■反撃―2■
風が強い。立っているだけで煽られそうだ。
さすがにこの風では、いつものホルモン焼きは作れない。
放課後の屋上でチームホルモンのメンバーたちとたむろしていたヲタは、その風を恨めしく思った。
――やけ食いしたかったなぁ……。
朝日にボコられてからというもの、学校中が浮き足立っているというか落ち着かない。どうやらラッパッパが動き出したという噂も、ついさっき耳にした。いつもは怖い存在だが、共通の敵が現れたときには心強い味方になる。もっとも、「暴力」というものは本質的にそんなものだが。
「なあ、ヲタ」バンジーが尋ねてきた。「次はいつやるんだ?」
「どうするかな……。まだなにも考えてねえ」
「しっかりしてくれよ、まさか、二度もやられて黙ってるわけじゃねぇよな?」
ヲタは返答に窮した。
おれだってあの朝日に仕返ししてやりたい。しかし、どう考えても活路がない。
五人で負けたのだから、また行ったところで結果は目に見えている。ラッパッパ四天王のシブヤが得意とする、相手を逃げ場の無い場所に連れ込んで囲う、という戦い方でもすれば勝てるかもしれないが、朝日と菊池と酒井の三人相手にそんな小手先のやり方が通用するとも思えない。
「まさかビビってんじゃねえだろうな」
「ビビってなんかいねえ」
「だったらなんで……」
「うるせえな。考えてるんだよ」
「考えたら勝てるのかよ」
「だから勝つために考えてるんだ」
「考えたって仕方ねえだろう。おれらみたいなバカの頭じゃ」
「じゃあ、なんの考えもなしにまた行って負ければいいってのか」
「そういうことじゃねえ」
「ヲタ――」アキチャが割り込んできた。「バンジーの言うとおりだ。力任せで行ったほうが俺たちらしくていい」
「そんなことしたって意味ねえよ」
ヲタはいつの間にか立ち上がっていた。アキチャもそうだった。
「まあまあ」ウナギが両手を広げて間に入り、二人を制するポーズをした。「仲間割れしたってしょうがないだろ」
「別にそういうつもりじゃねぇ」バンジーはヲタを顎でしゃくって、吐き捨てるように言った。「こいつ、リーダーのくせにビビりすぎなんだよ」
これにはヲタもカチンときた。「――ンだと、てめえ……」
立ち上がって、バンジーに詰め寄る。バンジーは座ったまま、ヲタを見上げた。「やんのかよ」
「やったろうじゃねえか」
「ちょっと待てってっ」ウナギが身を挺して二人の間に割って入った。「ヲタにはヲタの考えがあるんだろうよ、なあ、ヲタ」
「あるわけねえ」とバンジー。
「そうだ」とアキチャ。
「いいから黙ってろって……。ちょっと、ムクチの話も聞こうじゃねえか」
四人はムクチを見た。
突然みんなの視線を浴びたムクチは、それまで何も聞いていなかったかのように目を丸くした。
そしてみんなの顔を一巡する。
「……」ムクチの口が、少し開いた。
いよいよなにかを言うか、とみんなの空気が期待に変わったときだった。
突然、屋上にチームホルモンのメンバーではない声が聞こえた。
「負け組みの皆さんが鳩首会談ですか。ご苦労さま……」
ヲタはその声の方角を向いた。そこには懐かしい顔があった。「プリクラ……」
プリクラ――2年A組、菊池あやかは背後にナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカを従えていた。
「てめえ……」バンジーが先ほどまでのヲタとの確執などなかったかのように、怒りの矛先をプリクラに向けた。「やっと停学解禁か」
「おかげさまで……」プリクラは笑顔を作った。「一時は戻れないかと思いました。ところで私のいないあいだに、どこかの弱いチームが2年を治めたって聞いたんですが、どのチームか知ってますか?」
「なんだと、てめぇ……」バンジーはもはや走り出すかのような歩調でプリクラに近づいた。
背後の五人がプリクラの前に出ようとするのを、プリクラは手で制した。
バンジーはプリクラの顔に、あと2センチくらいのところまで詰め寄った。
ヲタはバンジーのあとに続くことすらできなかった。プリクラに対する後ろめたさが、ヲタの脚を動かさなかった。
「あいかわらず、凄むのだけは迫力ありますね」バンジーと5センチ差の身長があるプリクラは、やや見下ろすように言った。「だから男ができないんですよ」
バンジーの右手が唸った。プリクラの顔面に拳が叩き込まれた……と思った刹那、プリクラは両手でバンジーの右手を捉え、関節を逆方向にねじった。
バンジーは叫び声を上げ、間接を戻すために体をひねった。体制が崩れた。
プリクラは手を離し、地面に倒れる寸前のバンジーに、拗ねた子供が石を蹴るみたいにちょこんと蹴りを入れた。
まったく痛くない蹴りを入れる余裕に、ヲタは心底いらついた。
「まさか、こんな弱い特攻隊長のいるチームじゃないですよね?」
「ヲタ」アキチャに突つかれ、ヲタはハッとした。「いいのかよ」
いいもなにも、いいわけがない。
プリクラの停学中、弱体化した『純情堕天使』に代わってチーム・ホルモンが2年を統制したことは事実だった。しかしそれは自分たちで意図したわけではなく、たまたまナンバー2の座にいたから推し出されたというだけのことだ。純情堕天使を潰すつもりなどない。
けれども――経緯がどうあれ、今の2年を治めているのは、紛れもなくチーム・ホルモンだ。それは譲れない。一度落とされれば、敗者の烙印が押される。事実、純情堕天使はそうなった。
今のままでいたければ、プリクラに勝つしかない。この場で――。
ヲタはプリクラをにらみつけ、歩き出した。
そして、プリクラまであと3メートルほどの地点で、脱兎のごとくプリクラに飛びかった。
これにはプリクラも少しは焦ったようだった。ヲタは拳の間合いに入ると、右ストレートをプリクラの腹に打ち込んだ。
渾身の一撃のつもりだったが、瞬間、なにかが不足している、と感じた。
そのせいか、プリクラは腰を引き、寸でのタイミンクでパンチを交わした。
しまった――反撃を覚悟して、ヲタは体を強張らせた。
だが、プリクラはヲタの頬に手をやり、軽くつねった。
ぞくっとする、心地良い痛み。
ヲタは打ち消すようにその手を払い、プリクラのセーラーリボンを引っ張り上げた。
「――ンの野郎……」
「久しぶりにお手合わせできて楽しかったです。でも、今日はこのへんにしておきましょうよ。それ以上来るなら、私は我慢できても若い連中が黙ってないですよ」
プリクラの背後には純情堕天使のメンバーが接近していた。
ヲタはこれ以上は、挑発も攻撃も危険だと察し、セーラーリボンから手を離した。
「今日のところは挨拶にうかがっただけですから、『マジ』はやめときましょうよ。それに、弱い連中に勝っても意味ないし」
「ざけんなよ、てめぇ……」肘を押さえながら立ち上がったバンジーが言った。
「そういう言葉使いで相手がビビるとでも思ってます? 人と接するときは丁寧な言葉遣いをしましょうって、誰かに教わりませんでしたか?」
「余裕こいてんじゃねえ」
「やめろ、バンジー」ヲタはバンジーの方に向き直った。
「けどよ……」
「いいから、おれの言うことを聞け」
バンジーは納得いかないといった表情でヲタを見つめ、それからプリクラに向かってこう言った。「こんなところで遊んでねえで、さっさとおうちに帰って、あの男にでも抱かれてろっ」
プリクラは苦笑して、「それじゃあ、御機嫌よう」と去った。
屋上には戸惑うヲタ、怒りに震えるバンジー、見守るしかなかったアキチャとウナギとムクチが残された。
「ちくしょうっ」バンジーは床に転がっていたバケツを思いっきり蹴り上げた。青いプラスチックのバケツは金網にぶつかって、派手に転がった。バケツの中に入っていた水とシケモクが散乱し、濃縮されたニコチンの嫌な臭いが漂った。「負けてばっかりじゃねえかよ」
「ヲタ……」アキチャが言った。「どうしたんだよ。朝日にやられてから、なんかおかしいぞ。さっきのパンチだって、いつものおまえならプリクラに当ててたはずだ」
「たしかに」ウナギが同意する。
「……」ムクチが激しく頷いた。
「あれ以来、自分に自信が持てなくなったんだ……」ヲタは空を見上げた。みんなの顔が見られなかった。「2年を占めてると言ったって、しょせん、この学校の中でしか通用しないんじゃないかってな……」
「んなことはねえっ」バンジーが大声を上げた。
「けど、お前だって勝ってねえじゃねえか。さっきだってプリクラに……」
「あれは、ちょっと油断しただけだ」
「いつもそうだ。そうやって自分をごまかしてるだけじゃねえか」ヲタはバンジーをにらんだ。「――ずっと、今のままじゃいられねぇんだ……」
ヲタは思う――毎日学校に来てダチの顔見てホルモン食って適当にケンカして……。そんな日常は永遠には続かない。もちろん、そんなことはわかっている。わかっているが、終わる日が明日になるまで、おそらく自分たちは本当の意味でそれを理解しているとは言えない。
楽しいあいだは、そんなことを考えたくないからだ。しかし愛すべき日常は、実は簡単に崩れる。
亜利絵根の刺客たちに、ヲタはそう気づかされた。
だからヲタは闘いに意味が欲しかった。
いつもとはちがうヲタの神妙な態度に、チームホルモンのメンバーはそれ以上、話しかけてこなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
風が強い。立っているだけで煽られそうだ。
さすがにこの風では、いつものホルモン焼きは作れない。
