■『告白』の原作読んだ。ひでぇ。とにかくすべてが雑で稚拙で幼稚。爆弾ひとつとっても、どうやって作ったのか具体的になにも書いてないとか、実験もしないであんな威力のものを作れるわけないとか、解除と運搬ってのは簡単にできないってこと知ってるのかとか……。もっと言えば、人を解体して冷蔵庫の中に入れるってどれだけ大変なことかとか、天才少年を演出するアイテムがびっくり財布って中学生の発想じゃんとか、ネットでなにも調べようとしないキャラとか、文体がどれも一緒で不自然とか、意味のわかんないト書きみたいなのがあるとか。
よくもまあ、こんなのが何十万部も売れるよ。
この物語を面白いと思う人は、少年だろうがなんだろうが人殺しは死刑にしろ的な、幼稚な主張に共感できるんだろうな~。
■映画『ACACIA』見た。これも中学生の考えた映画みたいでひどかったなぁ。北村一輝はなぜいっこく堂の真似をしているのかとか、今時あんな借金取りはいないとか、あれだけ大きな船の先端で大騒ぎしているのにだれも来ないとか、すべてのキャラの扱いが雑とか、とにかく退屈で眠い。
■小牧雅伸の『アニメックの頃…―編集長(ま)奮闘記』は懐かしかった。おれの青春時代のことが書かれている。『アニメック』は毎号買ってたし。あと『OUT』とかも。
■AV女優に「堕ちた」アイドルのブログのコメント欄がなぜか書き込めるようになって、祭りが起きた。しかし、みんななぜそんなにAV女優そのものについてひどく言うのか。男ならだれもが世話になっているだろう。
■『空から日本を見てみよう』は好きな番組。でも、イラッとさせられることもしばしば。街の歴史を知っているくもじいが、なぜ建物などを簡単に巨大な動物などに見間違えるのか。もっとリアルにやるか、くもみだけを無知な設定にすればいいのに……。これも雑だなぁ。あと公園アニマルズは全然面白くないからやめてほしい。
■明後日の夜から、北斗星で札幌まで行きます。帰りはJALで。仕事が終わってから行くので、北斗星に乗り遅れないか、今から恐怖でいっぱい。
■んな感じ。
よくもまあ、こんなのが何十万部も売れるよ。
この物語を面白いと思う人は、少年だろうがなんだろうが人殺しは死刑にしろ的な、幼稚な主張に共感できるんだろうな~。
■映画『ACACIA』見た。これも中学生の考えた映画みたいでひどかったなぁ。北村一輝はなぜいっこく堂の真似をしているのかとか、今時あんな借金取りはいないとか、あれだけ大きな船の先端で大騒ぎしているのにだれも来ないとか、すべてのキャラの扱いが雑とか、とにかく退屈で眠い。
■小牧雅伸の『アニメックの頃…―編集長(ま)奮闘記』は懐かしかった。おれの青春時代のことが書かれている。『アニメック』は毎号買ってたし。あと『OUT』とかも。
■AV女優に「堕ちた」アイドルのブログのコメント欄がなぜか書き込めるようになって、祭りが起きた。しかし、みんななぜそんなにAV女優そのものについてひどく言うのか。男ならだれもが世話になっているだろう。
■『空から日本を見てみよう』は好きな番組。でも、イラッとさせられることもしばしば。街の歴史を知っているくもじいが、なぜ建物などを簡単に巨大な動物などに見間違えるのか。もっとリアルにやるか、くもみだけを無知な設定にすればいいのに……。これも雑だなぁ。あと公園アニマルズは全然面白くないからやめてほしい。
■明後日の夜から、北斗星で札幌まで行きます。帰りはJALで。仕事が終わってから行くので、北斗星に乗り遅れないか、今から恐怖でいっぱい。
■んな感じ。
・今回は性的描写を含みます。嫌いな方は読まないでください。
・キャラクターはあくまでもストーリーの中にだけ存在しているものです。
現実の人間ではありません。てゆーか、非実在青少年?
■強襲1-3■
女とキスをするのはもちろん初めてではない。大島優子、サド、トリゴヤ、シブヤ……彼女たちとはそれ以上のことも経験している。
初めては去年の秋の学芸会だった。当時演劇部に所属していたブラックは、一年後輩の学ランと舞台の上でキスをした。学ランは吸血鬼の男役、ブラックはその男に恋をする可憐な少女を演じた。学ランの男役は控えめに言っても美しく、普段はそんなものになど見向きもしないヤンキー女たちでさえ、固唾を呑んでしまうほどだった。リハーサルで何度も抱きしめられたブラックは、そんな気などないはずなのにと思いつつも、胸の鼓動を抑えられなかった。
とはいえ、肝心の芝居の出来は散々だった。吸血鬼が十字架のネックレスをしていたり、銀の弾丸で吸血鬼を殺そうとするキャラクターがいたり……(それは狼男に使うものだ)。穴だらけの脚本を書いて自ら演出したのはもう五十を過ぎた年齢の、言うことだけは立派な男の教師だった。多分、こいつは舌先三寸で世間を渡り歩いているのだろう、とブラックは感じた。
自分が同性愛者だと思ったことはないが、異性愛者だという自覚もない。自分の黒い心に少しでも白を足してくれるような人間なら、性別は関係なかった。
でも、まさか「敵」の行為を受け入れつつあるとは……。
谷澤恵里香は小鳥のように唇をついばんだ。その格別の柔らかさは、娘のそれを思い出させた。娘には、一方的に何百回も何千回もキスをした。触れたら壊れそうなほど柔らかい、その唇は今でもたまらなくいとおしい。
谷澤恵里香は急かさなかった。唇をついばむのは、ブラックがそれを受け入れるのを待っているかのようだった。
それでもブラックの心の中には、まだ抵抗しようとする意思も残っていた。自分はあくまでも谷澤恵里香を倒しに来た。その相手と口づけを交わしていてどうする。
両手どころか、体のどこも拘束されてはいない。頬を挟み込むように包んだ谷澤恵里香の心地よい温かさの手のひらだけが、唯一ブラックを縛り付けているだけだ。
相手はガラ空きだ、やるなら今……。どこからか聞こえる自分の声。だが、その信号は腕にも脚にも伝わらない。電気信号が快楽という膜に阻まれているかのようだった。
小鳥のキスは、濃密さを増してきた。谷澤恵里香の唇のあいだから、別の生き物がブラックの唇を這った。
その濡れた舌は閉じたブラックの唇を、優しく優しく愛撫した。男のようにあわてず、ブラックが受け入れるのを待っている。何度も触れては離れ、離れては触れ、の繰り返しだった。
唾液を飲んだ。
自分の息遣いが荒くなっているのがわかった。
腰から下の感覚が痺れていく。脚に力が入らない。
ブラックは体の中心が熱くなるのを感じた。じんじんと痺れるように、快楽のさざ波が打ち寄せてくる。
このままでは危険だ。
ありったけの力をふりしぼって、ブラックはフックを谷澤恵里香の腹に入れた。普段のフックよりも威力はないだろうが、それなりにダメージは与えられるはずだった。
だが、谷澤恵里香はびくともしない。どうなっているんだ、この女……。ブラックは恐怖を感じた。
「――私にはね……」谷澤恵里香が唇を重ねたまま言う。「打撃技、効かないよ」
アドレナリンが分泌されると、一時的にではあるものの、血が流れるほどの怪我や骨折であっても、痛みを感じなくなるという。
ラッパッパ四天王のゲキカラもそうだ。元来の性格もあるとはいえ(ゲキカラは究極のマゾだ)、一旦戦闘が始まればどれだけ殴られても傷つけてもお構いなし。失神するまで戦い続ける「機械」と化す。常人よりも大量にアドレナリンが分泌される体質らしい。身近にそのような人間がいるのだから、それがアリ女にいても不思議はない。
また、ふっくらとした体型である谷澤恵里香の皮下脂肪に守られた内臓は、打撃に対してダメージを受けにくいのかもしれない。ゲキカラは毎年の身体検査でも痩せすぎと指摘されるほど細いから、打撃に対してノーダメージではないが。
つまり、アドレナリンの大量分泌と、ふっくらとした体型、そしてフェロモンで相手を酔わすのが谷澤恵里香の「武器」なのだ。あの指に触れられた者は男女を問わず、その絶妙な動きによって性的興奮を呼び覚まされる。人間にとって最高の快楽である性感を刺激し、相手の抵抗力をなくすのだ。
人間は、快楽に購えない。
だとしたら、圧倒的なスピードと、それを利用して不意を突く攻撃スタイルのブラックに勝ち目はない。
「どうして……」谷澤恵里香はキスをやめた。ブラックの顔をさらに引き寄せ、耳元でささやいた。「どうしてみんな、痛いことでケリをつけようとするの? せっかく女の子に生まれたんだから、女の子にしかできない、気持ちいいことすればいいのに……」
耳たぶを口に含まれ、プラックは仰け反った。
谷澤恵里香の立てるぴちゃぴちゃという淫猥な音は、セックスそのものを連想させ、これがブラックの抵抗力を完全に喪失させた。谷澤恵里香の鼻息がうなじにまとわりつき、言い知れぬ快感がブラックを包んだ。
耳はブラックにとって最大の弱点だった。さらに谷澤恵里香の指は、顎のラインや首筋をねっとりと這った。
腰から下だけではなく、上半身も肩からも力が抜ける。
「ねぇ……」谷澤恵里香はブラックの顔を自分の胸に近づけた。いつの間にかブレザーとシャツのボタンは外されていて、豊満な胸を包む白いブラジャーが露わになっていた。「ヤザパイ、さわってみる?」
ブラックは操り人形のように、言われるままに谷澤恵里香の胸に手を伸ばした。下から持ち上げるように手のひらに包む。大きくてやわらかい。こんなおっぱいがあるんだ……。ゆすってみたら、たぷたぷと音がしそう。ブラックはこれをもっと触っていたいという気持ちになった。
谷澤恵里香はブラジャーの奥に、ブラックの指を導いた。今度は掴むように触れてみた。スライムを握ったときのように、指のあいだからあふれるような感覚があった。もちろん、実際になるわけではないが、そう思ってしまえるほどのやわらかさだった。
だが、唯一硬くなっている場所があった。ブラックはそれを親指と人差し指でつまんだ。
「そこ、一番、好き……」谷澤恵里香が胸を反らした。
谷澤恵里香はブラックの顔に、胸を押し付けた。やわらかな膨らみに顔を圧迫され、少し息苦しい。谷間に鼻をはめ込むようにすると、汗の匂いがした。しかしそれは不快ではなく、とても気持ちよかった。
ブラックは自分の体型にコンプレックスがあった。胸も大きくないし、なにより胴が長い。谷澤恵里香のようなぽっちゃり体型が憧れというわけではないが、少なくともこの胸のボリュームはうらやましかった。
舌を這わす。硬い蕾みを含んだ。娘に母乳を与えたときのことを思い出した。口の中で転がすと、谷澤恵里香が声を上げた。
「うまいね、とっても……」谷澤恵里香は息を荒げていたが、それを振り切るようにしてブラックを引き離した。「今度は私がするね」
もはやブラックには、抵抗する意思も力もなかった。セーラーの上着をめくりあげられると、あっというまにブラジャーのホックを外された。直後、あのしっとりとした感触の、谷澤恵里香のいたずらな指が背中をねっとりと攻めてきた。背骨のラインをつーっと触られるだけでも、ブラックは声を出しそうになった。触れるか触れないかの微妙なタッチだった。くすぐったさと快感の狭間で、ブラックは悶えた。
谷澤恵里香の指が背中から腹部へと移動し、そのまま上昇した。ブラックの膨らみを攻めるその動きは、男にはない繊細さだった。まるで山に登頂するように、谷澤恵里香の指は丘をぐるぐると周回した。焦らしている。それに反応したくはないが、早く一番敏感な部分に触れてほしいという二律背反した気持ちが、ブラックの中で渦巻いた。
気が付くと、ブラックは地面に寝かされていた。しかも、自分の手は谷澤恵里香の背中に回され、愛しそうにブレザーをさすっている。いま立ち上がれと言われてもできないだろう。腰が腑抜けているのは、体の奥から湧き出てくる熱いもののせいだった。
谷澤恵里香がようやく、もっとも敏感な部分を口に含んでくれた。ねっとりとした唾液に包まれると、ブラックはその快楽のあまり、腰が自然に上下動した。少しでも刺激を与えたくて、太ももをこすり合わせた。
触ってほしかった。
すると、その絶妙なタイミングで、谷澤恵里香の指がブラックのロングスカートの中に潜り込んできた。軟体生物のような湿った指は、膝の辺りから内腿を伝って、ゆっくりともどかしく登ってくる。
もう我慢できなかった。ブラックは観念し、歓喜の声を上げた。
そのあとの、細かな記憶はなかった。
何度も昇りつめたことだけは覚えている。サドはおろか、大島優子にさえ、これほど満足させられたことはなかった。
トンネルが、朝の光でぼんやりとその輪郭を浮き上がらせたころ、谷澤恵里香の姿はなかった。
ブラックは自分が負けたことをこのときになって悟った。
そして、サドからどれだけの懲罰を受けるのかと考え、戦慄した。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
・キャラクターはあくまでもストーリーの中にだけ存在しているものです。
現実の人間ではありません。てゆーか、非実在青少年?
■強襲1-3■
女とキスをするのはもちろん初めてではない。大島優子、サド、トリゴヤ、シブヤ……彼女たちとはそれ以上のことも経験している。
初めては去年の秋の学芸会だった。当時演劇部に所属していたブラックは、一年後輩の学ランと舞台の上でキスをした。学ランは吸血鬼の男役、ブラックはその男に恋をする可憐な少女を演じた。学ランの男役は控えめに言っても美しく、普段はそんなものになど見向きもしないヤンキー女たちでさえ、固唾を呑んでしまうほどだった。リハーサルで何度も抱きしめられたブラックは、そんな気などないはずなのにと思いつつも、胸の鼓動を抑えられなかった。
とはいえ、肝心の芝居の出来は散々だった。吸血鬼が十字架のネックレスをしていたり、銀の弾丸で吸血鬼を殺そうとするキャラクターがいたり……(それは狼男に使うものだ)。穴だらけの脚本を書いて自ら演出したのはもう五十を過ぎた年齢の、言うことだけは立派な男の教師だった。多分、こいつは舌先三寸で世間を渡り歩いているのだろう、とブラックは感じた。
自分が同性愛者だと思ったことはないが、異性愛者だという自覚もない。自分の黒い心に少しでも白を足してくれるような人間なら、性別は関係なかった。
でも、まさか「敵」の行為を受け入れつつあるとは……。
谷澤恵里香は小鳥のように唇をついばんだ。その格別の柔らかさは、娘のそれを思い出させた。娘には、一方的に何百回も何千回もキスをした。触れたら壊れそうなほど柔らかい、その唇は今でもたまらなくいとおしい。
谷澤恵里香は急かさなかった。唇をついばむのは、ブラックがそれを受け入れるのを待っているかのようだった。
それでもブラックの心の中には、まだ抵抗しようとする意思も残っていた。自分はあくまでも谷澤恵里香を倒しに来た。その相手と口づけを交わしていてどうする。
両手どころか、体のどこも拘束されてはいない。頬を挟み込むように包んだ谷澤恵里香の心地よい温かさの手のひらだけが、唯一ブラックを縛り付けているだけだ。
相手はガラ空きだ、やるなら今……。どこからか聞こえる自分の声。だが、その信号は腕にも脚にも伝わらない。電気信号が快楽という膜に阻まれているかのようだった。
小鳥のキスは、濃密さを増してきた。谷澤恵里香の唇のあいだから、別の生き物がブラックの唇を這った。
その濡れた舌は閉じたブラックの唇を、優しく優しく愛撫した。男のようにあわてず、ブラックが受け入れるのを待っている。何度も触れては離れ、離れては触れ、の繰り返しだった。
唾液を飲んだ。
自分の息遣いが荒くなっているのがわかった。
腰から下の感覚が痺れていく。脚に力が入らない。
ブラックは体の中心が熱くなるのを感じた。じんじんと痺れるように、快楽のさざ波が打ち寄せてくる。
このままでは危険だ。
ありったけの力をふりしぼって、ブラックはフックを谷澤恵里香の腹に入れた。普段のフックよりも威力はないだろうが、それなりにダメージは与えられるはずだった。
だが、谷澤恵里香はびくともしない。どうなっているんだ、この女……。ブラックは恐怖を感じた。
「――私にはね……」谷澤恵里香が唇を重ねたまま言う。「打撃技、効かないよ」
アドレナリンが分泌されると、一時的にではあるものの、血が流れるほどの怪我や骨折であっても、痛みを感じなくなるという。
ラッパッパ四天王のゲキカラもそうだ。元来の性格もあるとはいえ(ゲキカラは究極のマゾだ)、一旦戦闘が始まればどれだけ殴られても傷つけてもお構いなし。失神するまで戦い続ける「機械」と化す。常人よりも大量にアドレナリンが分泌される体質らしい。身近にそのような人間がいるのだから、それがアリ女にいても不思議はない。
また、ふっくらとした体型である谷澤恵里香の皮下脂肪に守られた内臓は、打撃に対してダメージを受けにくいのかもしれない。ゲキカラは毎年の身体検査でも痩せすぎと指摘されるほど細いから、打撃に対してノーダメージではないが。
つまり、アドレナリンの大量分泌と、ふっくらとした体型、そしてフェロモンで相手を酔わすのが谷澤恵里香の「武器」なのだ。あの指に触れられた者は男女を問わず、その絶妙な動きによって性的興奮を呼び覚まされる。人間にとって最高の快楽である性感を刺激し、相手の抵抗力をなくすのだ。
人間は、快楽に購えない。
だとしたら、圧倒的なスピードと、それを利用して不意を突く攻撃スタイルのブラックに勝ち目はない。
「どうして……」谷澤恵里香はキスをやめた。ブラックの顔をさらに引き寄せ、耳元でささやいた。「どうしてみんな、痛いことでケリをつけようとするの? せっかく女の子に生まれたんだから、女の子にしかできない、気持ちいいことすればいいのに……」
耳たぶを口に含まれ、プラックは仰け反った。
谷澤恵里香の立てるぴちゃぴちゃという淫猥な音は、セックスそのものを連想させ、これがブラックの抵抗力を完全に喪失させた。谷澤恵里香の鼻息がうなじにまとわりつき、言い知れぬ快感がブラックを包んだ。
耳はブラックにとって最大の弱点だった。さらに谷澤恵里香の指は、顎のラインや首筋をねっとりと這った。
腰から下だけではなく、上半身も肩からも力が抜ける。
「ねぇ……」谷澤恵里香はブラックの顔を自分の胸に近づけた。いつの間にかブレザーとシャツのボタンは外されていて、豊満な胸を包む白いブラジャーが露わになっていた。「ヤザパイ、さわってみる?」
