■特訓1-2■
女たちはどう見ても女子高生という年齢ではなかったし(とはいえ、三十代にも見えないが)、制服も着ていなかった。ボディラインが浮き出る少し派手なスーツの、いかにも水商売風といった服装である。ヲタには見覚えがない三人だった。
だるまが三人に近づき、頭の先から足元まで、大げさな身振りで嘗め回すように見た。
「なに、いきがってんの?」ぽっちゃりとした人懐こそうな女が言った。「あたしたち、ケンカしに来たけじゃないから」
「そうよ、おデブちゃん……」スリムで、やけに色香を漂わせた女がだるまの頬を、顎から上へと撫でた。
「なんやとぉ……」だまるはその態度に声を荒げ、女に近寄り、得意の頭突きを食らわそうと頭を後ろに反らせた。
次の瞬間、女の右手が凄まじい速度でだまるのクビをつかんだ。
「めーたんっ、やめなよっ」ぽっちゃりとした女が制したが、めーたんと呼ばれた女の頬は上気し、瞳には淫靡な色が浮かんだ。
だるまは、ぐえっと呻き、女の右手を両手で掴んだ。体格は明らかにだるまが上回っており、力もそれに習うはずだった。しかし、だるまは女の右手を握ったまま、引き剥がせずにいる。この細身の体に、どれほどの力があるというのか。ヲタは立ち尽くした。
さらに驚いたのは、今やめーたんがだるまの体そのものを支えているということだった。だるまは完全に体のバランスを崩していて、めーたんが右手を離せばそのまま地面に倒れてしまうだろう。あの細い腕の、どこにそれだけの力があるのかわからなかった。
「頭突きってのはね……」めーたんはだるまを手繰り寄せるように引っ張った。「こうするんだよっ」
めーたんは、ボクシングのスウェーバックのように状態を後ろに反らし、だるまの額に頭突きを決めた。
「っっいっでえぇぇぇぇぇ……」
右手を離されただるまは石畳の上に倒れ、額を押さえた。
「――ったく……ほんと、ケンカっぱやいんだから……」ぽっちゃりした女が呆れたように言い、転がっただるまを見た。「あんたも悪いわよぉ。ケンカしにきたわけじゃないって言ったのに……」
「そうよ……」頭にティアラを付けた女が割って入った。「その制服が懐かしいから声かけただけだって……」
「懐かしいって……」ヲタは訊ねた。「もしかして、マジ女のOBっすか……?」
「ブルーローズって聞いたことない?」
「――ブ、ブルーローズ……」
ヲタは戦慄した。
マジ女でブルーローズを知らない人間はいない。
「すっ、すみませんでした……っ」ヲタは光の速度で土下座の体制をとった。「こいつ、最近転校してきたばっかりで、まだなにも知らないんです……。すみません。無礼な態度、許してくださいっ……痛てっ……」
ヲタは勢いあまって、石畳に額をぶつけた。
「パ、パイセンでっか……」ヤンキーは年功序列を異様なほど重んじる。だるまも例外ではないようだった。ヲタの横に来ると、正座をして頭を下げた。「し、し、失礼しました……。自分、転校生でなんも知らんとはいえ……」
「いいっていいって」めーたんは笑った。「もう、わたしたち卒業して更正したから」
「なにが更正よ。めーたん、昨日も酔っ払い相手に啖呵切ってたじゃない」ぽっちゃりした女がツッコミを入れた。
「ノンティに言われたくないわ」
「そんなことどっちだっていいでしょ」ティアラの女が言った。「それより、この子たち、完全にビビっちっゃてるよ……ごめんねぇ……」
「い、いえ……」ヲタは額を石畳につけたまま答えた。
ブルーローズは伝説のマジ女最強軍団で、今でもその名は語り継がれている。コーラス部を母体とする全盛期のブルーローズの強さは、今のラッパッパなど相手にならないほどだとさえ聞いた。当時から敵対していた矢場久根の生徒二百人を相手に一歩も引かず、たった三人でマジ女を守った話を、ヲタは入学してからすぐに耳にした。
その伝説の三人がここに――? ヲタには責任はないとはいえ、こうなってはただではすまないだろう。特訓を始めてすぐに半殺しの目に合うとはついてない。ヲタは逃げ出したくなってきた。
三人が目の前でいくらはしゃいでいても、いや、はしゃげばはしゃぐほど、恐怖は増した。暴力が日常になっている人間は、普通に人を殴る。この「普通に」というのがもっとも怖いことを、ヲタは17年の人選経験で学んでいた。
「パイセンだと知らぬとはいえ、申し訳ありませんでした。悪いのは、自分です。こいつは許してやってつかぁさい……」
「だるま、おめぇ……」
「だーかーらーぁ」ノンティが言った。「そういうのは卒業したから。もう、土下座なんてやめてよ。知らない人が見たら、この状況、どう考えてもあたしらがカツアゲしてるみたいじゃん。シンディからも言ってよ」
「ノンティの言う通りよ」シンディと呼ばれたティアラの女が微笑んだ。「別になんかしようとして声かけたわけじゃないから」
「ちょっと遊んでやっただけだから、あたしはなにも気にしてないわ。ほら、立ちなさい」めーたんはヲタとだるまをうながした。
しかし、とはいえ、ここは完全に許してもらえるまで土下座を続けるつもりだった。
この三人が本気になれば、自分たちなど瞬殺される。
「もうわかったから……」ノンティがヲタのジャージの襟をつかんで、上半身をひょいと持ち上げた。その力に、ヲタはまた驚いた。「めーたんも、もうなにもしないよ。ね、めーたん」
「しないわよぉ」めーたんの朝に似つかわしくない、ハスキーだが艶のある声は、たくさんの男の人生を狂わせてきたことをうかがわせた。
「ほらほら、立った立った……」ノンティの誘導に、ヲタはだるまと視線を交わしながら従った。
【つづく】
女たちはどう見ても女子高生という年齢ではなかったし(とはいえ、三十代にも見えないが)、制服も着ていなかった。ボディラインが浮き出る少し派手なスーツの、いかにも水商売風といった服装である。ヲタには見覚えがない三人だった。
だるまが三人に近づき、頭の先から足元まで、大げさな身振りで嘗め回すように見た。
「なに、いきがってんの?」ぽっちゃりとした人懐こそうな女が言った。「あたしたち、ケンカしに来たけじゃないから」
「そうよ、おデブちゃん……」スリムで、やけに色香を漂わせた女がだるまの頬を、顎から上へと撫でた。
「なんやとぉ……」だまるはその態度に声を荒げ、女に近寄り、得意の頭突きを食らわそうと頭を後ろに反らせた。
次の瞬間、女の右手が凄まじい速度でだまるのクビをつかんだ。
「めーたんっ、やめなよっ」ぽっちゃりとした女が制したが、めーたんと呼ばれた女の頬は上気し、瞳には淫靡な色が浮かんだ。
だるまは、ぐえっと呻き、女の右手を両手で掴んだ。体格は明らかにだるまが上回っており、力もそれに習うはずだった。しかし、だるまは女の右手を握ったまま、引き剥がせずにいる。この細身の体に、どれほどの力があるというのか。ヲタは立ち尽くした。
さらに驚いたのは、今やめーたんがだるまの体そのものを支えているということだった。だるまは完全に体のバランスを崩していて、めーたんが右手を離せばそのまま地面に倒れてしまうだろう。あの細い腕の、どこにそれだけの力があるのかわからなかった。
「頭突きってのはね……」めーたんはだるまを手繰り寄せるように引っ張った。「こうするんだよっ」
めーたんは、ボクシングのスウェーバックのように状態を後ろに反らし、だるまの額に頭突きを決めた。
「っっいっでえぇぇぇぇぇ……」
右手を離されただるまは石畳の上に倒れ、額を押さえた。
「――ったく……ほんと、ケンカっぱやいんだから……」ぽっちゃりした女が呆れたように言い、転がっただるまを見た。「あんたも悪いわよぉ。ケンカしにきたわけじゃないって言ったのに……」
「そうよ……」頭にティアラを付けた女が割って入った。「その制服が懐かしいから声かけただけだって……」
「懐かしいって……」ヲタは訊ねた。「もしかして、マジ女のOBっすか……?」
「ブルーローズって聞いたことない?」
「――ブ、ブルーローズ……」
ヲタは戦慄した。
マジ女でブルーローズを知らない人間はいない。
