2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 ■作戦―2■



 「あるんだろ? 埋蔵金とやら……」
 サドはまじろがず、峯岸をじっと見た。カツアゲをするときの、射るような視線だった。
 毎年、学校から生徒会に渡される予算は、その年にすべて使い切ることになっている。そして帳簿の上では一円の狂いもなく学校側に報告されていた。しかし現実には毎年、剰余金が発生する。生徒会はそれを埋蔵金と呼び、何年にも渡って貯め続けている――。
 馬路須加女学園の生徒なら、だれもが知っている噂だった。
 「そ、そんなもの、あるわけないでしょうッ」平松が破裂したように立ち上がった。「あったとしても、あなたたちのために使う理由なんてないわッ」
 「そうです。それ、どこで聞いた話ですか?」佐藤も大声で否定した。
 この平松と佐藤のあわてぶりこそ、この噂が噂でない証拠だった。
 「昨夜、私はアリジョの生徒会長のフォンチーに会って、直接聞いたんだ。まちがいはない」
 峯岸は口を真一文字に結び、じっとサドを見据えている。サドの言葉の信憑性について考えているようにも見える。
 「ヤンキーたちの言うことなんて信用できるもんですか」平松は頬を赤らめていた。「会長、わたしは反対です。これまで生徒会はどの勢力とも一定の距離を保ってきました。だからこそ、生徒会は存続してこられたんです」
 「わかってねえな、そこのアニメ声」サドは威圧するように、大声を出した。
 「――なっ……」
 「殴りこみに来るのはアリジョの生徒会だ。ただのヤンキーじゃねえ。もし、マジジョが負けたら、この生徒会はアリジョが支配することになる。峯岸だけは傀儡として残されるかもしれねえが、おまえみたいにぎゃあぎゃあ騒ぐしか能のないやつは真っ先に粛清される。そうなってから後悔しても遅せえんだ」
 「他校がうちの自治を支配するなんてできるわけないわ」今度は佐藤すみれが叫んだ。
 「私はそうなった学校をいくつも知っている。毎年莫大なミカジメ料を取られ、生徒会は骨抜きになり、セロテープひとつ買うのにも許可がいる。仮にそうならなかったとしても、アリジョに負ければ、その事実はあっというまに他校に伝わる。マジジョは舐められ、せっかく潰した矢場久根もまた息を吹き返すだろう。半年前の状況に逆戻りだ。いや、もっと悪い。なぜなら私を含め、ラッパッパ四天王は全員卒業するからだ。いままで私たちは力による学園の統治をしてきた。その力がなくなるんだ。学園の外では他校との抗争が、学園の中ではあらたな権力争いが起きる。そうなったとき、生徒会がどうにかできるか?」
 サドの演説に、生徒会の三人は口を挟まなかった。
 だが、言いながら、サドは良心の呵責を感じていた。
 この戦いはマジジョを守るためではない。
 優子のためだ。
 サドは、自分が愛するたった一人の女のために、この学園の生徒全員を巻き込もうとしている。
 ――すべては優子さんのため……。
 そのためには、のちにどれだけ罵声を浴びようが、非難されようがかまわない。それでもサドは、やりとげなければならなかった。
 「どうしても私の話に納得しないのなら、私の背後にいる三人がおまえたちを事が終わるまで拉致する」
 「生徒会を脅す気?」腕組みをしたまま、峯岸が目を細めた。「生徒会を脅した人たちがどうなったか、サドさんなら知らないはずはないでしょう?」
 「どうなるかは、この闘いが終わっていまのままのかたちで生徒会が残っていたら、の話だ。私が命令すれば、この三人はいますぐにでも仕事にとりかかり、十秒もあればおまえたちはこの部屋の床に転がる。そして一分後には縄で縛られ、身動きできなくなる」