放課後の屋上でチームホルモンのメンバーたちとたむろしていたヲタは、その風を恨めしく思った。
――やけ食いしたかったなぁ……。
朝日にボコられてからというもの、学校中が浮き足立っているというか落ち着かない。どうやらラッパッパが動き出したという噂も、ついさっき耳にした。いつもは怖い存在だが、共通の敵が現れたときには心強い味方になる。もっとも、「暴力」というものは本質的にそんなものだが。
「なあ、ヲタ」バンジーが尋ねてきた。「次はいつやるんだ?」
「どうするかな……。まだなにも考えてねえ」
「しっかりしてくれよ、まさか、二度もやられて黙ってるわけじゃねぇよな?」
ヲタは返答に窮した。
おれだってあの朝日に仕返ししてやりたい。しかし、どう考えても活路がない。
五人で負けたのだから、また行ったところで結果は目に見えている。ラッパッパ四天王のシブヤが得意とする、相手を逃げ場の無い場所に連れ込んで囲う、という戦い方でもすれば勝てるかもしれないが、朝日と菊池と酒井の三人相手にそんな小手先のやり方が通用するとも思えない。
「まさかビビってんじゃねえだろうな」
「ビビってなんかいねえ」
「だったらなんで……」
「うるせえな。考えてるんだよ」
「考えたら勝てるのかよ」
「だから勝つために考えてるんだ」
「考えたって仕方ねえだろう。おれらみたいなバカの頭じゃ」
「じゃあ、なんの考えもなしにまた行って負ければいいってのか」
「そういうことじゃねえ」
「ヲタ――」アキチャが割り込んできた。「バンジーの言うとおりだ。力任せで行ったほうが俺たちらしくていい」
「そんなことしたって意味ねえよ」
ヲタはいつの間にか立ち上がっていた。アキチャもそうだった。
「まあまあ」ウナギが両手を広げて間に入り、二人を制するポーズをした。「仲間割れしたってしょうがないだろ」
「別にそういうつもりじゃねぇ」バンジーはヲタを顎でしゃくって、吐き捨てるように言った。「こいつ、リーダーのくせにビビりすぎなんだよ」
これにはヲタもカチンときた。「――ンだと、てめえ……」
立ち上がって、バンジーに詰め寄る。バンジーは座ったまま、ヲタを見上げた。「やんのかよ」
「やったろうじゃねえか」
「ちょっと待てってっ」ウナギが身を挺して二人の間に割って入った。「ヲタにはヲタの考えがあるんだろうよ、なあ、ヲタ」
「あるわけねえ」とバンジー。
「そうだ」とアキチャ。
「いいから黙ってろって……。ちょっと、ムクチの話も聞こうじゃねえか」
四人はムクチを見た。
突然みんなの視線を浴びたムクチは、それまで何も聞いていなかったかのように目を丸くした。
そしてみんなの顔を一巡する。
「……」ムクチの口が、少し開いた。
いよいよなにかを言うか、とみんなの空気が期待に変わったときだった。
突然、屋上にチームホルモンのメンバーではない声が聞こえた。
「負け組みの皆さんが鳩首会談ですか。ご苦労さま……」
ヲタはその声の方角を向いた。そこには懐かしい顔があった。「プリクラ……」
プリクラ――2年A組、菊池あやかは背後にナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカを従えていた。
「てめえ……」バンジーが先ほどまでのヲタとの確執などなかったかのように、怒りの矛先をプリクラに向けた。「やっと停学解禁か」
「おかげさまで……」プリクラは笑顔を作った。「一時は戻れないかと思いました。ところで私のいないあいだに、どこかの弱いチームが2年を治めたって聞いたんですが、どのチームか知ってますか?」
「なんだと、てめぇ……」バンジーはもはや走り出すかのような歩調でプリクラに近づいた。
背後の五人がプリクラの前に出ようとするのを、プリクラは手で制した。
バンジーはプリクラの顔に、あと2センチくらいのところまで詰め寄った。
ヲタはバンジーのあとに続くことすらできなかった。プリクラに対する後ろめたさが、ヲタの脚を動かさなかった。
「あいかわらず、凄むのだけは迫力ありますね」バンジーと5センチ差の身長があるプリクラは、やや見下ろすように言った。「だから男ができないんですよ」
バンジーの右手が唸った。プリクラの顔面に拳が叩き込まれた……と思った刹那、プリクラは両手でバンジーの右手を捉え、関節を逆方向にねじった。
バンジーは叫び声を上げ、間接を戻すために体をひねった。体制が崩れた。
プリクラは手を離し、地面に倒れる寸前のバンジーに、拗ねた子供が石を蹴るみたいにちょこんと蹴りを入れた。
まったく痛くない蹴りを入れる余裕に、ヲタは心底いらついた。
「まさか、こんな弱い特攻隊長のいるチームじゃないですよね?」
「ヲタ」アキチャに突つかれ、ヲタはハッとした。「いいのかよ」
いいもなにも、いいわけがない。
プリクラの停学中、弱体化した『純情堕天使』に代わってチーム・ホルモンが2年を統制したことは事実だった。しかしそれは自分たちで意図したわけではなく、たまたまナンバー2の座にいたから推し出されたというだけのことだ。純情堕天使を潰すつもりなどない。
けれども――経緯がどうあれ、今の2年を治めているのは、紛れもなくチーム・ホルモンだ。それは譲れない。一度落とされれば、敗者の烙印が押される。事実、純情堕天使はそうなった。
今のままでいたければ、プリクラに勝つしかない。この場で――。
ヲタはプリクラをにらみつけ、歩き出した。
そして、プリクラまであと3メートルほどの地点で、脱兎のごとくプリクラに飛びかった。
これにはプリクラも少しは焦ったようだった。ヲタは拳の間合いに入ると、右ストレートをプリクラの腹に打ち込んだ。
渾身の一撃のつもりだったが、瞬間、なにかが不足している、と感じた。
そのせいか、プリクラは腰を引き、寸でのタイミンクでパンチを交わした。
しまった――反撃を覚悟して、ヲタは体を強張らせた。
だが、プリクラはヲタの頬に手をやり、軽くつねった。
ぞくっとする、心地良い痛み。
ヲタは打ち消すようにその手を払い、プリクラのセーラーリボンを引っ張り上げた。
「――ンの野郎……」
「久しぶりにお手合わせできて楽しかったです。でも、今日はこのへんにしておきましょうよ。それ以上来るなら、私は我慢できても若い連中が黙ってないですよ」
プリクラの背後には純情堕天使のメンバーが接近していた。
ヲタはこれ以上は、挑発も攻撃も危険だと察し、セーラーリボンから手を離した。
「今日のところは挨拶にうかがっただけですから、『マジ』はやめときましょうよ。それに、弱い連中に勝っても意味ないし」
「ざけんなよ、てめぇ……」肘を押さえながら立ち上がったバンジーが言った。
「そういう言葉使いで相手がビビるとでも思ってます? 人と接するときは丁寧な言葉遣いをしましょうって、誰かに教わりませんでしたか?」
「余裕こいてんじゃねえ」
「やめろ、バンジー」ヲタはバンジーの方に向き直った。
「けどよ……」
「いいから、おれの言うことを聞け」
バンジーは納得いかないといった表情でヲタを見つめ、それからプリクラに向かってこう言った。「こんなところで遊んでねえで、さっさとおうちに帰って、あの男にでも抱かれてろっ」
プリクラは苦笑して、「それじゃあ、御機嫌よう」と去った。
屋上には戸惑うヲタ、怒りに震えるバンジー、見守るしかなかったアキチャとウナギとムクチが残された。
「ちくしょうっ」バンジーは床に転がっていたバケツを思いっきり蹴り上げた。青いプラスチックのバケツは金網にぶつかって、派手に転がった。バケツの中に入っていた水とシケモクが散乱し、濃縮されたニコチンの嫌な臭いが漂った。「負けてばっかりじゃねえかよ」
「ヲタ……」アキチャが言った。「どうしたんだよ。朝日にやられてから、なんかおかしいぞ。さっきのパンチだって、いつものおまえならプリクラに当ててたはずだ」
「たしかに」ウナギが同意する。
「……」ムクチが激しく頷いた。
「あれ以来、自分に自信が持てなくなったんだ……」ヲタは空を見上げた。みんなの顔が見られなかった。「2年を占めてると言ったって、しょせん、この学校の中でしか通用しないんじゃないかってな……」
「んなことはねえっ」バンジーが大声を上げた。
「けど、お前だって勝ってねえじゃねえか。さっきだってプリクラに……」
「あれは、ちょっと油断しただけだ」
「いつもそうだ。そうやって自分をごまかしてるだけじゃねえか」ヲタはバンジーをにらんだ。「――ずっと、今のままじゃいられねぇんだ……」
ヲタは思う――毎日学校に来てダチの顔見てホルモン食って適当にケンカして……。そんな日常は永遠には続かない。もちろん、そんなことはわかっている。わかっているが、終わる日が明日になるまで、おそらく自分たちは本当の意味でそれを理解しているとは言えない。
楽しいあいだは、そんなことを考えたくないからだ。しかし愛すべき日常は、実は簡単に崩れる。
亜利絵根の刺客たちに、ヲタはそう気づかされた。
だからヲタは闘いに意味が欲しかった。
いつもとはちがうヲタの神妙な態度に、チームホルモンのメンバーはそれ以上、話しかけてこなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
・今回は性的描写を含みます。嫌いな方は読まないでください。
・キャラクターはあくまでもストーリーの中にだけ存在しているものです。
現実の人間ではありません。てゆーか、非実在青少年?