ブラックは操り人形のように、言われるままに谷澤恵里香の胸に手を伸ばした。下から持ち上げるように手のひらに包む。大きくてやわらかい。こんなおっぱいがあるんだ……。ゆすってみたら、たぷたぷと音がしそう。ブラックはこれをもっと触っていたいという気持ちになった。
谷澤恵里香はブラジャーの奥に、ブラックの指を導いた。今度は掴むように触れてみた。スライムを握ったときのように、指のあいだからあふれるような感覚があった。もちろん、実際になるわけではないが、そう思ってしまえるほどのやわらかさだった。
だが、唯一硬くなっている場所があった。ブラックはそれを親指と人差し指でつまんだ。
「そこ、一番、好き……」谷澤恵里香が胸を反らした。
谷澤恵里香はブラックの顔に、胸を押し付けた。やわらかな膨らみに顔を圧迫され、少し息苦しい。谷間に鼻をはめ込むようにすると、汗の匂いがした。しかしそれは不快ではなく、とても気持ちよかった。
ブラックは自分の体型にコンプレックスがあった。胸も大きくないし、なにより胴が長い。谷澤恵里香のようなぽっちゃり体型が憧れというわけではないが、少なくともこの胸のボリュームはうらやましかった。
舌を這わす。硬い蕾みを含んだ。娘に母乳を与えたときのことを思い出した。口の中で転がすと、谷澤恵里香が声を上げた。
「うまいね、とっても……」谷澤恵里香は息を荒げていたが、それを振り切るようにしてブラックを引き離した。「今度は私がするね」
もはやブラックには、抵抗する意思も力もなかった。セーラーの上着をめくりあげられると、あっというまにブラジャーのホックを外された。直後、あのしっとりとした感触の、谷澤恵里香のいたずらな指が背中をねっとりと攻めてきた。背骨のラインをつーっと触られるだけでも、ブラックは声を出しそうになった。触れるか触れないかの微妙なタッチだった。くすぐったさと快感の狭間で、ブラックは悶えた。
谷澤恵里香の指が背中から腹部へと移動し、そのまま上昇した。ブラックの膨らみを攻めるその動きは、男にはない繊細さだった。まるで山に登頂するように、谷澤恵里香の指は丘をぐるぐると周回した。焦らしている。それに反応したくはないが、早く一番敏感な部分に触れてほしいという二律背反した気持ちが、ブラックの中で渦巻いた。
気が付くと、ブラックは地面に寝かされていた。しかも、自分の手は谷澤恵里香の背中に回され、愛しそうにブレザーをさすっている。いま立ち上がれと言われてもできないだろう。腰が腑抜けているのは、体の奥から湧き出てくる熱いもののせいだった。
谷澤恵里香がようやく、もっとも敏感な部分を口に含んでくれた。ねっとりとした唾液に包まれると、ブラックはその快楽のあまり、腰が自然に上下動した。少しでも刺激を与えたくて、太ももをこすり合わせた。
触ってほしかった。
すると、その絶妙なタイミングで、谷澤恵里香の指がブラックのロングスカートの中に潜り込んできた。軟体生物のような湿った指は、膝の辺りから内腿を伝って、ゆっくりともどかしく登ってくる。
もう我慢できなかった。ブラックは観念し、歓喜の声を上げた。
そのあとの、細かな記憶はなかった。
何度も昇りつめたことだけは覚えている。サドはおろか、大島優子にさえ、これほど満足させられたことはなかった。
トンネルが、朝の光でぼんやりとその輪郭を浮き上がらせたころ、谷澤恵里香の姿はなかった。
ブラックは自分が負けたことをこのときになって悟った。
そして、サドからどれだけの懲罰を受けるのかと考え、戦慄した。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■先週放送のTBS『キラキラ』で、「Wet&Messy」という単語が!!! 平日昼間の番組でこの単語が聞けるとは、さすがピエール瀧。「びしょびしょ、ずぶぬれ体験」というテーマだったんだけど、おれがグッとくるような話は残念ながらなかった。着衣入浴が好きというメールも読まれてたけど、出したのは男みたいだし。女子の話が聞きたいッス。
■文化放送の『LISTEN』、来月からパーソナリティに才加が復活!!! 8月は柏木で9月が高橋か。そのあとはずっと才加にしてくれ。
ところで月曜の大島麻衣が面白い。この人、「脚を見る人は痴漢」発言以来(古っ!!! もう許してやれよ…)、プロ意識に欠けたアイドルってイメージを持ってしまっていたんだけど、ラジオは向いてるんじゃないか。いまさら聞きだしてなんだけど。裏に伊集院光という超強力なパーソナリティがいるけど、細々とでも続けてほしい。
■来月頭の北海道旅行。今年は富良野の方まで行くことになりそう。ラベンダー畑に行って、タイムリープをするのだ。
■今朝はちと寒かった。窓全開で寝てたから。
■AKB研究生の石黒が辞めさせられたが、AKBに入る前のプリクラまで解雇の理由になるのは厳しすぎ。「アイドル=処女」って設定、もういい加減やめようよ。あるいは石黒とか菊地は、全員非処女のSDNに入れちゃってもいいじゃん。年齢制限あるグループに、それより年下が入るのはおかしいって? 大丈夫。映画『バトル・ロワイアル』はR-15だったけど、出演していた前田亜希は当時14歳だったという前例があるからw
■今年のあたまあたりから、神社に対する興味が沸いてきて、あれこれ本を読んでる。これはフィールドワークも兼ねないといかんざき(大流行中のギャグ)、ということで、まずは都内の神社巡りをしたい。
■映画『告白』の原作、図書館で借りていま読んでるデス。映画はほぼ忠実に映像化してるんだなぁ。
■TBSの『dig』に、あの武田邦彦が登場。この人の言っていることは大まかには肯定するけど、アイドリングはできる限りしないほうがいいと思う。排気ガスと騒音が、周囲にとっては迷惑だから。
■んな感じ。
■文化放送の『LISTEN』、来月からパーソナリティに才加が復活!!! 8月は柏木で9月が高橋か。そのあとはずっと才加にしてくれ。
ところで月曜の大島麻衣が面白い。この人、「脚を見る人は痴漢」発言以来(古っ!!! もう許してやれよ…)、プロ意識に欠けたアイドルってイメージを持ってしまっていたんだけど、ラジオは向いてるんじゃないか。いまさら聞きだしてなんだけど。裏に伊集院光という超強力なパーソナリティがいるけど、細々とでも続けてほしい。
■来月頭の北海道旅行。今年は富良野の方まで行くことになりそう。ラベンダー畑に行って、タイムリープをするのだ。
■今朝はちと寒かった。窓全開で寝てたから。
■AKB研究生の石黒が辞めさせられたが、AKBに入る前のプリクラまで解雇の理由になるのは厳しすぎ。「アイドル=処女」って設定、もういい加減やめようよ。あるいは石黒とか菊地は、全員非処女のSDNに入れちゃってもいいじゃん。年齢制限あるグループに、それより年下が入るのはおかしいって? 大丈夫。映画『バトル・ロワイアル』はR-15だったけど、出演していた前田亜希は当時14歳だったという前例があるからw
■今年のあたまあたりから、神社に対する興味が沸いてきて、あれこれ本を読んでる。これはフィールドワークも兼ねないといかんざき(大流行中のギャグ)、ということで、まずは都内の神社巡りをしたい。
■映画『告白』の原作、図書館で借りていま読んでるデス。映画はほぼ忠実に映像化してるんだなぁ。
■TBSの『dig』に、あの武田邦彦が登場。この人の言っていることは大まかには肯定するけど、アイドリングはできる限りしないほうがいいと思う。排気ガスと騒音が、周囲にとっては迷惑だから。
■んな感じ。
アイドリング!!!関係のマイミクの方がやっていたので真似したw
場所はこちら→ http://www9.atwiki.jp/kusakaoru/pages/1352.html
んで、結果はこうなった。
1 朝日奈央 75
2 小泉瑠美 72
3 谷澤恵里香 69
4 江渡万里彩 66
5 遠藤舞 63
6 加藤沙耶香 60
7 橋本楓 55
7 森田涼花 55
9 横山ルリカ 51
10 外岡えりか 48
11 三宅ひとみ 45
12 菊地亜美 42
13 河村唯 39
14 橘ゆりか 36
15 尾島知佳 33
16 大川藍 30
17 フォンチー 27
18 長野せりな 24
19 滝口ミラ 21
20 酒井瞳 18
21 野元愛 15
22 後藤郁 12
23 伊藤祐奈 9
24 倉田瑠夏 6
25 ミシェル未来 3
26 小林麻衣愛 0
え。おれ、朝日が一番好きなのか……。知らなかったw
最近の割り算の回でクレーマーと化す朝日に笑わせてもらったことが影響しているのかも。ああいう娘が欲しい。いや、自分の子供としてね。楽しいだろうなぁ、生意気でw
ズミさんは芸能界引退してしまったのか? ナベプロにも在籍していないみたいだし……。
こうして順位を見てみると、『アイドリング!!!』という番組でどう活躍したか、というのが反映されていると思う。はっきり言って、谷澤恵里香とかタイプじゃないけど、初期の『アイドリング!!!』における彼女の貢献度はすさまじいと思うから。
あ。なんか、久しぶりにアイドリング!!!について語ってるなぁ。
場所はこちら→ http://www9.atwiki.jp/kusakaoru/pages/1352.html
んで、結果はこうなった。
1 朝日奈央 75
2 小泉瑠美 72
3 谷澤恵里香 69
4 江渡万里彩 66
5 遠藤舞 63
6 加藤沙耶香 60
7 橋本楓 55
7 森田涼花 55
9 横山ルリカ 51
10 外岡えりか 48
11 三宅ひとみ 45
12 菊地亜美 42
13 河村唯 39
14 橘ゆりか 36
15 尾島知佳 33
16 大川藍 30
17 フォンチー 27
18 長野せりな 24
19 滝口ミラ 21
20 酒井瞳 18
21 野元愛 15
22 後藤郁 12
23 伊藤祐奈 9
24 倉田瑠夏 6
25 ミシェル未来 3
26 小林麻衣愛 0
え。おれ、朝日が一番好きなのか……。知らなかったw
最近の割り算の回でクレーマーと化す朝日に笑わせてもらったことが影響しているのかも。ああいう娘が欲しい。いや、自分の子供としてね。楽しいだろうなぁ、生意気でw
ズミさんは芸能界引退してしまったのか? ナベプロにも在籍していないみたいだし……。
こうして順位を見てみると、『アイドリング!!!』という番組でどう活躍したか、というのが反映されていると思う。はっきり言って、谷澤恵里香とかタイプじゃないけど、初期の『アイドリング!!!』における彼女の貢献度はすさまじいと思うから。
あ。なんか、久しぶりにアイドリング!!!について語ってるなぁ。
■強襲1-2■
トンネルの向こうに、うっすらと影が見えた。
激しい雨の中、傘をさしているその影は、こちらに気づく様子もなく、歩調を緩めずにやってきた。トンネルに入っても、閉じるのが面倒なのか、傘は開いたままで、それはくるくると楽しげに回っていた。遠心力で飛ばされた水滴がわずかな光に反射して、きらきらと輝いた。
影が近づくと、その身長や輪郭がおぼろにわかってきた。自分より低い身長、ややふっくらとした体型、そしてなにより特徴的なのは、制服のブレザーをはちきれんばかりに圧迫している、その大きな胸だった。ネズミの情報によれば、谷澤恵里香は亜利絵根女子高でもナンバーワンの巨乳らしい。
ブラックは、旧約聖書の知恵の書の一篇を読みはじめた。「――あなたはわたしたちを……」
すると、暗闇の中から突然声がしたことに驚いたのか、谷澤恵里香はびくっとして脚を止めた。「わっ。――なになに、もぉーっ。びっくりしたなぁ……」
明らかに自分のテンションとちがう谷澤恵里香に戸惑いつつも、ブラックはもう一度、読み上げた。「――あなたはわたしたちを懲らしめられたが、敵には一万倍もの罰を下された。わたしたちが裁くとき、あなたの慈しみを思い、裁かれるとき、憐れみに依り頼むためである……」
「なにそれ? なんかの勧誘? だれ、あんた? あたしに言ってんの?」
谷澤恵里香は立て続けに質問すると傘を畳んだ。
「亜利絵根女子高四巨頭の一人、谷澤恵里香か?」
「ま、そーだけどぉー……」谷澤恵里香はあきれたように言った。「あんたはだれなのかって聞いてんの」
「馬路須加女学園、柏木由紀」
「あぁ……。マジ女かぁ。そういや、うちの生徒を襲ってるって言ってたな、まいぷるが」
ブラックはそれにはもう答えなかった。速攻で谷澤恵里香に襲いかかった。
スピードを最高の武器とするブラックは、最初の一撃をもっとも重要視している。相手の出鼻を挫き、心理的に優位に立つことが勝利への最短ルートだと考えている。
ブラックが得意とするのが、相手の腹部への強烈なフックだった。すばやい動きで相手が心理的にも身体的にも戦闘状態に入らないうちに、それを叩き込む。あるいは相手がブラックの動きを追うつもりであっても、その上を行くスピードで一撃を加える。
谷澤恵里香の側面に動くと、相手が視線をこちらに移すころには、もう背後へと回った。そして振り返った谷澤恵里香の腹部に、強烈なフックをお見舞いした。感触は独特で、ゼリーみたいな柔らかさはブラックが今までに経験したことがないものだった。
普通ならここで、相手はわき腹を押さえて倒れこむか、逆上のあまりエンドルフィンが分泌され痛みを感じず襲いかかってくるか、どちらかの反応を示すはずだった。
ところが谷澤恵里香は、そのどちらのリアンションもとらなかった。
「ちょっ……いきなりぃ?」
ブラックは拍子抜けし、さらに一八〇度回り込み、再び背面からフックを入れる。また、ゼリーのような感触があった。
「だーかーらぁー。ちょっと待ってって……」
今度はあえて正対した。意識してアッパー気味に、腹部をえぐるつもりで一撃を加えた。
だが、これにも谷澤恵里香はまったく反応をしない。
ブラックは焦った。こんなことは初めてだった。背中を汗が伝った。
腹がダメなら……。ブラックは背後に移動した。ロングスカートをめくり上げ、長い脚から繰り出されるタイキックばりのスピードと威力を持った蹴りを、谷澤恵里香の太ももの裏に入れた。谷澤恵里香のミニスカートからむき出しになった太ももの内側が、その衝撃でぶるんと揺れた。
今度こそ効いたはず……。
そしてブラックは闇にまぎれた。息を殺し、壁際に潜み、己を消した。警察犬が来ても、その気配を探ることは不可能なくらい、ブラックは闇と同化した。
「あのさぁ……。あれ? いなくなっちゃった……」谷澤恵里香はきょろきょろした。
ブラックは足音を立てずに、谷澤恵里香の背後の壁に回りこむ。なぜかはわからないが打撃に効果がないのなら、絞め上げるまでだ。
谷澤恵里香の髪の匂いが嗅げるほど近くまで接近する。相手の頸を絞める、フロントチョークの体勢に入った。
気づかれるはずはなかった。今まで一度も、そんなことはなかった。ところがこのとき、それは起きた。
谷澤恵里香はあと一秒でフロントチョークが決まるという瞬間に、振り返ってブラックを見た。これにはブラックも驚き、仕掛けのタイミングを逃してしまった。いままでにないことが起きたためのとまどいだった。このまま前からのフロントチョークに変更するか、あるいはもう一度下がって体勢を整えるか、ブラックは逡巡した。そして、これが命取りとなった。
谷澤恵里香が抱き付いてきた。胸を締めようというのか、両腕を背中で回した。ブラックは腕の動きを塞がれてしまった。最大の武器であるスピードを生かせなければ、ブラックの戦闘能力は半減されてしまう。
――しまった……。
ブラックはあがいた。動きを拘束されたのは初めてだった。このまま力任せに締められるのだろう。ブラックは緊張した。
谷澤恵里香はブラックを抱いたまま前進し、やがてトンネルの壁に背中を押し付けた。もう正面からは逃げられない。
だが、そこで、谷澤恵里香は再び意外な行動をとった。
ブラックとは十センチ以上の身長差がある谷澤恵里香が爪先立ちをした。その瞬間、拘束が解けた――が、谷澤恵里香の両腕は、今度はブラックの頬を包み込んだ。その手のひらは暖かく、ほんのりと湿っていて、なんとも心地よい。ブラックは妙な気分になった。それは大島優子の手のひらに似ていた。
体は自由になったのに、ブラックは動けなかった。谷澤恵里香の十本の指がブラックの敏感な肌を這う。それは性的快感を呼び起こそうとする動きだった。
そして谷澤恵里香はそのままブラックの顔を、自分の顔に寄せた。鼻息が感じられるくらい、二人は密着した。
このときも、ブラックは逃げようと思えば逃げられたはずだった。しかし、できなかった。媚薬を嗅がされたかのように、ブラックの脳のどこかが甘い痺れで支配されていたからだ。
「暴力はきらい……」谷澤恵里香の吐息がブラックの鼻腔をくすぐった。「気持ちいいことしようよ」
谷澤恵里香のふっくらした唇が、ブラックの唇と重なった。
【つづく】
トンネルの向こうに、うっすらと影が見えた。
激しい雨の中、傘をさしているその影は、こちらに気づく様子もなく、歩調を緩めずにやってきた。トンネルに入っても、閉じるのが面倒なのか、傘は開いたままで、それはくるくると楽しげに回っていた。遠心力で飛ばされた水滴がわずかな光に反射して、きらきらと輝いた。
影が近づくと、その身長や輪郭がおぼろにわかってきた。自分より低い身長、ややふっくらとした体型、そしてなにより特徴的なのは、制服のブレザーをはちきれんばかりに圧迫している、その大きな胸だった。ネズミの情報によれば、谷澤恵里香は亜利絵根女子高でもナンバーワンの巨乳らしい。
ブラックは、旧約聖書の知恵の書の一篇を読みはじめた。「――あなたはわたしたちを……」
すると、暗闇の中から突然声がしたことに驚いたのか、谷澤恵里香はびくっとして脚を止めた。「わっ。――なになに、もぉーっ。びっくりしたなぁ……」
明らかに自分のテンションとちがう谷澤恵里香に戸惑いつつも、ブラックはもう一度、読み上げた。「――あなたはわたしたちを懲らしめられたが、敵には一万倍もの罰を下された。わたしたちが裁くとき、あなたの慈しみを思い、裁かれるとき、憐れみに依り頼むためである……」
「なにそれ? なんかの勧誘? だれ、あんた? あたしに言ってんの?」
谷澤恵里香は立て続けに質問すると傘を畳んだ。
「亜利絵根女子高四巨頭の一人、谷澤恵里香か?」
「ま、そーだけどぉー……」谷澤恵里香はあきれたように言った。「あんたはだれなのかって聞いてんの」