「すっ、すみませんでした……っ」ヲタは光の速度で土下座の体制をとった。「こいつ、最近転校してきたばっかりで、まだなにも知らないんです……。すみません。無礼な態度、許してくださいっ……痛てっ……」
ヲタは勢いあまって、石畳に額をぶつけた。
「パ、パイセンでっか……」ヤンキーは年功序列を異様なほど重んじる。だるまも例外ではないようだった。ヲタの横に来ると、正座をして頭を下げた。「し、し、失礼しました……。自分、転校生でなんも知らんとはいえ……」
「いいっていいって」めーたんは笑った。「もう、わたしたち卒業して更正したから」
「なにが更正よ。めーたん、昨日も酔っ払い相手に啖呵切ってたじゃない」ぽっちゃりした女がツッコミを入れた。
「ノンティに言われたくないわ」
「そんなことどっちだっていいでしょ」ティアラの女が言った。「それより、この子たち、完全にビビっちっゃてるよ……ごめんねぇ……」
「い、いえ……」ヲタは額を石畳につけたまま答えた。
ブルーローズは伝説のマジ女最強軍団で、今でもその名は語り継がれている。コーラス部を母体とする全盛期のブルーローズの強さは、今のラッパッパなど相手にならないほどだとさえ聞いた。当時から敵対していた矢場久根の生徒二百人を相手に一歩も引かず、たった三人でマジ女を守った話を、ヲタは入学してからすぐに耳にした。
その伝説の三人がここに――? ヲタには責任はないとはいえ、こうなってはただではすまないだろう。特訓を始めてすぐに半殺しの目に合うとはついてない。ヲタは逃げ出したくなってきた。
三人が目の前でいくらはしゃいでいても、いや、はしゃげばはしゃぐほど、恐怖は増した。暴力が日常になっている人間は、普通に人を殴る。この「普通に」というのがもっとも怖いことを、ヲタは17年の人選経験で学んでいた。
「パイセンだと知らぬとはいえ、申し訳ありませんでした。悪いのは、自分です。こいつは許してやってつかぁさい……」
「だるま、おめぇ……」
「だーかーらーぁ」ノンティが言った。「そういうのは卒業したから。もう、土下座なんてやめてよ。知らない人が見たら、この状況、どう考えてもあたしらがカツアゲしてるみたいじゃん。シンディからも言ってよ」
「ノンティの言う通りよ」シンディと呼ばれたティアラの女が微笑んだ。「別になんかしようとして声かけたわけじゃないから」
「ちょっと遊んでやっただけだから、あたしはなにも気にしてないわ。ほら、立ちなさい」めーたんはヲタとだるまをうながした。
しかし、とはいえ、ここは完全に許してもらえるまで土下座を続けるつもりだった。
この三人が本気になれば、自分たちなど瞬殺される。
「もうわかったから……」ノンティがヲタのジャージの襟をつかんで、上半身をひょいと持ち上げた。その力に、ヲタはまた驚いた。「めーたんも、もうなにもしないよ。ね、めーたん」
「しないわよぉ」めーたんの朝に似つかわしくない、ハスキーだが艶のある声は、たくさんの男の人生を狂わせてきたことをうかがわせた。
「ほらほら、立った立った……」ノンティの誘導に、ヲタはだるまと視線を交わしながら従った。
【つづく】
アニメ業界の話。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1007/26/news010.html
『B★RS』って、『ホビージャパン』の今月号に付いてたやつか。なんと、作品のDVDを配布してるとは……。
各方面からぶったたかれているヤマカンだけど、こういう新しい試みをできるのはすごいなぁと思う。
そういえば、ヤマカンが『けいおん』をdisったとか言われてるけど、おもちゃの首を取っただけじゃん。てゆーか、自分が好きなものをちょっとでも揶揄されると大騒ぎするって精神がよくわからん。そんなに脆弱な魅力しかないのか、『けいおん』って。
自分が好きなら、だれがなんと言おうとそれでいいし、完結できるはずでしょう。それと、好き=全肯定って図式の、「好きのなり方」はいくないと思う(『マジすか学園』の峯岸みなみ風で)。なぜ、好きなら欠点も含めて好き、と言えないのか。AKB48なんて欠点だらけだぞ(笑)。
ヤマカン絡みの話で言えば、宇多丸が指摘した『私の優しくない先輩』のダメな部分、おれは素直に納得できる部分もたくさんあった。でも、彼はやっぱり好き嫌いでモノを言っているところがあると思う。「監督の意図を異常なまでに汲み取ってあげるファン」と揶揄してたけど、宇多丸も、たとえばアニメなら細田守の意図を異常なまでに汲み取ってあげてるし。
いや、別にいいんですよ、「好き嫌い」で言って。それこそが宇多丸の批評の面白さだし。彼にしかできない批評は、彼の個性がそこに入り込んでいるからこそ、のものなわけだから。
ま、それに対して、監督の立場からあれこれ言うのは大人気ないな、とも思うけど(笑)、それをやっちゃうのがヤマカンであり、おれはそういう人、嫌いになれないんだよなぁ。あ。やっぱり、欠点があっても、好きなものは好き、なんだ。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1007/26/news010.html
『B★RS』って、『ホビージャパン』の今月号に付いてたやつか。なんと、作品のDVDを配布してるとは……。
各方面からぶったたかれているヤマカンだけど、こういう新しい試みをできるのはすごいなぁと思う。
そういえば、ヤマカンが『けいおん』をdisったとか言われてるけど、おもちゃの首を取っただけじゃん。てゆーか、自分が好きなものをちょっとでも揶揄されると大騒ぎするって精神がよくわからん。そんなに脆弱な魅力しかないのか、『けいおん』って。
自分が好きなら、だれがなんと言おうとそれでいいし、完結できるはずでしょう。それと、好き=全肯定って図式の、「好きのなり方」はいくないと思う(『マジすか学園』の峯岸みなみ風で)。なぜ、好きなら欠点も含めて好き、と言えないのか。AKB48なんて欠点だらけだぞ(笑)。
ヤマカン絡みの話で言えば、宇多丸が指摘した『私の優しくない先輩』のダメな部分、おれは素直に納得できる部分もたくさんあった。でも、彼はやっぱり好き嫌いでモノを言っているところがあると思う。「監督の意図を異常なまでに汲み取ってあげるファン」と揶揄してたけど、宇多丸も、たとえばアニメなら細田守の意図を異常なまでに汲み取ってあげてるし。
いや、別にいいんですよ、「好き嫌い」で言って。それこそが宇多丸の批評の面白さだし。彼にしかできない批評は、彼の個性がそこに入り込んでいるからこそ、のものなわけだから。
ま、それに対して、監督の立場からあれこれ言うのは大人気ないな、とも思うけど(笑)、それをやっちゃうのがヤマカンであり、おれはそういう人、嫌いになれないんだよなぁ。あ。やっぱり、欠点があっても、好きなものは好き、なんだ。
昨日は某所で、村崎百郎絡みの話をした。
真摯な態度でお話されていて、意見の相違はあっても実に有意義だった。ありがとうございました。
でも、やっぱり、おれは「アンチ唐沢の人たち」(便宜上、ざっくりとまとめてさせてください。すみません)が村崎百郎はいい人と言うのには違和感がある。
村崎百郎は『社会派くんが行く!』で「鬼畜キャラ」を唐沢とともに「演じて」いただけ、という意見が多かったけど、そうかあ? ……と思ってしまう。この『社会派くん~』は書籍化もされているわけで、これは「仕事」だ。
かたや、と学会絡みで唐沢に仕事を回している朝日新聞社の人間もいるが、この人は『検証ブログ』などで叩かれたりしている。
どっちも同じじゃないかなあ。
村崎百郎が「いい人」かどうかは知らない。個人的には『社会派くん~』を読んでもそんな感じは一切ないけど、これは人それぞれの受け止め方があるだろう。
でも、唐沢の盗作が発覚したあと、袂を分かつことをしなかったのは事実だ。
やっぱり「仲間」じゃん。
昨日のやりとりでは、朝日は「癒着」、村崎は「腐れ縁」ではないか、という意見をいただいた。
でも、どっちも同じような意味だと思う。やっぱり、なにかのバイアスがかかっているのでは……?