 トリゴヤが持っていた、太さ六センチ、長さ七メートルの縄を三本、テーブルの上に置いた。いつもは自分が縛られている縄だ。サドはそれを見て、トリゴヤの豊満で白い肌に食い込む縄を思い出した。トリゴヤは強く縛られるほど芳醇な蜜を溢れさせる、典型的なM体質の女である。サドは滴る蜜を舌ですくい、それをトリゴヤに飲ませるのが好きだった。トリゴヤのぷっくりとした淫猥な唇にキスをして、舌を挿入する。するとトリゴヤの舌がサドの舌に絡みつき、サドとともにその蜜を味わう。屈辱的な行為であるからか、トリゴヤはそうされると、より興奮するらしく、こんなに溢れさせたら干からびてしまうのではないかと思うくらい、ベッドのシーツを濡らしてしまう。
 「実際、こいつらはそうしたいんだ。ごちゃごちゃ言い争うのが嫌いな連中でね。物事の解決には力ずくが一番有効だと信じている」サドは、ためらいなく暴力を振るえる者だけが持つ、特有の笑みを浮かべた。「――いいか、よく考えるんだ。どうするのが学園にとって一番いいことか。これは戦争なんだ。学園の存亡がかかっている。そんなときに小さな道理などにかまっていられない。負ければ、それで終わりだ」
 生徒会が動かなければ、本当に三人を拉致するつもりだった。そして暴力と快楽によって尋問し、埋蔵金のありかを聞き出す――まさか自分が学園内でクーデターを起こすかもしれないことになるとは思いもしなかったが、ここまできたらどこまでも突き進むしかない。
 「会長、これは明らかな脅しです」と佐藤。
 「そうです、会長。毅然たる態度をとるべきです」と平松。
 二人はそろって、サドをにらみつけた。
 峯岸は熟考しているらしく、佐藤と平松とはちがう意味のこもった目線で、サドをみつめた。
 しばらくのときが過ぎた。その時間もまた、ひとつの闘いだった。
 「ふたつ条件があるわ……」やがて、峯岸が口を開いた。「当日の作戦運用ならびに指揮は生徒会の最高責任者である私に執らせること。もうひとつは、今後五年間、ラッパッパは生徒会を実力行為レベルで守ること」
 「会長……っ」副会長と書記長が同時に立ち上がった。
 「サドさんの言うことが本当なら、生徒会も協力すべき」
 「でも……」
 「聞いて。これは生徒会にとってもいい話なの。私たち生徒会の武器は、財源と情報。それに、ラッパッパの武力が加われば怖いものはないでしょ」
 「ヤンキーなんて信用できません」平松が横目でサドたちを舐めるように見た。ラッパッパを目の前にして、こんな態度がとれるとは、この女もなかなかいい度胸をしている。
 「そうです」佐藤が同意する。
 「そうね。たしかにヤンキーは信用できないかも……。でも、サドさんは信用できる。この人は一時しのぎの嘘を言う人じゃない。そうでなければ、あの大島優子がラッパッパを任せるわけがないわ。そうでしょ、サドさん?」
 サドはハッとした。自分が峯岸にハメられつつあると気づいた。
 ここまで持ち上げられては、峯岸の出した条件を呑まざるをえない。食えない女だ――サドは苦々しく思う。とはいえ、峯岸のサドに対する信頼の何パーセントかは、あの夜の経験からきているのだろう。打算からそうしたわけではないが、峯岸と肌を重ねておいてよかった。峯岸の高速ベロによる快感は、いまでも体が覚えている。この戦いが終わったら、また峯岸を抱きたい。
 サドは、そんな思いをこめた、潤んだ瞳で峯岸を見た。「――わかった。条件を呑もう」
 佐藤すみれと平松可奈子がため息をついた。佐藤は腕を組んで椅子の背もたれに深く沈み、平松は机の上に突っ伏した。
 「ふたりともがっかりしないで。そういうマイナス思考、イくないと思う。もう決まったんだから、もうそれに向かって走るしかないでしょ」峯岸は二人の背中を軽く叩いた。
 そう。時計の針は進んだのだ。
 後戻りはできない――生徒会もラッパッパも。そして、この学園の生徒すべても。
 「サドさん、作戦を聞かせて」
 「この学園に篭城する」サドは答えた。