■反撃―1■
ジャンボは階段をダッシュで昇りきると、部室のドアを開けて飛び込んだ。
その中にいた全員が、一斉にこちらを向く。
ライス、昭和、アニメの一年連中、そしてシブヤ――。
「サドさんはっ……」ジャンボは息を切らせて部屋を見回した。「まだ来てない?」
「シッ」ライスが唇に人差し指を立て、小声で言った。「奥にいる。今日はトリゴヤさんだ」
ライスの態度とその言葉が示す状況はたったひとつしかない。
ジャンボは奥の部屋に通じるドアを見た。
『休憩室』と呼ばれるその部屋は、本来は楽器をしまっておく物置だったが、一年ほど前に大島優子の命により、ベッドが運び込まれた。使用権は大島優子とサドにしかなく、最初のころは二人だけが「休憩」に使っていた。
大島優子が入院すると、欲望を持て余したのか、サドは四天王とたびたび「休憩」をするようになった。大抵は放課後の、今のこの時間が「休憩時間」だった。
ドアの向こうからトリゴヤの艶声が聞こえてきた。
「ああっ、サド……。ダメ……聞こえちゃうよ……」歓喜に満ちたその声は、まるですぐ隣で事に及んでいるかのように鮮明だった。ちょっと耳を澄ませば、声だけでなく、トリゴヤの荒い息遣いさえ感じられるだろう。
――聞こえちゃう、じゃなくて、聞かせているくせに……。
ジャンボは激しい嫉妬に襲われた。
サドは気が向いたときに、部員に寵愛を施す。ジャンボは今までに一度だけそれを受けたことがある。女同士という背徳感ゆえに甘美で、切ない行為だった。
サドの指と舌は、信じられない動きでジャンボの体のあらゆる箇所を責め立てた。自分で慰めるときでは決して触れられない場所を、サドの指と舌はそれと知って這う。すると体は、まるで電流が流れているかのように痺れ、やがて耐え切れない快感となった。ジャンボはその指技だけで、数え切れないくらい達した。
極めつけは、あのケン玉だ。サドがいつも持ち歩いているあのケン玉は、もちろんケンカの武器として使われるのだが、実は柄の部分に仕込み杖のごとく、張形が入っている。聞いた話によれば、作ったのは大島優子らしい。病気療養中の大島優子が自分のことを忘れないようにと、サドに渡したそうだ。
この張形の使い方のうまいことときたら……。サドはそのテクニックも、大島優子から受け継いだ(これはサドに責められているときに本人から直接聞かされた)。それでもそのすべてを覚えきれたわけではなく、大島優子を知ってしまえば、もはや男となど馬鹿馬鹿しくて寝る気にならないそうだ。サドがそこまで言うのなら、大島優子にも抱かれてみたいと思う。
――優子先輩に抱かれるなんて恐れ多い。けど、もし叶うなら……。
想像すると、ジャンボは体の芯に火照りを感じた。
また、トリゴヤの喘ぎ声が聞こえた。
以前はもっと「秘め事」と言うのにふさわしかった。サドに抱かれた者は本気で声を潜めていた。しかし、サドはそれでは物足りなくなったのだろう。サドの指とケン玉によって、四天王が下級生には絶対に見せない痴態を心ならずとも晒してしまうことに快感を覚えたようだった。最初に落城したトリゴヤは、今ではむしろ、自分の声を聞かせることを楽しんでいるかのように、サドのテクニックに堪えることなく声を上げている。『休憩室』の扉がぎしぎしと軋むようになったのも最近だ。サドの寵愛を賜る喜びを、下級生に自慢しているかのように……。
じんじんと脳に伝わる歯痒いほど小さな疼きに、ジャンボは顔を赤らめた。自分の意識とは関係なく、太ももが擦り合うように動く。
そんな恥ずかしい状態になっているのはジャンボだけではなかった。ライスも昭和もアニメも視線を床に落とし、誰とも目を合わすまいとしていた。胸の上下動も普段とはちがって大きい。昭和など、目を閉じて自分の世界にいるようだ。頭の中で、トリゴヤに自分を重ね合わせているのか、舌が唇を舐めていた。
ひとり、シブヤだけが椅子の上で大きく広げて脚を組み、不機嫌そうに背もたれに体を預けている。
――そういえば、最近、シブヤ先輩、サドさんに抱かれてないな。
サドがだれを抱くか、あるいは抱かないかはそのときにならないとわからない。サドは果てしなく気まぐれなのだ。それでも最近のお気に入りはトリゴヤで、ブラックとゲキカラもときどきは奥の部屋に呼ばれるが、シブヤはもっぱら部室で「お留守番」を務めることが多かった。どうやら前田に負けた件が、あとを引いているようだった。
シブヤから報告を受けたサドは激怒した。負けたことに、ではない。四天王にふさわしくない卑劣な闘い方をして、しかも負けたことを叱責した。「前田ごときにやられるとは、ざまぁねぇな。四天王がそんなことで、他の連中に示しがつくのかよ」
「すみません……」土下座しているシブヤの頭には、サドの長く美しい脚に着けられたショートブーツが乗せられていた。額は床にこすり付けられ、細いヒールがきりきりと頭皮を圧迫していた。
ジャンボはそんなシブヤに哀れみを、平然とした表情でやってのけるサドに恐怖を感じた。
それ以来、ジャンボの知る限り、シブヤはサドに口さえ聞いてもらっていない。シブヤは焦っているにちがいなかった。重い生理日みたいに、常にイライラしていた。
そのとき、またトリゴヤの悦びの声が聞こえた。今度のそれは悲鳴にも似ていて、いつ果てるともしれないほど長かった。
「サド、すごいよっ、あっああ、あっ、すごいっすごいっ……」
「……おぃ、お前たちっ」トリゴヤの声に集中していたせいで、そのシブヤの声はどこか遠くからの呼びかけにしか聞こえなかった。それでも自分たちが呼ばれたことはわかったので、ジャンボはむず痒い下半身を意識しつつ、シブヤの方を向いて立ち上がった。ライス、昭和、アニメも続いた。
「はいっ」
「そろそろ終わるだろうから、ココアを用意しておけ」
「はいっ」
サドは「休憩」のあと、決まってココアを飲む。
ジャンボは食器棚(これはジャンボがこの学校に入学したときからあった)から、ココアの粉末が入った袋を取り出した。ライスがカップを、昭和が小さなスプーンでココアをすくい、アニメはテーブルの上を片付けた。
ココアの準備が整ったころ、休憩室は静かになっていた。
休憩室から先に出てきたのはトリゴヤだった。扉の向こうから、二人によって暖められた空気が流れ込んできた。上気した頬はチークのそれではなく紅い。瞳はまだとろんと艶やかで、ふっくらとした魅惑的な口唇は美しく輝いていた。髪は乱れ、情事のあとの色香を漂わせている。しわだらけのセーラー服の上に、いつもの赤いスカジャンを羽織ながら、トリゴヤはシブヤの方に顔を向けた。やや垂れたその目には、女だけが持つ優越感の光が宿っていた。
部室が桃色の空気に包まれたようだった。
シブヤは顔を逸らした。なにも言わなかった。
続いて出てきたサドは、手に何かを持っていた。顔の高さまで持ち上げ、それをひらひらと動かした。黒い布のようだった。「トリゴヤ、忘れ物だ」
トリゴヤはそれを見るなり、サドの元に駆け寄り、奪い取った。
サドはトリゴヤを抱き寄せ、「着け忘れるくらい良かったか?」と小鳥みたいな軽いキスをした。
「ばかっ」トリゴヤはサドを引き剥がすと、黒い布を持って休憩室に戻った。
サドは自分専用の、白いファーのついた椅子に座り、用意されたココアのカップに口を付けた。
それを待っていたかのように、シブヤが口を開いた。「ジャンボ、お前、サドさんになにか用事があるんじゃなかったのか?」
「はいっ」ジャンボは気を付けの姿勢をとり、サドに正対した。「チームホルモンとチョウコクが亜利絵根の生徒にシメられました」
「噂は聞いているが……本当だったのか?」
「はい」ジャンボは校内に張り巡らせた情報網を駆使し、二日間かけて噂の検証をした。結果、それは事実であると判明した。「チームホルモンは二度やられています」
「なぜ?」
「最初にシメられたのはヲタとムクチだけでした。翌日、ヲタはチームの全員を連れて行きましたが、そこでも同じ目に合いました」
「アリ女のだれがやったかはわかってるか?」
「朝日、菊池、酒井という三人がホルモンと。横山、外岡という二人がチョウコクと――」
「横山、外岡は聞いたことがあるが……他の三人は知らないな」
「その三人は『アリ女十傑衆』と名乗ったようです」
「なんだそれは?」
「それに関しては調査中です」
「わかったら教えろ」
それからサドはココアのカップをテーブルに置き、おもむろに立ち上がった。
そしてシブヤが座っている椅子の後ろに回り込み、背後から包み込むようにシブヤを抱いた。
「サド……」
サドは赤いエクステを付けたシブヤの髪をかき上げ、耳元に唇を寄せた。ふっと息を吹きかけられたシブヤは、「あっ」と顎を逸らし、まぶたを閉じた。
「だれであろうと、ウチらの生徒に舐めた真似をしたからには思い知らせてやらねぇとな……。そうだろ、シブヤ?」サドは吐息だけではなく、舌をシブヤの耳たぶに這わせる。
――ああ。羨ましい……。
ジャンボは嫉妬の炎を燻らせる。
「もちろ……ん……あっ」
「だれがやるべきだと思う?」
「いじわる……」目を閉じたままのシブヤの頬が紅潮してきた。
「山椒姉妹も使え」
「自分一人で充分です……」
「念には念を、だ」
サドがそう言ったとき、シブヤが急に大きくのけぞった。「あ。あああああああぁぁぁっ」
いつの間にか、サドの右手がシブヤの超ミニスカートの中に潜り込んでいた。
「トリゴヤの声で、こんなになったのか?」
「恥ずかしい……。こ、こんなところで……」
「うまくいったら続きをしてやる」
サドはそこでシブヤから離れた。
シブヤは息を荒げ、サドを見つめた。瞳が濡れていた。
「明日までに『アリ女十傑衆』とやらのうち、だれでもいい。シメてくるんだ」
「わかりました。けど……どうやって十傑集を?」
「さっきからこの話を盗み聞きしているあいつに聞け」サドが顎で部室の入り口を指し示した。
部室の扉の向こうから、ピンクのパーカーを着たネズミが現れた。フードをかぶり、ポケットに手を突っ込み、くちゃくちゃとガムを噛んでいる。
「さすがはサドさんすね。隠れてたつもりなんすけど……」
「いつからいた?」
「トリゴヤさん、いい声してるんすね」
「――ふん。まあいい」サドは苦笑した。「アリ女の情報が欲しい」
「アリ女のデータっすか? まあ、なくはないすけど……」
「もう調べたのか? タイミング良すぎるな」
「こう見えて、あっしも顔が広いんで、いろんな情報を握ってるんすよ」
「シブヤに教えてやってくれ」
「いいっすけど、これは貸しってことで……」
「もちろんだ。礼はする」
「あ、言っときますが」ネズミはシブヤとサドをそれぞれ見てから、「あっしはもっぱら男専門なんで、そっちのほうは遠慮しとくっす。というか、三次元には興味ないって感じで……。二次元は裏切らないっすから」と笑った。
ジャンボはネズミの気持ちが理解できなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
・キャラクターはあくまでもストーリーの中にだけ存在しているものです。
現実の人間ではありません。てゆーか、非実在青少年?