うーん、なんか、やっぱりよくわからないなぁ……。
真摯な態度でお話されていて、意見の相違はあっても実に有意義だった。ありがとうございました。
でも、やっぱり、おれは「アンチ唐沢の人たち」(便宜上、ざっくりとまとめてさせてください。すみません)が村崎百郎はいい人と言うのには違和感がある。
村崎百郎は『社会派くんが行く!』で「鬼畜キャラ」を唐沢とともに「演じて」いただけ、という意見が多かったけど、そうかあ? ……と思ってしまう。この『社会派くん~』は書籍化もされているわけで、これは「仕事」だ。
かたや、と学会絡みで唐沢に仕事を回している朝日新聞社の人間もいるが、この人は『検証ブログ』などで叩かれたりしている。
どっちも同じじゃないかなあ。
村崎百郎が「いい人」かどうかは知らない。個人的には『社会派くん~』を読んでもそんな感じは一切ないけど、これは人それぞれの受け止め方があるだろう。
でも、唐沢の盗作が発覚したあと、袂を分かつことをしなかったのは事実だ。
やっぱり「仲間」じゃん。
昨日のやりとりでは、朝日は「癒着」、村崎は「腐れ縁」ではないか、という意見をいただいた。
でも、どっちも同じような意味だと思う。やっぱり、なにかのバイアスがかかっているのでは……?
うーん、なんか、やっぱりよくわからないなぁ……。
いや、いい意味でも悪い意味でもね(笑)。
昨日放送のTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』内の『シネマハスラー』コーナーで『私の優しくない先輩』が取り上げられたことについて、早速ブログに書いている。
http://wind.ap.teacup.com/kanku1974/
以前、町山智浩と『ハートロッカー』を巡って論争したみたいに、ぜひとも直接対決してほしい。
昨日放送のTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』内の『シネマハスラー』コーナーで『私の優しくない先輩』が取り上げられたことについて、早速ブログに書いている。
http://wind.ap.teacup.com/kanku1974/
以前、町山智浩と『ハートロッカー』を巡って論争したみたいに、ぜひとも直接対決してほしい。
■秋に出す競馬本の締め切りは3週間後。なんとかなるかな。
■まだまだ早起きできない。昨日は22時に寝たのに、05時40分まで布団から出られなかった……。連日の暑さで、ガッツリと体力もっていかれてるからその分寝ないといけないんだろうけど、これじゃあ原稿書けないね。
■日曜は『インセプション』見に行こうかな。
■「モテキ」という言葉を聞くとイライラする。そんなもん、あるわけねぇのに、いつのまにあることになってるんだ?
■外部ブログのアクセス数が少しずつ伸びている。『マジすか』絡みのが多いみたい。
■唐沢俊一が言及したことで、関連のブログで新井素子の話題が出た。高校生時代にハマっていた友人に薦められて何冊か読んだけど、おれにはまったく合わなかった。しかも、その後にあちこちで、例の「ぬい」の件を見かけ、「この人、大丈夫か?」と感じて以来、もう新井素子には触れていない。みんな、どうしてこれにツッコミを入れないのか不思議。いや、入れられているのかもしれないけど。
■mixiの神社関連のコミュに入ってみたけど、案の定、パワースポットという単語が……。いや、どう捉えようといいけど、その集団に自分から入っているということはそれを認めることになるんじゃないか、とか、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかとか、あれこれ葛藤してる。
この際書いておくと、おれは神様とかはいないと思ってる。
てゆーか、いない。どん
……指原莉乃ブログの真似をしてみた。
きっと神社にお参りしている人のほとんどは、本気で神様がいるなんて思っていないと思う。でも、日本人は二千年くらいのあいだ、「そういうこと」にしているのだ。フィクションを共有することによって共同体の結束を深められ、実害がないのなら問題ない(キリスト教は実害があるので嫌い)。そして、おれのように神を信じていない者が行っても、神社にしか存在しない空気に酔わされる。それを構成しているのが、あの建築美だ。特に鳥居。あれがあることで異界との境界がはっきりとし、独特の空気を作っている。
ま、どうでもいいか、そんなこと。
■再び、iPhone買うか、悩み中。周りに持っている人がいないので感想を聞けない。ナビのアプリに魅力的なものがあるんだよなぁ……。東京都の神社を網羅したナビとかあったら買ってしまいそう(笑)。
■大島麻衣は女高田純次になれると思う。
■んな感じ。
■まだまだ早起きできない。昨日は22時に寝たのに、05時40分まで布団から出られなかった……。連日の暑さで、ガッツリと体力もっていかれてるからその分寝ないといけないんだろうけど、これじゃあ原稿書けないね。
■日曜は『インセプション』見に行こうかな。
■「モテキ」という言葉を聞くとイライラする。そんなもん、あるわけねぇのに、いつのまにあることになってるんだ?
■外部ブログのアクセス数が少しずつ伸びている。『マジすか』絡みのが多いみたい。
■唐沢俊一が言及したことで、関連のブログで新井素子の話題が出た。高校生時代にハマっていた友人に薦められて何冊か読んだけど、おれにはまったく合わなかった。しかも、その後にあちこちで、例の「ぬい」の件を見かけ、「この人、大丈夫か?」と感じて以来、もう新井素子には触れていない。みんな、どうしてこれにツッコミを入れないのか不思議。いや、入れられているのかもしれないけど。
■mixiの神社関連のコミュに入ってみたけど、案の定、パワースポットという単語が……。いや、どう捉えようといいけど、その集団に自分から入っているということはそれを認めることになるんじゃないか、とか、そんなに深く考えなくてもいいんじゃないかとか、あれこれ葛藤してる。
この際書いておくと、おれは神様とかはいないと思ってる。
てゆーか、いない。どん
……指原莉乃ブログの真似をしてみた。
きっと神社にお参りしている人のほとんどは、本気で神様がいるなんて思っていないと思う。でも、日本人は二千年くらいのあいだ、「そういうこと」にしているのだ。フィクションを共有することによって共同体の結束を深められ、実害がないのなら問題ない(キリスト教は実害があるので嫌い)。そして、おれのように神を信じていない者が行っても、神社にしか存在しない空気に酔わされる。それを構成しているのが、あの建築美だ。特に鳥居。あれがあることで異界との境界がはっきりとし、独特の空気を作っている。
ま、どうでもいいか、そんなこと。
■再び、iPhone買うか、悩み中。周りに持っている人がいないので感想を聞けない。ナビのアプリに魅力的なものがあるんだよなぁ……。東京都の神社を網羅したナビとかあったら買ってしまいそう(笑)。
■大島麻衣は女高田純次になれると思う。
■んな感じ。
映画『私の優しくない先輩』、今年見たアイドル映画の中では最高の出来でした。川島海荷かわいい!!!