 【つづく】
 ■作戦―1■



 シブヤ、ブラック、トリゴヤの三人を背後に従え、サドは吹奏楽部の部室から三階の生徒会室へ向かっていた。
 放課後の馬路須加女学園は、行き場もなく、だらだらと校内を徘徊する生徒であふれていたが、彼女たちは四人の姿を認めるなり立ち止まって頭を下げた。小競り合いをしている者たちも、サドと目が合うとすぐさま停戦した。
 人が、自分にこういう態度をとることに快楽を感じるほど、サドは単純ではなかった。彼女たちは自分を恐れているのではない。単に保身のために、恐れている振りをしているのだ。そしてそれは、サドというよりはラッパッパの存在に対して向けられている。サド自身はラッパッパを構成する、ひとつの要素に過ぎない。核にあるのは言うまでもなく、大島優子だ。彼女たちはここにいない大島優子に対して頭を下げているのだ。サドはそう思う。
 生徒会室は、階段を降りた正面にある。
 サドはそのドアを軽くノックした。
 少し間があってから、生徒会副会長――佐藤すみれの声がした。「だれ?」
 「私だ」サドは短く言った。
 また、しばらくの間のあとに、ドアは部屋の中から開けられた。ノブをにぎっているのは、生徒会ナンバー3の権力を持つといわれている書記長の平松可奈子だ。平松は生徒会の中で諜報活動を担当している。
 「――どうぞ」平松はサドにいぶかしげな視線を向けながらもそう言った。
 「邪魔するぜ」サドは平松の横を通り、生徒会室の中へ入った。シブヤ、ブラック、トリゴヤの三人もあとに続いた。
 生徒会室は小さな縦長の部屋で、ドアの正面に壁に窓があり、中央に大きなテーブル、そして両方の壁にはたくさんの資料が並んだロッカーが置かれていた。間近に迫った卒業式に関する書類が広げられたテーブルの真正面に、馬路須加女学園生徒会会長峯岸みなみの姿があった。その左横には佐藤が座り、平松と同じ意味をこめた視線をサドに向けていた。
 「どうも、サドさん」峯岸は立ち上がって軽く頭を下げ、椅子に座るよう片手でうながした。「今日は、なんの用?」
 ブラックが椅子を引き、サドを座らせた。シブヤ、ブラック、トリゴヤの三人は立ったままだ。
 「うちの生徒たちが次々とアリジョの連中にシメられていることは、おまえも知っているだろう?」平松が峯岸の右隣に座るのを横目で見つつ、サドは言った。
 「ええ」峯岸は頷いた。「かなり劣勢ですってね」
 「さすがは生徒会だな。よく知っている」サドはちらりと平松を見た。おそらく、この女がその情報を提供しているのだろう。
 武力を持たない生徒会がこの学園で正常に機能しているのは、文化祭や体育祭といった行事や部活動の予算決定権をにぎっているからだが、それ以外にも理由があった。
 長年にわたって継承されてきた諜報活動により、生徒会は馬路須加女学園全生徒のプライバシーに関する情報を常時収集している。それだけではなく、武闘派集団の動向はもちろん、教師の秘密でさえ把握しているようだ。事実、生徒会は半年前、特定の女生徒にストーカー行為とパワハラを繰り返していた男性教師を告発し、退職に追い込んだ。
 また、生徒会に対する暴力や脅迫行為が執拗におこなわれた場合、それが間接的であろうが直接的であろうが、その生徒もしくは武闘派集団は、情報の公開によって退学せざるをえない状況に追い込まれたり、あるいは別の強力な武闘派集団によって壊滅させられてきた。
 だからラッパッパでさえ、生徒会には手出しができない。逆に言えば、生徒会は手出しをされない限り、ラッパッパが暴力によって学園を統治することに異を唱えないというわけだった。
 「なんでも、四天王さんたちもやられたとか?」平松が腕組みをして皮肉った。
 「あたし、やられてないけど……」トリゴヤは不服そうに口をとがらせた。
 「おい、てめえ……」シブヤが歩き出した。「四天王、なめてんじゃねえぞ、あン?」
 「生徒会を脅す気ですか?」平松が立ち上がった。
 「生徒会じゃねえ。てめえに言ってんだ」
 「やめとけ、シブヤ」サドは手を挙げて、シブヤのやわらかな胸にふれた。「私たちはケンカをしに来たんじゃない」
 シブヤは平松をにらみつけたまま、サドの元へ戻った。
 「それからおまえ――」サドは顎をしゃくって平松を見た。「――シブヤは今年で卒業だ。御礼参りが怖かったら、あんまり挑発しないほうが身のためだ」
 しかし平松は顔色ひとつ変えなかった。
 ――いい度胸してやがる。
 この女がヤンキーになれば、そこそこの地位まで登れるだろう。生徒会に置いておくのはもったいない……いや、だからこそ、か。
 「話が中断しちまったが、おまえたち生徒会が知らない情報がある」
 「教えて」
 「三日後の金曜日、アリジョがこの学校にやってくる」
 サドのその一言に、峯岸はただでさえ大きな目をより見開いて、自分の両側に座っている平松と佐藤を交互に見た。二人とも、同じように小さく首を横に振るだけだった。知るわけがない。サドでさえ、昨夜、初めて聞いたのだから。
 「本当……?」
 「私がウソを言って、どうする?」
 「――たしかにそうね。で――アリジョの目的はなんだと思う?」
 この学園で、サドにタメグチをきくのは、この峯岸みなみと大島優子だけだった。
 そして峯岸みなみは、大島優子にさえタメグチをきく。 そもそもは生徒会長に就任したとき。学園一の武闘派集団ラッパッパの部室へ挨拶にやってきた峯岸みなみは、大島優子に向かってこう言ったのだ。
 「生徒会長に選ばれた峯岸みなみです。よろしくね」
 右手を差し出す峯岸みなみの強心臓ぶりに、吹奏楽部の部室は凍りついた。アンダーガールズたちは震え、四天王(そのころは、ゲキカラはまだ「おつとめ」に行っていなかった)は殺気立った。サドは唖然として声が出なかった。いまだかつて、初対面で大島優子にそんなフランクな態度で接する者は教師でさえいなかった。半殺しにあうな、とサドは思った。
 しかし優子の反応はちがった。凍てついた空気を暖めるつもりかと思うくらい大きく、大島優子は笑った。
 「あたしにタメグチとは、いい度胸してんな、おまえ」ファーの付いた部長専用ソファから立ち上がり、大島優子は峯岸のてのひらをにぎった。「気に入った」
 「私、学園の生徒みんなと仲良くなりたいから、敬語はやめようって決めたの。そのほうが親しみやすいでしょ。それに、たかが一年早く生まれただけで人の順列が決まっちゃうなんて、イクないと思う。みんな同じ馬路須加女学園の生徒なんだから、先輩とか後輩とか、そんなこと関係なく仲良くしようよ」
 その日、大島優子は峯岸みなみを抱いた。
 と――思い出に耽っていたサドは、生徒会室がしんと静まり返っていることに気づき、そこでハッとして峯岸を見つめ、話し始めた。「――アリジョの目的……ヤバジョに勝って、この学区では敵なしのうちらマジジョに勝てば、名を上げられるからじゃないか」
 「たしかに、それはあるかもしれないわね……」
 「そうだ。そこで生徒会の力を借りたい」
 「――カネ、ね……?」峯岸は目を細め、ほくそ笑んだ。




