上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■台場から来た少女 2―1■
ただ、一番強い女でいたかった。
学園の「トップ」の座などどうでもいい。大島優子を倒したとしても馬路須加女学園を統べる気など毛頭ない。そんなモノは大島優子が今まで通りにサドや四天王を使ってやればよい。
一番強いのが自分であると認められればそれでいい。
チョウコクのいまの心には、その思いしかない。
幼稚園では順列こそなかったものの、小学校では五年の秋に学校内で「一番」になったし、中学では二年の春に三年の「番長」をぶちのめした。
だが高校に入ってからは順調にいかなかった。適当に入った百人一首部にあやかって「百人斬り」を目指したものの、「トップ」までの道のりは遠かった。いざ始めてみると馬路須加女学園には各校からの猛者が集まっているだけあり、所詮、中学時代の番長など、たいしたことはないということを嫌というほど思い知らされた。
もっとも、チョウコク自身、ことを急くタイプではなかったから、「百人斬り」は日々の鍛錬の成果を見るために、時間をかけて実行していた。より強い相手を求めるには、自分がより強くならなくてはいけない。努力を怠っていては「一番」などなれるわけはないのだ。
それには日々の鍛錬は欠かせない。
自分の脚が筋肉質な、いわゆる女性的でないことは自覚している。であれば、これを生かさない手はなく、チョウコクは蹴りを決め技にしていた。
そのためにはなんといっても足腰の強化だ。屋外でおこなえるランニングは雨でも雪でも欠かさずしていたし、自宅では腹筋や腕立て伏せを基本とするトレーニングとストレッチを毎日やっていた。
その日も、チョウコクはランニングをしていた。ジャージ姿と束ねた後ろ髪は、トレーニングのときの定番のスタイルだった。
コースには、前田敦子に負けたあの地下道を、チョウコクはあえて選んでいる。悔しさを忘れてはいけない。それこそが、いつかくる再戦の日に生きるだろう、と考えて――。
そこに、二人の女が立っていた。
知っている制服姿だった。紺地に白い縁取りのされたデザインのブレザーと、バーバリーみたいな青いチェック柄のプリーツスカート――亜理絵根女子高等学校のものだ。
昨日、2年のチームホルモンの二人が他校生にボコられた、という噂は聞いていた(チョウコクはチームホルモンとは対戦済みで、もちろん勝っていた)。こいつらがその相手なのか……。
チョウコクは二人を観察した。
胸元まで紙を伸ばした一人はやけに背が高く、脚も長い。チョウコクも166センチと、女としては高いほうだが、その女は同じかそれ以上に見えた。
もう一人はボブヘアーというよりは、おかっぱと言ったほうが的確な髪型で、色黒の肌だった。
二人からの殺気を感じ、チョウコクは脚を止めた。「なんだ、てめえら……」
「秋元才加……いや、チョウコクさん、ですね?」背の高いほうが言った。
チョウコクは答えず、防御の体制をとる。
「百人斬り、あと六人だそうで……」今度はおかっぱが言った。「あたしらはその頭数に入ってないでしょうが、エキシビジョンってことでお手合わせお願いします」
「あいにくだが、意味のないケンカはしないことにしてるんでね。ケンカしたいなら他をあたってくれ」
「そちらになくても、こちらにあるんですよ。チョウコクさん」と、背の高い女。
「なんでこちらの名前を知ってるのかわからねえが、意味があるなら名乗りなよ、亜理絵根女子高の生徒さん……」
二人は顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
「亜理絵根女子高等学校3年D組、横山ルリカ」
「同じく3年D組、外岡えりか」
背の高いほうが横山で、おかっぱが外岡――。
「あんたらかい、うちの2年をボコってってのは?」
「それは私たちじゃない」横山が否定した。「元は同じだけど、別働隊ってとこかしら」
いくつものチームが同時に動いているとなると、これは組織的に計画されたものであって、いたずらにケンカを売り買いしているわけではないということだ。
一体、亜理絵根がなんのために……?