ヤマカン初の実写映画ということで期待半分だったけど、けっこうちゃんとしてるじゃん。2010年代の『時かけ』は言い過ぎかもしれないけど、テイストはある。ヤマカンはきっと嬉しく思わないだろうけど、『ハルヒ』テイストも存分に味わえる。ヤマカン=モノローグというパターンを、今後踏襲するのかはわからないけど……。
アイドル映画はとにかく主演の子が魅力的に描かれていることが絶対条件なんだけど、この作品はそれをあっさりとクリアしている。ま、モノローグは反則っぽいとも思うけどヤマカンなら仕方ない(笑)。
川島は卑怯なくらいにかわいい。欲を言えば、もう少しエロさを表現してほしかった。ヤマカンならできるはず。あの年代にしか出せないエロさをフィルムに焼き付けることこそ、アイドル映画の務めだ(その最高傑作が大林版『時をかける少女』)。
先ほど、川島=キョンと書いたけど、実は川島はキョンと決定的にちがう点がある。キョンがほとんど自分のことを語らないのに対し、川島は自分のことしか語らない。いわゆる「セカイ系」の特徴なのかもしれないが、どちらもライトノベル的発想であるこの対比は面白い。ま、『ハルヒ』は究極の「セカイ系」なんだけど。
キョンがある種、神的視点からのモノローグだとすると、川島は私的視点に終始している。キョンは自分以外にツッコミを入れるが、川島は自分にツッコミを入れる。
それとも関連するけど、川島の醜い部分の描き方については、ちょっと足らなさを感じた。川島の毒が発揮されるのは児玉に対してだけ。せっかく家族を出したのだから、そこでの醜さも描いてほしかった。両親ともに「いい人」感丸出しで、そこに甘さが感じられる。
お笑い芸人の主演作では、今年は『ヒーローショー』のジャルジャルが印象深い。そこでは二人は普段とはまるで違った役柄を与えられているが、本作の金田はあくまでも金田でしかないのは気になった。彼がテレビで見せている動きが映画でも再現されている。もちろん、違うイメージの役をやらせればいいというものでもないけど、本作ではマイナスの効果になっていると感じた。
自分のセカイとちがう常識を持つ者によって正論めいたことを説教されるというパターンはいろんなジャンルで見られるが、ほどほどにしないとやかましい。本作は少し、やかましく聞こえた。
他にも、不満もなくはない。最後のほうで観念的な映像の連続になるあたりは特に。ああいうの、もういいよって感じがする。あいまいなまま終わらせるのも「いくないと思う」(『マジすか学園』の峯岸みなみ風に)。
けれども、何度も書くように、とにかく川島海荷はかわいい。それだけでアイドル好きの人は見るべき作品だ。
東京では新宿と台場でしか上映してないけど、またヤマカンが映画を撮れるくらい儲かってほしいデス。
ヤマカンのインタビュー↓
http://closeup-nettube.livedoor.biz/archives/3378178.html
ヤマカン初の実写映画ということで期待半分だったけど、けっこうちゃんとしてるじゃん。2010年代の『時かけ』は言い過ぎかもしれないけど、テイストはある。ヤマカンはきっと嬉しく思わないだろうけど、『ハルヒ』テイストも存分に味わえる。ヤマカン=モノローグというパターンを、今後踏襲するのかはわからないけど……。
アイドル映画はとにかく主演の子が魅力的に描かれていることが絶対条件なんだけど、この作品はそれをあっさりとクリアしている。ま、モノローグは反則っぽいとも思うけどヤマカンなら仕方ない(笑)。
川島は卑怯なくらいにかわいい。欲を言えば、もう少しエロさを表現してほしかった。ヤマカンならできるはず。あの年代にしか出せないエロさをフィルムに焼き付けることこそ、アイドル映画の務めだ(その最高傑作が大林版『時をかける少女』)。
先ほど、川島=キョンと書いたけど、実は川島はキョンと決定的にちがう点がある。キョンがほとんど自分のことを語らないのに対し、川島は自分のことしか語らない。いわゆる「セカイ系」の特徴なのかもしれないが、どちらもライトノベル的発想であるこの対比は面白い。ま、『ハルヒ』は究極の「セカイ系」なんだけど。
キョンがある種、神的視点からのモノローグだとすると、川島は私的視点に終始している。キョンは自分以外にツッコミを入れるが、川島は自分にツッコミを入れる。
それとも関連するけど、川島の醜い部分の描き方については、ちょっと足らなさを感じた。川島の毒が発揮されるのは児玉に対してだけ。せっかく家族を出したのだから、そこでの醜さも描いてほしかった。両親ともに「いい人」感丸出しで、そこに甘さが感じられる。
お笑い芸人の主演作では、今年は『ヒーローショー』のジャルジャルが印象深い。そこでは二人は普段とはまるで違った役柄を与えられているが、本作の金田はあくまでも金田でしかないのは気になった。彼がテレビで見せている動きが映画でも再現されている。もちろん、違うイメージの役をやらせればいいというものでもないけど、本作ではマイナスの効果になっていると感じた。
自分のセカイとちがう常識を持つ者によって正論めいたことを説教されるというパターンはいろんなジャンルで見られるが、ほどほどにしないとやかましい。本作は少し、やかましく聞こえた。
他にも、不満もなくはない。最後のほうで観念的な映像の連続になるあたりは特に。ああいうの、もういいよって感じがする。あいまいなまま終わらせるのも「いくないと思う」(『マジすか学園』の峯岸みなみ風に)。
けれども、何度も書くように、とにかく川島海荷はかわいい。それだけでアイドル好きの人は見るべき作品だ。
東京では新宿と台場でしか上映してないけど、またヤマカンが映画を撮れるくらい儲かってほしいデス。
ヤマカンのインタビュー↓
http://closeup-nettube.livedoor.biz/archives/3378178.html
■明日は、初めてスタジオ借り切って撮影。といってもwetじゃなくてパンチラなんだけど。スタジオには照明設備があるらしいので、持っていくものは衣装とカメラくらいですむのがいい。でも、どんな感じのところかわからないので不安です。あと、うまく撮れるかどうかも。新しく買った30ミリのレンズを、初の実戦投入だ。
■コンビニのトイレで「従業員に声をかけてから~」という張り紙とかしてあるところって、なんか入りたくないなぁ。いちいち声かけてどうするのか? 「ダメです」とか言うときがあるわけでもないだろうに。借りるんだから礼くらい言え、という道徳的指導なのか? 教えて、えらい人!!!
■油そばが好き。特に中野の『高山麺工房』は超絶オススメ。
■『ラットマン』って小説読んだけど、それほどでもなかった。どんでん返しがくどい。J・ディーヴァーの最近の作品もその傾向が強い。なので、この手のはもう辟易です。
■最近、朝、起きられない。4時に目覚ましをセットしているけど止めてしまう。それから5時と6時に携帯電話のアラームがなるけど、これでもかなり厳しい。夜もそんなに遅くまで起きているわけではないのに……。
■『マジすか学園』の小説、次のは先になりそう。だって、まだ一文字も書いてないし(笑)。そろそろ秋に出る競馬本の原稿も書かなくちゃいけないし、撮り溜めた写真も公開していかないと……。
■んな感じ。
■コンビニのトイレで「従業員に声をかけてから~」という張り紙とかしてあるところって、なんか入りたくないなぁ。いちいち声かけてどうするのか? 「ダメです」とか言うときがあるわけでもないだろうに。借りるんだから礼くらい言え、という道徳的指導なのか? 教えて、えらい人!!!
■油そばが好き。特に中野の『高山麺工房』は超絶オススメ。
■『ラットマン』って小説読んだけど、それほどでもなかった。どんでん返しがくどい。J・ディーヴァーの最近の作品もその傾向が強い。なので、この手のはもう辟易です。
■最近、朝、起きられない。4時に目覚ましをセットしているけど止めてしまう。それから5時と6時に携帯電話のアラームがなるけど、これでもかなり厳しい。夜もそんなに遅くまで起きているわけではないのに……。
■『マジすか学園』の小説、次のは先になりそう。だって、まだ一文字も書いてないし(笑)。そろそろ秋に出る競馬本の原稿も書かなくちゃいけないし、撮り溜めた写真も公開していかないと……。
■んな感じ。
■ここ数日、睡眠は8時間以上とっているけど、イマイチな体調です。風邪、おそるべし。
■ゆうぱっくの遅配。やっぱりなぁ、という感じ。以前、郵便の配達間違いがあって以来、おれは郵便局を信用してないから、小包はすべてヤマト便で送っている。手紙ひとつ満足に配達できない連中が、合併するだのなんだの十年早いっての(たけし?)。これからもゆうぱっくは使わねぇからいいけど。みんなもやめたほうがいいよ。
■おれの中の神社ブーム、まだまだ続く予感。本もいろいろ買って勉強してる。いま一番行きたいのは熊野神社で、ただいま旅行計画中デス。あ。ちなみに、パワースポットとかそういうのは関係ないから、おれには。そーゆーこと言ってるスピリチュアルバカには心底腹が立つYO! 鳥居の下に、訳知り顔で立って目を閉じてなにかを受け取っているような手の動きをしているやつ、何度も見たが死ねばいいのにと思う(そこまで言うことねえだろ)。
■そんな中、小樽の水天宮にも行ってきた。これがすげぇ高台にある。同行者がひいひい言っていたよ。ごめんなさい。平日の昼間だからなのかだれもいなくて拝殿も薄暗くて気持ち悪くて、お参りせずに帰ってしまった(失礼)。でも、港を見晴らせるのは気持ちいいし、静かな場所なので穴場スポットかも。社務所が空いてればなに記念に買おうと思ったけどやってねぇし。
■『すっぽんの女たち』の、佐藤と野呂ちゃんがパンストを着用しだしたのはすばらしい!!!