 【つづく】

ぼくにできること。

 13, 2011 14:28
 昨日からずっと、東日本巨大地震の被災者の方々に、自分がなにをできるか考えていました。
 それにはやはり、自分が作ったものを役立てるべきではないかと結論しました。

 今月の、『濡れ娘。』関連商品、ならびに『マジすか学園外伝』の売り上げすべてを日本赤十字社に寄付させていただきます。

 『濡れ娘。』関連の商品は、ぼくからの通信販売、ダウンロードサイト、アキバドットコム取扱い店にて購入できます。
 また『マジすか学園外伝』は、ぼくからの通信販売、楽天オークションにて購入できます。
 以下に、詳しいリンクを張っておきますので参照ください。

 どれがどれだけ売れたのかについては、3月の月末に、このブログで報告させていただきます。もちろん、虚偽の報告などしません(この点は、ぼくを信じていただくしかありませんが)。

 最近はDVDもあまり売れず、全体の売り上げが1万円を切ることもありますが、ほんのわずかでも復興の手助けになれば、と思います。
 ご賛同いただける方がいましたら、ぜひともご協力をお願いします。

 ■濡れ娘。→ http://www.nuremusume.com/

  DVDなどの通販をご希望の場合は、 nuremusume@mail.goo.ne.jp までメールをください。
  詳細については『濡れ娘。』のサイトをご覧ください。

  フェティッシュワールドでも通販をしています。 → 上戸ともひこ作品ページ

  ダウンロード販売でご協力いただける方は、

   ●DL.Getchu → 上戸ともひこ作品ページ

   ●デジぱれ → 上戸ともひこ作品ページ

   ●ギュッと! → 上戸ともひこ作品ページ

 以上のサイトにてご購入ください。
 ダウンロード販売は単価も安く、すぐに見られるのでお薦めです。


 ■『マジすか学園外伝』は、楽天オークションと通販にて販売しています。

   ●楽天オークションは ここをクリック。
    形式はオークションですが500円を即決価格にしてありますので、その金額で買えます。
    ただし、こちらは匿名配送となるため、少し送料が高いです
    (申し訳ありませんが、送料についてはご負担ください)。

