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【同性愛の性描写あり。子供、板野さんヲタ、矢神さんヲタは読んじゃダメだよ。】




 ■胎動―5■



 ダンスの舌はまだクリトリスに触れようとしないまま、ハイジニーナ処理が施されているシブヤの淫襞を這っていた。ダンスの唾液の音も混じっているのだろう、広い家庭科室には匂うほどの淫猥な響きが満ちている。
 シブヤは調理用キッチンに寄りかかるように、お尻を半分ほどステンレスカウンターの上に乗せていた。突っ張るように伸びて爪先立ちになった右脚のくるぶしには、下ろされた黒の下着が丸められている。背後に回された両手はカウンターの上に置かれ、シブヤの全体重を支えている。
 ダンスは正座をしてシブヤの超ミニスカートの中に頭を突っ込み、シブヤの陰部を仰ぎ見るような体勢で一心不乱に舌を動かしていた。両手はシブヤの太ももに絡まり、太ももや膝の裏を絶えず徘徊している。膝の裏にも性感帯があることを、シブヤはダンスとの関係ではじめて知った。軽く、くすぐるようなタッチでそこに触れられると、あまりの快感で反射的にのけぞってしまう。
 ダンスの舌で攻められるのは、自慰より何倍も良かった。もっとも、そうなるまでには何ヶ月もの調教が必要だった。自分が快感を感じるリズムを、シブヤはダンスにアメと鞭ではなく鞭のみで叩き込んだ。少しでもおかしな愛撫をされると、シブヤは遠慮なくダンスの頬を殴った。髪の毛をつかみ、顔を上げさせ、膝を入れた。それでもダンスは献身的な態度を崩さず、ひたすらシブヤの性具であろうとした。
 腰が勝手に動き、より強い刺激を求める。その律動に合わせ、ダンスの舌がシブヤの中に出し入れされる。尖った舌先に内壁の戸口を突かれると、そのもどかしさとくすぐったさにシブヤは激しい吐息を漏らした。早くクリトリスを舐めてほしかったが、この焦らすテクニックこそシブヤが教え込んだものだった。焦らして焦らして、まだ焦らす。そして、もう我慢できないというタイミングで刺激されるクリトリスからの快感といったら……。
 ――早く……でも、まだ……まだよ。まだまだ……。
 シブヤは痺れる頭の中でそう願った。
 ふと左脚が「お留守」になっていることに気づき、シブヤは閉じていた瞼を開いた。
 ダンスの右手はいつの間にかシブヤの太ももを離れ、自分のスカートをめくり、下着の中に突っ込まれていた。その指先も、左手と連動しているのだろう。自分の膝の裏で蠢いている指先と同じ刺激でダンスが自分を慰めているかと思うと、怒りが湧いてきた。道理で左手の動きが単調な、螺旋を描くような動きになっているはずだ。
 甘やかしてはいけない。
 「ダンス」
 「――は、はい?」
 スカートの中から顔を出したダンスの柔らかな頬を、シブヤは思いっきりつかみ、ねじった。そしてそのままクレーンゲームのアームみたいに、ダンスの顔を自分の顔の位置まで持ち上げた。「てめえ、なにしてんだよ?」
 「あ――ふぁい。ふみまへぇん」ダンスは大きな瞳を見開いていた。
 「なんで叱られたかわかって謝ってんのか?」
 「ふぁ、ふぁい……。ふぁかりふぁふぇん。ふみまへぇん」
 「なんだかわからなくてもとりあえず謝る――てめえのそういうとこ、いちいちムカつくんだよ」シブヤはダンスの頬を、より強くねじった。
 「ぃたたた……。ふぁい。ふみまへぇん」