「馬路須加女学園、柏木由紀」
「あぁ……。マジ女かぁ。そういや、うちの生徒を襲ってるって言ってたな、まいぷるが」
ブラックはそれにはもう答えなかった。速攻で谷澤恵里香に襲いかかった。
スピードを最高の武器とするブラックは、最初の一撃をもっとも重要視している。相手の出鼻を挫き、心理的に優位に立つことが勝利への最短ルートだと考えている。
ブラックが得意とするのが、相手の腹部への強烈なフックだった。すばやい動きで相手が心理的にも身体的にも戦闘状態に入らないうちに、それを叩き込む。あるいは相手がブラックの動きを追うつもりであっても、その上を行くスピードで一撃を加える。
谷澤恵里香の側面に動くと、相手が視線をこちらに移すころには、もう背後へと回った。そして振り返った谷澤恵里香の腹部に、強烈なフックをお見舞いした。感触は独特で、ゼリーみたいな柔らかさはブラックが今までに経験したことがないものだった。
普通ならここで、相手はわき腹を押さえて倒れこむか、逆上のあまりエンドルフィンが分泌され痛みを感じず襲いかかってくるか、どちらかの反応を示すはずだった。
ところが谷澤恵里香は、そのどちらのリアンションもとらなかった。
「ちょっ……いきなりぃ?」
ブラックは拍子抜けし、さらに一八〇度回り込み、再び背面からフックを入れる。また、ゼリーのような感触があった。
「だーかーらぁー。ちょっと待ってって……」
今度はあえて正対した。意識してアッパー気味に、腹部をえぐるつもりで一撃を加えた。
だが、これにも谷澤恵里香はまったく反応をしない。
ブラックは焦った。こんなことは初めてだった。背中を汗が伝った。
腹がダメなら……。ブラックは背後に移動した。ロングスカートをめくり上げ、長い脚から繰り出されるタイキックばりのスピードと威力を持った蹴りを、谷澤恵里香の太ももの裏に入れた。谷澤恵里香のミニスカートからむき出しになった太ももの内側が、その衝撃でぶるんと揺れた。
今度こそ効いたはず……。
そしてブラックは闇にまぎれた。息を殺し、壁際に潜み、己を消した。警察犬が来ても、その気配を探ることは不可能なくらい、ブラックは闇と同化した。
「あのさぁ……。あれ? いなくなっちゃった……」谷澤恵里香はきょろきょろした。
ブラックは足音を立てずに、谷澤恵里香の背後の壁に回りこむ。なぜかはわからないが打撃に効果がないのなら、絞め上げるまでだ。
谷澤恵里香の髪の匂いが嗅げるほど近くまで接近する。相手の頸を絞める、フロントチョークの体勢に入った。
気づかれるはずはなかった。今まで一度も、そんなことはなかった。ところがこのとき、それは起きた。
谷澤恵里香はあと一秒でフロントチョークが決まるという瞬間に、振り返ってブラックを見た。これにはブラックも驚き、仕掛けのタイミングを逃してしまった。いままでにないことが起きたためのとまどいだった。このまま前からのフロントチョークに変更するか、あるいはもう一度下がって体勢を整えるか、ブラックは逡巡した。そして、これが命取りとなった。
谷澤恵里香が抱き付いてきた。胸を締めようというのか、両腕を背中で回した。ブラックは腕の動きを塞がれてしまった。最大の武器であるスピードを生かせなければ、ブラックの戦闘能力は半減されてしまう。
――しまった……。
ブラックはあがいた。動きを拘束されたのは初めてだった。このまま力任せに締められるのだろう。ブラックは緊張した。
谷澤恵里香はブラックを抱いたまま前進し、やがてトンネルの壁に背中を押し付けた。もう正面からは逃げられない。
だが、そこで、谷澤恵里香は再び意外な行動をとった。
ブラックとは十センチ以上の身長差がある谷澤恵里香が爪先立ちをした。その瞬間、拘束が解けた――が、谷澤恵里香の両腕は、今度はブラックの頬を包み込んだ。その手のひらは暖かく、ほんのりと湿っていて、なんとも心地よい。ブラックは妙な気分になった。それは大島優子の手のひらに似ていた。
体は自由になったのに、ブラックは動けなかった。谷澤恵里香の十本の指がブラックの敏感な肌を這う。それは性的快感を呼び起こそうとする動きだった。
そして谷澤恵里香はそのままブラックの顔を、自分の顔に寄せた。鼻息が感じられるくらい、二人は密着した。
このときも、ブラックは逃げようと思えば逃げられたはずだった。しかし、できなかった。媚薬を嗅がされたかのように、ブラックの脳のどこかが甘い痺れで支配されていたからだ。
「暴力はきらい……」谷澤恵里香の吐息がブラックの鼻腔をくすぐった。「気持ちいいことしようよ」
谷澤恵里香のふっくらした唇が、ブラックの唇と重なった。
【つづく】
■強襲1-1■
胸元の十字架に触れると、それはひんやりと冷たくなっていた。寒空の下――しかも、暗闇の中で標的を待っているため、ブラックの体は芯から冷えている。
そのネックレスは、以前、前田四天王やらと戦ったときに壊されてしまった。のちにトリゴヤに修理をしてもらったが、あの闘いは失態以外のなにものでもなかった。相手は四人。一人一人は雑魚ばかりでも、群れとなったら恐ろしいことを思い知らされた。
敗戦を知ったサドは、ブラックを激しく叱咤した。前田を襲えという命令を忘れ、雑魚を相手に「狩り」の愉しみを優先させてしまったのだから、それは当然の罰だった。そのときに入れられた蹴りの傷跡は、まだ腹に残っている。サドのピンヒールのショートブーツの踵は凶器そのもので、ブラックはナイフで刺されたのかと錯覚したくらいだった。激痛などというものではない。サドの全体重が、あのわずかな面積のヒールに乗せられたのだから、当たりどころが悪ければ重症ではすまないかもしれなかった。それを躊躇なくやれてしまうサドの恐ろしさに、ブラックは心底震えた。
ターゲットは、そろそろこの道を通りかかるころだった。国道下の歩行者用トンネルの蛍光灯は、すべて壊しておいた。たかが十数メートルの長さしかないが、この暗闇は薄気味悪い。朝から降り続いている雨の音も加わり、より不気味さを演出している。これから襲われることになるターゲットは、ブラックの顔もわからないまま地に伏すことになるだろう。しかしブラックにとって、この漆黒はどこよりも落ち着ける空間だった。
十字架を、そっと唇に触れさせる。
戦いの前に必ずするその祈りは、亡き娘へ捧げる儀式だ。
父となったあの教師を、今ではもう恨んではいない。というより、どうでもいい。あの男がこれから先、なにをしようが興味はない。しいて言えば、さっさとこの世からいなくなってほしいが。
そんなつまらない男を愛したつもりになっていたあのころの自分を、ブラックはバカだと思う。周囲が反対すればするほど燃え、それこそが愛の証なのだと錯覚していた、柏木由紀という15歳の少女。彼女にとっては愛でも、あの教師にとっては性欲処理でしかなかった。女子中学生に生で中出しできることに幸福を感じていたロリコン野郎を愛していた自分……。バカだった。本当にバカだった。
あの男の何がよかったのか。顔。スタイル。明るい態度。笑顔。スーツの着こなし。他のみんなには内緒だよ、と言ってそっと飲ませてくれたワイン。ドライブ。すべて、装えるものばかりだ。
女子中学生に、人を見る目など備わっていない。人生のスキルが圧倒的に足らないのだから、所詮、見てくれでしか人を判断できない。わかったつもりになっているだけ。ブラックはそのことを嫌というほど痛感している。
しかし娘に罪はない。錯覚であっても「愛」を交わした結果授かった命を、ブラックはいとおしんだ。
出産は高校に入学した年の六月だった。ブラックは堕胎できないぎりぎりの時期まで妊娠を隠した。知られれば産めないことはわかっていた。大人たちは拘束してでもブラックを産婦人科に連れていっただろう。大人たちが知ったときには、もう堕胎の選択肢はとりえなかった。
華奢な体での出産は苦しかったが、産まれてくれた命は触れただけで壊れてしまいそうで、抱きかかえたときには苦労など消えていた。
男の妻は入院しているブラックの元へやってきてビンタを食らわせ、ありとあらゆる罵倒の言葉を吐き出した。「淫乱」や「売女」という言葉は、そのとき初めて知った。どうやら自分が男を誘惑したことになっているらしかった。その後、男は教職を追われ、どこかの知らない町へ家族ともども引っ越していった。
早産だったこともあり、健康体とはいえない体だったことが災いしたのか、娘は産まれてから半年も生きられなかった。娘はほとんどの時間を病院で過ごした。母乳をあげたこともあまりなく、母親らしいことはなにひとつできなかった。
娘が亡くなったあと、ブラックも地元にはいられなくなった。大人たちは、「問題のある」生徒を引き受けてくれるという馬路須加学園への転入手続きを勝手に済ませていた。ブラックは抵抗したが、大人の作ったシステムに子供が太刀打ちできるわけもなく、彼女は馬路須加学園へとやってきた。
荒れた学園でナメられずに生き残っていくためにはケンカで勝つ以外なかった。持ち前の動体視力の良さとスピードを生かした戦法で連戦連勝だったブラックの名は、たちどころに学園に響き渡った。そして同時に、ブラックの過去も学園内に知られることとなった。自分から話したことはないが、そういう「噂」はどこからか漏れるものだ。
ある日、ラッパッパから呼び出しを受けたブラックは、部室の奥のタイマン部屋でシブヤと戦うことを強要させられた。シブヤはこれまで戦ってきた相手よりもかなり強かったが、ブラックは善戦した。最後の一発になるであろうというパンチを打ち込む瞬間、大島優子が割って入った。
「おめぇ。強ぇえな」大島優子は笑った。「テッペンからの景色、見てみたくねぇか?」
はっきり言って、そんな景色はどうでもよかったが、ブラックは大島優子の誘いに乗った。マジ女の最強軍団ラッパッパに入れば、ナメられることはない。ブラックが四天王の一員に名を連ねると、「噂」を囁く者はいなくなっていた。
大島優子と過ごす日々は、ブラックの荒れた心を幾分かほぐしていった。人の上に立つだけあって、大島優子のカリスマ性は強かった。笑うとこぼれる八重歯は、普段の強面からは想像できないかわいらしさがあった。
大島優子に抱かれたのは、ラッパッパに入ってからすぐだった。男しか知らないブラックに、大島優子は女でしか味わえない快楽を教えた。
娘の命日に、大島優子とサドは墓参りに来てくれた。過去のことはすべて、二人には話していた。この二人には、捻じ曲げられた事実が伝わってほしくなかったからだ。
二人は手を合わせて涙した。「不倫の子」と言われた娘に、このような態度をとった者はこれまでいなかった。ブラックはこの二人についていく決意を固めた。
大島優子とサドの命令は、ブラックにとって至上だった。ラッパッパに歯向かう者は片っ端から潰した。闇夜に乗じて襲う戦い方は、ブラックの生き方にも通ずるものがあり、その快楽にブラックは酔った。
戦いの前には、娘が触れたことのある十字架のネックレスに祈る。口づけをして、勝利を祈願する。神に、ではなく、天国にいるはずの娘に祈る。
今日のターゲットの名は、谷澤恵里香。ネズミの資料には顔写真もあったので、暗闇の中でも見間違えることはない。そろそろこの通学路に使っているはずのトンネルを通る時間だ。ブラックは赤いレザーのカバーに包まれた詩集を取り出した。
【つづく】
胸元の十字架に触れると、それはひんやりと冷たくなっていた。寒空の下――しかも、暗闇の中で標的を待っているため、ブラックの体は芯から冷えている。
そのネックレスは、以前、前田四天王やらと戦ったときに壊されてしまった。のちにトリゴヤに修理をしてもらったが、あの闘いは失態以外のなにものでもなかった。相手は四人。一人一人は雑魚ばかりでも、群れとなったら恐ろしいことを思い知らされた。
敗戦を知ったサドは、ブラックを激しく叱咤した。前田を襲えという命令を忘れ、雑魚を相手に「狩り」の愉しみを優先させてしまったのだから、それは当然の罰だった。そのときに入れられた蹴りの傷跡は、まだ腹に残っている。サドのピンヒールのショートブーツの踵は凶器そのもので、ブラックはナイフで刺されたのかと錯覚したくらいだった。激痛などというものではない。サドの全体重が、あのわずかな面積のヒールに乗せられたのだから、当たりどころが悪ければ重症ではすまないかもしれなかった。それを躊躇なくやれてしまうサドの恐ろしさに、ブラックは心底震えた。
ターゲットは、そろそろこの道を通りかかるころだった。国道下の歩行者用トンネルの蛍光灯は、すべて壊しておいた。たかが十数メートルの長さしかないが、この暗闇は薄気味悪い。朝から降り続いている雨の音も加わり、より不気味さを演出している。これから襲われることになるターゲットは、ブラックの顔もわからないまま地に伏すことになるだろう。しかしブラックにとって、この漆黒はどこよりも落ち着ける空間だった。
十字架を、そっと唇に触れさせる。
戦いの前に必ずするその祈りは、亡き娘へ捧げる儀式だ。
父となったあの教師を、今ではもう恨んではいない。というより、どうでもいい。あの男がこれから先、なにをしようが興味はない。しいて言えば、さっさとこの世からいなくなってほしいが。
そんなつまらない男を愛したつもりになっていたあのころの自分を、ブラックはバカだと思う。周囲が反対すればするほど燃え、それこそが愛の証なのだと錯覚していた、柏木由紀という15歳の少女。彼女にとっては愛でも、あの教師にとっては性欲処理でしかなかった。女子中学生に生で中出しできることに幸福を感じていたロリコン野郎を愛していた自分……。バカだった。本当にバカだった。
あの男の何がよかったのか。顔。スタイル。明るい態度。笑顔。スーツの着こなし。他のみんなには内緒だよ、と言ってそっと飲ませてくれたワイン。ドライブ。すべて、装えるものばかりだ。
女子中学生に、人を見る目など備わっていない。人生のスキルが圧倒的に足らないのだから、所詮、見てくれでしか人を判断できない。わかったつもりになっているだけ。ブラックはそのことを嫌というほど痛感している。
しかし娘に罪はない。錯覚であっても「愛」を交わした結果授かった命を、ブラックはいとおしんだ。
出産は高校に入学した年の六月だった。ブラックは堕胎できないぎりぎりの時期まで妊娠を隠した。知られれば産めないことはわかっていた。大人たちは拘束してでもブラックを産婦人科に連れていっただろう。大人たちが知ったときには、もう堕胎の選択肢はとりえなかった。
華奢な体での出産は苦しかったが、産まれてくれた命は触れただけで壊れてしまいそうで、抱きかかえたときには苦労など消えていた。
男の妻は入院しているブラックの元へやってきてビンタを食らわせ、ありとあらゆる罵倒の言葉を吐き出した。「淫乱」や「売女」という言葉は、そのとき初めて知った。どうやら自分が男を誘惑したことになっているらしかった。その後、男は教職を追われ、どこかの知らない町へ家族ともども引っ越していった。
早産だったこともあり、健康体とはいえない体だったことが災いしたのか、娘は産まれてから半年も生きられなかった。娘はほとんどの時間を病院で過ごした。母乳をあげたこともあまりなく、母親らしいことはなにひとつできなかった。
娘が亡くなったあと、ブラックも地元にはいられなくなった。大人たちは、「問題のある」生徒を引き受けてくれるという馬路須加学園への転入手続きを勝手に済ませていた。ブラックは抵抗したが、大人の作ったシステムに子供が太刀打ちできるわけもなく、彼女は馬路須加学園へとやってきた。
荒れた学園でナメられずに生き残っていくためにはケンカで勝つ以外なかった。持ち前の動体視力の良さとスピードを生かした戦法で連戦連勝だったブラックの名は、たちどころに学園に響き渡った。そして同時に、ブラックの過去も学園内に知られることとなった。自分から話したことはないが、そういう「噂」はどこからか漏れるものだ。
ある日、ラッパッパから呼び出しを受けたブラックは、部室の奥のタイマン部屋でシブヤと戦うことを強要させられた。シブヤはこれまで戦ってきた相手よりもかなり強かったが、ブラックは善戦した。最後の一発になるであろうというパンチを打ち込む瞬間、大島優子が割って入った。
「おめぇ。強ぇえな」大島優子は笑った。「テッペンからの景色、見てみたくねぇか?」
はっきり言って、そんな景色はどうでもよかったが、ブラックは大島優子の誘いに乗った。マジ女の最強軍団ラッパッパに入れば、ナメられることはない。ブラックが四天王の一員に名を連ねると、「噂」を囁く者はいなくなっていた。
大島優子と過ごす日々は、ブラックの荒れた心を幾分かほぐしていった。人の上に立つだけあって、大島優子のカリスマ性は強かった。笑うとこぼれる八重歯は、普段の強面からは想像できないかわいらしさがあった。
大島優子に抱かれたのは、ラッパッパに入ってからすぐだった。男しか知らないブラックに、大島優子は女でしか味わえない快楽を教えた。
娘の命日に、大島優子とサドは墓参りに来てくれた。過去のことはすべて、二人には話していた。この二人には、捻じ曲げられた事実が伝わってほしくなかったからだ。
二人は手を合わせて涙した。「不倫の子」と言われた娘に、このような態度をとった者はこれまでいなかった。ブラックはこの二人についていく決意を固めた。
大島優子とサドの命令は、ブラックにとって至上だった。ラッパッパに歯向かう者は片っ端から潰した。闇夜に乗じて襲う戦い方は、ブラックの生き方にも通ずるものがあり、その快楽にブラックは酔った。
戦いの前には、娘が触れたことのある十字架のネックレスに祈る。口づけをして、勝利を祈願する。神に、ではなく、天国にいるはずの娘に祈る。
今日のターゲットの名は、谷澤恵里香。ネズミの資料には顔写真もあったので、暗闇の中でも見間違えることはない。そろそろこの通学路に使っているはずのトンネルを通る時間だ。ブラックは赤いレザーのカバーに包まれた詩集を取り出した。
【つづく】
■決心1-4■
「思いしらせてみてくださいよ、ユビハラさん」プリクラはヲタに向かって歩いてきた。
ヲタも歩き出した。びしょぬれになった上履きの中に溜まった水がぐちょぐちょと音を立てた。
蹴りが届く間合いまで近づいたとき、ヲタは先制攻撃をした。濡れたジャージのボトムは太ももにぴったりと吸い付き、黒とピンクの縞柄の靴下は水を吸って重くなり、脚を動かしにくかったが、ヲタは右脚を腰の位置まで上げ、回転蹴りを放った。