■日曜は『踊る大捜査線3』と『ハングオーバー』を見に行きます。『ハングオーバー』のほうが面白いに決まってるけど、『踊る3』は宇多丸がシネマハスラーで取り上げるし、あえて地雷映画も見ておきたいしね。すでに見た尾久セントラルくんによると、だれも成長しないドラマとのこと。じゃあ、見る価値ないじゃん~。でも、ファンが求めているのはそういう、『サザエさん』とか『ちびまる子ちゃん』的なものなんだろうなあ。って、見る前からこのテンションなのかよ、おれ。
■アラン・ムーアの本、買ったはいいが読んでないのがまだ2冊もある。あ。ジョージ秋山のもだ。
■ヤクザは相撲を見ることさえダメなのか?
■んな感じ。
■ゆうぱっくの遅配。やっぱりなぁ、という感じ。以前、郵便の配達間違いがあって以来、おれは郵便局を信用してないから、小包はすべてヤマト便で送っている。手紙ひとつ満足に配達できない連中が、合併するだのなんだの十年早いっての(たけし?)。これからもゆうぱっくは使わねぇからいいけど。みんなもやめたほうがいいよ。
■おれの中の神社ブーム、まだまだ続く予感。本もいろいろ買って勉強してる。いま一番行きたいのは熊野神社で、ただいま旅行計画中デス。あ。ちなみに、パワースポットとかそういうのは関係ないから、おれには。そーゆーこと言ってるスピリチュアルバカには心底腹が立つYO! 鳥居の下に、訳知り顔で立って目を閉じてなにかを受け取っているような手の動きをしているやつ、何度も見たが死ねばいいのにと思う(そこまで言うことねえだろ)。
■そんな中、小樽の水天宮にも行ってきた。これがすげぇ高台にある。同行者がひいひい言っていたよ。ごめんなさい。平日の昼間だからなのかだれもいなくて拝殿も薄暗くて気持ち悪くて、お参りせずに帰ってしまった(失礼)。でも、港を見晴らせるのは気持ちいいし、静かな場所なので穴場スポットかも。社務所が空いてればなに記念に買おうと思ったけどやってねぇし。
■『すっぽんの女たち』の、佐藤と野呂ちゃんがパンストを着用しだしたのはすばらしい!!!
■日曜は『踊る大捜査線3』と『ハングオーバー』を見に行きます。『ハングオーバー』のほうが面白いに決まってるけど、『踊る3』は宇多丸がシネマハスラーで取り上げるし、あえて地雷映画も見ておきたいしね。すでに見た尾久セントラルくんによると、だれも成長しないドラマとのこと。じゃあ、見る価値ないじゃん~。でも、ファンが求めているのはそういう、『サザエさん』とか『ちびまる子ちゃん』的なものなんだろうなあ。って、見る前からこのテンションなのかよ、おれ。
■アラン・ムーアの本、買ったはいいが読んでないのがまだ2冊もある。あ。ジョージ秋山のもだ。
■ヤクザは相撲を見ることさえダメなのか?
■んな感じ。
■特訓1-1■
修学旅行で使ったスポーツバッグの中に、一週間は寝泊りできるだけの荷物を入れ、ヲタはその神社にやってきた。
拝殿と神殿は小高い山の山頂にあるため、そこに行くためには三〇〇段の階段を登らなければならなかった。大きなバッグを抱えての「登山」はきつかった。昇りきったころには呼吸もままならず、ヲタは鳥居をくぐった直後に倒れてしまった。
「なんや、もうヘバったんか?」鬼塚だまるの声がした。「さすが学年最下位の体力やな」
空を見上げると、だるまが覗き込んでいた。手には串に刺さったたこ焼きを持っている。
「――おめぇ、よく、こんなとこ、平気で登れる、な……」息も絶え絶えに言った。
「なに言うてんのや。これから、毎日、ここを十往復するんやで」
「十回も?」
「強くなりたいんやろ?」だまるは人懐っこい笑顔を浮かべた。
ヲタはだるまに「合宿」を頼んだことを、少し後悔した。
「さ。立ちあがるんや」だまるはヲタの手をつかむ。それは想像以上の腕力で、ヲタは驚きとともに引き上げられた。
「おめぇ、力あるな」ヲタはジャージについた土や砂をはらった。
「まだまだや。これでも、あつ姐にはとても敵わん」
ヲタはバッグを持って、拝殿に向かうだるまに続いた。
マジ女からほど近いこの神社は、山の上にあるせいか訪れる者も少ない。手水舎も社務所も今は使われておらず、日中でも人気はほとんどなかった。見晴らしがいいのだけが長所で、北には山が、南にはマジ女の校舎が見える。ヲタはそれを一瞥した。そろそろ登校してくる生徒もいるはずの時間だ。四人のことが頭に浮かんだが、ヲタはすぐにそれをかき消した。
「今日から最低一週間はお世話になるんや。まずは神さんに参拝せなあかんで」
「こんなボロい神社に神様なんていんのかよ」
「ボロは着てても心は錦、言うやろ」
「そのたとえ、ちょっと違わねぇか?」
拝殿の表に再び回り、二人は階段を登った。バッグは階段の横に置いた。
「ほんまは手水で清めなあかんのやけど、あっこはもう涸れとるから省略や」そしてだるまは、ヲタに向かって手のひらを差し出した。「賽銭出せ」
「なんでおれが?」
「おまえのための特訓やないか。早よせぇや」
ヲタはジャージのポケットから小銭の入った財布を取り出した。ファスナーを開けると、だるまの手がすかさず伸びて、中から五〇〇円玉をつまんだ。
「あっ。てめぇ……」
「神さんは、ケチは嫌いやで」言うが早いか、だるまはそれをさっと賽銭箱に投げた。五〇〇円玉は威勢のいい音を立てて、仕切り板の奥へ消えていった。
「――ちょっ……もぉ、ふざけんなよ……」ヲタは消え入るような声で言って、自分は十円玉をつかんだ。だが、だるまの言葉が気になって、もう一枚だけあった五〇〇円玉を取り出し、断腸の思いでそれを放った。
ヲタはだるまが二拝ニ拍手一拝するのを、見よう見まねで倣った。手を合わせ、目を閉じると、また四人のことを思い出した。
神など信じてはいないが、作法に則っると敬虔な気持ちになるのは不思議だった。
「さ。これで神さんへの挨拶はすんだ。早速、始めるで」だるまは階段を下りた。「なにしろおまえは基本的な体力がなさすぎや。パンチだのキックだの言う前に、まずは足腰を鍛えな、はじまらん」
「それで階段十往復か?」
「そや」
「だけど、そんなの、マジ無理だって」
「ええから、早よ、こいや……」面倒くさくなったのか、だるまはヲタの手を引いて、麓へ続く階段を下りはじめた。
ヲタはだまるに引っ張られながら、彼女に「特訓」を頼んだことを後悔しはじめた。
バカの一つ覚えみたいにいつも「あつ姐っ」と前田にくっつき、役に立たないボディーガードを気取ってはいるものの、ヲタはだるまに対して尊敬に似た思いを持っていた。前田当人に鬱陶しいと感じられようと、それを貫くところはすごい(とは言え、自分が前田の立場なら、だまるをボコボコにしていただろう)。
また、過去の自分にけじめをつけるため勝ち目の薄いシブヤと闘ったことや、山篭りをしたことなどにも、ヲタは密かに感動していた。そんなことを言えばチームホルモンのメンバーにからかわれるかもしれなかったから、それを口にはしなかったが。
だるまはヲタに、結果がすべてではないことを教えてくれた。
もちろん、本人が意図したわけではなく、ヲタが勝手にそう受け取っただけだ。負けても負けても、だるまは絶望しない。不屈の精神で立ち向かう。最初はだるまをウザいと思っていたにちがいない前田も、やがてだるまに絆されたのは、そうしただるまの一途さゆえからだろう。
プリクラに負け、チームホルモンを解散したヲタに、守るべきものは残っていなかった。自分にどれだけ変化があろうと日常はそれまで通りに訪れた。朝、同じ電車の同じ車両に乗る顔ぶれは変わらない。クラスの喧騒も、授業の光景も、夕日も、なにもかも変わってはいない。ただ、自分だけが世界から突出してしまったような感覚があるだけだった。