 「右手出してみろ」
 「ふぁい……」ダンスは恥ずかしそうに従った。
 右手は指だけでなく、手のひらまでぬらぬらと濡れ、光っていた。
 シブヤは頬から指を離し、ダンスのいやらしい右手首をつかんだ。「なんだこれ?」
 「それは……その……」ダンスは顔を赤らめた。
 人を辱めるのはゾクゾクする。
 もう何百回もしているプレイだが、クリトリスがより充血していくのがはっきりわかった。いますぐダンスに舐めさせたら、一瞬でイキそうなくらいだった。
 「なんでこんなになってるんだ?」
 「それは私が……自分のアソコを……」
 「聞こえねえな。アソコってどこだよ?」
 「恥ずかしいところです」
 「てめえみたいな人間にも恥ずかしいところがあるのか」
 「はい」
 「どこだかはっきり言え」
 「オ……オベンチョ……です」
 ダンスの出身の愛知県ではそう呼ぶところがあるらしい。一番最初にこのプレイをしたとき、シブヤは本当に意味がわからなくてとまどったものだ(もちろん、そんな言葉を使ったダンスには肘鉄を食らわせた)。
 「じゃあ、てめえはあたしのオベンチョ舐めながら、てめえのオベンチョもいじってたのか?」
 「――そうです……」
 「こっち向けよ」うつむいたダンスの顔を、シブヤは前髪を引っ張って元に戻した。「あたしはてめえのオナニーのネタにされてたったわけか」
 「そ、そ、そんなわけじゃないです。シブヤさんがあまりに魅力的で、そのシブヤさんの大切なところをご奉仕させていただけるってことに興奮して、つい……」
 「あたしが許可するまで、てめえはオナニー禁止だ。あたしがいないところでも、だ。家に帰ってもするなよ」
 「はい。シブヤさんから許可がもらえるまで、今後オナニーしません」
 「だったら今回の件は水に流してやる。ただ……」シブヤはつかんだダンスの右手を、相手の顔に近づけた。「まさか、こんな汚れた指であたしの体に触る気じゃないだろうな?」
 「そんな失礼なこと……」
 「じゃあ、どうするんだ? てめえの淫汁まみれになったこの指を……」
 シブヤはこのあとでおこなわれる行為を想像して、ますます興奮した。太ももの内側を液体が伝うのがわかった。
 ダンスが自分の指を咥えた。暴発してザーメンまみれになった男のペニスを『お掃除』するように、一本一本執拗に舐めていく。自分の愛液を舐めさせるという辱めをただひたすらに実行しているダンスを見て、シブヤはみずからのサディスティックな行為に興奮した。
 自分のものを舐めるなんて、気持ち悪い。
 シブヤはダンスの舌の動きを眺めながら思った。ダンスはいま、愛液独特の、あのしょっぱさを存分に味わっていることだろう。
 シブヤは舐めさせるのは好きでも、自分からするのはお断りだった。そもそも他人の体というものに、口や舌で触れるのには生理的嫌悪感がある。快楽の限りを与えてくれる優子とサドは例外として、他人にキスや、ましてクンニをするなど想像するだけで吐き気がする。
 シブヤのサディスティックな欲望のすべてを受け入れるダンスであっても、それは例外ではなかった。シブヤはいままでダンスにキスさえしていない。せいぜい気が向いたときに、指でダンスの「オベンチョ」を触ってやる程度だ(もちろん、汚れた指はダンスに舐めさせる)。ダンスはシブヤの性欲を満足させ、ストレスを発散をさせるだけの存在でしかない。完全な主従関係だ。なぜ主が奴隷の「オベンチョ」を舐めなければいけない?