ジャージと靴下に含まれていた水が遠心力によって飛び散る。
プリクラは胸を反らして蹴りをかわし、その直後に間合いをつめてきた。
懐に潜りこまれるかと思い、ヲタは焦った。が、左脚を軸に回転している体は止められない。
体がプリクラと正対する位置に戻ると、そのときにはすでにパンチが顔面に迫っていた。
まだ片足立ちをしていたため、体は不安定だった。つまり避けることはできない。
反射的に、両手をクロスさせて顔を防御する。
プリクラのパンチが右の尺骨に命中し、激痛がヲタを襲った。
――クソッ……。
ヲタは呻いて、一歩後退する。
けれども、まだだ。たかが一発浴びただけ。
「効いたかな、いまの?」
プリクラは拳を手首でぶらぶらと動かしてみせた。
残念ながら効いている。尺骨がじんじんと熱く痛む。悔しいけれど、効果的な重いパンチだった。
プリクラが次の一撃に選んだのは左フックだった。
顔の右側から、弧を描いて襲いかかるそれを、ヲタは見切って避けた。
すかさず反撃に移る。
左フックをかわした次の瞬間、ヲタは抱えられるくらいまで右膝を曲げると、踵に渾身の力を込め、プリクラの腹に向けて蹴りを放った。
プリクラのお腹のぶよっとしたやわらかい感触が、銀色のブーツを通じて伝わってきた。どうして女の体はこうも柔らかいものなのだろうか。ケンカをするたびに、ヲタは思う。
ヲタにまともに蹴りを入れられたプリクラはよろけ、お尻から床に倒れた。溜まっている水が飛び散った。
「よっしゃっ」バンジーの声が聞こえた。
「あや様っ」純情堕天使のメンバーが声を上げた。
「――大丈夫……」みんなが駆け寄ろうとするのを、プリクラは制した。「こうでなくちゃ面白くないですから」
相手にダメージを与えた久しぶりの感触に、ヲタは興奮した。そう、これこそケンカの醍醐味だ。
ヲタは駆けた。
次にするべきは、倒れているプリクラの上に乗り、マウントポジションからパンチを入れることだ。
プリクラはそれを察したのか、機敏な動作で立ち上がろうとしている。
そうはさせじと、ヲタはプリクラの腰めがけてローキックを打った。
だが、プリクラは背中を丸めて後ろ向きに回転し、ヲタの攻撃を避けた。びしょ濡れのミニのプリーツスカートが重そうにその体の動きにしたがい、めくれあがって黒い下着があらわになった。
プリクラはその勢いを利用して立ち上がった。あざやかで、軽い身のこなしだった。
「あーぁぁ……」すばやく立ち上がったプリクラのセーラー服の裾から、行きどころをなくした水が滴っている。めくれたミニスカートのプリーツを直しながら、プリクラは言った。「こんなにずぶぬれになっちゃっいましたよ。明日も学校あるのに、どうしてくれるんですか、ユビハラさん?」
「ジャージで来いよ、おれらみたいに」
「そんなダサイの着てられないですよ」
プリクラが突進してきた。
ヲタは動かず、プリクラが射程圏内に入るのを待った。
プリクラは今度は腕ではなく、脚を使ってきた。腰の高さで、左のミドルキックが襲ってくる。直撃すれば肝臓にダメージを食らい、そのままダウンすることもありえる危険な技だ。
だが、ミドルキックにも弱点はある。掴みやすいことだ。回し蹴りという性質上、発生から的中まで時間がかかる。冷静に判断すれば対応できる。
そしてこのとき、ヲタは冷静だった。
プリクラの動きは、まるでスローモーションのように見えた。それだけ精神が研ぎ澄まされていたのだろう。ヲタは易々とプリクラの左脚を捕らえ、そのまま外側にねじった。
バランスを失ったプリクラを、ヲタはあっというまに床に転がせた。顔面から落ちたプリクラは、派手な水しぶきとともに短く叫んだ。
顔を上げたプリクラの濡れた髪が、セーラー服の襟に滴っていた。紺の生地が濡れ光るさまに、ヲタは不思議なエロスを感じた。プリクラの目つきは鋭く、女のヲタでもドキッとするような妖艶な光を宿している。先ほどまでの余裕は、痕跡すらなくなっていた。
本気になったようだ。
本気上等だ。こちとら、最初から本気だぜ。ヲタはあえて、倒れたプリクラを待った。
雨の中で、プリクラはヲタが攻撃しないことを確信しているかのように、ゆっくりと立ち上がった。「ちょっと痛かったですよ、ユビハラさん」
ヲタはみずから間合いを詰めた。プリクラの本気に応えたかった。
仕切りなおしをしてから、先に手を出したのはプリクラだった。ヲタの顔面を真正面から貫くようなパンチだ。
直線的なその動きには無駄がない。しかし、前田敦子ほどのスピードもなかった。あれに比べれば、たやすく避けられる。ヲタは体を沈めるようにしてパンチを交わし、アッパー気味の右フックをプリクラの左腰に放った。
外腹斜筋を狙ったつもりだったが、それはプリクラの肋骨に当たってしまい、ヲタの中手骨にも少なからずダメージを与えた。雨をたっぷり含んだセーラー服から、べしゃっという音を立てて水が弾けた。
「クソッ……」ヲタは悟られないようにプリクラから離れた。
「フックも正確に当てられないんですか?」
悔しいが、バカにされても仕方ない。
今度は蹴りだ。
ヲタは反動をつけるため、右脚を後ろに下げた。
プリクラが体の左側をかばうように斜めの体制をとった。
ならばと、ヲタはステップを刻むように右と左の脚の前後を入れ替えた。
その瞬間、プリクラが突っ込んできた。
あっという間にヲタはプリクラに抱え込まれた。二人の服に染み込んでいた水が跳ね、ヲタの視界を奪った。
ヲタの背中に手を回したプリクラは、数年ぶりにあった恋人のように激しくヲタを抱きしめ、締め上げた。両手も拘束され、決してふくよかとは言いがたい胸が潰されそうに苦しかった。
「ヲタッ」遠くでバンジーの声が聞こえた。
だが、ヲタにできたのは呻くことだけだった。
「悔しいですよねぇ。仲間の前で負けるなんて……」プリクラが耳元で囁いた。「でも、弱いんだから仕方ないか」
ヲタは冷静になろうとつとめた。内臓が圧迫され、息苦しい。おまけに雨が顔にかかり、流れた水が鼻の穴や口の中に入ってきて、呼吸もままならない。それでもヲタは必死にパニックと闘った。
両手は使えない。動かせるのは手首だけだが、いまは痺れはじめている。プリクラの体の一部をつねったり爪を立てたりするという方法もあるが、つかめるのはセーラー服だけだ。
脚はどうか。プリクラのつま先を踏むくらいのことはできるだろう。しかし、プリクラはヲタの体に覆いかぶさるようにして、重心を支配している。無理にそうしようとすれば、共倒れになる。その場合、下敷きになるのはヲタのほう
で、頭を打って脳震盪でも起こしたらもう終わりだ。プリクラなら倒れる瞬間にヲタの頭をつかみ、そうするだろう。
身動きがとれない今、こうなったらプリクラのバッテリーが切れるのを待つしかない。全力でヲタの体を絞めあげているのだから、いつかは力尽きる。もっとも、それまでヲタの体力が持つかどうかは怪しいが。
二の腕の感覚がなくなってきた。もうじき、痺れも痛みも感じなくなるのだろうか。
息もしにくい。苦しい。雨が顔に当たり、口の中にも入ってくるため、ヲタは何度も雨水を飲み込んだ。そのたび喉がずきっと痛み、呼吸を困難にしていく。鼻で息を吸おうとしても、上を向いているので雨が注ぎ込んでくる。プールの授業で、水が鼻に入ってきたときと同じ痛みを感じる。
「もう終わりですか? あっけないですねぇ。友情ごっこじゃないって教えてくれるんじゃないですか?」
プリクラの声は震えていた。そろそろ力の限界なのか……。
これはチキンレースみたいなものだ。先にあきらめたほうが負ける。
けれども、ヲタは心に決めていた。
ギブアップはしない。
チームホルモンのため、その単語だけは絶対に口にしてはいけない。
「ヲタッ……」バンジーの声。屋上ではない、どこかから叫んでいるように、それは遠くからのものに聞こえた。「もういい、やめろっ。見てられねえっ」
「そうだっ、ヲタッ」これはアキチャだ。「おまえの気持ちはわかった。うちらはもういいっ。自分のことだけ考えろっ」
「プリクラッ」ウナギが叫んだ。「もうやめろっ。おまえの勝ちだっ」
ムクチはどんな表情でいるのだろうか。ヲタは気になったが、チームホルモンの仲間たちは背後にいるため、見るこ
とはできなかった。
勝手なことを言いやがって……。薄れゆく意識の中で、ヲタは思った。とはいっても、怒っているわけではない。みんなが自分を心配してくれていることはわかっている。むしろ嬉しい。
自分のことだけ考えろとかギブアップしろとか、それができるくらいなら、そもそもプリクラとのタイマンなど張りはしない。そんな根性なしではないことを証明するために、おれは今、ここで闘っている。そしてプリクラもそれに応えてくれている。全力を出し切って、もう一歩も動けなくなるまでやりあうのが、プリクラに対する礼儀だ。
プリクラが、憎いか憎くないかと問われれば、憎い。しかし、今、自分を締め上げているプリクラには、愛おしささえ感じる。これは真剣にタイマンを張っている者同士がその瞬間にしか共有できない、至福のときなのだ。
だから仲間の言葉であっても、忠告に耳を貸す気はなかった。
とはいえ、そろそろ限界は近づいている。
腕の感覚がなくなっていた。痛みと痺れが限界点に到達し、脳がこれ以上の感覚の伝達をストップしたのかと思えるほどだった。
プリクラも同様にキツいようだった。絞めつける両手の力もやや衰えてきた。
ヲタは自分に言いきかせた。あと少し。あと少しで、この拘束は解ける。
プリクラの息が荒くなってきた。
そして何時間にも感じられるような数分間ののち、根負けしたのはプリクラだった。
ヲタを締め上げているプリクラの腕から、ふっと力が抜けた。
これまでの人生で最高の開放感を味わいつつ、ヲタはプリクラから離れた。腕はもちろん、脚にも力は入らず、よろよろと後ずさりして、ヲタは床の上にびしゃっと音を立てて倒れるように座り込んだ。ギブアップこそしなかったものの、もはや闘う力は残っていない。
「ヲタ……ッ」かけよろうとするチームホルモンのメンバーに、ヲタは笑顔を作って制した。
プリクラは、かろうじて立っている。息を肩でしながら、だが。
「停学処分が解けて、クラスに戻ってきたときのこと、あなたに理解できる……?」プリクラが言った。「みんなにどんな目で見られるかわからなくて、それでも私の居場所はここにあるって覚悟して来たときのこと……」
馬路須加女学園での「停学」は、実質上の退学を意味する。停学処分を受けた者は九十九パーセント戻ってこないからだ。暴力にさえ寛容で、どんな生徒でも見捨てないことを是とする校風がある上での停学処分である。それだけにこの処分は重い。当然、それを受けた者に対する風当たりも強くなる。だから停学処分を受けた者はそのまま退学してしまうことが多いのだ。
プリクラが停学になった理由は「馬路須加女学園の生徒としての自覚に欠けた軽率な行動を取った」からということ以外、詳しいことはわからない。男絡みとのウワサも聞いたが、真偽は不明だ。しかし、彼女が戻ってきたとき、周囲の生徒がどんな態度をとったかは容易に想像できる。
「あのままドロップアウトをすることも考えましたよ」プリクラが近づいてきた。「どのツラ下げてもどるんだよとも思ったし……。でも、2年をシメてるのは自分たち純情堕天使だって自覚もありましたから戻るべきだって思ったんです」プリクラはヲタのかたわらにヤンキー座りをした。「ナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカ……みんな、私のことを待っていてくれました。嬉しかったですよ。仲間っていいものです。でも、嬉しくないことがありました。ユビハラさん、あんたですよ」
プリクラは、ヲタがいつも首からさげているホイッスルを引っ張り、引きちぎった。そしてヲタの髪の毛をつかみ、顔を上に向けさせた。毛根が痛い。雨が目に入ってくる。
「いつのまにかラッパッパの承認まで受けて、2年のトップに立っていた……。こんなふうに、ちょっと締めたらぶっ倒れるくらい弱いくせに、どさくさまぎれにのしあがって……。そのときの気分はどうでした? 実力もないのに責任しょってプレッシャーでしたか? 遊びに行ってもバンジーは飛べない。体力測定でも学年最下位。懸垂、たったの7秒だったそうじゃないですか。ユビハラさんって、なんだったら満足にできるんですか? なにもできないあなたが、なぜここにいるんですか?」
プリクラの言葉は、ヲタには堪えた。言われた通りだ。自分はケンカも強くはない。体力もない。根性もない。あれもない。これもない。なにもない。
でも。でも。
でも……。
――おれには、仲間がいる。
それほどまでになにもない自分とともにいてくれる仲間がいる。
ヲタは渾身の力をふりしぼって、両手を挙げ、プリクラの手首を掴んだ。指先はまだ痺れていて、うまく動かせない。それでもヲタは爪を立て、プリクラの手のひらにダメージを与えた。
プリクラがびくっとしたように手を放した隙に、ヲタは立ち上がろうとした。まだまだ終わっちゃいねえ。なぜならおれは、ギブアップしてねえ……。
プリクラの右脚が顔面に命中した。
黒光りするブーツの踵が鼻の頭に当たり、ヲタは水溜りだらけの床の上を転がった。
ゲキカラのときに鉛筆を刺された箇所は、まだ完治していない。鼻の穴の奥がお湯を注ぎ込まれたみたいに熱くなった。手で触ると雨とはちがう、粘っこい感触があった。痺れるような痛みもある。
下を向くと、雨の溜まった床に、赤い液体が落ちていくのが見えた。
プリクラはまだ攻撃をやめなかった。ヲタ髪の毛をつかんで引き上げ、床に叩きつける。今度は額をしたたかに打ち、ヲタは軽い眩暈をおぼえた。
「てめぇっ」アキチャの声。「もう終わりだ。勝負はついたっ」
プリクラの足元だけが見えた。そこに、ジャージを履いた脚が、合計六本、近寄ってきた。
さらに、それを制するためか、ハイソックスの脚もぱらぱらとやってきて、間近で押し問答が始まった。
「――ついて……ねぇよ……」ヲタは地べたを這いずり、搾り出すように言った。「まだまだ闘えるぜ。ギブしてねぇし……」
「ヲタっ」アキチャが膝をつき、ヲタを覗き込んできた。「もうわかった。わかったから……」
「まだまだ……やるぜ……」上半身を持ち上げ、アキチャの肩を支えに立ち上がろうとした。
「ほら。まだ本人はやる気じゃないですか」プリクラの声。「それに、私もまだまだやりたいし」
「やらせるかよっ」ウナギはプリクラのセーラー服のスカーフをつかんでいた。「だれが見たって勝敗ついただろうがぁっ」
そのウナギをサキコとナツミが引き剥がそうとし、トモミとハルカがアキチャを牽制している。ムクチは身長差のあるマユミとメンチの切りあいの真っ最中だった。
「やめろ、てめぇらっ」そのとき、バンジーがひと際大きな声で、全員の動きを止めた。バンジーだけは群れに加わらず、最初の位置から動いていなかった。「これはタイマン勝負だろう。ギャラリーが手ぇ出すんじゃねぇっ」
「バンジー……」アキチャが漏らした。
「どっちかが完全にぶっ倒れるまでやらなきゃ、こいつら納得しねぇよ」
バンジーの制止が効いたのか、チームホルモンも純情堕天使も動きを止めた。
プリクラの顔にも、驚きの色が浮かんでいた。
「ありがとよ、バンジー……」ヲタは立ち上がれたが、手はアキチャの肩に置いたままだった。そんなつもりはないのに、手首から先が震え、止まらない。それでもヲタは、プレクラを見た。「まだ……立てるぜ……」
ヲタは歩きだした。
腕も手首も額も痛いが、なにより鼻が痛む。奥のほうで血の匂いがする。垂れた液体が唇を伝って口の中にも入ってくる。鉄の味がする。
それでも歩かなくてはいけない。戦わなくてはいけない。自分を突き動かしているのがなんなのかわからず、それでもヲタは本能のように歩いた。
「おめえ、さっき言ったよな……。私の気持ちが理解できるかって……。バカか、おめえは。できるわけねぇだろ。おめえに限らず、人の気持ちなんて理解できねぇよ。だれだってたったひとつの人生を生きていて、その中には自分だけが知っている秘密がたくさんある。そういったもんが複雑に混ざりあって、たとえば菊地あやかって人間を作ってるんだ。そいつを理解するにはすべてを洗いざらいにしなくちゃいけねぇ。ンなことできるわけねぇだろうが」
ヲタはそう言いながらも、自分がプリクラを好きだということに気づいていた。
「だけど、それでも理解したいと思って信じあうのがダチで……おれにもおめえにも、そんないいダチがいるだろう? なのにぐだぐだ言いやがって……。じゃあ、聞くが、おめえにおれの気持ちがわかるかよ? おまえがいなくなって、2年を仕切らなきゃいけなくなったおれの気持ちが」
プリクラの目の前まで来た。なにもされる気配はなかった。
ヲタは震える脚で体を支え、右拳をプリクラに叩きつけた……つもりだった。ところが拳にはまったく力がこもっておらず、それはゆっくりと空中を浮遊すると目標である顔面を離れた、セーラー服の襟元に当たっただけだった。友だち同士がふざけあってする挨拶程度の力しかなかった。
「泣き言を言うわけじゃねぇが、2年のトップに立つのも楽じゃなかった。いろいろしょいこんで、身動きがとれなくて、思わぬ相手にケンカを売られて負けて……。そしていま、こうしてタイマンを張らなくちゃいけねぇところまで追いつめられてる。でも、おれはそれを怨み言にはしない。自分で解決するべき問題だからだ。おめえが停学になった理由は知らねぇ。知りたくもねぇ……。だけどそれは、おまえに一生付きまとう事実だ。受け入れろよ。自分の怒りを正当化してどうする? おめえが、今回の停学で受けた傷――あくまで受けたんだったら、の話しだが――それを治せるのはおめえだけ、だ……」
限界だった。もう立っていられない。プリクラに殴られ、蹴られたあちこちの箇所が悲鳴を上げている。
ヲタはプリクラにもたれかかった。プリクラはヲタを受け止め、さっきの弱々しいパンチのお返しとばかりに、ヲタの腹部に拳を叩き込んできた。
それは今までのものに比べると威力は小さかったが、ヲタの内臓を圧迫し、戦闘能力を奪うくらいの効果はあった。
喉の奥からなにかが逆流し、ヲタは吐いた。血も混じっていた。
よろめくと、転落防止用の金網に背中が当たった。ヲタはそれに身を預け、ずるずると沈んでいった。