   ●通販ご希望の場合は nuremusume@mail.goo.ne.jp までメールをください。
    件名は「通販希望」とし、本文に郵便番号、住所、氏名、希望冊数、
    そして代金の支払いとして銀行口座振り込みか郵便口座振込みかを書いてください。
    価格は一冊500円で、これに送料・手数料の200円が加わります。
    送料・手数料は何冊ご注文いただいても同じです。
    メールを受取ったあと、こちらからお振込みしていただく口座番号を記したメールを返信いたします。
    ご入金の確認のメールを送っていただければ、すぐにクロネコヤマトのメール便にて発送いたします。
    メール便はポストなどに投函されるタイプのものです。
    普通の茶封筒の中に入れて、個人名のみ記します。

 以上、よろしければ、お願いいたします。

     上戸ともひこ

無事です。

 12, 2011 07:49
 このたびの地震で被害を受けた方々にお見舞い申し上げます。



 地震発生時は外で仕事中でした。本当はすぐに帰りたかったけど、仕事が残っていたのでそれを済ませ、家に着いたのは九時ちょっと前くらいです。どこもかしこもひどい渋滞でした。建物が倒壊したようなことは、ぼくの見た範囲ではありませんでした。

 家の中はかなり散乱しましたが、いまは落ち着いています。幸い、本棚は倒れず、その上に乗せてあったものが落ちたくらいですみました。


 余震はまだまだ続くようですので、警戒を怠らないでください。
 犠牲者もたくさんいらっしゃるようですが、もうこれ以上、なにもないことを願っています。

旧作ですが。

 10, 2011 05:47
『Gyutto.com』にて、販売開始しました。



モデルは大野夏希さん。二年ほど前、山梨県へ温泉旅行に行ったときのものです。専用露天風呂付きの部屋をとり、そこで撮影しました。
使ったのはAK●48のレプリカ衣装。白いブラウスは薄い生地で、想像以上に透けてます。
 ■特訓―4■




 体の節々とあるゆる筋肉が痛いことを意識しなければ、とてもさわやかな朝だった。雲がほとんどない青空は見ているだけですがすがしい気分になれる。
 今朝もまた、ヲタは携帯電話の電源を入れるか迷ったが、結局そのままにした。だれかからメールが届いていないか気になって仕方がなかったし、自分のいまの状況を知らせておいたほうがいいかもしれないとも考えた。チームホルモン――いや、純情堕天使のみんなが自分のことを探していたら申し訳ない。心配しなくていい、ということだけでもメールをしておいたほうがよいのではないか。
 しかしその逆に、自分のことなどみんなはもう気にかけてはいないような気もした。なにしろ自分は、理由はどうあれチームホルモンを捨てたのだ。しかもリーダーみずから。みんなは自分を許してくれないだろう。身勝手なヘタレなど、だれからも愛されなくて当然だった。
 それでもヲタは――いや、だからこそ、強くならなければいけなかった。
 たった一週間の鍛錬でも、なにもしないよりはいい。きっとなにかが自分の中で変われるはず。ヲタはそう信じて、今日も立ち上がった。