 そもそもダンスとの出会いは、最初からそうだった。
 ダンスが舎弟になりたいと、シブヤのギャルサー軍団『ギャルソー』のアジトにやってきたのは今年の入学式翌日のことだった。
 「シブヤさんのウワサを聞いて、この学校に入りましたっ」二十人のギャルサーたちに囲まれたダンスは、そう言って腰を九十度に折った。「私もシブヤさんみたいにかっこよくてきれいな女になりたいんですっ。おそばに置いてくださいっ」
 ダンスを一目見た瞬間から、シブヤは彼女を気に入った。くりっとした大きな瞳の中で揺れる黒目には、マゾヒストの資質があった。
 ――イジメ甲斐のある女だ。
 ソファに座り、肘掛に体を凭れたシブヤは指先で頬を触りながら、この女をどういうおもちゃにするかを考えた。ムシャクシャしたときに殴るのもいいが、いつも傍らに置いて汚い言葉で精神的にいたぶるのも面白そうだ。しかし、もっとも面白いのはやはり……。
 「あたしみたいになりたいって?」シブヤは立ち上がって、「本気でそう思ってるのか?」
 「はいっ」腰を折ったまま、ダンスは答えた。
 「あたしのためならなんでもするか?」
 「もちろんですっ」
 シブヤは反笑いを浮かべ、ギャルサーたちを見回した。このあとなにが起きるのかを察知した二十人は、哀れむようなあざ笑うような視線をダンスに浴びせた。
 シブヤは立ち上がり、両手をスカートの中に入れた。
 「あたしを好きなら――」シブヤはシルクのショーツを脱ぎ、それをダンスに放り投げた。ダンスはそれを、前のめりになって追いかけ両手で受け取った。驚いた表情のダンスはシブヤのサディスティックな嗜好に火を点けるのに充分だった。この女を自分の暴力と性の支配下に置きたいという衝動が、下腹部を熱くした。「舐められるだろ?」
 シブヤはソファに腰を下ろした。右脚を肘掛に乗せ、左脚を大きく開いた。
 立っているだけで下着が見えそうなくらい短いプリーツスカートがめくり上げられ、シブヤの匂い立つ淫靡な箇所が露わになった。
 そこはすでにハイジニーナ処理をしてあり、ダンスには女の体の構造がすべて見えたはずだった。シブヤは自分の体のすべてを美しいと確信しており、そこも例外ではなかった。襞は少しだけ波打つような形状で左右のバランスが良く、まったく垂れ下がっていない。上部にある包皮に包まれた、女のもっともいやらしい器官もほどよく小さい。匂い予防のため毎日ジャムウ石鹸も使っているし、これは完璧な女の体だと自負している。髪の毛と眉と睫以外に体毛のない自分の体は、女ならばだれもが手に入れたいと望むものだろう。
 どう反応するかで、ダンスの運命は決まる。拒否をすれば、シブヤはギャルサーに半殺しを命ずる。そうでなければ、はれてダンスも『ギャルソー』の仲間入りだ。
 シブヤはダンスを見た。
 ダンスはシブヤそのものを目の当たりにし、大きな瞳をより大きく見開いた。「――きれいですっ、シブヤさんっ」
 取り巻きのギャルサーたちは、ダンスのその言葉をお世辞と受け取ったのか、ダンスに苦笑いを向けた。
 しかしダンスは動じず、躊躇なく近寄ってきた。
 「失礼しま……」
 語尾を言い終わらないうちに、ダンスの口唇がシブヤの中心に重なった。
 「あっ――ああっ……」
 ふいに――クリトリスを包皮の上から吸われ、シブヤは強烈な快感に思わず声を上げた。反射的に瞼が閉じ、頭が仰け反った。無意識にダンスの頭を押さえた。脚の指先がローファーの中でぴんと伸びた。そこまでされるとは思っていなかった。
 これまでの「テスト」でシブヤが快感を得るなどということはなかった(他人を従属させたという心理的快感は別として)。たいていの連中は申し訳程度に唇を触れるだけで、それは「舐める」と言えるようなものではなかった。
 だが、ダンスはちがった。
 ダンスは襞の合わせ目に沿って舌を上下してきた。興奮した犬のような舌の動きだった。どれほど経験があるのかと思うほど、それはシブヤの「ツボ」を点いた。この異様な状況に反応したのか、体の奥からはすぐに淫らな汁が溢れ、指で広げる必要もなく、簡単に襞は開いた。するとダンスはその液体を一滴も漏らすまいという勢いで、今度は口唇を使って全体を吸ってきた。その強さは、痛くなる一歩手前のちょうどいいむずがゆさだった。ダンスの頭を押さえるシブヤの指先に力がこもってきた。
 ――そう、その吸引力……。ああ、ちょうどいいっ……。
 状況の異様さも相まって、シブヤはすでにイキそうだった。
 二十人の舎弟に囲まれ、会ってから何分も経っていない相手に舐められているという状況が、骨の髄までサディスティックだと思い込んでいたシブヤの心の奥底にあるマゾヒズムの部分を刺激した。