雨はまだやむ気配すらない。見上げると、水滴がシャワーのように降り注いでいる。ずぶぬれのジャージと靴下とブーツがより一層、重くなったように感じた。もう動きたくなかった。
「私の勝ちでいいですね?」プリクラが見下ろしたまま、訊ねた。
チームホルモンと純情堕天使のメンバーが、壁にもたれて座っているヲタと取り囲んでいた。みんなが全身から水を滴らせ、ヲタの返答を待っていた。
ヲタは小さく頷いた。
「ヲタ……」座り込み、ヲタの顔を覗き込んだバンジーは、涙を堪えているように思えた。だが、それはもはや限界らしく、真っ赤になった瞳からあふれかえった。
「うちらのために……」ウナギが包み込むように、ヲタを抱擁した。
「ありがと、な……」アキチャはヲタの手を握り締めてきた。
ムクチはヲタの二の腕を抱きしめ、しきりに頷いていた。
負けてもこんなふうに慕ってくれるなんて……いい仲間を持ったな。ヲタは自分の幸せを噛みしめた。
そして、このいい仲間とも、今日、このときでお別れだ。
「バンジー、ウナギ、アキチャ、ムクチ……」ヲタは声を絞り出した。いまはしゃべることでさえ辛かったが、最後に言わなくてはいけないことがある。「約束どおり、チームホルモンはたったいま、解散だ。そして、おまえたちはこれから純情堕天使のメンバーになる」
バンジーは目を閉じていた。
「いやだっ。いやだいやだいやだっ」ウナギは激しく首を横に振った。
「プリクラの命令なんて聞きたくねえっ」アキチャも抵抗した。
ムクチは大きな潤んだ瞳で、じっとヲタを見つめた。
「約束なんだ」ヲタは言った。
バンジーが立ち上がった。そしてウナギとアキチャの襟元をつかみ、引き上げた。
二人は驚いた表情でバンジーを見た。
バンジーは歩く体勢の整っていない二人を引きずるようにして、プリクラの元へ向かった。そして二人の体をプリクラに投げつけた。二人はプリクラにぶつかり、床に倒れた。
「バンジー、なにしやがるっ」ウナギが叫んだ。
アキチャはバンジーを見上げ、にらみつけた。
そんな二人などおかまいなしといった感じで、バンジーは再びヲタの近くにやってくると、今度はムクチを剥がしにかかった。
ムクチは抵抗した。いつものようになにも言わなかったが、ヲタの二の腕をつかんでいる力はこれまで感じたことのないくらい強かった。そこはちょうど、プリクラに締め上げられた箇所だったので、ヲタは激痛に顔をしかめた。
「痛てぇっ……」
ヲタが呻くと、ムクチはハッとしたように手を離した。その瞬間、ムクチはバンジーに剥がされた。
ムクチをプリクラの元に届けると、バンジーは戻ってきて、ヲタのかたわらに座り込んだ。
「じゃあな」
「よろしく頼むぜ……」ヲタはバンジーの目を見た。「いつか……テッペン、獲れよ」
「おまえのいないテッペンなんて、獲っても意味ねぇよ」
バンジーはそう言い残し、去った。
純情堕天使のメンバーが屋上からいなくなったあとも、ヲタはしばらく雨を浴びていた。
そして、泣いた。
これまでの短い人生の中で、こんなに激しく泣いたことはなかった。
【つづく】
「思いしらせてみてくださいよ、ユビハラさん」プリクラはヲタに向かって歩いてきた。
ヲタも歩き出した。びしょぬれになった上履きの中に溜まった水がぐちょぐちょと音を立てた。
蹴りが届く間合いまで近づいたとき、ヲタは先制攻撃をした。濡れたジャージのボトムは太ももにぴったりと吸い付き、黒とピンクの縞柄の靴下は水を吸って重くなり、脚を動かしにくかったが、ヲタは右脚を腰の位置まで上げ、回転蹴りを放った。
ジャージと靴下に含まれていた水が遠心力によって飛び散る。
プリクラは胸を反らして蹴りをかわし、その直後に間合いをつめてきた。
懐に潜りこまれるかと思い、ヲタは焦った。が、左脚を軸に回転している体は止められない。
体がプリクラと正対する位置に戻ると、そのときにはすでにパンチが顔面に迫っていた。
まだ片足立ちをしていたため、体は不安定だった。つまり避けることはできない。
反射的に、両手をクロスさせて顔を防御する。
プリクラのパンチが右の尺骨に命中し、激痛がヲタを襲った。
――クソッ……。
ヲタは呻いて、一歩後退する。
けれども、まだだ。たかが一発浴びただけ。
「効いたかな、いまの?」
プリクラは拳を手首でぶらぶらと動かしてみせた。
残念ながら効いている。尺骨がじんじんと熱く痛む。悔しいけれど、効果的な重いパンチだった。
プリクラが次の一撃に選んだのは左フックだった。
顔の右側から、弧を描いて襲いかかるそれを、ヲタは見切って避けた。
すかさず反撃に移る。
左フックをかわした次の瞬間、ヲタは抱えられるくらいまで右膝を曲げると、踵に渾身の力を込め、プリクラの腹に向けて蹴りを放った。
プリクラのお腹のぶよっとしたやわらかい感触が、銀色のブーツを通じて伝わってきた。どうして女の体はこうも柔らかいものなのだろうか。ケンカをするたびに、ヲタは思う。
ヲタにまともに蹴りを入れられたプリクラはよろけ、お尻から床に倒れた。溜まっている水が飛び散った。
「よっしゃっ」バンジーの声が聞こえた。
「あや様っ」純情堕天使のメンバーが声を上げた。
「――大丈夫……」みんなが駆け寄ろうとするのを、プリクラは制した。「こうでなくちゃ面白くないですから」
相手にダメージを与えた久しぶりの感触に、ヲタは興奮した。そう、これこそケンカの醍醐味だ。
ヲタは駆けた。
次にするべきは、倒れているプリクラの上に乗り、マウントポジションからパンチを入れることだ。
プリクラはそれを察したのか、機敏な動作で立ち上がろうとしている。
そうはさせじと、ヲタはプリクラの腰めがけてローキックを打った。
だが、プリクラは背中を丸めて後ろ向きに回転し、ヲタの攻撃を避けた。びしょ濡れのミニのプリーツスカートが重そうにその体の動きにしたがい、めくれあがって黒い下着があらわになった。
プリクラはその勢いを利用して立ち上がった。あざやかで、軽い身のこなしだった。
「あーぁぁ……」すばやく立ち上がったプリクラのセーラー服の裾から、行きどころをなくした水が滴っている。めくれたミニスカートのプリーツを直しながら、プリクラは言った。「こんなにずぶぬれになっちゃっいましたよ。明日も学校あるのに、どうしてくれるんですか、ユビハラさん?」
「ジャージで来いよ、おれらみたいに」
「そんなダサイの着てられないですよ」
プリクラが突進してきた。
ヲタは動かず、プリクラが射程圏内に入るのを待った。
プリクラは今度は腕ではなく、脚を使ってきた。腰の高さで、左のミドルキックが襲ってくる。直撃すれば肝臓にダメージを食らい、そのままダウンすることもありえる危険な技だ。
だが、ミドルキックにも弱点はある。掴みやすいことだ。回し蹴りという性質上、発生から的中まで時間がかかる。冷静に判断すれば対応できる。
そしてこのとき、ヲタは冷静だった。
プリクラの動きは、まるでスローモーションのように見えた。それだけ精神が研ぎ澄まされていたのだろう。ヲタは易々とプリクラの左脚を捕らえ、そのまま外側にねじった。
バランスを失ったプリクラを、ヲタはあっというまに床に転がせた。顔面から落ちたプリクラは、派手な水しぶきとともに短く叫んだ。
顔を上げたプリクラの濡れた髪が、セーラー服の襟に滴っていた。紺の生地が濡れ光るさまに、ヲタは不思議なエロスを感じた。プリクラの目つきは鋭く、女のヲタでもドキッとするような妖艶な光を宿している。先ほどまでの余裕は、痕跡すらなくなっていた。
本気になったようだ。
本気上等だ。こちとら、最初から本気だぜ。ヲタはあえて、倒れたプリクラを待った。
雨の中で、プリクラはヲタが攻撃しないことを確信しているかのように、ゆっくりと立ち上がった。「ちょっと痛かったですよ、ユビハラさん」
ヲタはみずから間合いを詰めた。プリクラの本気に応えたかった。
仕切りなおしをしてから、先に手を出したのはプリクラだった。ヲタの顔面を真正面から貫くようなパンチだ。
直線的なその動きには無駄がない。しかし、前田敦子ほどのスピードもなかった。あれに比べれば、たやすく避けられる。ヲタは体を沈めるようにしてパンチを交わし、アッパー気味の右フックをプリクラの左腰に放った。
外腹斜筋を狙ったつもりだったが、それはプリクラの肋骨に当たってしまい、ヲタの中手骨にも少なからずダメージを与えた。雨をたっぷり含んだセーラー服から、べしゃっという音を立てて水が弾けた。
「クソッ……」ヲタは悟られないようにプリクラから離れた。
「フックも正確に当てられないんですか?」
悔しいが、バカにされても仕方ない。
今度は蹴りだ。
ヲタは反動をつけるため、右脚を後ろに下げた。
プリクラが体の左側をかばうように斜めの体制をとった。
ならばと、ヲタはステップを刻むように右と左の脚の前後を入れ替えた。
その瞬間、プリクラが突っ込んできた。
あっという間にヲタはプリクラに抱え込まれた。二人の服に染み込んでいた水が跳ね、ヲタの視界を奪った。
ヲタの背中に手を回したプリクラは、数年ぶりにあった恋人のように激しくヲタを抱きしめ、締め上げた。両手も拘束され、決してふくよかとは言いがたい胸が潰されそうに苦しかった。
「ヲタッ」遠くでバンジーの声が聞こえた。
だが、ヲタにできたのは呻くことだけだった。
「悔しいですよねぇ。仲間の前で負けるなんて……」プリクラが耳元で囁いた。「でも、弱いんだから仕方ないか」
ヲタは冷静になろうとつとめた。内臓が圧迫され、息苦しい。おまけに雨が顔にかかり、流れた水が鼻の穴や口の中に入ってきて、呼吸もままならない。それでもヲタは必死にパニックと闘った。
両手は使えない。動かせるのは手首だけだが、いまは痺れはじめている。プリクラの体の一部をつねったり爪を立てたりするという方法もあるが、つかめるのはセーラー服だけだ。
脚はどうか。プリクラのつま先を踏むくらいのことはできるだろう。しかし、プリクラはヲタの体に覆いかぶさるようにして、重心を支配している。無理にそうしようとすれば、共倒れになる。その場合、下敷きになるのはヲタのほう
で、頭を打って脳震盪でも起こしたらもう終わりだ。プリクラなら倒れる瞬間にヲタの頭をつかみ、そうするだろう。
身動きがとれない今、こうなったらプリクラのバッテリーが切れるのを待つしかない。全力でヲタの体を絞めあげているのだから、いつかは力尽きる。もっとも、それまでヲタの体力が持つかどうかは怪しいが。
二の腕の感覚がなくなってきた。もうじき、痺れも痛みも感じなくなるのだろうか。
息もしにくい。苦しい。雨が顔に当たり、口の中にも入ってくるため、ヲタは何度も雨水を飲み込んだ。そのたび喉がずきっと痛み、呼吸を困難にしていく。鼻で息を吸おうとしても、上を向いているので雨が注ぎ込んでくる。プールの授業で、水が鼻に入ってきたときと同じ痛みを感じる。
「もう終わりですか? あっけないですねぇ。友情ごっこじゃないって教えてくれるんじゃないですか?」
プリクラの声は震えていた。そろそろ力の限界なのか……。
これはチキンレースみたいなものだ。先にあきらめたほうが負ける。
けれども、ヲタは心に決めていた。
ギブアップはしない。
チームホルモンのため、その単語だけは絶対に口にしてはいけない。
「ヲタッ……」バンジーの声。屋上ではない、どこかから叫んでいるように、それは遠くからのものに聞こえた。「もういい、やめろっ。見てられねえっ」
「そうだっ、ヲタッ」これはアキチャだ。「おまえの気持ちはわかった。うちらはもういいっ。自分のことだけ考えろっ」
「プリクラッ」ウナギが叫んだ。「もうやめろっ。おまえの勝ちだっ」
ムクチはどんな表情でいるのだろうか。ヲタは気になったが、チームホルモンの仲間たちは背後にいるため、見るこ
とはできなかった。
勝手なことを言いやがって……。薄れゆく意識の中で、ヲタは思った。とはいっても、怒っているわけではない。みんなが自分を心配してくれていることはわかっている。むしろ嬉しい。
自分のことだけ考えろとかギブアップしろとか、それができるくらいなら、そもそもプリクラとのタイマンなど張りはしない。そんな根性なしではないことを証明するために、おれは今、ここで闘っている。そしてプリクラもそれに応えてくれている。全力を出し切って、もう一歩も動けなくなるまでやりあうのが、プリクラに対する礼儀だ。
プリクラが、憎いか憎くないかと問われれば、憎い。しかし、今、自分を締め上げているプリクラには、愛おしささえ感じる。これは真剣にタイマンを張っている者同士がその瞬間にしか共有できない、至福のときなのだ。
だから仲間の言葉であっても、忠告に耳を貸す気はなかった。
とはいえ、そろそろ限界は近づいている。
腕の感覚がなくなっていた。痛みと痺れが限界点に到達し、脳がこれ以上の感覚の伝達をストップしたのかと思えるほどだった。
プリクラも同様にキツいようだった。絞めつける両手の力もやや衰えてきた。
ヲタは自分に言いきかせた。あと少し。あと少しで、この拘束は解ける。
プリクラの息が荒くなってきた。
そして何時間にも感じられるような数分間ののち、根負けしたのはプリクラだった。
ヲタを締め上げているプリクラの腕から、ふっと力が抜けた。
これまでの人生で最高の開放感を味わいつつ、ヲタはプリクラから離れた。腕はもちろん、脚にも力は入らず、よろよろと後ずさりして、ヲタは床の上にびしゃっと音を立てて倒れるように座り込んだ。ギブアップこそしなかったものの、もはや闘う力は残っていない。
「ヲタ……ッ」かけよろうとするチームホルモンのメンバーに、ヲタは笑顔を作って制した。
プリクラは、かろうじて立っている。息を肩でしながら、だが。
「停学処分が解けて、クラスに戻ってきたときのこと、あなたに理解できる……?」プリクラが言った。「みんなにどんな目で見られるかわからなくて、それでも私の居場所はここにあるって覚悟して来たときのこと……」
馬路須加女学園での「停学」は、実質上の退学を意味する。停学処分を受けた者は九十九パーセント戻ってこないからだ。暴力にさえ寛容で、どんな生徒でも見捨てないことを是とする校風がある上での停学処分である。それだけにこの処分は重い。当然、それを受けた者に対する風当たりも強くなる。だから停学処分を受けた者はそのまま退学してしまうことが多いのだ。
プリクラが停学になった理由は「馬路須加女学園の生徒としての自覚に欠けた軽率な行動を取った」からということ以外、詳しいことはわからない。男絡みとのウワサも聞いたが、真偽は不明だ。しかし、彼女が戻ってきたとき、周囲の生徒がどんな態度をとったかは容易に想像できる。
「あのままドロップアウトをすることも考えましたよ」プリクラが近づいてきた。「どのツラ下げてもどるんだよとも思ったし……。でも、2年をシメてるのは自分たち純情堕天使だって自覚もありましたから戻るべきだって思ったんです」プリクラはヲタのかたわらにヤンキー座りをした。「ナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカ……みんな、私のことを待っていてくれました。嬉しかったですよ。仲間っていいものです。でも、嬉しくないことがありました。ユビハラさん、あんたですよ」
プリクラは、ヲタがいつも首からさげているホイッスルを引っ張り、引きちぎった。そしてヲタの髪の毛をつかみ、顔を上に向けさせた。毛根が痛い。雨が目に入ってくる。
「いつのまにかラッパッパの承認まで受けて、2年のトップに立っていた……。こんなふうに、ちょっと締めたらぶっ倒れるくらい弱いくせに、どさくさまぎれにのしあがって……。そのときの気分はどうでした? 実力もないのに責任しょってプレッシャーでしたか? 遊びに行ってもバンジーは飛べない。体力測定でも学年最下位。懸垂、たったの7秒だったそうじゃないですか。ユビハラさんって、なんだったら満足にできるんですか? なにもできないあなたが、なぜここにいるんですか?」
プリクラの言葉は、ヲタには堪えた。言われた通りだ。自分はケンカも強くはない。体力もない。根性もない。あれもない。これもない。なにもない。
でも。でも。
でも……。
――おれには、仲間がいる。
それほどまでになにもない自分とともにいてくれる仲間がいる。
ヲタは渾身の力をふりしぼって、両手を挙げ、プリクラの手首を掴んだ。指先はまだ痺れていて、うまく動かせない。それでもヲタは爪を立て、プリクラの手のひらにダメージを与えた。
プリクラがびくっとしたように手を放した隙に、ヲタは立ち上がろうとした。まだまだ終わっちゃいねえ。なぜならおれは、ギブアップしてねえ……。
プリクラの右脚が顔面に命中した。
黒光りするブーツの踵が鼻の頭に当たり、ヲタは水溜りだらけの床の上を転がった。
ゲキカラのときに鉛筆を刺された箇所は、まだ完治していない。鼻の穴の奥がお湯を注ぎ込まれたみたいに熱くなった。手で触ると雨とはちがう、粘っこい感触があった。痺れるような痛みもある。
下を向くと、雨の溜まった床に、赤い液体が落ちていくのが見えた。
プリクラはまだ攻撃をやめなかった。ヲタ髪の毛をつかんで引き上げ、床に叩きつける。今度は額をしたたかに打ち、ヲタは軽い眩暈をおぼえた。
「てめぇっ」アキチャの声。「もう終わりだ。勝負はついたっ」
プリクラの足元だけが見えた。そこに、ジャージを履いた脚が、合計六本、近寄ってきた。
さらに、それを制するためか、ハイソックスの脚もぱらぱらとやってきて、間近で押し問答が始まった。
「――ついて……ねぇよ……」ヲタは地べたを這いずり、搾り出すように言った。「まだまだ闘えるぜ。ギブしてねぇし……」
「ヲタっ」アキチャが膝をつき、ヲタを覗き込んできた。「もうわかった。わかったから……」
「まだまだ……やるぜ……」上半身を持ち上げ、アキチャの肩を支えに立ち上がろうとした。
「ほら。まだ本人はやる気じゃないですか」プリクラの声。「それに、私もまだまだやりたいし」
「やらせるかよっ」ウナギはプリクラのセーラー服のスカーフをつかんでいた。「だれが見たって勝敗ついただろうがぁっ」
そのウナギをサキコとナツミが引き剥がそうとし、トモミとハルカがアキチャを牽制している。ムクチは身長差のあるマユミとメンチの切りあいの真っ最中だった。