■反撃―1■
ジャンボは階段をダッシュで昇りきると、部室のドアを開けて飛び込んだ。
その中にいた全員が、一斉にこちらを向く。
ライス、昭和、アニメの一年連中、そしてシブヤ――。
「サドさんはっ……」ジャンボは息を切らせて部屋を見回した。「まだ来てない?」
「シッ」ライスが唇に人差し指を立て、小声で言った。「奥にいる。今日はトリゴヤさんだ」
ライスの態度とその言葉が示す状況はたったひとつしかない。
ジャンボは奥の部屋に通じるドアを見た。
『休憩室』と呼ばれるその部屋は、本来は楽器をしまっておく物置だったが、一年ほど前に大島優子の命により、ベッドが運び込まれた。使用権は大島優子とサドにしかなく、最初のころは二人だけが「休憩」に使っていた。
大島優子が入院すると、欲望を持て余したのか、サドは四天王とたびたび「休憩」をするようになった。大抵は放課後の、今のこの時間が「休憩時間」だった。
ドアの向こうからトリゴヤの艶声が聞こえてきた。
「ああっ、サド……。ダメ……聞こえちゃうよ……」歓喜に満ちたその声は、まるですぐ隣で事に及んでいるかのように鮮明だった。ちょっと耳を澄ませば、声だけでなく、トリゴヤの荒い息遣いさえ感じられるだろう。
――聞こえちゃう、じゃなくて、聞かせているくせに……。
ジャンボは激しい嫉妬に襲われた。
サドは気が向いたときに、部員に寵愛を施す。ジャンボは今までに一度だけそれを受けたことがある。女同士という背徳感ゆえに甘美で、切ない行為だった。
サドの指と舌は、信じられない動きでジャンボの体のあらゆる箇所を責め立てた。自分で慰めるときでは決して触れられない場所を、サドの指と舌はそれと知って這う。すると体は、まるで電流が流れているかのように痺れ、やがて耐え切れない快感となった。ジャンボはその指技だけで、数え切れないくらい達した。
極めつけは、あのケン玉だ。サドがいつも持ち歩いているあのケン玉は、もちろんケンカの武器として使われるのだが、実は柄の部分に仕込み杖のごとく、張形が入っている。聞いた話によれば、作ったのは大島優子らしい。病気療養中の大島優子が自分のことを忘れないようにと、サドに渡したそうだ。
この張形の使い方のうまいことときたら……。サドはそのテクニックも、大島優子から受け継いだ(これはサドに責められているときに本人から直接聞かされた)。それでもそのすべてを覚えきれたわけではなく、大島優子を知ってしまえば、もはや男となど馬鹿馬鹿しくて寝る気にならないそうだ。サドがそこまで言うのなら、大島優子にも抱かれてみたいと思う。
――優子先輩に抱かれるなんて恐れ多い。けど、もし叶うなら……。
想像すると、ジャンボは体の芯に火照りを感じた。
また、トリゴヤの喘ぎ声が聞こえた。
以前はもっと「秘め事」と言うのにふさわしかった。サドに抱かれた者は本気で声を潜めていた。しかし、サドはそれでは物足りなくなったのだろう。サドの指とケン玉によって、四天王が下級生には絶対に見せない痴態を心ならずとも晒してしまうことに快感を覚えたようだった。最初に落城したトリゴヤは、今ではむしろ、自分の声を聞かせることを楽しんでいるかのように、サドのテクニックに堪えることなく声を上げている。『休憩室』の扉がぎしぎしと軋むようになったのも最近だ。サドの寵愛を賜る喜びを、下級生に自慢しているかのように……。
じんじんと脳に伝わる歯痒いほど小さな疼きに、ジャンボは顔を赤らめた。自分の意識とは関係なく、太ももが擦り合うように動く。
そんな恥ずかしい状態になっているのはジャンボだけではなかった。ライスも昭和もアニメも視線を床に落とし、誰とも目を合わすまいとしていた。胸の上下動も普段とはちがって大きい。昭和など、目を閉じて自分の世界にいるようだ。頭の中で、トリゴヤに自分を重ね合わせているのか、舌が唇を舐めていた。
ひとり、シブヤだけが椅子の上で大きく広げて脚を組み、不機嫌そうに背もたれに体を預けている。
――そういえば、最近、シブヤ先輩、サドさんに抱かれてないな。
サドがだれを抱くか、あるいは抱かないかはそのときにならないとわからない。サドは果てしなく気まぐれなのだ。それでも最近のお気に入りはトリゴヤで、ブラックとゲキカラもときどきは奥の部屋に呼ばれるが、シブヤはもっぱら部室で「お留守番」を務めることが多かった。どうやら前田に負けた件が、あとを引いているようだった。
シブヤから報告を受けたサドは激怒した。負けたことに、ではない。四天王にふさわしくない卑劣な闘い方をして、しかも負けたことを叱責した。「前田ごときにやられるとは、ざまぁねぇな。四天王がそんなことで、他の連中に示しがつくのかよ」
「すみません……」土下座しているシブヤの頭には、サドの長く美しい脚に着けられたショートブーツが乗せられていた。額は床にこすり付けられ、細いヒールがきりきりと頭皮を圧迫していた。
ジャンボはそんなシブヤに哀れみを、平然とした表情でやってのけるサドに恐怖を感じた。
それ以来、ジャンボの知る限り、シブヤはサドに口さえ聞いてもらっていない。シブヤは焦っているにちがいなかった。重い生理日みたいに、常にイライラしていた。
そのとき、またトリゴヤの悦びの声が聞こえた。今度のそれは悲鳴にも似ていて、いつ果てるともしれないほど長かった。
「サド、すごいよっ、あっああ、あっ、すごいっすごいっ……」
「……おぃ、お前たちっ」トリゴヤの声に集中していたせいで、そのシブヤの声はどこか遠くからの呼びかけにしか聞こえなかった。それでも自分たちが呼ばれたことはわかったので、ジャンボはむず痒い下半身を意識しつつ、シブヤの方を向いて立ち上がった。ライス、昭和、アニメも続いた。
「はいっ」
「そろそろ終わるだろうから、ココアを用意しておけ」
「はいっ」
サドは「休憩」のあと、決まってココアを飲む。
ジャンボは食器棚(これはジャンボがこの学校に入学したときからあった)から、ココアの粉末が入った袋を取り出した。ライスがカップを、昭和が小さなスプーンでココアをすくい、アニメはテーブルの上を片付けた。
ココアの準備が整ったころ、休憩室は静かになっていた。
休憩室から先に出てきたのはトリゴヤだった。扉の向こうから、二人によって暖められた空気が流れ込んできた。上気した頬はチークのそれではなく紅い。瞳はまだとろんと艶やかで、ふっくらとした魅惑的な口唇は美しく輝いていた。髪は乱れ、情事のあとの色香を漂わせている。しわだらけのセーラー服の上に、いつもの赤いスカジャンを羽織ながら、トリゴヤはシブヤの方に顔を向けた。やや垂れたその目には、女だけが持つ優越感の光が宿っていた。
部室が桃色の空気に包まれたようだった。
シブヤは顔を逸らした。なにも言わなかった。
続いて出てきたサドは、手に何かを持っていた。顔の高さまで持ち上げ、それをひらひらと動かした。黒い布のようだった。「トリゴヤ、忘れ物だ」
トリゴヤはそれを見るなり、サドの元に駆け寄り、奪い取った。
サドはトリゴヤを抱き寄せ、「着け忘れるくらい良かったか?」と小鳥みたいな軽いキスをした。
「ばかっ」トリゴヤはサドを引き剥がすと、黒い布を持って休憩室に戻った。
サドは自分専用の、白いファーのついた椅子に座り、用意されたココアのカップに口を付けた。
それを待っていたかのように、シブヤが口を開いた。「ジャンボ、お前、サドさんになにか用事があるんじゃなかったのか?」
「はいっ」ジャンボは気を付けの姿勢をとり、サドに正対した。「チームホルモンとチョウコクが亜利絵根の生徒にシメられました」
「噂は聞いているが……本当だったのか?」
「はい」ジャンボは校内に張り巡らせた情報網を駆使し、二日間かけて噂の検証をした。結果、それは事実であると判明した。「チームホルモンは二度やられています」
「なぜ?」
「最初にシメられたのはヲタとムクチだけでした。翌日、ヲタはチームの全員を連れて行きましたが、そこでも同じ目に合いました」
「アリ女のだれがやったかはわかってるか?」
「朝日、菊池、酒井という三人がホルモンと。横山、外岡という二人がチョウコクと――」
「横山、外岡は聞いたことがあるが……他の三人は知らないな」
「その三人は『アリ女十傑衆』と名乗ったようです」
「なんだそれは?」
「それに関しては調査中です」
「わかったら教えろ」
それからサドはココアのカップをテーブルに置き、おもむろに立ち上がった。
そしてシブヤが座っている椅子の後ろに回り込み、背後から包み込むようにシブヤを抱いた。
「サド……」
サドは赤いエクステを付けたシブヤの髪をかき上げ、耳元に唇を寄せた。ふっと息を吹きかけられたシブヤは、「あっ」と顎を逸らし、まぶたを閉じた。
「だれであろうと、ウチらの生徒に舐めた真似をしたからには思い知らせてやらねぇとな……。そうだろ、シブヤ?」サドは吐息だけではなく、舌をシブヤの耳たぶに這わせる。
――ああ。羨ましい……。
ジャンボは嫉妬の炎を燻らせる。
「もちろ……ん……あっ」
「だれがやるべきだと思う?」
「いじわる……」目を閉じたままのシブヤの頬が紅潮してきた。
「山椒姉妹も使え」
「自分一人で充分です……」
「念には念を、だ」
サドがそう言ったとき、シブヤが急に大きくのけぞった。「あ。あああああああぁぁぁっ」
いつの間にか、サドの右手がシブヤの超ミニスカートの中に潜り込んでいた。
「トリゴヤの声で、こんなになったのか?」
「恥ずかしい……。こ、こんなところで……」
「うまくいったら続きをしてやる」
サドはそこでシブヤから離れた。
シブヤは息を荒げ、サドを見つめた。瞳が濡れていた。
「明日までに『アリ女十傑衆』とやらのうち、だれでもいい。シメてくるんだ」
「わかりました。けど……どうやって十傑集を?」
「さっきからこの話を盗み聞きしているあいつに聞け」サドが顎で部室の入り口を指し示した。
部室の扉の向こうから、ピンクのパーカーを着たネズミが現れた。フードをかぶり、ポケットに手を突っ込み、くちゃくちゃとガムを噛んでいる。
「さすがはサドさんすね。隠れてたつもりなんすけど……」