 朝食のあと階段を五往復すると、いつものように鳥居の下で倒れこんだヲタに向かって、だるまが言った。「今日からはちがうメニューをこなすで。実戦や」
 「実戦って……、おれとおまえで……やるの、かよ……」
 初日から比べれば体力のペース配分ができるようになったが、さすがに休みなしで五回の往復はきつかった。
 「そうや」だるまはなにかを含んでいるような目つきになった。「ま。とりあえず、立てや」
 ヲタはゆっくりと立ち上がった。また体中の筋肉が悲鳴を上げた。「――痛てて……」
 「なんや、まだ痛いんか。ほんまに、いままでどれだけ鍛えてなかったかって証拠やな」
 「うるせえな」
 「師匠にむかって、その口のききかたはなんや」
 「だから、てめえを師匠と認めた覚えはねえって、何度言ったらわかるんだ」
 「まあ、ええわ。で、実戦なんやけどな、こんなふうにやるんや……」
 だるまが突然近づいてきて、ヲタの額に頭突きを食らわせた。
 闘う心構えのできていなかったヲタは、その激痛に叫び声を上げた。同時に目の前に火花が飛び散り、脳みそが頭蓋骨の中でグラッと揺れたような気がした。仰け反るような体勢になり、そのまま後ろによろよろと下がった。すると、なにか硬いものに後頭部を強打した。鳥居の柱だろう。ヲタはその反動で再びよろけ、うつ伏せで砂利の上に倒れた。開きっぱなしの口の中に砂利と砂が入ってきて、乾いた苦味がした。唾と一緒にそれを吐き出し、ヲタはだるまを憎しみの目で見上げた。「てめえ、いきなり、なにしやがるっ」
 「けっこう効いたみたいやな? せやけど、いまのは二十パーセントくらいの力しか出してへんで」
 「マジかよ……」
 「敵はおまえのタイミングで攻撃せえへんってことや」
 「敵って……てめえは師匠じゃねえのかよ」
 「師匠と認めた覚えはないんやろ?」
 だるまはにやっと笑った。
 「ふざけやがってよぉ……」ヲタは頭を軽く振りながら立ち上がった。「これがてめえの言う『実戦』か」
 「そうや。これから、いつなんどきも警戒を怠ったらあかん。おまえに隙があったら、いつでも行くで」
 「ふざけんなよ……」
 ヲタは後頭部にたんこぶができていないかどうかを確認した。ほんの少し、盛り上がっている箇所をさわると、ずきっとした痛みがあった。
 「オレの頭突き、強力やったろう? オレに頭突きという必殺技があるように、おまえも、これという技を見つけるんや」
 「おれはてめえみたいにデコの皮は厚くねえから頭突きは無理だ」
 「別に頭突きやなくてもええ」だるまは首を横に振った。「ええか。そもそも、たった一週間でケンカが強くなるわけあらへん」
 「それ言ったらおしまいじゃねえか」
 「事実なんやから、仕方あらへんやろ。おまえがかなりの覚悟で特訓してるのはわかってるつもりや。せやけど、一週間程度の特訓で、朝日に勝てるようになると思うとるんか?」
 「それは……やってみなけりゃわかんねえ……」
 「無理や。絶対に負ける」だるまは言い切った。「強いやつはそれなりに場数を踏んどるし、日々の努力もしとる。朝日が天才か努力家かはわからへんが、おまえごときヘタレがたった一週間の特訓で勝つつもりでいるなんて、オレからしたら笑い話以外のなにものでもないで」
 「おいおい、せっかく四日間も一緒にやってきたのに……」
 ヲタは焦った。だるまがそう思っているのなら、特訓の最初の日に言うべきだろう。今さらそんなことを言われたら、意気消沈するだけだ。
 「まあ、最後まで聞けや。オレはおまえの心意気は買(こ)うとる。ヘタレのくせによくやっとる、とな。だからおまえには勝ってほしいんや。ほんまにそう思っとるで」だるまの目は真剣だった。「短期間で総合的に強くなるのは無理やから、なにかひとつ、これという必殺技を身につけるんや。それなら、わずかでも勝てるチャンスはあるはずや」
 「必殺技が効かなかったらどうすんだよ」
 「まあ、負けるだけやろな」
 「そんな……」
 「甘ったれるんやない」だるまがぴしゃりと言った。「おまえが負け続けてきたのはおまえ自身の責任や。朝日がどれだけ強いのか、オレにはわからへんけど、これだけは言える。朝日はおまえよりは努力してきたはずや。その差は何年もあるかもしれん。それをおまえはたった一週間で埋めようとしてるんや。まともに戦ったら、また負ける。だとしたら、勝てるチャンスは必殺技の一撃しかあらへんやろ」