「やめろ、てめぇらっ」そのとき、バンジーがひと際大きな声で、全員の動きを止めた。バンジーだけは群れに加わらず、最初の位置から動いていなかった。「これはタイマン勝負だろう。ギャラリーが手ぇ出すんじゃねぇっ」
「バンジー……」アキチャが漏らした。
「どっちかが完全にぶっ倒れるまでやらなきゃ、こいつら納得しねぇよ」
バンジーの制止が効いたのか、チームホルモンも純情堕天使も動きを止めた。
プリクラの顔にも、驚きの色が浮かんでいた。
「ありがとよ、バンジー……」ヲタは立ち上がれたが、手はアキチャの肩に置いたままだった。そんなつもりはないのに、手首から先が震え、止まらない。それでもヲタは、プレクラを見た。「まだ……立てるぜ……」
ヲタは歩きだした。
腕も手首も額も痛いが、なにより鼻が痛む。奥のほうで血の匂いがする。垂れた液体が唇を伝って口の中にも入ってくる。鉄の味がする。
それでも歩かなくてはいけない。戦わなくてはいけない。自分を突き動かしているのがなんなのかわからず、それでもヲタは本能のように歩いた。
「おめえ、さっき言ったよな……。私の気持ちが理解できるかって……。バカか、おめえは。できるわけねぇだろ。おめえに限らず、人の気持ちなんて理解できねぇよ。だれだってたったひとつの人生を生きていて、その中には自分だけが知っている秘密がたくさんある。そういったもんが複雑に混ざりあって、たとえば菊地あやかって人間を作ってるんだ。そいつを理解するにはすべてを洗いざらいにしなくちゃいけねぇ。ンなことできるわけねぇだろうが」
ヲタはそう言いながらも、自分がプリクラを好きだということに気づいていた。
「だけど、それでも理解したいと思って信じあうのがダチで……おれにもおめえにも、そんないいダチがいるだろう? なのにぐだぐだ言いやがって……。じゃあ、聞くが、おめえにおれの気持ちがわかるかよ? おまえがいなくなって、2年を仕切らなきゃいけなくなったおれの気持ちが」
プリクラの目の前まで来た。なにもされる気配はなかった。
ヲタは震える脚で体を支え、右拳をプリクラに叩きつけた……つもりだった。ところが拳にはまったく力がこもっておらず、それはゆっくりと空中を浮遊すると目標である顔面を離れた、セーラー服の襟元に当たっただけだった。友だち同士がふざけあってする挨拶程度の力しかなかった。
「泣き言を言うわけじゃねぇが、2年のトップに立つのも楽じゃなかった。いろいろしょいこんで、身動きがとれなくて、思わぬ相手にケンカを売られて負けて……。そしていま、こうしてタイマンを張らなくちゃいけねぇところまで追いつめられてる。でも、おれはそれを怨み言にはしない。自分で解決するべき問題だからだ。おめえが停学になった理由は知らねぇ。知りたくもねぇ……。だけどそれは、おまえに一生付きまとう事実だ。受け入れろよ。自分の怒りを正当化してどうする? おめえが、今回の停学で受けた傷――あくまで受けたんだったら、の話しだが――それを治せるのはおめえだけ、だ……」
限界だった。もう立っていられない。プリクラに殴られ、蹴られたあちこちの箇所が悲鳴を上げている。
ヲタはプリクラにもたれかかった。プリクラはヲタを受け止め、さっきの弱々しいパンチのお返しとばかりに、ヲタの腹部に拳を叩き込んできた。
それは今までのものに比べると威力は小さかったが、ヲタの内臓を圧迫し、戦闘能力を奪うくらいの効果はあった。
喉の奥からなにかが逆流し、ヲタは吐いた。血も混じっていた。
よろめくと、転落防止用の金網に背中が当たった。ヲタはそれに身を預け、ずるずると沈んでいった。
雨はまだやむ気配すらない。見上げると、水滴がシャワーのように降り注いでいる。ずぶぬれのジャージと靴下とブーツがより一層、重くなったように感じた。もう動きたくなかった。
「私の勝ちでいいですね?」プリクラが見下ろしたまま、訊ねた。
チームホルモンと純情堕天使のメンバーが、壁にもたれて座っているヲタと取り囲んでいた。みんなが全身から水を滴らせ、ヲタの返答を待っていた。
ヲタは小さく頷いた。
「ヲタ……」座り込み、ヲタの顔を覗き込んだバンジーは、涙を堪えているように思えた。だが、それはもはや限界らしく、真っ赤になった瞳からあふれかえった。
「うちらのために……」ウナギが包み込むように、ヲタを抱擁した。
「ありがと、な……」アキチャはヲタの手を握り締めてきた。
ムクチはヲタの二の腕を抱きしめ、しきりに頷いていた。
負けてもこんなふうに慕ってくれるなんて……いい仲間を持ったな。ヲタは自分の幸せを噛みしめた。
そして、このいい仲間とも、今日、このときでお別れだ。
「バンジー、ウナギ、アキチャ、ムクチ……」ヲタは声を絞り出した。いまはしゃべることでさえ辛かったが、最後に言わなくてはいけないことがある。「約束どおり、チームホルモンはたったいま、解散だ。そして、おまえたちはこれから純情堕天使のメンバーになる」
バンジーは目を閉じていた。
「いやだっ。いやだいやだいやだっ」ウナギは激しく首を横に振った。
「プリクラの命令なんて聞きたくねえっ」アキチャも抵抗した。
ムクチは大きな潤んだ瞳で、じっとヲタを見つめた。
「約束なんだ」ヲタは言った。
バンジーが立ち上がった。そしてウナギとアキチャの襟元をつかみ、引き上げた。
二人は驚いた表情でバンジーを見た。
バンジーは歩く体勢の整っていない二人を引きずるようにして、プリクラの元へ向かった。そして二人の体をプリクラに投げつけた。二人はプリクラにぶつかり、床に倒れた。
「バンジー、なにしやがるっ」ウナギが叫んだ。
アキチャはバンジーを見上げ、にらみつけた。
そんな二人などおかまいなしといった感じで、バンジーは再びヲタの近くにやってくると、今度はムクチを剥がしにかかった。
ムクチは抵抗した。いつものようになにも言わなかったが、ヲタの二の腕をつかんでいる力はこれまで感じたことのないくらい強かった。そこはちょうど、プリクラに締め上げられた箇所だったので、ヲタは激痛に顔をしかめた。
「痛てぇっ……」
ヲタが呻くと、ムクチはハッとしたように手を離した。その瞬間、ムクチはバンジーに剥がされた。
ムクチをプリクラの元に届けると、バンジーは戻ってきて、ヲタのかたわらに座り込んだ。
「じゃあな」
「よろしく頼むぜ……」ヲタはバンジーの目を見た。「いつか……テッペン、獲れよ」
「おまえのいないテッペンなんて、獲っても意味ねぇよ」
バンジーはそう言い残し、去った。
純情堕天使のメンバーが屋上からいなくなったあとも、ヲタはしばらく雨を浴びていた。
そして、泣いた。
これまでの短い人生の中で、こんなに激しく泣いたことはなかった。
【つづく】
午後からおれが握手するのは指原と小森。どちらも最近好きになったのだが、どちらかといえば指原のほうに比重は傾いている。
指原は『週刊AKB』でバンジージャンプができなかったあと、おれの夢に出てきた。その中でおれは、劇場公演後、抽選に当たって才加と会えることになったのだが、楽屋に行くとなぜか指原が出てきて、おれにバンジージャンプができなかったことの言い訳をひたすらし続けたのだ。
それ以来、おれはリアルでも指原が気になってしまった。そして『マジすか学園』のヲタ役の指原にハマり、パロディ小説でも主役にした。
はっきり言って指原は、一般的な意味での「かわいい」というキャラではないと思う。けれどもなんともいえない、かわいいとはちがうベクトルの魅力があることは事実で、それはAKBというグループの中で地味であっても欠かせない輝きだ。
その指原は、デニムのショートパンツに、自分がデザインしたTシャツ(胸の部分に「指原クオリティー」と書かれている)という姿で登場。
待っているあいだ、隣のレーンにいる高橋みなみもかわいらしくて、ちらちら見てしまう。そして高橋の横顔が見えるたび、なぜか指原に対する後ろめたさも感じてしまった。
開始時間より早めに列に並んだおかげで、十分も待たずにおれの順番が回ってきた。
「こんにちはっ」
そう言う指原と目が合う。
メイクがちょっと濃くて、なんか大人っぽい……。
これはおれの知ってる指原じゃない。さしこがこんなにきれいなわけがない!!! で、でも……かわいいじゃねぇか、このやろう。さしこのくせに!!!
ドキドキして、間が空いてしまった。なにか言わなくちゃ、と焦りつつ、おれはなんとか挨拶をして、こう言った。「『マジすか』のヲタ役、とってもよかったです」
「ありがとうございます。DVDも見てくださいね」
「はい」
剥がし。
短かったけど、指原、いや、さしこに会えてよかった。これからは、今までとはちがった感じでさしこを見られるような気がする。
続いては小森だ。
こちらも列は短くて、あっという間におれの順番が回ってきた。
小森は思っていた以上に背が高く、しかも細い。立っているだけで、なんとも言えない佇まいがあった。いわゆる「不思議ちゃん」とはちがう、小森にしかない雰囲気だ。そしてさしこ同様、小森もテレビで見るよりずっと大人っぽい。
握手を交わして、おれはそのままのことを言った。「はじめまして。テレビで見るより大人っぽいですね」
「えーっ、そうですかー」
このときの口調は、小森を知る人なら、容易に想像してもらえるだろう。そう、あの感じだ。
「これからもがんばってください」
「はい。ありがとうございます」
剥がし。
小森とは、あまり緊張しないでお話ができた。多分、そんなに推してないからだろうw でも、一度でいいから、生小森というものを体験してみたかったのだ。ま、一度でいいけど。
二人と握手をしたあと、夜の部の野呂ちゃんとの握手までは、まだ五時間ほどあった。
ぼくとさおりさんは駅前のビルで、はなまるうどんを食べて、本屋をぶらついて時間を潰した。
そのとき、おれはあることを思い出した。
幕張本郷には映画館があったはずだ!!!
幸い、時間はまだたくさんある。映画一本見られるくらいの。
とはいえ、さおりさんを放って行くのは忍びない。しかし五時間もの時間は、正直もったいない……。おれはさおりさんに一人にしてしまうことを謝って、映画館へ向かった。
『パリより愛をこめて』が見たかったけれど、これはレイトショーでしかやっていなかった。ちょうどいい時間帯にやる映画は『告白』くらい。まあ、この映画は気になっていたので「これでもいっか」と見ることにした。
正直、嫌いな話だった。人間の一面しか描かれていないし、その一面の描き方も浅い。ただ単に絶望的なことしか起こらず、まるでおれの嫌いな乙一の小説を思い出してしまった。
ミステリとしての骨子も弱い。ネタバレしないように書くのは難しいんだけど、とにかくいろんな計画に穴がありすぎ。ああいうモノを作る才能って、機械工学みたいなものじゃなくて化学なんじゃないの、とか。
人間が描けていない、ミステリとしても不完全。いいとこないじゃん。
なぜこの話をここで書いているかというと、この映画にはAKB48の歌が使われているからだ。
しかも、おれはこの使い方にかなりムカついている。「今」っぽさを出すための道具立てとしてしか機能しておらず、これを聞いているキャラクターの行動を見ている限りでは、AKBが歌を通じて発しているメッセージがまったく届いていないではないか、と思えてしまうからだ。使われている楽曲は『RIVER』。ネタバレになるのでこれ以上は書かないけど……。あと、ポスターが『BINGO!』って古くね?
とまあ、なんかすっきりしないまま、おれは再び幕張メッセに戻った。
野呂ちゃんの握手会は19時からで、それより少し遅れておれが行ったときには、すでに行列ができていた。もしかしたら、今日もっとも長く行列に並んだかも、というくらい待ち、いよいよ野呂ちゃんとの対面となった。
「こんばんわっ」
挨拶をしてくれる野呂ちゃんは、本当にかわいい。テレビで見るよりぽっちゃりしてない!!! むしろ痩せてる……いや、それは言いすぎだが。
「こんばんわ」おれはぺこりと頭を下げ、「『ネ申テレビ』で明治大学の学食に行ったとき、優子が持ってきたトリプルカレー、全部食べたんですか?」
野呂ちゃんはちょっと躊躇して、「はいっ」と笑顔になった。
しかし、おれが剥がされかけたその直後、
「いやっ、あの……全部食べたってことにしておいてください」と……。
一瞬、ウソをついてしまう野呂ちゃんはやっぱりかわいい。
でも、なんでおれ、そんなつまらんこと聞いたんだろう……。
そんなわけで、おれの握手会は終わった。
待ち時間は長かったが、とても楽しい一日だった。また来たい、と思えるようなイベントだった。
待ち時間というのは、あくまでメンバーのスケジュールの問題で、行列に並んでいる時間は合計しても一時間に満たない。とてもスムーズな人の流れで、ストレスは感じなかった。もっとも、人気のあるメンバーには長蛇の列ができていたけど……。
そして、初めて握手会に参加してみて、いろいろな提案や改善点にも気づいた。これは次に、戸賀崎氏に会ったときに言ってみよう。あえて、ここでは書かないことにする。
最後に、もっとも心に残ったことを書きたい。
それは、握手をしたあとのメンバーの態度のことだ。
何度も書いているように、握手の時間は決まっている。多分、10秒くらいだろう。その時間が過ぎると、背後の警備員にそっと肩をつかまれ、外に出るようにと剥がされる。だれもが一秒でも長く触れていたい、と思うだろう。そんなファンの気持ちを察してか、メンバーは最後の最後まで握手をした人の目を見ている。
手が離れた後も、しあわせな気分に包まれていられるのは、この視線のおかげだと思う。
握手会にはいろんな人が来る。おかしな人もいるだろう。でも、メンバーのみんなは、少なくともおれが握手をした五人は笑顔で接してくれた。きっと、他のメンバーもそうしていたにちがいない。
来た人が笑顔になって帰れるイベントを、これからもずっと続けていってほしい。
指原は『週刊AKB』でバンジージャンプができなかったあと、おれの夢に出てきた。その中でおれは、劇場公演後、抽選に当たって才加と会えることになったのだが、楽屋に行くとなぜか指原が出てきて、おれにバンジージャンプができなかったことの言い訳をひたすらし続けたのだ。
それ以来、おれはリアルでも指原が気になってしまった。そして『マジすか学園』のヲタ役の指原にハマり、パロディ小説でも主役にした。
はっきり言って指原は、一般的な意味での「かわいい」というキャラではないと思う。けれどもなんともいえない、かわいいとはちがうベクトルの魅力があることは事実で、それはAKBというグループの中で地味であっても欠かせない輝きだ。
その指原は、デニムのショートパンツに、自分がデザインしたTシャツ(胸の部分に「指原クオリティー」と書かれている)という姿で登場。
待っているあいだ、隣のレーンにいる高橋みなみもかわいらしくて、ちらちら見てしまう。そして高橋の横顔が見えるたび、なぜか指原に対する後ろめたさも感じてしまった。
開始時間より早めに列に並んだおかげで、十分も待たずにおれの順番が回ってきた。
「こんにちはっ」
そう言う指原と目が合う。
メイクがちょっと濃くて、なんか大人っぽい……。
これはおれの知ってる指原じゃない。さしこがこんなにきれいなわけがない!!! で、でも……かわいいじゃねぇか、このやろう。さしこのくせに!!!
ドキドキして、間が空いてしまった。なにか言わなくちゃ、と焦りつつ、おれはなんとか挨拶をして、こう言った。「『マジすか』のヲタ役、とってもよかったです」
「ありがとうございます。DVDも見てくださいね」
「はい」
剥がし。
短かったけど、指原、いや、さしこに会えてよかった。これからは、今までとはちがった感じでさしこを見られるような気がする。
続いては小森だ。
こちらも列は短くて、あっという間におれの順番が回ってきた。
小森は思っていた以上に背が高く、しかも細い。立っているだけで、なんとも言えない佇まいがあった。いわゆる「不思議ちゃん」とはちがう、小森にしかない雰囲気だ。そしてさしこ同様、小森もテレビで見るよりずっと大人っぽい。
握手を交わして、おれはそのままのことを言った。「はじめまして。テレビで見るより大人っぽいですね」
「えーっ、そうですかー」
このときの口調は、小森を知る人なら、容易に想像してもらえるだろう。そう、あの感じだ。
「これからもがんばってください」
「はい。ありがとうございます」
剥がし。
小森とは、あまり緊張しないでお話ができた。多分、そんなに推してないからだろうw でも、一度でいいから、生小森というものを体験してみたかったのだ。ま、一度でいいけど。
二人と握手をしたあと、夜の部の野呂ちゃんとの握手までは、まだ五時間ほどあった。
ぼくとさおりさんは駅前のビルで、はなまるうどんを食べて、本屋をぶらついて時間を潰した。
そのとき、おれはあることを思い出した。
幕張本郷には映画館があったはずだ!!!
幸い、時間はまだたくさんある。映画一本見られるくらいの。
とはいえ、さおりさんを放って行くのは忍びない。しかし五時間もの時間は、正直もったいない……。おれはさおりさんに一人にしてしまうことを謝って、映画館へ向かった。
『パリより愛をこめて』が見たかったけれど、これはレイトショーでしかやっていなかった。ちょうどいい時間帯にやる映画は『告白』くらい。まあ、この映画は気になっていたので「これでもいっか」と見ることにした。
正直、嫌いな話だった。人間の一面しか描かれていないし、その一面の描き方も浅い。ただ単に絶望的なことしか起こらず、まるでおれの嫌いな乙一の小説を思い出してしまった。
ミステリとしての骨子も弱い。ネタバレしないように書くのは難しいんだけど、とにかくいろんな計画に穴がありすぎ。ああいうモノを作る才能って、機械工学みたいなものじゃなくて化学なんじゃないの、とか。
人間が描けていない、ミステリとしても不完全。いいとこないじゃん。
なぜこの話をここで書いているかというと、この映画にはAKB48の歌が使われているからだ。
しかも、おれはこの使い方にかなりムカついている。「今」っぽさを出すための道具立てとしてしか機能しておらず、これを聞いているキャラクターの行動を見ている限りでは、AKBが歌を通じて発しているメッセージがまったく届いていないではないか、と思えてしまうからだ。使われている楽曲は『RIVER』。ネタバレになるのでこれ以上は書かないけど……。あと、ポスターが『BINGO!』って古くね?