旧チームホルモンのメンバーたちは、昼休みや放課後に、プリクラの純情堕天使のメンバーと混じって学内を巡回しているようだった。ケンカ別れをしたわけではないので、ヲタは四人に会えば挨拶はする。だが、そこまでだった。自分はもう、チームホルモンのメンバーではない。話し込めば、リーダーだったころの口調と態度になるだろう。それはしたくなかった。メンバーたちも、それは察してくれているようで、必要以上に話すことはなかった。
それを察知したらしいだまるがヲタに声をかけてきたのは、プリクラに負けた三日後の放課後だった。だるまは階段を下りるヲタの肩を抱いてきた。「お前ら、最近つるんでないやんか。ケンカでもしたんか?」
「ケンカじゃねぇけど……」ヲタは答えた。「まあ、いろいろあってな……」
授業中のホルモンタイムはもうなくなっていた。四人はダベるわけでもなく、とりあえずは授業を受けているように見えた。ヲタもなにもすることがないので、仕方なく教師の話を聞いていた。もっとも、小腹が空けば教室の後ろにある湯沸しポットで給湯し、カップ麺を食べてはいた。
「オレでよかったら、相談乗るで……」
「いや、もう解決したんだ」
「ならええけど……」
だまるは納得いかない様子だった。
とはいえ、だまるに少し傾倒しているヲタは、その気遣いに感心した。だるまになら話してもいいかもしれない、とも思った。チームホルモンが解散したことは遅かれ早かれだるまの耳にも入るだろう。それなら自分から先に言っておいたほうが気が楽だ。だれかに一連の顛末を聞いてほしかった、という気持ちもあった。
「あのな……」ヲタは立ち止まった。「聞いてくれるか」
「なんでも聞くで」だるまは笑顔になった。間近で見るその表情は迫力満点で、ちょっと怖くて気持ち悪かった。
ヲタはだるまを誘い、いつもの親水公園に行った。途中で買ったたこ焼きをつまみながら、ヲタはすべてを話した。できるだけ客観的に説明したつもりだが、だるまがどう感じたのかはわからない。だるまは茶化すこともなく、黙ってヲタの話に耳を傾けた。
「そういうことやったんか。そんなら話は簡単やで」
「なにが?」
「つまり、おまえが朝日に勝てばええんや」
「朝日に?」
「そうすればおまえは自信を取り戻せる。リーダーとしてふさわしい自信と実力を手にすれば、またチームホルモンは復活できるかもしれんやないか」
「それは無理だ。おれ……弱ぇえし」
「だから強くなるんや」
「どうやって?」
「特訓しかあらへんやろ。オレがシブヤと戦うときにしたように……」
「でも、おめえ、負けたんだろ?」
「あつ姐は、オレが勝ったと言ってくれたで。シブヤのアジトからオレを運んでくれたあとで……。感動の名場面や」
「いや、それ、おまえを慰めるために言ったんだって。そんなこともわかんねぇのかよ」
「あつ姐の言うことは正しいんや。だから、オレは勝ったんや……」
「――わかったわかった。そういうことにしとくよ」
「なら、おまえもやるな? 特訓」
ヲタはそれも悪くない、と思い始めていた。自分には、もう失うものはない。それにもし、特訓の成果で朝日を倒せれば、それはさぞかし爽快だろう。
なにより――「特訓」とは燃える響きではないか。
「けど、おめえは前田にひっついてなくていいのかよ?」
「あつ姐はもう大丈夫や。サドとのタイマンにも勝ったいま、あつ姐はマジ女最強や。手ェ出す奴はおらへんやろ」
たしかにそれには一理ある、とヲタは思った。いまや、「マジ女最強」は前田であることに異論のある者はいないだろう。全盛期の大島優子が相手ならどうなったかはわからないが、架空の話をしても意味はない。
ヲタはだるまの誘いに乗った。
だるまがシブヤとタイマンを張る前に特訓をしたというこの神社に一週間泊り込み、特訓をおこなう計画だ。その間、学校には行かない。ヲタもだまるも、授業をきちんと受けているかはともかく、登下校だけはちゃんとしていた。そのため、一週間程度休んだところで問題はない。学校には病欠と一報を入れてある。仮病だとわかったところでお咎めもないだろう。
階段は登るほうがキツいと思っていたヲタは、早くもその決めつけを粉砕された。
登るだけで疲労困憊したヲタの脚はわずかに震えていて、一段降りるごとにそれは増した。太ももの筋肉も痛んだ。かばおうとすると体が前方に傾き、転落しそうになる。ヲタは階段の真ん中にある手すりにつかまりながら、だるまに続いた。
「なんや、たらたらたらたら……」振り返っただるまがあきれたように言った。
「うるせぇ。体がついていかねぇんだからしょうがねぇだろ」
「普段、運動してない証拠や。ま、最初の二三日は筋肉痛で寝られんやろな」
「マジかよ……」
「しゃべる元気があったら脚に回せや」
だるまはまた階段を下り始めた。ヲタは仕方なく、それに続いた。
途中で何人かとすれ違った。腰が曲がっていてもおかしくない年代の人ばかりだったが、十七歳の自分以上に軽い足取りで階段を登っていくさまに、ヲタは驚いた。ラフな格好をしているから、おそらくは毎朝お参りしているのだろう。なるほど、この階段を何十年も上り下りしていれば自然と足腰が強化されるはずだ。
やっとの思いで下山したころには、ヲタは汗だくになっていた。手すりにつかまり、肩で息をする。喉が渇いた。なにか飲みたいが、ペットボトルに入ったミネラルウォーターは上にある。三〇〇段登らなければ飲むことはできない。
一回往復しただけで、これだけの体力を消耗してしまうとは思いもよらなかった。
「おまえ、どんだけ弱いねん」だまるは息ひとつ上がっていない。近所を散歩してきたというくらいのテンションだ。「そりゃ、プリクラにも負けるわけや」
「うる……せ……え……」
「さ。今度は登るで」
「ちょっ……ちょっと……休……憩……」
「休憩なんてあらへんっ」だまるが急に強い口調になった。「そうやって、辛いことから逃げまわってきたツケが、いま、おまえが感じてる辛さなんやっ。それからも逃げるんなら、いますぐ帰れや」
「――わぁった……よ……」
ヲタは手すりから離れ、歩き出した。今度はだるまは後ろからついてくる。もし自分が転がったら受け止めてくれるのだろうか。だるまの体型や力なら、それもできそうだ。
もちろん上りも、地獄のような苦しさだった。ついさっき、下りのほうがキツいなどと考えた自分を呪いたくなった。なにが下りはキツいだ。上るほうがずっと辛いに決まっている。その証拠に、さっきよりも太ももの筋肉が痛くなってきた。足首から先が、まるで鉄下駄を履いているように重い。もっとも、鉄下駄など履いたことはなく、あくまでイメージだが。
――二十、二十一、二十二、二十三……って、まだ三十段も行ってないのか……。
「キツかったら、手すりを掴みながらでもええで」
ヲタはだるまの言う通りにした。それでも脚が笑って、思うように動かなかった。
気温が高くなく、湿気もそれほどなかったのは幸いだ。これが真夏なら確実に倒れているところだった。
一〇〇段を越えたあたりで、ヲタは数えるのをやめた。数えたって意味はない。三〇〇は三〇〇だ。終わるときは必ず来る。それよりも、次の一歩を確実に前に出すことこそが重要だと思った。
だるまの言う通り、これは「ツケ」だ。自分はなにもしてこなかった。辛いことがあれば逃げ、逃げられないときは心を空にして、ただひたすら時が過ぎるのを待った。なにも生み出さず、なにも成長させなかった。毎日をだらだらと過ごし、明日も今日と同じ日が来ると無根拠に考えていた。その「ツケ」が、朝日とプリクラに負けるという具体的な現象として、ヲタだけではなく、仲間たちをも巻き込むかたちで訪れた。
今度こそ、変わらなければならない。
山頂の鳥居の笠木の部分が見えてきた。もう少しだ。
自分の息が間近で聞こえる。
体力は限界に来ていたが、なぜか自分の息遣いが支えになった。生きている実感があったからかもしれない。そういえば、プリクラと闘っているときも、生の実感に満ちていた。殴られて痛かったが、あれはとても充実した時間だった。