「いつからいた?」
「トリゴヤさん、いい声してるんすね」
「――ふん。まあいい」サドは苦笑した。「アリ女の情報が欲しい」
「アリ女のデータっすか? まあ、なくはないすけど……」
「もう調べたのか? タイミング良すぎるな」
「こう見えて、あっしも顔が広いんで、いろんな情報を握ってるんすよ」
「シブヤに教えてやってくれ」
「いいっすけど、これは貸しってことで……」
「もちろんだ。礼はする」
「あ、言っときますが」ネズミはシブヤとサドをそれぞれ見てから、「あっしはもっぱら男専門なんで、そっちのほうは遠慮しとくっす。というか、三次元には興味ないって感じで……。二次元は裏切らないっすから」と笑った。
ジャンボはネズミの気持ちが理解できなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■台場から来た少女 3■
ヲタが登校し、教室に入ると同時に、アキチャが飛んできた。
「知ってるか? チョウコクもやられたらしい」
「チョウコクが……? だれに……って、まさか……」
「そう。亜利絵根のやつだ」
「朝日か?」
「いや、まだそこまではわからねぇ。けど、あちこちで噂になってる」アキチャはそこで顔をしかめた。「――うちらがやられたってことも含めてな」
ヲタは返す言葉がなかった。
そのときバンジーが「うぃーす」と言いながら2年C組の教室に入ってきた。
アキチャがバンジーに今の話を繰り返して伝える。ヲタは黙ってそれを見ていた。
アリ女がチョウコクまでターゲットにしてきたことと、ラッパッパの情報を知りたがっていたことを合わせて考えると、その目的がおぼろげに想像できた。
あいつらはマジ女の武闘派集団を壊滅させる気なのではないか。
チョウコクは前田とのタイマンに敗れてから鍛錬を重ね、かなり強くなっているらしい。もうすぐ卒業ということもあり、例の百人斬り達成を急いでいるのだろう。そのチョウコクがやられたのなら、もちろんチームホルモンでは太刀打ちできないし、もしかしたらラッパッパさえも……。
「まさか……」ヲタはつぶやく。
「なんだって?」バンジーがそれに食いついた。「なにを考えてんだよ」
「やつらはラッパッパの情報を欲しがっていた。それとチョウコクがやられたことを合わせて考えると、次に狙われるのはラッパッパかもしれねぇって――な」
「たしかに、充分考えられる」バンジーは頷く。
「忠告しといたほうがいいかな」
「いや……しないほうがいい」
「どうして……」とヲタが疑問を口にしたとき、ウナギとムクチの二人が教室に入ってきた。
「ぅいぃーす」
「……」
「なに朝っぱらから辛気臭せぇ顔して」ウナギがヲタとバンジーの顔を見て言う。
「昨日、チョウコクがやられた」
「なんだって?」ウナギとムクチが目をみはった。「チョウコクをやっちまうって、どれだけ強いんだ? ……って、まさか亜利絵根か……」
「多分な」ヲタは答えた。「朝日かどうかはわからねぇけど」
「ウチらの学校で名の知れた連中をボコりまくって、最後にラッパッパを潰すんじゃねぇかってことを話してた」と、バンジーが付け加えた。
「そんなことしてどうすんだ?」
「さあな」バンジーは肩をすくめる。
「その仮説が正しいならよ」ウナギが厚い唇を尖らせながら割り込んできた。「残りは山椒姉妹……歌舞伎シスターズ、学ランあたりか……あ。金眉会ってのもあったな」
「金眉なんて眼中ねぇだろ、亜利絵根は」ヲタは苦笑して、「だるまにさえ負けたくらいだし」
そのだるまは前田敦子の隣に座り、なにやらおべっかを言っているようだったが、やおらヲタたちチームホルモンのほうへ振り返った。「なんやて、きさまら」
「なんでもねぇよ」
「いま、俺の名前、口にしたやろ」
「なんでもねぇって」
「まあ、ええわ」だるまは不思議なくらい、あっさりと引いた。
――が、それはちがった。
だまるはヲタを哀れむような目つきで見つめると、「それはそうと……おまえら、また、シメられたって聞いたで」
前回は即座に嘘をつき、噂を否定したが、二度目となると、もうしらばっくれることもできないだろう。ヲタはだるまを無言で見つめた。それが返答だった。
「やっぱり噂は本当だったんか」
「チョウコクもやられたそうだ」
「ホンマか?」
「それは知らなかったのか」
「チョウコクまでやられたとなると――」だまるはそこで前田敦子に向き直った。「あつ姐。今日からは休み時間もお供しやす」
前田敦子はこちらに背を向けて、例の介護士資格の本を開いている。だるまの声にも反応しない。
たしかに――ヲタは思う。前田敦子も亜利絵根の標的にされていることは充分考えられる。けれども前田なら大丈夫だろう。前田はおそらく、大島優子やサドと匹敵……いや、それ以上に強いかもしれない。いくらチョウコクが強くなったとはいえ、サドよりは弱いだろう。ならば、前田がそう簡単に負けるわけがない。
そのとき、一時間目を告げるベルが鳴り、ヲタの思考はそこで中断された。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれ百合な、エロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
ヲタが登校し、教室に入ると同時に、アキチャが飛んできた。
「知ってるか? チョウコクもやられたらしい」
「チョウコクが……? だれに……って、まさか……」
「そう。亜利絵根のやつだ」
「朝日か?」
「いや、まだそこまではわからねぇ。けど、あちこちで噂になってる」アキチャはそこで顔をしかめた。「――うちらがやられたってことも含めてな」
ヲタは返す言葉がなかった。
そのときバンジーが「うぃーす」と言いながら2年C組の教室に入ってきた。
アキチャがバンジーに今の話を繰り返して伝える。ヲタは黙ってそれを見ていた。
アリ女がチョウコクまでターゲットにしてきたことと、ラッパッパの情報を知りたがっていたことを合わせて考えると、その目的がおぼろげに想像できた。
あいつらはマジ女の武闘派集団を壊滅させる気なのではないか。
チョウコクは前田とのタイマンに敗れてから鍛錬を重ね、かなり強くなっているらしい。もうすぐ卒業ということもあり、例の百人斬り達成を急いでいるのだろう。そのチョウコクがやられたのなら、もちろんチームホルモンでは太刀打ちできないし、もしかしたらラッパッパさえも……。
「まさか……」ヲタはつぶやく。
「なんだって?」バンジーがそれに食いついた。「なにを考えてんだよ」
「やつらはラッパッパの情報を欲しがっていた。それとチョウコクがやられたことを合わせて考えると、次に狙われるのはラッパッパかもしれねぇって――な」
「たしかに、充分考えられる」バンジーは頷く。
「忠告しといたほうがいいかな」
「いや……しないほうがいい」
「どうして……」とヲタが疑問を口にしたとき、ウナギとムクチの二人が教室に入ってきた。
「ぅいぃーす」
「……」
「なに朝っぱらから辛気臭せぇ顔して」ウナギがヲタとバンジーの顔を見て言う。
「昨日、チョウコクがやられた」
「なんだって?」ウナギとムクチが目をみはった。「チョウコクをやっちまうって、どれだけ強いんだ? ……って、まさか亜利絵根か……」
「多分な」ヲタは答えた。「朝日かどうかはわからねぇけど」
「ウチらの学校で名の知れた連中をボコりまくって、最後にラッパッパを潰すんじゃねぇかってことを話してた」と、バンジーが付け加えた。
「そんなことしてどうすんだ?」
「さあな」バンジーは肩をすくめる。
「その仮説が正しいならよ」ウナギが厚い唇を尖らせながら割り込んできた。「残りは山椒姉妹……歌舞伎シスターズ、学ランあたりか……あ。金眉会ってのもあったな」
「金眉なんて眼中ねぇだろ、亜利絵根は」ヲタは苦笑して、「だるまにさえ負けたくらいだし」
そのだるまは前田敦子の隣に座り、なにやらおべっかを言っているようだったが、やおらヲタたちチームホルモンのほうへ振り返った。「なんやて、きさまら」
「なんでもねぇよ」
「いま、俺の名前、口にしたやろ」
「なんでもねぇって」
「まあ、ええわ」だるまは不思議なくらい、あっさりと引いた。
――が、それはちがった。
だまるはヲタを哀れむような目つきで見つめると、「それはそうと……おまえら、また、シメられたって聞いたで」
前回は即座に嘘をつき、噂を否定したが、二度目となると、もうしらばっくれることもできないだろう。ヲタはだるまを無言で見つめた。それが返答だった。
「やっぱり噂は本当だったんか」
「チョウコクもやられたそうだ」
「ホンマか?」
「それは知らなかったのか」
「チョウコクまでやられたとなると――」だまるはそこで前田敦子に向き直った。「あつ姐。今日からは休み時間もお供しやす」
前田敦子はこちらに背を向けて、例の介護士資格の本を開いている。だるまの声にも反応しない。
たしかに――ヲタは思う。前田敦子も亜利絵根の標的にされていることは充分考えられる。けれども前田なら大丈夫だろう。前田はおそらく、大島優子やサドと匹敵……いや、それ以上に強いかもしれない。いくらチョウコクが強くなったとはいえ、サドよりは弱いだろう。ならば、前田がそう簡単に負けるわけがない。
そのとき、一時間目を告げるベルが鳴り、ヲタの思考はそこで中断された。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれ百合な、エロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
13日の土曜日にAKB48の写真会に行ってきた。
おれが会うのは内田眞由美。研究生から新体制のチームKに昇格した子で、ぽっちゃりしていて背が小さくて、めちゃくちゃタイプなのだw 去年のAKB歌劇団に出演していて、そこで初めて存在を知った。公演後には、本人から生写真ももらった。
んでもってドキドキしながら内田眞由美と会ったわけだが、そのとき予想もしてない一言が、彼女からおれに発せられた!!!