とまあ、なんかすっきりしないまま、おれは再び幕張メッセに戻った。
野呂ちゃんの握手会は19時からで、それより少し遅れておれが行ったときには、すでに行列ができていた。もしかしたら、今日もっとも長く行列に並んだかも、というくらい待ち、いよいよ野呂ちゃんとの対面となった。
「こんばんわっ」
挨拶をしてくれる野呂ちゃんは、本当にかわいい。テレビで見るよりぽっちゃりしてない!!! むしろ痩せてる……いや、それは言いすぎだが。
「こんばんわ」おれはぺこりと頭を下げ、「『ネ申テレビ』で明治大学の学食に行ったとき、優子が持ってきたトリプルカレー、全部食べたんですか?」
野呂ちゃんはちょっと躊躇して、「はいっ」と笑顔になった。
しかし、おれが剥がされかけたその直後、
「いやっ、あの……全部食べたってことにしておいてください」と……。
一瞬、ウソをついてしまう野呂ちゃんはやっぱりかわいい。
でも、なんでおれ、そんなつまらんこと聞いたんだろう……。
そんなわけで、おれの握手会は終わった。
待ち時間は長かったが、とても楽しい一日だった。また来たい、と思えるようなイベントだった。
待ち時間というのは、あくまでメンバーのスケジュールの問題で、行列に並んでいる時間は合計しても一時間に満たない。とてもスムーズな人の流れで、ストレスは感じなかった。もっとも、人気のあるメンバーには長蛇の列ができていたけど……。
そして、初めて握手会に参加してみて、いろいろな提案や改善点にも気づいた。これは次に、戸賀崎氏に会ったときに言ってみよう。あえて、ここでは書かないことにする。
最後に、もっとも心に残ったことを書きたい。
それは、握手をしたあとのメンバーの態度のことだ。
何度も書いているように、握手の時間は決まっている。多分、10秒くらいだろう。その時間が過ぎると、背後の警備員にそっと肩をつかまれ、外に出るようにと剥がされる。だれもが一秒でも長く触れていたい、と思うだろう。そんなファンの気持ちを察してか、メンバーは最後の最後まで握手をした人の目を見ている。
手が離れた後も、しあわせな気分に包まれていられるのは、この視線のおかげだと思う。
握手会にはいろんな人が来る。おかしな人もいるだろう。でも、メンバーのみんなは、少なくともおれが握手をした五人は笑顔で接してくれた。きっと、他のメンバーもそうしていたにちがいない。
来た人が笑顔になって帰れるイベントを、これからもずっと続けていってほしい。
土曜日は遠い遠い幕張メッセまで(電車で一時間半ならそんなに遠くないだろ)、モデルの三崎さおりさんとAKB48大握手会に行ってきた。
八時半ころ会場に着くと、まだ朝早いためか、けっこう閑散としている。始まるのは九時からなので、グッズ売り場などぶらぶら(このときはなにも買わず、あとで総選挙のムック本を買った。おまけの写真は篠田)。
おれが握手をするメンバーは午前、才加、内田、午後は指原、小森、そして夜は野呂ちゃんだ。
さおりさんとおれは、会うメンバーがそれぞれちがうので一旦解散。
朝イチの才加の列には十人くらいが並んでいた。前田敦子クラスのメンバーにはすでに百人を超える行列ができていたが、そうでないメンバーの列はだれもが才加と同じくらいだった。
以前、ビックサイトでおこなわれた写真会のように、メンバーは仕切りの向こうにいるのかと思ったら、列に並んでいると見える位置にずっといる。好きな子を生で見ていられるのは嬉しいけど、余計に緊張する。
そして待ち時間は十分もなく、おれはついに才加の目の前に立った。あらかじめなにを言うか考えていなかったのが大失敗の元だった。
「こんにちはーっ」という元気な才加のメデューサチックな魅惑の瞳に見つめられ、あろうことか手まで握られたことにより(そういうイベントだろ)、おれの頭の中は真っ白……。ひきつった笑みを浮かべた坊主頭のおっさんを、さぞかし才加は気持ち悪がったにちがいないw
「あの……先週の禁煙シンポジウム行きました」
「ありがとうございますっ」
「これからAKBに禁煙ひろげてください」
テンパってわけのわからないことを言ってしまった。これではまるで、AKBが喫煙者の集団みたいではないか。
おれが言いたかったのは、若いメンバーが成人になってもタバコを吸わないようにアドバイスしてあげてくれ、という意味のことなのだ。
やっちまった!!! と心の中で悶絶していると、才加はこう言った。
「メンバーでタバコ吸っている子、いませんよ?」
才加の頭の上に、まちがいなく「?」が見えた。「こいつ、なに言ってんだよ」と思われたにちがいない!!! そうだ、そうに決まってる!!!
しかも、そこでおれが言った言葉が、
「あ。そうなんですか」
ダメじゃん、おれ……。完全に喫煙者がいること前提で話していたと思われている。
そして弁明の機会もなく、おれは背後のスタッフに剥がされた。
人間、本当に OTL って姿勢をとるんだね……。
しかしめげている場合ではない。次は内田眞由美だ。今度こそ失敗はできない。
内田の列は思っていたより長くて、才加と同じくらいの待ち時間だった。列の向こうに内田がちらちら見える。あいかわらずかわいらしい。
おれの番が回ってきた。視線が合うと、にっこりと微笑んでくれる。仕事でやっているとはいえ、嬉しい。だが、その笑顔がまぶしすぎて、ここでもまた、おれの小心者スイッチがカチッと音を立てて入った。またテンパったのだ。
「こんにちはっ」
と声をかけられ、なにを話すべきか思い出せなかった。
「あの……」と言いよどんでしまい、しばらく言葉が出なかった。「……公演で見て、それでファンに……」
いや、ちがう。おれが内田をはじめて見たのはAKB劇場の公演ではなく、AKB歌劇団の公演だ。でも、AKBで「公演」と言ったら劇場をさす。それでは意味がない。あのお芝居であなたを知ったんですよ、と言いたかったのだ。おれは渾身の力で脳から「AKB歌劇団」という単語を搾り出そうとした。
が…ダメッ!
「あの、公演というか、お芝居です……」
「ありがとうございますっ」
「また、お芝居出てください」
剥がし。
なにをやってるんだ、おれは……。レーンから離れつつ、おれはまたしても打ちひしがれた。
自分のことを話すんじゃなくて、メンバーがこれからもがんばっていこうと思えるような一言をかけてあげたいのに……。
そのあと、さおりさんと合流。この時点で、まだ九時半くらいだった。午後までどうしましょうかと聞くと、戸賀崎支配人に会いたいと言う。
この大握手会は先週もおこなわれていたのだが、今回はチケットが転売屋に流れるのを防ぐため、本人確認ができないと握手ができないシステムになっていた。
ところがそのために必要な、CDを買ったときの納品書を捨ててたり紛失してしまったりした人が続出。そこで運営側は、救済措置として納品書の再発行をした。
なぜ、そんなことが起きたかというと、納品書が握手会に参加するために必要という告知はweb上ではおこなわれていたものの、届いた納品書にはまったく明記されていなかったのだ。CD購入をwebでしたのは一ヶ月ほど前のことで、その告知を覚えていない人がいるのも無理からぬことだった。実際、おれもそんなことはすっかり忘れていて、納品書の類は半年くらいとっておくというみみっちい性格ゆえに助かったにすぎない。
さおりさんは納品書をなくしてしまい、この措置に救われた。そのお礼を、支配人にしたいと言うのだ。
このイベントには、会場の一角に「支配人の部屋」が設置され、だれもが意見を言えるシステムになっている。
おれはこのシステムにいたく感動した。
AKB48の現場の最高責任者に、直接会い、意見でも文句でも、なんでも言える。しかも携帯でツーショット写真も撮ってくれるし、サインもしてくれる(おれも撮ってもらったw)。
こんなイベントはこれまで見たことがない。
三十人ほどの列に並び、一時間弱ほど待った。最初はさおりさんのつきあいで並んだが、せっかくの機会だからおれも意見を言おうと思った。
そして順番が回ってきた。さおりさんのあとで、おれは戸賀崎氏と対面した。ちょっと緊張したものの、才加や内田のときほどではないw
転売防止のシステムはこれからも継続していくべきだが、今回は最初ということもあって混乱があった。はっきり言って、運営にも責任はあると思う。webだけではなく商品のパッケージや納品書に大きく参加要項を記すべきではないか。
戸賀崎氏はおれの意見に同意してくれて、次からはだれにでもわかるようなかたちで告知したいと言った。ぜひ、そうしてもらいたい。
運営は今まであれこれ叩かれてきたが(おれもいろいろ言った)、それでも直接ファンの声を聞く姿勢があるというのは、すばらしいことだ。これからはなにか意見があったら、直接、戸賀崎氏に伝えようと思う。ネットに好き勝手書くのも自由だが(自戒も込めてます)、運営は意見を聞くシステムを作っているので、文句のある人は言いにいけばいい。握手券がなくても会場には入れるから、だれでも戸賀崎氏に会える。剥がしもない。ちゃんと聞いてくれる。
これからも、支配人の部屋はできる限り継続してもらいたい。
【つづく】
八時半ころ会場に着くと、まだ朝早いためか、けっこう閑散としている。始まるのは九時からなので、グッズ売り場などぶらぶら(このときはなにも買わず、あとで総選挙のムック本を買った。おまけの写真は篠田)。
おれが握手をするメンバーは午前、才加、内田、午後は指原、小森、そして夜は野呂ちゃんだ。
さおりさんとおれは、会うメンバーがそれぞれちがうので一旦解散。
朝イチの才加の列には十人くらいが並んでいた。前田敦子クラスのメンバーにはすでに百人を超える行列ができていたが、そうでないメンバーの列はだれもが才加と同じくらいだった。
以前、ビックサイトでおこなわれた写真会のように、メンバーは仕切りの向こうにいるのかと思ったら、列に並んでいると見える位置にずっといる。好きな子を生で見ていられるのは嬉しいけど、余計に緊張する。
そして待ち時間は十分もなく、おれはついに才加の目の前に立った。あらかじめなにを言うか考えていなかったのが大失敗の元だった。
「こんにちはーっ」という元気な才加のメデューサチックな魅惑の瞳に見つめられ、あろうことか手まで握られたことにより(そういうイベントだろ)、おれの頭の中は真っ白……。ひきつった笑みを浮かべた坊主頭のおっさんを、さぞかし才加は気持ち悪がったにちがいないw
「あの……先週の禁煙シンポジウム行きました」
「ありがとうございますっ」
「これからAKBに禁煙ひろげてください」
テンパってわけのわからないことを言ってしまった。これではまるで、AKBが喫煙者の集団みたいではないか。
おれが言いたかったのは、若いメンバーが成人になってもタバコを吸わないようにアドバイスしてあげてくれ、という意味のことなのだ。
やっちまった!!! と心の中で悶絶していると、才加はこう言った。
「メンバーでタバコ吸っている子、いませんよ?」
才加の頭の上に、まちがいなく「?」が見えた。「こいつ、なに言ってんだよ」と思われたにちがいない!!! そうだ、そうに決まってる!!!
しかも、そこでおれが言った言葉が、
「あ。そうなんですか」
ダメじゃん、おれ……。完全に喫煙者がいること前提で話していたと思われている。
そして弁明の機会もなく、おれは背後のスタッフに剥がされた。
人間、本当に OTL って姿勢をとるんだね……。
しかしめげている場合ではない。次は内田眞由美だ。今度こそ失敗はできない。
内田の列は思っていたより長くて、才加と同じくらいの待ち時間だった。列の向こうに内田がちらちら見える。あいかわらずかわいらしい。
おれの番が回ってきた。視線が合うと、にっこりと微笑んでくれる。仕事でやっているとはいえ、嬉しい。だが、その笑顔がまぶしすぎて、ここでもまた、おれの小心者スイッチがカチッと音を立てて入った。またテンパったのだ。
「こんにちはっ」
と声をかけられ、なにを話すべきか思い出せなかった。
「あの……」と言いよどんでしまい、しばらく言葉が出なかった。「……公演で見て、それでファンに……」
いや、ちがう。おれが内田をはじめて見たのはAKB劇場の公演ではなく、AKB歌劇団の公演だ。でも、AKBで「公演」と言ったら劇場をさす。それでは意味がない。あのお芝居であなたを知ったんですよ、と言いたかったのだ。おれは渾身の力で脳から「AKB歌劇団」という単語を搾り出そうとした。
が…ダメッ!
「あの、公演というか、お芝居です……」
「ありがとうございますっ」
「また、お芝居出てください」
剥がし。
なにをやってるんだ、おれは……。レーンから離れつつ、おれはまたしても打ちひしがれた。
自分のことを話すんじゃなくて、メンバーがこれからもがんばっていこうと思えるような一言をかけてあげたいのに……。
そのあと、さおりさんと合流。この時点で、まだ九時半くらいだった。午後までどうしましょうかと聞くと、戸賀崎支配人に会いたいと言う。
この大握手会は先週もおこなわれていたのだが、今回はチケットが転売屋に流れるのを防ぐため、本人確認ができないと握手ができないシステムになっていた。
ところがそのために必要な、CDを買ったときの納品書を捨ててたり紛失してしまったりした人が続出。そこで運営側は、救済措置として納品書の再発行をした。
なぜ、そんなことが起きたかというと、納品書が握手会に参加するために必要という告知はweb上ではおこなわれていたものの、届いた納品書にはまったく明記されていなかったのだ。CD購入をwebでしたのは一ヶ月ほど前のことで、その告知を覚えていない人がいるのも無理からぬことだった。実際、おれもそんなことはすっかり忘れていて、納品書の類は半年くらいとっておくというみみっちい性格ゆえに助かったにすぎない。
さおりさんは納品書をなくしてしまい、この措置に救われた。そのお礼を、支配人にしたいと言うのだ。
このイベントには、会場の一角に「支配人の部屋」が設置され、だれもが意見を言えるシステムになっている。
おれはこのシステムにいたく感動した。
AKB48の現場の最高責任者に、直接会い、意見でも文句でも、なんでも言える。しかも携帯でツーショット写真も撮ってくれるし、サインもしてくれる(おれも撮ってもらったw)。
こんなイベントはこれまで見たことがない。
三十人ほどの列に並び、一時間弱ほど待った。最初はさおりさんのつきあいで並んだが、せっかくの機会だからおれも意見を言おうと思った。
そして順番が回ってきた。さおりさんのあとで、おれは戸賀崎氏と対面した。ちょっと緊張したものの、才加や内田のときほどではないw
転売防止のシステムはこれからも継続していくべきだが、今回は最初ということもあって混乱があった。はっきり言って、運営にも責任はあると思う。webだけではなく商品のパッケージや納品書に大きく参加要項を記すべきではないか。
戸賀崎氏はおれの意見に同意してくれて、次からはだれにでもわかるようなかたちで告知したいと言った。ぜひ、そうしてもらいたい。
運営は今まであれこれ叩かれてきたが(おれもいろいろ言った)、それでも直接ファンの声を聞く姿勢があるというのは、すばらしいことだ。これからはなにか意見があったら、直接、戸賀崎氏に伝えようと思う。ネットに好き勝手書くのも自由だが(自戒も込めてます)、運営は意見を聞くシステムを作っているので、文句のある人は言いにいけばいい。握手券がなくても会場には入れるから、だれでも戸賀崎氏に会える。剥がしもない。ちゃんと聞いてくれる。
これからも、支配人の部屋はできる限り継続してもらいたい。
【つづく】
◎マルカフェニックス
○キャプテントゥーレ
△ショウワモダン
今回から、買い方変えようかな……と。
上位3頭の単勝3点と、ワイドの3点ボックス。先週のダービー、これで買ってれば獲れたし。
というわけで、今日は後楽園で参戦予定。
○キャプテントゥーレ
△ショウワモダン
今回から、買い方変えようかな……と。
上位3頭の単勝3点と、ワイドの3点ボックス。先週のダービー、これで買ってれば獲れたし。
というわけで、今日は後楽園で参戦予定。
■映画(新作)■
『ウルフマン』
『ゼブラーマン2』
『プレシャス』
『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』
『クロッシング』
『武士道シックスティーン』
『書道ガールズ!』
『川の底からこんにちは』
『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』
■映画(旧作)■
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
■新作順位■
1『息もできない』
2『第9地区』
3『(500)日のサマー』
4『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
5『ブルーノ』
6『ハート・ロッカー』
7『クロッシング』
8『川の底からこんにちは』
9『ラブリーボーン』
10『インビクタス』
11『渇き』
12『プリンセスと魔法のキス』
13『プレシャス』
14『シャーロックホームズ』
15『アリス・イン・ワンダーランド』
16『涼宮ハルヒの消失』
17『コララインと魔法のボタン』
18『すべて彼女のために』
19『マイレージ・マイライフ』
20『ゼブラーマン2』
21『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』
22『時をかける少女』
23『パレード』
24『シャネル&ストラヴィンスキー』
25『サロゲート』
26ウルフマン』
27『武士道シックスティーン』
28『書道ガールズ!』
29『ニューヨーク、アイラブユー』
30『パーフェクト・ゲッタウェイ』
31『シャッターアイランド』
32『かいじゅうたちのいるところ』
33『食堂かたつむり』
34『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』
5月は9本も見たのか。知らなかったw
『ウルフマン』は映像が美しいだけの凡作。R15というから、どれだけ残虐なのかと思ったら、おれでも見られるくらいだから大したことなかった。最近、すぐにR15指定かけちゃう傾向があるけど、みずから将来の映画人口を減らしてどうするんだろう? 椅子に縛られて狼男になるところと、そのあと街中で人間どもが逃げ回るシーンは怪獣映画みたいで良かった。
『ゼブラーマン2』は中途半端な仕上がり。主演の仲里依紗(主演?)がいなかったらどうしようもないモノに仕上がったと思う。それだけ仲の力がすごかった。仲のムチムチのおなかを触手が触るだけでぷにぷにしなかったのは、この映画における三池監督最大の失敗だ。「白黒つけたら人間は幸せになるのか」という興味深いセリフがあるのに生かせていないのは、やっぱりクドカンクオリティなんだろうな。
『プレシャス』も仲とはちがった意味で、主演のガボレイ・シディベの存在感がすごい。教育が人間にとっていかに大切なのかを考えさせられる。気になったのは、手持ちカメラがときどき急にズームしたりするところ。あれ、なんの意味があるんだろう? ま、どうでもいいけど。
そういや、「『プレシャス』は、究極のいじめられっこのお話である。」なんて、まったく的外れなことを書いてる「映画評論家」もいたな。バカじゃね?
『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』はテレビでコントでやればいいだけの話を延々と見させられる、今年最悪の映画。ま、コントの脚本家だから仕方ないのか。黒木メイサとアヤカ・ウィルソンの無駄使いもいいところだ。そういや、「日本人のためだけの楽しいミュージカルとして、気軽に見るにはオススメ」とか書いてる「映画評論家」もいたな。バカじゃね?
『クロッシング』は以前、感想書いたので省略。
『武士道シックスティーン』は好きな成海凛子が出ているのに楽しめなかった。「やぁーっ」って大声出すところはかわいかったけど。北乃きいがどうして強いのかわからないから、成海が固執する理由もふわふわしている。戦う女が大好きなおれでも「萌え」がなかったのは、その強さが明らかになっていないからだと思う。
『書道ガールズ!』は『武士道~』と同じ日に見た。これは実は大絶賛できる点がある。主要キャラが全員タイツを履いているということだ(映画の評価と関係ねぇよ)。冬服に黒タイツは女子高生最強のファッションだと思っている、変態紳士の皆様はぜひ見たほうがいい!!! 今年最高にフェティッシュな作品。でも、日テレ的な「高校生」、「青春」の押し付け感がうっとうしいし、そもそも書道パフォーマンスってなに? 「皆さんご存知の~」みたいな前提で勝手にやられてもなぁ。いまだに定義がはっきりしない『仮装大賞』みたいなものか?