そして今も。
鳥居の貫、柱、藁座が順番に見えてきて、亀腹と台石が現れたときには、ヲタは思わず駆けだしていた。そんな体力があるとは思わず、ヲタは自分のとった行動に驚いた。
鳥居をくぐっても、さっきのように倒れこんだりはしなかった。柱に手をついてはいたものの、二本の脚でしっかりと立っていられた。
うつむいた顔の額からは滝のように汗が流れ、石畳の上に黒い点をいくつも描いた。
一陣の風が吹き、ヲタの髪を揺らした。
――生きてるんだな、おれは。
ヲタはこれまで感じたことのない充実感に満たされていた。
「よく登りきったな。少し見直したで」だまるが後ろから肩を抱いてきた。
少しかよ、と言おうとしたが声にならず、ヲタは深く頷いた。
「水、持ってきてやるで……」
だるまがそう言って歩き出したときだった。背後から、見知らぬ女の声が聞こえた。
「あんたら、マジ女の生徒?」
「ぁあ? だったらなんやねん?」だるまが声を荒げた。
ヲタが振り返ると、そこには三人の女が立っていた。
【つづく】
※今日から旅行に行くので、次回の『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』の更新はけっこう遅れます。すみません。
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
修学旅行で使ったスポーツバッグの中に、一週間は寝泊りできるだけの荷物を入れ、ヲタはその神社にやってきた。
拝殿と神殿は小高い山の山頂にあるため、そこに行くためには三〇〇段の階段を登らなければならなかった。大きなバッグを抱えての「登山」はきつかった。昇りきったころには呼吸もままならず、ヲタは鳥居をくぐった直後に倒れてしまった。
「なんや、もうヘバったんか?」鬼塚だまるの声がした。「さすが学年最下位の体力やな」
空を見上げると、だるまが覗き込んでいた。手には串に刺さったたこ焼きを持っている。
「――おめぇ、よく、こんなとこ、平気で登れる、な……」息も絶え絶えに言った。
「なに言うてんのや。これから、毎日、ここを十往復するんやで」
「十回も?」
「強くなりたいんやろ?」だまるは人懐っこい笑顔を浮かべた。
ヲタはだるまに「合宿」を頼んだことを、少し後悔した。
「さ。立ちあがるんや」だまるはヲタの手をつかむ。それは想像以上の腕力で、ヲタは驚きとともに引き上げられた。
「おめぇ、力あるな」ヲタはジャージについた土や砂をはらった。
「まだまだや。これでも、あつ姐にはとても敵わん」
ヲタはバッグを持って、拝殿に向かうだるまに続いた。
マジ女からほど近いこの神社は、山の上にあるせいか訪れる者も少ない。手水舎も社務所も今は使われておらず、日中でも人気はほとんどなかった。見晴らしがいいのだけが長所で、北には山が、南にはマジ女の校舎が見える。ヲタはそれを一瞥した。そろそろ登校してくる生徒もいるはずの時間だ。四人のことが頭に浮かんだが、ヲタはすぐにそれをかき消した。
「今日から最低一週間はお世話になるんや。まずは神さんに参拝せなあかんで」
「こんなボロい神社に神様なんていんのかよ」
「ボロは着てても心は錦、言うやろ」
「そのたとえ、ちょっと違わねぇか?」
拝殿の表に再び回り、二人は階段を登った。バッグは階段の横に置いた。
「ほんまは手水で清めなあかんのやけど、あっこはもう涸れとるから省略や」そしてだるまは、ヲタに向かって手のひらを差し出した。「賽銭出せ」
「なんでおれが?」
「おまえのための特訓やないか。早よせぇや」
ヲタはジャージのポケットから小銭の入った財布を取り出した。ファスナーを開けると、だるまの手がすかさず伸びて、中から五〇〇円玉をつまんだ。
「あっ。てめぇ……」
「神さんは、ケチは嫌いやで」言うが早いか、だるまはそれをさっと賽銭箱に投げた。五〇〇円玉は威勢のいい音を立てて、仕切り板の奥へ消えていった。
「――ちょっ……もぉ、ふざけんなよ……」ヲタは消え入るような声で言って、自分は十円玉をつかんだ。だが、だるまの言葉が気になって、もう一枚だけあった五〇〇円玉を取り出し、断腸の思いでそれを放った。
ヲタはだるまが二拝ニ拍手一拝するのを、見よう見まねで倣った。手を合わせ、目を閉じると、また四人のことを思い出した。
神など信じてはいないが、作法に則っると敬虔な気持ちになるのは不思議だった。
「さ。これで神さんへの挨拶はすんだ。早速、始めるで」だるまは階段を下りた。「なにしろおまえは基本的な体力がなさすぎや。パンチだのキックだの言う前に、まずは足腰を鍛えな、はじまらん」
「それで階段十往復か?」
「そや」
「だけど、そんなの、マジ無理だって」
「ええから、早よ、こいや……」面倒くさくなったのか、だるまはヲタの手を引いて、麓へ続く階段を下りはじめた。
ヲタはだまるに引っ張られながら、彼女に「特訓」を頼んだことを後悔しはじめた。
バカの一つ覚えみたいにいつも「あつ姐っ」と前田にくっつき、役に立たないボディーガードを気取ってはいるものの、ヲタはだるまに対して尊敬に似た思いを持っていた。前田当人に鬱陶しいと感じられようと、それを貫くところはすごい(とは言え、自分が前田の立場なら、だまるをボコボコにしていただろう)。
また、過去の自分にけじめをつけるため勝ち目の薄いシブヤと闘ったことや、山篭りをしたことなどにも、ヲタは密かに感動していた。そんなことを言えばチームホルモンのメンバーにからかわれるかもしれなかったから、それを口にはしなかったが。
だるまはヲタに、結果がすべてではないことを教えてくれた。
もちろん、本人が意図したわけではなく、ヲタが勝手にそう受け取っただけだ。負けても負けても、だるまは絶望しない。不屈の精神で立ち向かう。最初はだるまをウザいと思っていたにちがいない前田も、やがてだるまに絆されたのは、そうしただるまの一途さゆえからだろう。
プリクラに負け、チームホルモンを解散したヲタに、守るべきものは残っていなかった。自分にどれだけ変化があろうと日常はそれまで通りに訪れた。朝、同じ電車の同じ車両に乗る顔ぶれは変わらない。クラスの喧騒も、授業の光景も、夕日も、なにもかも変わってはいない。ただ、自分だけが世界から突出してしまったような感覚があるだけだった。
旧チームホルモンのメンバーたちは、昼休みや放課後に、プリクラの純情堕天使のメンバーと混じって学内を巡回しているようだった。ケンカ別れをしたわけではないので、ヲタは四人に会えば挨拶はする。だが、そこまでだった。自分はもう、チームホルモンのメンバーではない。話し込めば、リーダーだったころの口調と態度になるだろう。それはしたくなかった。メンバーたちも、それは察してくれているようで、必要以上に話すことはなかった。
それを察知したらしいだまるがヲタに声をかけてきたのは、プリクラに負けた三日後の放課後だった。だるまは階段を下りるヲタの肩を抱いてきた。「お前ら、最近つるんでないやんか。ケンカでもしたんか?」
「ケンカじゃねぇけど……」ヲタは答えた。「まあ、いろいろあってな……」
授業中のホルモンタイムはもうなくなっていた。四人はダベるわけでもなく、とりあえずは授業を受けているように見えた。ヲタもなにもすることがないので、仕方なく教師の話を聞いていた。もっとも、小腹が空けば教室の後ろにある湯沸しポットで給湯し、カップ麺を食べてはいた。
「オレでよかったら、相談乗るで……」
「いや、もう解決したんだ」
「ならええけど……」
だまるは納得いかない様子だった。
とはいえ、だまるに少し傾倒しているヲタは、その気遣いに感心した。だるまになら話してもいいかもしれない、とも思った。チームホルモンが解散したことは遅かれ早かれだるまの耳にも入るだろう。それなら自分から先に言っておいたほうが気が楽だ。だれかに一連の顛末を聞いてほしかった、という気持ちもあった。