 そうかもしれない、とヲタは思い直した。ヲタがこうして特訓をしているあいだに、朝日もまた自分を鍛えているのかもしれない。そうなれば、実力の差は縮まらないどころか、元々資質のある朝日のほうが早く鍛えられるかもしれず、だとしたらその差は開く一方である。そんな相手とまともに闘ったところで勝ち目はないだろう。
 「――わかったよ。お前の言うとおりにやってみるよ」
 「わかってくれれば、それでええ」だまるは満足そうにうなずいた。「で。最初に聞くけど、おまえにこれといった技はあるんか?」
 ヲタは考えた。ひとつあった。「――肘、だな。肘は鍛えなくても堅くて使えるって聞いたから……」
 「肘か。なるほど、それはそうかもしれへん。ちょっと、オレに打ってみい」
 「マジでいっていいのか?」
 「もちろんや」
 だるまは胸を張って、ヲタを向かいいれるように両手を広げた。
 ヲタは右手の肘を九十度に曲げ、水平に倒した。肘の頂点はだるまに向けている。そして、少しずつだるまに近づいた。狙うのはだるまの胸だ。背の高さはほとんどちがわないので、肘を水平に当てようとすると必然的にそうなる。
 あと一歩で射程範囲内というところで、ヲタは決意して、だるまの懐に思いっきり飛び込んだ。突進した勢いのまま、矢のように直線的に肘をくりだす。
 その直後、ヲタは下腹部に強い衝撃を感じた。
 あまりの衝撃に声も出せず、弾かれたように背中から砂利の上に転がされた。
 さきほどの頭突きが鋭い痛みだとすると、今回は鈍い痛みだった。打たれた瞬間よりも、そのあとに体の奥から痛みが湧き上がってくる。深呼吸をしようとすると、腹がずきんと痛んで苦しかった。ヲタは喘ぐように息を吸わなくてはならなかった。胃のあたりから、なにかが逆流しそうになってきて、ヲタは唾を呑みこみんでそれをおさえた。
 「隙があったら行く、言うたやろ。これは相手の突進に合わせてこちらの攻撃を加える、カウンターってやつや」だるまはヲタに食らわせた右膝を下ろしながら言った。「どうや、かなり効いたやろ?」
 「――ふざけんな、こんなの、聞い、てねえ……ぞ……」ヲタはだるまを見上げて、にらんだ。
 「これが本番やったら、おまえはこのあと朝日にボコボコにされるで。ええか、ケンカにきれいも汚いもない。なにをしようが勝たなあかん。さ、立てや……」
 だるまはヲタのジャージの襟元をつかみ、ぐっと引き上げた。すごい力だった。腹を押さえたまま、ヲタはあやつり人形のように立たされた。
 思わず文句が出てしまったが、だるまの言うとおりだった。完全に油断していた。この腹の痛みがその代償だ。怒りをだるまに向けるのはまちがっている。愚かな自分に向けるべきだった。
 「――おまえが正しいよ、だるま」ヲタは頭を下げた。「たしかにおれは油断してた」
 「ひとつひとつ学んでいけばいいんや」だるまはヲタの肩に手を置いた。
 ヲタはその直後、密着しただるまの胸に肘を叩きこんだ。
 できるだけ小さな動きで打たなければいけなかったし、その瞬間、腹に激痛が走ったから、どれほどの威力があったかはわからない。それでも、だるまのやわらかい乳房の感触は、たしかに肘から伝わってきた。ちゃんと当てることができて、ヲタは喜びを感じた。
 意表を突かれたのか、だるまは目を見開いて、二三歩後退した。だが、それだけだった。やはりたいした威力はなかったようだ。
 「ふん。やってくれるやないか……」だるまは満足げに笑った。「せやけど、まだまだやな。これなら蚊に刺されたほうが痛いで」
 「いずれ一撃で気絶させてやるよ」ヲタは願望をこめて言った。
 一日は、まだ始まったばかりだった。



 【つづく】




 【以下、告知です(笑)】

 ブログ版に大幅な加筆訂正を加え、同人誌として書籍化しています。
 楽天オークションと通販にて販売しています。

 ■楽天オークションは ここをクリック

 ■通販ご希望の場合は nuremusume@mail.goo.ne.jp まで、件名を「通販希望」として、本文に郵便番号、住所、氏名、希望冊数、そして代金の支払いとして銀行口座振り込みか郵便口座振込みかを書いてください。
 価格は一冊500円で、これに送料・手数料の200円が加わります。送料・手数料は何冊ご注文いただいても同じですので、AKBのシングル並みに複数冊ご購入くださるとうれしいです(笑)。
 メールを受取ったあと、こちらからお振込みしていただく口座番号を記したメールを返信いたします。ご入金の確認のメールを送っていただければ、すぐにクロネコヤマトのメール便にて発送いたします。メール便はポストなどに投函されるタイプのものです。普通の茶封筒の中に入れて、個人名のみ記します。

WHAT'S NEW?