 ダンスの舌が、充血したクリトリスを上下左右に舐(ねぶ)ると、シブヤは一分足らずで達した。
 こんなことは初めてだった。
 しかしシブヤは絶頂に達したことを悟られまいと、ダンスの髪の毛を引っ張って自分から剥がした。本当はこのまま何度も何度もイキたかったが、それは別の機会にすればいいだけ。いまは軍団の長としての威厳を保つほうが大切だった。
 「――おまえ……なかなか……度胸が、あるな……」息を切らせながら、シブヤはダンスを褒めた。
 「ありがとうございますっ」ダンスの唇は、シブヤの淫らな液でぬらぬらとテカっていた。
 シブヤ自身はまだじんじんと痺れている。足らなかった。このくらいでは満足できなかった。
 「おまえは今日からあたしの舎弟だ」シブヤは濡れた瞳でダンスを見つめた。「これから、いろんなことを教えてやる」
 あれからもう十ヶ月以上が過ぎた。シブヤの意図したとおり、ダンスには資質があった。舌だけでなく、指の使い方もうまかった。教えたのは性技だけではない。シブヤが好きなジュースはなにか。シブヤが好きなパンはなにか。シブヤが嫌いなやつはだれか。シブヤがむしゃくしゃしているときに、どのタイミングで近づいてきて殴られればいいか。
 いまではダンスは、シブヤと目を合わせただけで欲望を察知するようになった。飲み物が欲しいのか、お腹が空いているのか、自分を殴りたいのか――それとも舐めてほしいのか。
 今日、家庭科室に現れたダンスはシブヤの表情を見るなり、「失礼します」と言ってシブヤのスカートの中に手を入れた。そして黒い下着をするすると脱がせ、頭をスカートの中に入れた。
 サドがマジジョの主たるヤンキーたちを集めておこなった会議のあと、シブヤはダンスをこの家庭科室に呼び出した。本当はサドと四天王で、作戦をもっと詰めなければいけないのだが、シブヤは腹が痛いとウソをついて吹奏楽部の部室を出た。
 怖かったのだ。
 十数時間後に始まる、アリジョとの戦い――。
 シブヤはこれまで安全圏でしかケンカをしてこなかった。闘うときには「場」と「兵隊」を用意して二重の「壁」を作った。即席の格闘場がシブヤのフィールドであり、その中でこそシブヤの勝利は約束されていた。たとえ一対一のタイマンであっても、周囲に自分の兵隊がいるのといないとでは、相手に対する心理的な効果がちがう。それを作れないとき、シブヤは決して戦わなかった。
 そのスタイルを、サドは卑怯と罵った。どんな場でも売られたケンカを買うのが本当のヤンキー魂だ、と。しかしシブヤに言わせればそれこそ愚の骨頂だ。唾棄すべきヤンキー魂そのものだ。
 勝つこと――これがすべてである。
 優子はシブヤの闘い方を認めてくれていた。
 「おめえはおめえのやりたいようにやればいい」
 四天王に就任したときに言われた優子の言葉は、いまでも心に残っている。
 ――優子さん……。
 優子に会いたかった。甘えたかった。抱きしめてほしかった。
 せめて、この戦いの指揮を執るのが優子だったら……。シブヤは思わずにいられない。そうだったら、どれだけ心強いか。
 マジジョの建物の中で闘うのだから、シブヤのいつもの戦法は生かせるだろう。しかし、前回はたった二人に壊滅させられたのだ。今回は何人を相手にすればいいのか。ギャルソーのメンバーは半分が負傷していて使えないし、山椒姉妹もあてにはならない。前回の轍を踏む可能性は充分にある。
 だから怖かった。
 自分の指を舐め終わったダンスが、切なげにシブヤを見つめていた。
 シブヤは回想を終え、愛くるしいその大きな瞳と目を合わせた。
 突然、猛烈な暴力衝動が沸き起こり、シブヤはダンスを殴った。頬へのフックだった。
 「――痛っ……」
 その強さに、ダンスはよろけて床に倒れた。
 右手の指の甲がひりひりする。グローブは着けていなかった。
 シブヤはくるぶしの下着を上げ、両脚を通した。
 「なんで……ですか……?」顔を上げたダンスの鼻の穴から、お決まりの鼻血が垂れていた。
 満足感で、ゾクッとした。
 「っせえっ……」なぜ殴ったか、自分でもわからなかった。「ギャルソーの連中、集められる限り集めとけ。多少のケガでもかまわねえ。それで、あたしの命令を五分以内に実行できる態勢でいろ。一時間以内にやるんだ。いいな?」
 「は、はい。もちろんです、シブヤさん」
 シブヤは踵を返し、家庭科室をあとにした。
 しばらく一人になりたかった。

 


 【つづく】

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