衝立で仕切られた撮影スペースに入ると、そこにはかわいらしい内田眞由美がいた。150センチの背丈はそれだけで「かわいい」の要素だし、なんといってもぽっちゃりした体型がおれにはかなりの魅力である。
内田には、AKB歌劇団のときに会ったことがある。芝居の後、好きな出演者のだれかから生写真をプレゼントするという企画があって、そのときおれは彼女を選んだ。失礼ながら、彼女のことは歌劇団の芝居を見るまではまったく知らなかった。芝居を見て「あ。あんな子いたんだ」と虜になってしまった。
というわけで、この日は二度目の対面となる。もちろん、おれのことなど覚えているわけはないし、覚えられるのはなんか怖いので覚えていてほしくない。だが、彼女はおれを見るなり、「あっ」と言ったのだ。
その声に驚き、おれはビビった。もしかしたら認知されている? だが、そうではなかった。次に彼女が発した言葉には、それ以上の驚きがあったのだ。
「それ、『キル・ビル』ですか」
――え……。
このときおれは、マイミクのシズクさんにいただいた、映画『キル・ビル』のTシャツを着ていた。でも、その上に偽皮ジャンを着ていたので、図柄は半分も見えなていないはずだった。
まさか、『キル・ビル』に食いつくとは思わず、おれは完全にあたふたしてしまった。
彼女はさらに、「私、好きなんですよ、『キル・ビル』」
おれはなんと返していいかわからず、「そうなんですか。面白いですよね……」と、どうでもいいことを言った。
今にして思えば、「どのキャラクターが好きですか?」とか「1と2どっちが好きですか?」とか「タランティーノは好きなんですか?」とか「『イングロリアル・バスターズ』は見ましたか?」とか「もしかして『映画秘宝』を毎月読んでますか?」とか「服を着たまま泳いだことありますか?」とか(最後のはおかしいだろ)、もっと盛り上がる会話ができたはずなのに……。まったく自分のヘタレっぷりには呆れかえるね。
そしてそのあとは、さしたる会話もなく、事務的に携帯で写真を撮り、おれの撮影会は終わった。スペースを出て行く最後まで、彼女はちゃんとこちらを見てくれていたのが嬉しかった。
と、まあ、こんなことがあったわけだが、なにより内田眞由美は『キル・ビル』が好き、ということがわかっただけでも、行った甲斐があった。実に有意義なイベントだった。ウィキペディアの彼女の項目に、映画『キル・ビル』が好き、と書いてほしい。
彼女がどういう性格の人なのか、あまりに情報が少なくて今でも全然わからないけど、少なくともおれの彼女に対する好感度は倍増した。『キル・ビル』好きの人は、ぜひ彼女を推してあげてほしい。
ただし、この撮影会にはひとつ大きな不満がある。
それは写真の撮り方。撮影されたものを見ると、椅子に座っている二人の全身が写っているのだが、全身は写さなくてもいいと思うのだ。理想的なのはバストショットだが、せめて腰のあたりで切るようなトリミングのほうが、相手の顔も大きく写るし、密着感がある(実際にはそんなに近いわけではないが)。しかも全体の構図がズレていて、なんだかヘンな写真になってしまっている。おれは緊張して、面接を受けているみたいな手の位置になってるし(それはお前の責任だ)。
まあ、初めての写真会なので大目に見たいけど、ぜひ次からはもう少し出来上がった写真に対する配慮をしてほしい。たとえば面倒くさいかもしれないが、写真の構図を3パターンくらい用意しておき、お客さんに選ばせる、とか(今回も縦か横かは選べた)。
それと、おれ、『キル・ビル』のことであわてたせいで、内田眞由美と握手するのを忘れてたッスw
おれが会うのは内田眞由美。研究生から新体制のチームKに昇格した子で、ぽっちゃりしていて背が小さくて、めちゃくちゃタイプなのだw 去年のAKB歌劇団に出演していて、そこで初めて存在を知った。公演後には、本人から生写真ももらった。
んでもってドキドキしながら内田眞由美と会ったわけだが、そのとき予想もしてない一言が、彼女からおれに発せられた!!!
衝立で仕切られた撮影スペースに入ると、そこにはかわいらしい内田眞由美がいた。150センチの背丈はそれだけで「かわいい」の要素だし、なんといってもぽっちゃりした体型がおれにはかなりの魅力である。
内田には、AKB歌劇団のときに会ったことがある。芝居の後、好きな出演者のだれかから生写真をプレゼントするという企画があって、そのときおれは彼女を選んだ。失礼ながら、彼女のことは歌劇団の芝居を見るまではまったく知らなかった。芝居を見て「あ。あんな子いたんだ」と虜になってしまった。
というわけで、この日は二度目の対面となる。もちろん、おれのことなど覚えているわけはないし、覚えられるのはなんか怖いので覚えていてほしくない。だが、彼女はおれを見るなり、「あっ」と言ったのだ。
その声に驚き、おれはビビった。もしかしたら認知されている? だが、そうではなかった。次に彼女が発した言葉には、それ以上の驚きがあったのだ。
「それ、『キル・ビル』ですか」
――え……。
このときおれは、マイミクのシズクさんにいただいた、映画『キル・ビル』のTシャツを着ていた。でも、その上に偽皮ジャンを着ていたので、図柄は半分も見えなていないはずだった。
まさか、『キル・ビル』に食いつくとは思わず、おれは完全にあたふたしてしまった。
彼女はさらに、「私、好きなんですよ、『キル・ビル』」
おれはなんと返していいかわからず、「そうなんですか。面白いですよね……」と、どうでもいいことを言った。
今にして思えば、「どのキャラクターが好きですか?」とか「1と2どっちが好きですか?」とか「タランティーノは好きなんですか?」とか「『イングロリアル・バスターズ』は見ましたか?」とか「もしかして『映画秘宝』を毎月読んでますか?」とか「服を着たまま泳いだことありますか?」とか(最後のはおかしいだろ)、もっと盛り上がる会話ができたはずなのに……。まったく自分のヘタレっぷりには呆れかえるね。
そしてそのあとは、さしたる会話もなく、事務的に携帯で写真を撮り、おれの撮影会は終わった。スペースを出て行く最後まで、彼女はちゃんとこちらを見てくれていたのが嬉しかった。
と、まあ、こんなことがあったわけだが、なにより内田眞由美は『キル・ビル』が好き、ということがわかっただけでも、行った甲斐があった。実に有意義なイベントだった。ウィキペディアの彼女の項目に、映画『キル・ビル』が好き、と書いてほしい。
彼女がどういう性格の人なのか、あまりに情報が少なくて今でも全然わからないけど、少なくともおれの彼女に対する好感度は倍増した。『キル・ビル』好きの人は、ぜひ彼女を推してあげてほしい。
ただし、この撮影会にはひとつ大きな不満がある。
それは写真の撮り方。撮影されたものを見ると、椅子に座っている二人の全身が写っているのだが、全身は写さなくてもいいと思うのだ。理想的なのはバストショットだが、せめて腰のあたりで切るようなトリミングのほうが、相手の顔も大きく写るし、密着感がある(実際にはそんなに近いわけではないが)。しかも全体の構図がズレていて、なんだかヘンな写真になってしまっている。おれは緊張して、面接を受けているみたいな手の位置になってるし(それはお前の責任だ)。
まあ、初めての写真会なので大目に見たいけど、ぜひ次からはもう少し出来上がった写真に対する配慮をしてほしい。たとえば面倒くさいかもしれないが、写真の構図を3パターンくらい用意しておき、お客さんに選ばせる、とか(今回も縦か横かは選べた)。
それと、おれ、『キル・ビル』のことであわてたせいで、内田眞由美と握手するのを忘れてたッスw
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今日は銀座で毎月恒例になりつつあるシネマハスラー。
当たったのは『ニューヨーク、アイラブユー NEW YORK, I LOVE YOU』で、TOHOシネマズシャンテへの道は、かなりテンション下がった。案の定、つまんなかったですよ……。どうでもいい話が延々と続くだけの映画。映画的な盛り上がりが一切なくて、ひねりのない短編を読まされているような気がしてくる。上映中、時計を何度も見た。
そのあとはシネスイッチ銀座に移動して『時をかける少女』を。こちらは『ニューヨーク、アイラブユー NEW YORK, I LOVE YOU』よりは面白かったし、悪い映画ではないけど、フェティッシュな色合いが足らないのが本当に残念。仲里依紗というフェチの塊みたいな女優を使っていながら、ちっともどきどきしないのはなぜかと言えば、清潔に描きすぎているからだ。たとえば『僕の彼女はサイボーグ』は映画としては完全に破綻しているものの、綾瀬はるかに対する監督のフェティッシュな愛情は熱く伝わってくる。おれはそういうの、嫌いじゃないし、アイドル映画には不可欠だと思う。大林版の『時かけ』もその例に漏れない。
なによりも、中尾明慶が仲里依紗と一緒に暮らしてなにもしようとしないのはおかしい。せめて脱ぎ捨てられた制服の匂いを嗅ぐくらいしろよ!!! 大林版の尾美としのりは原田知世のハンカチの匂い嗅いでたぞ。フェチでないアイドル映画はハッとさせられないから、主演の魅力が半減してしまう。ま、そう言いながらも、仲里依紗の制服姿のB1サイズポスターは買っちまったけどw
というわけでもう寝ます。
昨日のTBSラジオ『アクセス』のテーマは「都議会で審議される東京都の青少年健全育成条例案でバトル。マンガ、ゲームなど、架空のキャラクターでも18歳未満にみえる人物の性描写は規制対象に。あなたはこの条例案に賛成ですか?反対ですか?」というもの。
興味のあるテーマなので聞いたけど、出てきたリスナーが、己の論理の矛盾点に気づいてないし、論点がズレてるし、といったアホばっかりで辟易した。
特に、最後に出てきたアニメヲタは、「質の高いアニメには必然的に性描写はない」と言い、その代表として庵野秀明の名前を出してたけど、その瞬間おれは「おまえは劇場版の『エヴァ』見てねぇのかよ、シンジがオナニーやってただろう!!!」と突っ込んでしまったよ。しかも、そのあと番組内で漫画評論家で明治大学准教授の藤本由香里に同じことを指摘されると、「あれはR-15だった」と言ってた。いやー。知らなかったな~、劇場版の『エヴァ』ってR-15だったのかぁ……。って、自覚のない無知ってどうしようもないなぁ。
しかも「性描写のあるレベルの低いアニメを排除するには条例という手もあり」だってさ。質の高い低いって、だれが決めるんだよ。でも、こいつの頭の中には、どうやら「性描写があるアニメ」イコール「質が低い」らしいから、簡単なのかな? んじゃ聞きたいけど、性描写ってなに~? セックスは? ペッティングは? キスは? パンチラは? おっぱいの谷間は? ……次元の低い質問でごめんね、てへっ。