決まってる――「トップ」を獲るためだ。
敵対関係にある馬路須加と矢場久根だが、実はその状態は均衡している。小競り合いはあっても、全面的抗争まで発展しない。本気でぶつかり合えば共倒れになるからだ。
だが、亜利絵根が馬路須加を潰しにかかれば(あるいは逆の場合も)、その均衡は崩れる。戦力に偏りができ、それは弱体化した側の壊滅を意味するのだ。
問題は、最初にどちらを潰すか――。
現状では、戦力は馬路須加のほうがやや上だろう、とチョウコクは冷静に判断している。ラッパッパの大島優子とサドのコンビ、そしてその下にいる四天王の存在は大きい。矢場久根の総長あじゃは大島優子に匹敵する力を持つが、その部下は明らかに四天王に劣る力しかない。だが、援交に見せかけたある種のオヤジ狩りなどによる「しのぎ」は矢場久根のほうがそのテクニックに長けており、資金面で馬路須加は劣る。それらの資金は男の「兵隊」を雇うために使われており、これはこれで無視できない「戦力」と言える。
それでも純粋に戦いだけなら、やはりラッパッパが強い。
だから、亜利絵根は先に馬路須加を潰そうとしているのだろう。
――ならば……倒す。
チョウコクは瞬時にそう考え、結論した。
敵の敵は味方という言葉がある。だとすると、敵の味方は敵なのだ。
「今日はカルタは持ってねえが……」チョウコクはすっと、ファイティングポーズをとった。「元からおまえたちは頭数に入っていない。さあ、どちらから来る?」
「ふたり同時に行くわ」と横山。
「タイマンじゃねえのか」
「あなたとタイマンをしたら――」外岡が前に出る。「わたしたちは勝てない」
「なんだって?」
「あなたは強いから」
チョウコクは少し焦った。
――この二人は「力」の意味を知っている……。
戦いにおいて、自分の力を過信するのは、相手の力を卑下するよりも危険である。
けれども、多くの人間はこれができない。過信し、そして負ける。
それゆえ、己の限界をわかっている相手は「強き者」との戦いを避ける。避けられないのなら、勝てる可能性を探す。この場合、横山と外岡が採った戦術は、二人で挑むということなのだろう。
――舐めたらやられる。
チョウコクは、背中に汗が伝うのを感じた。
【つづく】
・テレビ東京のドラマ『マジすか学園』のパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれエロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。
こっそり書き直します。
ただ、一番強い女でいたかった。
学園の「トップ」の座などどうでもいい。大島優子を倒したとしても馬路須加女学園を統べる気など毛頭ない。そんなモノは大島優子が今まで通りにサドや四天王を使ってやればよい。
一番強いのが自分であると認められればそれでいい。
チョウコクのいまの心には、その思いしかない。
幼稚園では順列こそなかったものの、小学校では五年の秋に学校内で「一番」になったし、中学では二年の春に三年の「番長」をぶちのめした。
だが高校に入ってからは順調にいかなかった。適当に入った百人一首部にあやかって「百人斬り」を目指したものの、「トップ」までの道のりは遠かった。いざ始めてみると馬路須加女学園には各校からの猛者が集まっているだけあり、所詮、中学時代の番長など、たいしたことはないということを嫌というほど思い知らされた。
もっとも、チョウコク自身、ことを急くタイプではなかったから、「百人斬り」は日々の鍛錬の成果を見るために、時間をかけて実行していた。より強い相手を求めるには、自分がより強くならなくてはいけない。努力を怠っていては「一番」などなれるわけはないのだ。
それには日々の鍛錬は欠かせない。
自分の脚が筋肉質な、いわゆる女性的でないことは自覚している。であれば、これを生かさない手はなく、チョウコクは蹴りを決め技にしていた。
そのためにはなんといっても足腰の強化だ。屋外でおこなえるランニングは雨でも雪でも欠かさずしていたし、自宅では腹筋や腕立て伏せを基本とするトレーニングとストレッチを毎日やっていた。
その日も、チョウコクはランニングをしていた。ジャージ姿と束ねた後ろ髪は、トレーニングのときの定番のスタイルだった。
コースには、前田敦子に負けたあの地下道を、チョウコクはあえて選んでいる。悔しさを忘れてはいけない。それこそが、いつかくる再戦の日に生きるだろう、と考えて――。
そこに、二人の女が立っていた。
