかな……?」大声を出しすぎたジャンボの声はかすれていた。
「――たぶん……だけど、終わったんじゃない……?」いつもは幼さの残るアニメの声も、いまは少し低くなっていた。
 二階の廊下にいたふたりは、割れた窓から外へ飛んで行く鴉や鳩を見ながら、壁に寄りかかって疲労した体を休めていた。
 二十分ほど前、アニメとともに校内巡回にあたっていたジャンボとアニメは、鳥の襲撃をサドに報告すると、そのまま生徒会室に向かい、別命あるまで峯岸みなみの指揮下に入るように命じられた。
 二人は、生徒会室の喧騒ぶりに唖然とした。十台ほどの携帯電話はひっきりなしに鳴っていて、七人の生徒会役員だけでは対応できていないばかりか、経験不足による指示は拙速さも的確さもなかった。その上、すべては峯岸の判断がなければ決定されず、保留された要件は溜まっていく一方だった。
《所詮は力不足だったか……》
 ジャンボは落胆したが、表情には出さないようにした。アニメと視線を合わせると、彼女は黙って頷いた。
 峯岸みなみはふたりの姿を目にすると、携帯電話で会話を続けたまま、テーブルの上でメモをとった。そして書き上げるとそれを丸め、ふたりに向かって放り投げてきた。アニメがそれを拾い、広げた。A4の紙に、殴り書きの汚い文字が踊っていた。
《一階と二階の混乱を収拾して》
 二人は鳥を避けつつ、二階へ下りた。
 そこは、一階から逃げてきた生徒たちがふたたびパニックに陥るに足る修羅場だった。冷静さを失った者たちは、目上のジャンボとアニメを見ても反応しなかったし、それどころか自分たちが逃げるために二人を押しのける者もひとりやふたりではなかった。これを生徒会が抑えるのは無理な話だった。
 それでも普段から気心の知れているふたりは連携して、大声と威圧によって、少しずつ生徒を落ち着かせていった。泣きわめく者は拳で我に返らせた。その甲斐があったのか、二階に逃げてきた者たちは少しずつ沈着に行動し始めた。
 そしてつい先ほど、鳥たちの襲撃が止んだ。
 もう二階の廊下にいる生徒たちは残り少ない。さっきまでここにいた元チームホルモンのバンジーたちも一階に降りていった。パニックは去ったのだ。
「アリ女の襲撃がある前に終わってよかったね」ジャンボは言った。
「うん――」と頷いたものの、アニメは不安そうな表情を隠さなかった。「でも、けっこう怪我人出てるし、作戦通りに行かないね」
「大丈夫っしょ。優子さん、来てくれたんだし」
「だといいけど……」
 ふたりは階段を登り、三階の生徒会室の前へやって来た。
 扉の前に立ったとき、ジャンボは違和感を覚えた。
 静かすぎる。
 あれだけ鳴っていた携帯電話の着信音も、話し声も聞こえない。
 アニメも同じことを感じたのだろう。あわててドアノブを握り、扉を開き、部屋の中へ飛び込んだ。
 生徒会室の中央に置かれたテーブルの上にあった携帯電話やパソコンや書類は散乱し、正面にあったはずのホワイトボードは倒され、窓はすべて割れ、黒、白、灰色の鳥の羽が室内に吹き込んできた風に舞っていた。筆記用具や書類やペットボトルが乱雑に床に散らばっていた。
 ジャンボとアニメが唖然としていると、テーブルの下から佐藤すみれの情けない声がした。「――ねえ……もう、大丈夫……?」
 覗きこむと、そこには佐藤すみれだけでなく、小木曽汐莉、桑原みずき、大矢真那、中西優香の五人が隠れていた。床にもおびただしい数の羽とガラスの破片が散らばっている。
「あ、ああ……もう、鳥はいない」ジャンボがそう告げると、竦み上がっていた五人は安堵の表情を見せた。
 高柳明音は、窓際の隅に座り込んで泣き崩れていた。ガラスででも切ったのか、顔と手のひらに鋭利な切り傷があった。アニメが近づくと、高柳はしゃくりあげながら取り縋るように言った。「鳥……鳥さん、が……鳥、鳥さんが……こ、こんなこと……する、わけない……よ……」
「大丈夫。鳥さんはもういないよ」アニメが高柳の肩を抱いた。
 背後でガタッとなにかが崩れる音がして、ジャンボは振り返った。倒れかけて壁に斜めに立っているロッカーの影から、峯岸みなみが現れた。
「峯岸……」ジャンボは絶句した。
 峯岸の額から血が流れている。目つきもとろんとして、意識がどれだけはっきりしているのかわからない。ロッカーを跨ぎ、こちらに来ようとしている峯岸の元に、ジャンボは駆け寄った。
「大丈夫か?」
「――鳥が……来た……」
 峯岸はそれだけ言うと、前のめりに倒れてきた。ジャンボは峯岸のお腹に腕を回し、体を支えた。右腕に峯岸の全体重がかかった。
「しっかりするんだ。いま、救護班を呼ぶ」ジャンボはアニメに目配せをしようと顔を上げた。そうするまでもなく、アニメはもう携帯電話を耳に当てていた。
「――甘く、見てた……わ……」峯岸は息も絶え絶えに言った。
「しゃべらなくていい」
「――ううん……これだけは……サドと……優子さんに、伝え……て……。生徒、会は、この、戦い……の、全権を……ラッパッパ……に、委譲……するって……」峯岸はそこまで言うと安心したのか、ゆっくりと目を閉じた。
 ラッパッパに全権を委譲する――峯岸はたしかに言った。
 ジャンボはテーブルの下から出てきた役員に視線を移した。みんな疲労困憊していた。彼女たちには、もう無理だった。というよりも、そもそも無理だったのだ。
 ジャンボはみんなの顔を見た。言葉にはしなくとも、意志は通じた。
「だれか会長を支えてやってくれ」ジャンボは言った。「私はすぐに優子さんに、このことを伝えないといけない」
 生徒会室の外に、駆けつけた救護班の足音が聞こえてきた。
 


  【つづく】

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