ま、なんにしても、こういう条例は廃止に追い込まないとね。
興味のあるテーマなので聞いたけど、出てきたリスナーが、己の論理の矛盾点に気づいてないし、論点がズレてるし、といったアホばっかりで辟易した。
特に、最後に出てきたアニメヲタは、「質の高いアニメには必然的に性描写はない」と言い、その代表として庵野秀明の名前を出してたけど、その瞬間おれは「おまえは劇場版の『エヴァ』見てねぇのかよ、シンジがオナニーやってただろう!!!」と突っ込んでしまったよ。しかも、そのあと番組内で漫画評論家で明治大学准教授の藤本由香里に同じことを指摘されると、「あれはR-15だった」と言ってた。いやー。知らなかったな~、劇場版の『エヴァ』ってR-15だったのかぁ……。って、自覚のない無知ってどうしようもないなぁ。
しかも「性描写のあるレベルの低いアニメを排除するには条例という手もあり」だってさ。質の高い低いって、だれが決めるんだよ。でも、こいつの頭の中には、どうやら「性描写があるアニメ」イコール「質が低い」らしいから、簡単なのかな? んじゃ聞きたいけど、性描写ってなに~? セックスは? ペッティングは? キスは? パンチラは? おっぱいの谷間は? ……次元の低い質問でごめんね、てへっ。
ま、なんにしても、こういう条例は廃止に追い込まないとね。
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5、6枚目は浴槽に横たわっているところ。けっこう厚みのある生地なので、ほとんど「透け」はないです。
前から書いているけど、個人的には「透け」はあんまり好きな要素ではなくて、この写真くらいのやんわりと肌が薄く見える程度が上品かな、と思っています。いや「透け」が下品とまでは言わないけどw
やっぱり、ぼくにとってのエロっていうのは「モロ」じゃないんだよなぁ。だから無修正のAVにもあんまり興味がないし(少しはあるw)。それ見せたら、想像力で補完する楽しみがないし、それ以上の表現がないでしょう。いや、なくはないけど、つまらないって思うんですよ。映画でも小説でも、フィクションを通じてなにかを訴えたい場合、それを作中にズバリそのままの言葉でセリフとかで語るのって最低の表現方法だし。そういうことッス(『マジすか学園』のネズミふうに)。
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服を濡らすにもいろんなパターンがありますが、ぼくが好きなのはこの三枚目の写真みたいに、浴槽にゆっくりと沈んでいくというもの。
このパターンの魅力は、なんといってもスカートの広がりです。水面に花が咲くみたいに浮かび、徐々に侵食されていく様子はwetならではの刺激的な光景です。空気が溜まっていくと、スカートはけっこう立体的になって、ときには侵食が間に合わなくて水面下の脚がかなり露わになってしまうのも、脚フェチのぼくには嬉しいw
四枚目は、まだ上半身はほとんど濡れていない状態で、浴槽に体を預けています。壁が濡れているので、背中からじわっと濡れる感触があるそうです。この、上半身→dry、下半身→wetというのも好きなシチュエーションです。上半身だけ撮れば普通の写真なのに、引いたアングルにすると非日常的なものになるのが面白くて……。
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久しぶりの新作画像公開です。
今回のモデルも陸遊馬さん。衣装は『らき☆すた』の陵桜学園高等部制服で、キャラは柊つかさです。
思えば、『ハルヒ』シリーズ好きの遊馬さんと出会ってからアニメ版『涼宮ハルヒ』シリーズを見て山本寛監督の演出に惚れ、そしてこの衣装で撮ったこともあってアニメ版『らき☆すた』も見たわけで……。そういう意味で、個人的に思い深い衣装です。
これから公開する一連の写真は、遊馬さんにみずから選んでいただいた「お気に入り」です。
一枚目は濡れていない状態。ぼくはこのとき、まだ『らき☆すた』本編を見ていないので、つかさの幼い感じをうまく出せていませんが、遊馬さんはちゃんと演じてくれています。
二枚目はすでにスカートにローション塗りたくったあとですw これは脚フェチの、特に太ももが大好きなぼく自身も気に入っています。広角レンズならではのパースを強調した感じがイラストっぽくていい(まさに自画自賛)。体がS字になっていて、ぼくが考えるもっとも女性らしいラインを描いていますが、左手をもう少し外に向けたほうが良かったなぁ。
ただ、あんまり『らき☆すた』感は出てないですね……反省……。
前にも書いたかもしれないけど、写真にロゴを入れているのは転載防止じゃありません。掲示板などに転載されるのはかまわないんですが、出典元が記してないものが多いので……。売り物の写真をupされるのは困るけど、このブログや本家サイトのサンプル写真は掲示板に貼られてもあんまり気にしませんw ただ、どこの写真かは書いてほしい……でも多分書いてくれないから一番目立つところにURLを入れてある、というわけです。
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■台場から来た少女―2の2■
横山と外岡はチョウコクの正面から、じわじわと左右に広がっていく。
チョウコクは迷った。地下道の壁を背にするべきか、今のまま通路を背にするべきか。
壁を背にすれば、背後からの攻撃は考えなくていい。だが、挟撃されたときに戦えるスペースは狭くなる。
通路を背にすれば、360度警戒しなくてはいけないが、その分、動きやすい。
――どうする?
そうして考えているあいだにも、二人は動き続けている。
チョウコクは覚悟を決めた。壁を背にして、不意な方向からの攻撃をかわすほうがいい。
すばやく壁際に移動したチョウコクの後を、二人が追ってきた。
チョウコクは背中に壁の冷たさを感じると、両手を前に掲げ、戦闘態勢に入った。
左に外岡、右に横山……。どちらから片付けるか。二人一緒に攻撃されれば負ける。そのタイミングは何度も練習しているだろう。それならば、こちらが先に動いて先手を取るしかない。
体格的には横山が外岡を勝っている。とりあえず潰しやすい方から潰すのが鉄則だ。チョウコクは外岡をターゲットに決める。
チョウコクはやや左に向き、外岡に斜めから正対した。突っ込んでくる外岡に、カウンターの拳を入れるべく、チョウコクは構えた。
鉄拳の間合いまであと一瞬。チョウコクは右拳を肩の高さから放った。
外岡はこちらに掴みかかろうと両手を伸ばす。組み技か――チョウコクは判断し、組まれるより早く、外岡の胸に拳を叩き込むつもりだった。
それは渾身の拳――のはずだった。
しかし、どこかで横山からの攻撃を意識していたからか、その拳にはいつもの力が込められなかったし、注意力も散漫になっていた。
まるでこちらの攻撃を見透かしたように、外岡はすっと左に避けた。そして刹那の動きでチョウコクの、がら空きになった左手を掴む。電気が走ったような衝撃と痛みがチョウコクの左腕を襲った。
「痛(ツ)ッ……」
捩じ上げられた左腕が宙で妙な動きをしたかと思うと、チョウコクは次の瞬間に、自分の意思と無関係に体を捻らざるをえなかった。そのままの体勢でいたら、腕は肘のところで折られていたかもしれない。それほどの力とスピードだった。喧嘩慣れしていない人間ならそうなっていただろう。
気が付くと、チョウコクは外岡に背後に回りこまれていた。左腕が背中に回され、肘と手首を完全に押さえ込まれてしまっている。そしてギリギリと締め付けられた。
目の前には、左脚を高々と上げた横山。チョウコクは思わず、全開となったプリーツスカートの中に視線を移してしまった。たとえ女であっても、これほど大胆にスカートの中を露呈されては意識しなくともそれを見てしまうものだ。その意識の戸惑いが、チョウコクの心に隙を生んだ。そうでなければ、次の一撃は避けられたかもしれない。
横山の長く美しい左脚が、チョウコクの肩に振り下ろされようとしていた。
踵落としは極真空手を使う者が得意とする技で、格闘家ではアンディ・フグの決め技でもあった。横山のような身長のある者が使えばそれだけ威力は増す。
チョウコクを、その衝撃に意識が耐えられるかという恐怖が襲った。
――来るっ……。
チョウコクは体を強張らせる。
……が、横山はその脚を落としてはこなかった。真正面にチョウコクを見つめている。
少しの間が流れ、やがて外岡が口を開いた。「――ルリカ……」
「やっぱりやめるわ……」横山は脚をゆっくりと下ろしていく。チョウコクの肩を這わせるように。「神はこんな卑怯な戦い、お許しにならない」
チョウコクは安堵の息を、二人に気づかれないように漏らした。
外岡の拘束が緩んだ。チョウコクはすかさず離れたが、闘う気は失せていた。フェアに闘おうとしている者に対する敬意だった。
「ま、ルリカらしいね」外岡が笑った。先ほどまでの戦士の表情ではなく、普通の女子高生のような笑顔だった。
「あまりにあっさりしすぎだし……」横山が答える。こちらもまた、柔らかな微笑を浮かべている。
チョウコクは拍子抜けした気分と、助かった安心感と、そして結局自分は負けたのだという敗北感を味わっていた。「――わたしの、負けだ……」
「いえ、まだ結してない。そのうちあなたとは、また闘う日が来るわ」横山が言った。「そのときは1対1で」
「わたしは押さえ込まれた」
「でも1対1なら関節を取れなかったかも……」と外岡。
たしかに二人を相手にしているという状況が、外岡に易々と腕を取られた原因かもしれない。だが、2対1とか1対1とか、そういう問題ではない。本当の強さとは、そんなこととは関係ない。現に、大島優子は数十人を相手にたった一人で闘い、勝ったのだ。
「あのままならわたしは腕を折られ、倒れていた……」
悔しかった。これでは情けをかけられただけ……。
チョウコクは膝を折り、アスファルトに伏した。
なにが百人斬りだ。こんなことではラッパッパの四天王を倒すなど、はるかに叶わない……。
「それじゃあ、またね……」
その声はもはや遠く、二人のうちどちらが発したものかさえ、チョウコクには判断できなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれ百合な、エロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
横山と外岡はチョウコクの正面から、じわじわと左右に広がっていく。
チョウコクは迷った。地下道の壁を背にするべきか、今のまま通路を背にするべきか。
壁を背にすれば、背後からの攻撃は考えなくていい。だが、挟撃されたときに戦えるスペースは狭くなる。
通路を背にすれば、360度警戒しなくてはいけないが、その分、動きやすい。
――どうする?