「あのな……」ヲタは立ち止まった。「聞いてくれるか」
「なんでも聞くで」だるまは笑顔になった。間近で見るその表情は迫力満点で、ちょっと怖くて気持ち悪かった。
ヲタはだるまを誘い、いつもの親水公園に行った。途中で買ったたこ焼きをつまみながら、ヲタはすべてを話した。できるだけ客観的に説明したつもりだが、だるまがどう感じたのかはわからない。だるまは茶化すこともなく、黙ってヲタの話に耳を傾けた。
「そういうことやったんか。そんなら話は簡単やで」
「なにが?」
「つまり、おまえが朝日に勝てばええんや」
「朝日に?」
「そうすればおまえは自信を取り戻せる。リーダーとしてふさわしい自信と実力を手にすれば、またチームホルモンは復活できるかもしれんやないか」
「それは無理だ。おれ……弱ぇえし」
「だから強くなるんや」
「どうやって?」
「特訓しかあらへんやろ。オレがシブヤと戦うときにしたように……」
「でも、おめえ、負けたんだろ?」
「あつ姐は、オレが勝ったと言ってくれたで。シブヤのアジトからオレを運んでくれたあとで……。感動の名場面や」
「いや、それ、おまえを慰めるために言ったんだって。そんなこともわかんねぇのかよ」
「あつ姐の言うことは正しいんや。だから、オレは勝ったんや……」
「――わかったわかった。そういうことにしとくよ」
「なら、おまえもやるな? 特訓」
ヲタはそれも悪くない、と思い始めていた。自分には、もう失うものはない。それにもし、特訓の成果で朝日を倒せれば、それはさぞかし爽快だろう。
なにより――「特訓」とは燃える響きではないか。
「けど、おめえは前田にひっついてなくていいのかよ?」
「あつ姐はもう大丈夫や。サドとのタイマンにも勝ったいま、あつ姐はマジ女最強や。手ェ出す奴はおらへんやろ」
たしかにそれには一理ある、とヲタは思った。いまや、「マジ女最強」は前田であることに異論のある者はいないだろう。全盛期の大島優子が相手ならどうなったかはわからないが、架空の話をしても意味はない。
ヲタはだるまの誘いに乗った。
だるまがシブヤとタイマンを張る前に特訓をしたというこの神社に一週間泊り込み、特訓をおこなう計画だ。その間、学校には行かない。ヲタもだまるも、授業をきちんと受けているかはともかく、登下校だけはちゃんとしていた。そのため、一週間程度休んだところで問題はない。学校には病欠と一報を入れてある。仮病だとわかったところでお咎めもないだろう。
階段は登るほうがキツいと思っていたヲタは、早くもその決めつけを粉砕された。
登るだけで疲労困憊したヲタの脚はわずかに震えていて、一段降りるごとにそれは増した。太ももの筋肉も痛んだ。かばおうとすると体が前方に傾き、転落しそうになる。ヲタは階段の真ん中にある手すりにつかまりながら、だるまに続いた。
「なんや、たらたらたらたら……」振り返っただるまがあきれたように言った。
「うるせぇ。体がついていかねぇんだからしょうがねぇだろ」
「普段、運動してない証拠や。ま、最初の二三日は筋肉痛で寝られんやろな」
「マジかよ……」
「しゃべる元気があったら脚に回せや」
だるまはまた階段を下り始めた。ヲタは仕方なく、それに続いた。
途中で何人かとすれ違った。腰が曲がっていてもおかしくない年代の人ばかりだったが、十七歳の自分以上に軽い足取りで階段を登っていくさまに、ヲタは驚いた。ラフな格好をしているから、おそらくは毎朝お参りしているのだろう。なるほど、この階段を何十年も上り下りしていれば自然と足腰が強化されるはずだ。
やっとの思いで下山したころには、ヲタは汗だくになっていた。手すりにつかまり、肩で息をする。喉が渇いた。なにか飲みたいが、ペットボトルに入ったミネラルウォーターは上にある。三〇〇段登らなければ飲むことはできない。
一回往復しただけで、これだけの体力を消耗してしまうとは思いもよらなかった。
「おまえ、どんだけ弱いねん」だまるは息ひとつ上がっていない。近所を散歩してきたというくらいのテンションだ。「そりゃ、プリクラにも負けるわけや」
「うる……せ……え……」
「さ。今度は登るで」
「ちょっ……ちょっと……休……憩……」
「休憩なんてあらへんっ」だまるが急に強い口調になった。「そうやって、辛いことから逃げまわってきたツケが、いま、おまえが感じてる辛さなんやっ。それからも逃げるんなら、いますぐ帰れや」
「――わぁった……よ……」
ヲタは手すりから離れ、歩き出した。今度はだるまは後ろからついてくる。もし自分が転がったら受け止めてくれるのだろうか。だるまの体型や力なら、それもできそうだ。
もちろん上りも、地獄のような苦しさだった。ついさっき、下りのほうがキツいなどと考えた自分を呪いたくなった。なにが下りはキツいだ。上るほうがずっと辛いに決まっている。その証拠に、さっきよりも太ももの筋肉が痛くなってきた。足首から先が、まるで鉄下駄を履いているように重い。もっとも、鉄下駄など履いたことはなく、あくまでイメージだが。
――二十、二十一、二十二、二十三……って、まだ三十段も行ってないのか……。
「キツかったら、手すりを掴みながらでもええで」
ヲタはだるまの言う通りにした。それでも脚が笑って、思うように動かなかった。
気温が高くなく、湿気もそれほどなかったのは幸いだ。これが真夏なら確実に倒れているところだった。
一〇〇段を越えたあたりで、ヲタは数えるのをやめた。数えたって意味はない。三〇〇は三〇〇だ。終わるときは必ず来る。それよりも、次の一歩を確実に前に出すことこそが重要だと思った。
だるまの言う通り、これは「ツケ」だ。自分はなにもしてこなかった。辛いことがあれば逃げ、逃げられないときは心を空にして、ただひたすら時が過ぎるのを待った。なにも生み出さず、なにも成長させなかった。毎日をだらだらと過ごし、明日も今日と同じ日が来ると無根拠に考えていた。その「ツケ」が、朝日とプリクラに負けるという具体的な現象として、ヲタだけではなく、仲間たちをも巻き込むかたちで訪れた。
今度こそ、変わらなければならない。
山頂の鳥居の笠木の部分が見えてきた。もう少しだ。
自分の息が間近で聞こえる。
体力は限界に来ていたが、なぜか自分の息遣いが支えになった。生きている実感があったからかもしれない。そういえば、プリクラと闘っているときも、生の実感に満ちていた。殴られて痛かったが、あれはとても充実した時間だった。
そして今も。
鳥居の貫、柱、藁座が順番に見えてきて、亀腹と台石が現れたときには、ヲタは思わず駆けだしていた。そんな体力があるとは思わず、ヲタは自分のとった行動に驚いた。
鳥居をくぐっても、さっきのように倒れこんだりはしなかった。柱に手をついてはいたものの、二本の脚でしっかりと立っていられた。
うつむいた顔の額からは滝のように汗が流れ、石畳の上に黒い点をいくつも描いた。
一陣の風が吹き、ヲタの髪を揺らした。
――生きてるんだな、おれは。
ヲタはこれまで感じたことのない充実感に満たされていた。
「よく登りきったな。少し見直したで」だまるが後ろから肩を抱いてきた。
少しかよ、と言おうとしたが声にならず、ヲタは深く頷いた。
「水、持ってきてやるで……」
だるまがそう言って歩き出したときだった。背後から、見知らぬ女の声が聞こえた。
「あんたら、マジ女の生徒?」
「ぁあ? だったらなんやねん?」だるまが声を荒げた。
ヲタが振り返ると、そこには三人の女が立っていた。
【つづく】
※今日から旅行に行くので、次回の『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』の更新はけっこう遅れます。すみません。
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。