知っている制服姿だった。紺地に白い縁取りのされたデザインのブレザーと、バーバリーみたいな青いチェック柄のプリーツスカート――亜理絵根女子高等学校のものだ。
昨日、2年のチームホルモンの二人が他校生にボコられた、という噂は聞いていた(チョウコクはチームホルモンとは対戦済みで、もちろん勝っていた)。こいつらがその相手なのか……。
チョウコクは二人を観察した。
胸元まで紙を伸ばした一人はやけに背が高く、脚も長い。チョウコクも166センチと、女としては高いほうだが、その女は同じかそれ以上に見えた。
もう一人はボブヘアーというよりは、おかっぱと言ったほうが的確な髪型で、色黒の肌だった。
二人からの殺気を感じ、チョウコクは脚を止めた。「なんだ、てめえら……」
「秋元才加……いや、チョウコクさん、ですね?」背の高いほうが言った。
チョウコクは答えず、防御の体制をとる。
「百人斬り、あと六人だそうで……」今度はおかっぱが言った。「あたしらはその頭数に入ってないでしょうが、エキシビジョンってことでお手合わせお願いします」
「あいにくだが、意味のないケンカはしないことにしてるんでね。ケンカしたいなら他をあたってくれ」
「そちらになくても、こちらにあるんですよ。チョウコクさん」と、背の高い女。
「なんでこちらの名前を知ってるのかわからねえが、意味があるなら名乗りなよ、亜理絵根女子高の生徒さん……」
二人は顔を見合わせて、ふっと微笑んだ。
「亜理絵根女子高等学校3年D組、横山ルリカ」
「同じく3年D組、外岡えりか」
背の高いほうが横山で、おかっぱが外岡――。
「あんたらかい、うちの2年をボコってってのは?」
「それは私たちじゃない」横山が否定した。「元は同じだけど、別働隊ってとこかしら」
いくつものチームが同時に動いているとなると、これは組織的に計画されたものであって、いたずらにケンカを売り買いしているわけではないということだ。
一体、亜理絵根がなんのために……?
決まってる――「トップ」を獲るためだ。
敵対関係にある馬路須加と矢場久根だが、実はその状態は均衡している。小競り合いはあっても、全面的抗争まで発展しない。本気でぶつかり合えば共倒れになるからだ。
だが、亜利絵根が馬路須加を潰しにかかれば(あるいは逆の場合も)、その均衡は崩れる。戦力に偏りができ、それは弱体化した側の壊滅を意味するのだ。
問題は、最初にどちらを潰すか――。
現状では、戦力は馬路須加のほうがやや上だろう、とチョウコクは冷静に判断している。ラッパッパの大島優子とサドのコンビ、そしてその下にいる四天王の存在は大きい。矢場久根の総長あじゃは大島優子に匹敵する力を持つが、その部下は明らかに四天王に劣る力しかない。だが、援交に見せかけたある種のオヤジ狩りなどによる「しのぎ」は矢場久根のほうがそのテクニックに長けており、資金面で馬路須加は劣る。それらの資金は男の「兵隊」を雇うために使われており、これはこれで無視できない「戦力」と言える。
それでも純粋に戦いだけなら、やはりラッパッパが強い。
だから、亜利絵根は先に馬路須加を潰そうとしているのだろう。
――ならば……倒す。
チョウコクは瞬時にそう考え、結論した。
敵の敵は味方という言葉がある。だとすると、敵の味方は敵なのだ。
「今日はカルタは持ってねえが……」チョウコクはすっと、ファイティングポーズをとった。「元からおまえたちは頭数に入っていない。さあ、どちらから来る?」
「ふたり同時に行くわ」と横山。
「タイマンじゃねえのか」
「あなたとタイマンをしたら――」外岡が前に出る。「わたしたちは勝てない」
「なんだって?」
「あなたは強いから」
チョウコクは少し焦った。
――この二人は「力」の意味を知っている……。
戦いにおいて、自分の力を過信するのは、相手の力を卑下するよりも危険である。
けれども、多くの人間はこれができない。過信し、そして負ける。
それゆえ、己の限界をわかっている相手は「強き者」との戦いを避ける。避けられないのなら、勝てる可能性を探す。この場合、横山と外岡が採った戦術は、二人で挑むということなのだろう。
――舐めたらやられる。
チョウコクは、背中に汗が伝うのを感じた。
【つづく】
・テレビ東京のドラマ『マジすか学園』のパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれエロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。
こっそり書き直します。