そうして考えているあいだにも、二人は動き続けている。
チョウコクは覚悟を決めた。壁を背にして、不意な方向からの攻撃をかわすほうがいい。
すばやく壁際に移動したチョウコクの後を、二人が追ってきた。
チョウコクは背中に壁の冷たさを感じると、両手を前に掲げ、戦闘態勢に入った。
左に外岡、右に横山……。どちらから片付けるか。二人一緒に攻撃されれば負ける。そのタイミングは何度も練習しているだろう。それならば、こちらが先に動いて先手を取るしかない。
体格的には横山が外岡を勝っている。とりあえず潰しやすい方から潰すのが鉄則だ。チョウコクは外岡をターゲットに決める。
チョウコクはやや左に向き、外岡に斜めから正対した。突っ込んでくる外岡に、カウンターの拳を入れるべく、チョウコクは構えた。
鉄拳の間合いまであと一瞬。チョウコクは右拳を肩の高さから放った。
外岡はこちらに掴みかかろうと両手を伸ばす。組み技か――チョウコクは判断し、組まれるより早く、外岡の胸に拳を叩き込むつもりだった。
それは渾身の拳――のはずだった。
しかし、どこかで横山からの攻撃を意識していたからか、その拳にはいつもの力が込められなかったし、注意力も散漫になっていた。
まるでこちらの攻撃を見透かしたように、外岡はすっと左に避けた。そして刹那の動きでチョウコクの、がら空きになった左手を掴む。電気が走ったような衝撃と痛みがチョウコクの左腕を襲った。
「痛(ツ)ッ……」
捩じ上げられた左腕が宙で妙な動きをしたかと思うと、チョウコクは次の瞬間に、自分の意思と無関係に体を捻らざるをえなかった。そのままの体勢でいたら、腕は肘のところで折られていたかもしれない。それほどの力とスピードだった。喧嘩慣れしていない人間ならそうなっていただろう。
気が付くと、チョウコクは外岡に背後に回りこまれていた。左腕が背中に回され、肘と手首を完全に押さえ込まれてしまっている。そしてギリギリと締め付けられた。
目の前には、左脚を高々と上げた横山。チョウコクは思わず、全開となったプリーツスカートの中に視線を移してしまった。たとえ女であっても、これほど大胆にスカートの中を露呈されては意識しなくともそれを見てしまうものだ。その意識の戸惑いが、チョウコクの心に隙を生んだ。そうでなければ、次の一撃は避けられたかもしれない。
横山の長く美しい左脚が、チョウコクの肩に振り下ろされようとしていた。
踵落としは極真空手を使う者が得意とする技で、格闘家ではアンディ・フグの決め技でもあった。横山のような身長のある者が使えばそれだけ威力は増す。
チョウコクを、その衝撃に意識が耐えられるかという恐怖が襲った。
――来るっ……。
チョウコクは体を強張らせる。
……が、横山はその脚を落としてはこなかった。真正面にチョウコクを見つめている。
少しの間が流れ、やがて外岡が口を開いた。「――ルリカ……」
「やっぱりやめるわ……」横山は脚をゆっくりと下ろしていく。チョウコクの肩を這わせるように。「神はこんな卑怯な戦い、お許しにならない」
チョウコクは安堵の息を、二人に気づかれないように漏らした。
外岡の拘束が緩んだ。チョウコクはすかさず離れたが、闘う気は失せていた。フェアに闘おうとしている者に対する敬意だった。
「ま、ルリカらしいね」外岡が笑った。先ほどまでの戦士の表情ではなく、普通の女子高生のような笑顔だった。
「あまりにあっさりしすぎだし……」横山が答える。こちらもまた、柔らかな微笑を浮かべている。
チョウコクは拍子抜けした気分と、助かった安心感と、そして結局自分は負けたのだという敗北感を味わっていた。「――わたしの、負けだ……」
「いえ、まだ結してない。そのうちあなたとは、また闘う日が来るわ」横山が言った。「そのときは1対1で」
「わたしは押さえ込まれた」
「でも1対1なら関節を取れなかったかも……」と外岡。
たしかに二人を相手にしているという状況が、外岡に易々と腕を取られた原因かもしれない。だが、2対1とか1対1とか、そういう問題ではない。本当の強さとは、そんなこととは関係ない。現に、大島優子は数十人を相手にたった一人で闘い、勝ったのだ。
「あのままならわたしは腕を折られ、倒れていた……」
悔しかった。これでは情けをかけられただけ……。
チョウコクは膝を折り、アスファルトに伏した。
なにが百人斬りだ。こんなことではラッパッパの四天王を倒すなど、はるかに叶わない……。
「それじゃあ、またね……」
その声はもはや遠く、二人のうちどちらが発したものかさえ、チョウコクには判断できなかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・いずれ百合な、エロい場面も出てきます。エロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■映画(新作)■
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
『涼宮ハルヒの消失』
『パーフェクト・ゲッタウェイ』
『ラブリーボーン』
『コララインと魔法のボタン』
『食堂かたつむり』
■映画(旧作)■
『崖の上のポニョ』
■新作順位■
1『(500)日のサマー』
2『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
3『ラブリーボーン』
4『インビクタス』
5『涼宮ハルヒの消失』
6『コララインと魔法のボタン』
7『シャネル&ストラヴィンスキー』
8『サロゲート』
9『パーフェクト・ゲッタウェイ』
10『かいじゅうたちのいるところ』
11『食堂かたつむり』
暫定1位と2位が、どっちも童貞臭漂う映画w いつまでたっても、いかにおれが童貞的かということがわかってしまうな。
その『ボーイズ・オン・ザ・ラン』については以前書いたので省略。いま原作読み返してるんだけど、映画よりもこっちのほうがやっぱり「巧い」と思う点多数。いや、でも映画は映画で良かったですが。
『涼宮ハルヒの消失』と『パーフェクト・ゲッタウェイ』も前に書いたので省略。
『ラブリーボーン』はシネマハスラーで当たって見たんだけど、これは拾い物だった。でなければ多分見なかったと思う。とにかくヒロインのシアーシャ・ローナンかわいすぎ。ときどきヘンな顔に見えるところも「だが、それがいい!」。西洋人の女子って基本的に好きじゃないんだけど、かわいいものはかわいいのだ。……って、どうしておれは映画の話するとき、まず女がどうだったかってことから取り上げるのか?
『食堂かたつむり』のことももう書いたな。あ、宇多丸の評がすごくいいので聞いてみてください。
→http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20100227_hustler.mp3
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
『涼宮ハルヒの消失』
『パーフェクト・ゲッタウェイ』
『ラブリーボーン』
『コララインと魔法のボタン』
『食堂かたつむり』
■映画(旧作)■
『崖の上のポニョ』
■新作順位■
1『(500)日のサマー』
2『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
3『ラブリーボーン』
4『インビクタス』
5『涼宮ハルヒの消失』
6『コララインと魔法のボタン』
7『シャネル&ストラヴィンスキー』
8『サロゲート』
9『パーフェクト・ゲッタウェイ』
10『かいじゅうたちのいるところ』
11『食堂かたつむり』
暫定1位と2位が、どっちも童貞臭漂う映画w いつまでたっても、いかにおれが童貞的かということがわかってしまうな。
その『ボーイズ・オン・ザ・ラン』については以前書いたので省略。いま原作読み返してるんだけど、映画よりもこっちのほうがやっぱり「巧い」と思う点多数。いや、でも映画は映画で良かったですが。
『涼宮ハルヒの消失』と『パーフェクト・ゲッタウェイ』も前に書いたので省略。
『ラブリーボーン』はシネマハスラーで当たって見たんだけど、これは拾い物だった。でなければ多分見なかったと思う。とにかくヒロインのシアーシャ・ローナンかわいすぎ。ときどきヘンな顔に見えるところも「だが、それがいい!」。西洋人の女子って基本的に好きじゃないんだけど、かわいいものはかわいいのだ。……って、どうしておれは映画の話するとき、まず女がどうだったかってことから取り上げるのか?
『食堂かたつむり』のことももう書いたな。あ、宇多丸の評がすごくいいので聞いてみてください。
→http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20100227_hustler.mp3