『川の底からこんにちは』は、けっこう評価は分かれる作品みたいだけど、おれは楽しめた。やっぱりこれも女優に注目せざるをえない作品で、満島ひかりがハマリすぎている。今年見たヒロインのキャラではこれが仲のゼブラクイーンと張れるくらいにすばらしい。身近にいたら、ちょっと好きになるかも。前にもちょっと書いたけど、ダメ人間でいいじゃん、というメッセージが込められていると思った。おれも、ダメなままダメな人生を送りたい。できるだけ人に迷惑をかけない程度にね。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、ムニャムニャでいただいたブルーレイで再見。やっぱブルーレイはきれい。特にアニメだとよくわかる。DVDしか持ってない人は、これを見るためだけでもブルーレイ機を買うべきw んで、劇場では一度しか見てないんだけど、やっぱりあの二つの歌には違和感あるなぁ……と。あの映画で唯一、評価できないのがあの場面。映像はすごいのに、「しゃらくせぇ感」が出てしまっていて、ちょっと冷めるのだ。で、「しゃらくせぇ感」ってなに?
今月は『アイアンマン2』が楽しみ。
んで、コミケに出ることになったらしばらく映画は行けなくなるかも。
『ウルフマン』
『ゼブラーマン2』
『プレシャス』
『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』
『クロッシング』
『武士道シックスティーン』
『書道ガールズ!』
『川の底からこんにちは』
『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』
■映画(旧作)■
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
■新作順位■
1『息もできない』
2『第9地区』
3『(500)日のサマー』
4『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
5『ブルーノ』
6『ハート・ロッカー』
7『クロッシング』
8『川の底からこんにちは』
9『ラブリーボーン』
10『インビクタス』
11『渇き』
12『プリンセスと魔法のキス』
13『プレシャス』
14『シャーロックホームズ』
15『アリス・イン・ワンダーランド』
16『涼宮ハルヒの消失』
17『コララインと魔法のボタン』
18『すべて彼女のために』
19『マイレージ・マイライフ』
20『ゼブラーマン2』
21『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』
22『時をかける少女』
23『パレード』
24『シャネル&ストラヴィンスキー』
25『サロゲート』
26ウルフマン』
27『武士道シックスティーン』
28『書道ガールズ!』
29『ニューヨーク、アイラブユー』
30『パーフェクト・ゲッタウェイ』
31『シャッターアイランド』
32『かいじゅうたちのいるところ』
33『食堂かたつむり』
34『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』
5月は9本も見たのか。知らなかったw
『ウルフマン』は映像が美しいだけの凡作。R15というから、どれだけ残虐なのかと思ったら、おれでも見られるくらいだから大したことなかった。最近、すぐにR15指定かけちゃう傾向があるけど、みずから将来の映画人口を減らしてどうするんだろう? 椅子に縛られて狼男になるところと、そのあと街中で人間どもが逃げ回るシーンは怪獣映画みたいで良かった。
『ゼブラーマン2』は中途半端な仕上がり。主演の仲里依紗(主演?)がいなかったらどうしようもないモノに仕上がったと思う。それだけ仲の力がすごかった。仲のムチムチのおなかを触手が触るだけでぷにぷにしなかったのは、この映画における三池監督最大の失敗だ。「白黒つけたら人間は幸せになるのか」という興味深いセリフがあるのに生かせていないのは、やっぱりクドカンクオリティなんだろうな。
『プレシャス』も仲とはちがった意味で、主演のガボレイ・シディベの存在感がすごい。教育が人間にとっていかに大切なのかを考えさせられる。気になったのは、手持ちカメラがときどき急にズームしたりするところ。あれ、なんの意味があるんだろう? ま、どうでもいいけど。
そういや、「『プレシャス』は、究極のいじめられっこのお話である。」なんて、まったく的外れなことを書いてる「映画評論家」もいたな。バカじゃね?
『矢島美容室 夢をつかまえネバダ』はテレビでコントでやればいいだけの話を延々と見させられる、今年最悪の映画。ま、コントの脚本家だから仕方ないのか。黒木メイサとアヤカ・ウィルソンの無駄使いもいいところだ。そういや、「日本人のためだけの楽しいミュージカルとして、気軽に見るにはオススメ」とか書いてる「映画評論家」もいたな。バカじゃね?
『クロッシング』は以前、感想書いたので省略。
『武士道シックスティーン』は好きな成海凛子が出ているのに楽しめなかった。「やぁーっ」って大声出すところはかわいかったけど。北乃きいがどうして強いのかわからないから、成海が固執する理由もふわふわしている。戦う女が大好きなおれでも「萌え」がなかったのは、その強さが明らかになっていないからだと思う。
『書道ガールズ!』は『武士道~』と同じ日に見た。これは実は大絶賛できる点がある。主要キャラが全員タイツを履いているということだ(映画の評価と関係ねぇよ)。冬服に黒タイツは女子高生最強のファッションだと思っている、変態紳士の皆様はぜひ見たほうがいい!!! 今年最高にフェティッシュな作品。でも、日テレ的な「高校生」、「青春」の押し付け感がうっとうしいし、そもそも書道パフォーマンスってなに? 「皆さんご存知の~」みたいな前提で勝手にやられてもなぁ。いまだに定義がはっきりしない『仮装大賞』みたいなものか?
『川の底からこんにちは』は、けっこう評価は分かれる作品みたいだけど、おれは楽しめた。やっぱりこれも女優に注目せざるをえない作品で、満島ひかりがハマリすぎている。今年見たヒロインのキャラではこれが仲のゼブラクイーンと張れるくらいにすばらしい。身近にいたら、ちょっと好きになるかも。前にもちょっと書いたけど、ダメ人間でいいじゃん、というメッセージが込められていると思った。おれも、ダメなままダメな人生を送りたい。できるだけ人に迷惑をかけない程度にね。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、ムニャムニャでいただいたブルーレイで再見。やっぱブルーレイはきれい。特にアニメだとよくわかる。DVDしか持ってない人は、これを見るためだけでもブルーレイ機を買うべきw んで、劇場では一度しか見てないんだけど、やっぱりあの二つの歌には違和感あるなぁ……と。あの映画で唯一、評価できないのがあの場面。映像はすごいのに、「しゃらくせぇ感」が出てしまっていて、ちょっと冷めるのだ。で、「しゃらくせぇ感」ってなに?
今月は『アイアンマン2』が楽しみ。
んで、コミケに出ることになったらしばらく映画は行けなくなるかも。
■決心1-3■
屋上に出ると、頬に雨を感じた。髪の毛も濡れ、前髪から水滴が垂れた。緑色のジャージが水を吸い、その部分が少しずつ濃くなっていく。ヲタは中学生のときに授業でやった、着衣水泳を思い出した。ジャージを着たままプールに入ると、なんともいえない不思議な感覚にとらわれた。まわりの友だちは気持ち悪いと騒いでいたが、ヲタはどちらかといえば、張り付いたポリエステルの感触が心地よかったことを覚えている。
雨がヲタを冷静にしたのか、ついさっきまで感じていた緊張はだいぶやわらいだ。
対峙しているプリクラは、冬服のセーラーの袖をまくり、三十センチ丈の超ミニスカートから伸びている脚を肩幅に広げていた。雨に打たれ、セーラー服の肩の部分がじんわりと濡れてはじめている。
チームホルモンと純情堕天使のメンバーも、屋上出入口のひさしの下から離れ、それぞれのリーダーの背後から、ヲタとプリクラのタイマンを見守っていた。
「タイマンの前に、ひとつ約束してほしい」ヲタは言った。
「なんです? 早くしましょうよ」
「おれが負けたらチームホルモンは解散する……」
そのヲタの言葉に、アキチャが声を上げた。「なんだって……? なに言ってんだよ」
「聞いてねえぞ。ンなこと……」ウナギはヲタに詰め寄ろうとした。
それを横から止めたのはバンジーだった。「やめろ。ヲタが――うちらのリーダーが決めたことだ」
「バンジー、お前は知ってたのか?」
バンジーは頷いた。
ウナギはムクチにも視線を向けた。「おまえも……か?」
ムクチは黙って首を縦に振った。
バンジーがそれを見てから、「おまえらがいないあいだに決まったことだ」
「そんな重要なことを勝手に決めやがって」
「ウナギ、おまえが怒るのもわかる。おれだって納得してねぇ。でも、リーダーが断腸の思いで決めたんだ。おれらは従うしかない」
「けどよぉ……」
「ヲタが負けると思ってんのか?」
「そうじゃねぇ」ウナギがクビを横に回転させると、濡れた傘を回転させたときのように、髪から小さなしぶきが飛んだ。「そうじゃねぇけど、解散は……やりすぎだ」
ヲタはあえてなにも言わず、バンジーがウナギとアキチャをどうなだめるかを見ていた。
バンジーの論理は卑怯だ。話をすりかえている。ウナギは解散を勝手に決められたことに講義をしているのであって、勝ち負けを問題にしているのではない。しかも、そう聞かれたら答えはひとつしかないではないか。
だが、ウナギは答えなかった。セーラーの襟が雨を吸い、赤いラインはエンジ色に染まっていた。
アキチャもあきらめのまなざしで二人のやりとりを眺めていた。
「すみませんが――」プリクラが言った。「そういうことは先にやっといてもらえます?」
「おまえに聞いてもらわなくちゃ意味がねえだろう」ヲタは言った。「それと、もうひとつある」
「なんです?」
「おれが負けてチームホルモンが解散したら、こいつら四人は純情堕天使で面倒見てやってくれ」
このヲタの発言には、バンジーも驚きの声を上げた。それはそうだろう。このことはだれにも言っていない。ヲタが一人で考え、一人で決めた。
「おい、ヲタ」バンジーが詰め寄った。「そこまでは聞いてねぇぞ」
「ああ。言ってないからな」
「冗談じゃねえ」アキチャがヲタの肩をつかんだ。雨が染みたジャージが肌に密着し、とても冷たかった。「なんでプリクラのチームなんかに入らなくちゃいけねぇんだ」
「おれは入らねえぜ」と、ウナギ。「解散だって納得いかねえのに、あんな奴に従えるかって……」
ムクチはヲタをじっと見つめたまま、すごい勢いで首を横に振っていた。
「聞いてくれ」ヲタは大きな声で四人を制した。「これはおれの戦いだ。おれの意思でおれが決めた。おまえらに迷惑はかけられねぇ」
「――だったらっ……」ウナギは吐き捨てるように言った。「てめえが勝手にやろうとしてることにチームの命運までかけるのはおかしいだろっ」
「それなら、おれがいなくなってもチームホルモンを続けるのか? リーダーはだれがやる?」
だれにも答えにくい問いで、これも卑怯な聞き方だと、ヲタは自覚している。チームホルモンのナンバー2は実質バンジーだが、そのバンジーはチームの解散を賭けることを認めている。となれば、ウナギにしろアキチャにしろ、ましてやムクチがリーダー候補の名前を出すわけにはいかない。
ヲタは自分にはリーダーの資格などないと思っている。だが、現状ではチームホルモンのリーダーは自分しかありえないことも知っている。
リーダーは強ければいいというわけではない。タイマンを張ればヲタはバンジーに負けるだろう。いや、ウナギにもアキチャにも負けるかもしれない。ムクチなら勝てそうだが。
それでもヲタがチームホルモンのリーダー足りえてきたのは、その心意気ゆえだった。ヘタレと言われ、へこたれ、落ち込んでも挑戦をやめない、ヲタのその姿勢に四人はついてきていたのだ。
「だれがリーダーって、それは……」ウナギは言葉を詰まらせた。「だ、だから、てゆーか、そもそもチームの解散を賭けるってことがおかしいって言ってんだよ」
「ヲタ」バンジーが言った。「解散ならまだしも、そいつは飲み込めねえぜ」
そこでヲタはバンジーにこう言った。「おれが負けると思ってんのか?」
バンジーは言葉を詰まらせた。自分が少し前に、反論を無用にするために切り札として使ったセリフだ。言い返せないはずだった。
「ホルモンが解散しても、おまえらはどこかのチームに所属していたほうがいい。そして現実的に考えれば、ホルモン以外に2年を治められるのは純情堕天使しかいねえ。ラッパッパは自治権を純情堕天使に与えるだろう。そのとき、ラッパッパとパイプを持ち、経験もあるおまえら四人がいれば、純情堕天使の力になれる」
「なんであんな女の力になってやらなきゃいけねぇんだ?」もはやバンジーは、タイマンを張るかのような形相で、ヲタに詰め寄っていた。バンジーの前髪から、ぽたぽたと雫が垂れるのがはっきり見える。
「純情堕天使を大きくするんだ。ラッパッパを倒してテッペンを獲れるくらいまで……」ヲタはそこで声を低くした。「そして、そうなったら四人でプリクラを倒せ」
「なんだと……」バンジーは息を呑んだ。
「さっき、ウナギとアキチャは言ったな。おれらは華やかなラッパッパとはちがうって。たしかにおれらに華やかさはねえ。けど、おれたちがいるのは坂の途中なんだ。絶えず進もうとしなくちゃ、下まで転がり落ちる。現に、今の状況がそうじゃねぇか。朝日にやられっぱなしなのは、おれらが自分たちの可能性を信じてないからだ。可能性ってのは、テッペン目指すってことだ。獲れるか獲れねえかじゃねぇ。進もうとすることが大切なんだよ。だから、おれは進む。その結果がどうあれ、おまえらにはそれを受け止めてほしい」
それが、ヲタが考えに考えた末の結論だった。
もう、だれも反論しなかった。
「そろそろ終わりましたか?」ミニスカートのプリーツひとつひとつから雫を垂らしたプリクラが、場の雰囲気を壊すような口調で言った。「青春ごっこなら、またの機会にやってくださいよ」
「ごっこじゃねぇ……」ヲタはプリクラのほうへ振り返った。びしょぬれの前髪から流れた水が頬を伝う。「今からそれを思い知らせてやる」
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
屋上に出ると、頬に雨を感じた。髪の毛も濡れ、前髪から水滴が垂れた。緑色のジャージが水を吸い、その部分が少しずつ濃くなっていく。ヲタは中学生のときに授業でやった、着衣水泳を思い出した。ジャージを着たままプールに入ると、なんともいえない不思議な感覚にとらわれた。まわりの友だちは気持ち悪いと騒いでいたが、ヲタはどちらかといえば、張り付いたポリエステルの感触が心地よかったことを覚えている。
雨がヲタを冷静にしたのか、ついさっきまで感じていた緊張はだいぶやわらいだ。
対峙しているプリクラは、冬服のセーラーの袖をまくり、三十センチ丈の超ミニスカートから伸びている脚を肩幅に広げていた。雨に打たれ、セーラー服の肩の部分がじんわりと濡れてはじめている。
チームホルモンと純情堕天使のメンバーも、屋上出入口のひさしの下から離れ、それぞれのリーダーの背後から、ヲタとプリクラのタイマンを見守っていた。
「タイマンの前に、ひとつ約束してほしい」ヲタは言った。
「なんです? 早くしましょうよ」
「おれが負けたらチームホルモンは解散する……」
そのヲタの言葉に、アキチャが声を上げた。「なんだって……? なに言ってんだよ」
「聞いてねえぞ。ンなこと……」ウナギはヲタに詰め寄ろうとした。
それを横から止めたのはバンジーだった。「やめろ。ヲタが――うちらのリーダーが決めたことだ」
「バンジー、お前は知ってたのか?」
バンジーは頷いた。
ウナギはムクチにも視線を向けた。「おまえも……か?」
ムクチは黙って首を縦に振った。
バンジーがそれを見てから、「おまえらがいないあいだに決まったことだ」
「そんな重要なことを勝手に決めやがって」
「ウナギ、おまえが怒るのもわかる。おれだって納得してねぇ。でも、リーダーが断腸の思いで決めたんだ。おれらは従うしかない」
「けどよぉ……」
「ヲタが負けると思ってんのか?」
「そうじゃねぇ」ウナギがクビを横に回転させると、濡れた傘を回転させたときのように、髪から小さなしぶきが飛んだ。「そうじゃねぇけど、解散は……やりすぎだ」
ヲタはあえてなにも言わず、バンジーがウナギとアキチャをどうなだめるかを見ていた。
バンジーの論理は卑怯だ。話をすりかえている。ウナギは解散を勝手に決められたことに講義をしているのであって、勝ち負けを問題にしているのではない。しかも、そう聞かれたら答えはひとつしかないではないか。
だが、ウナギは答えなかった。セーラーの襟が雨を吸い、赤いラインはエンジ色に染まっていた。
アキチャもあきらめのまなざしで二人のやりとりを眺めていた。
「すみませんが――」プリクラが言った。「そういうことは先にやっといてもらえます?」
「おまえに聞いてもらわなくちゃ意味がねえだろう」ヲタは言った。「それと、もうひとつある」
「なんです?」
「おれが負けてチームホルモンが解散したら、こいつら四人は純情堕天使で面倒見てやってくれ」
このヲタの発言には、バンジーも驚きの声を上げた。それはそうだろう。このことはだれにも言っていない。ヲタが一人で考え、一人で決めた。
「おい、ヲタ」バンジーが詰め寄った。「そこまでは聞いてねぇぞ」
「ああ。言ってないからな」
「冗談じゃねえ」アキチャがヲタの肩をつかんだ。雨が染みたジャージが肌に密着し、とても冷たかった。「なんでプリクラのチームなんかに入らなくちゃいけねぇんだ」
「おれは入らねえぜ」と、ウナギ。「解散だって納得いかねえのに、あんな奴に従えるかって……」
ムクチはヲタをじっと見つめたまま、すごい勢いで首を横に振っていた。
「聞いてくれ」ヲタは大きな声で四人を制した。「これはおれの戦いだ。おれの意思でおれが決めた。おまえらに迷惑はかけられねぇ」
「――だったらっ……」ウナギは吐き捨てるように言った。「てめえが勝手にやろうとしてることにチームの命運までかけるのはおかしいだろっ」
「それなら、おれがいなくなってもチームホルモンを続けるのか? リーダーはだれがやる?」
だれにも答えにくい問いで、これも卑怯な聞き方だと、ヲタは自覚している。チームホルモンのナンバー2は実質バンジーだが、そのバンジーはチームの解散を賭けることを認めている。となれば、ウナギにしろアキチャにしろ、ましてやムクチがリーダー候補の名前を出すわけにはいかない。
ヲタは自分にはリーダーの資格などないと思っている。だが、現状ではチームホルモンのリーダーは自分しかありえないことも知っている。
リーダーは強ければいいというわけではない。タイマンを張ればヲタはバンジーに負けるだろう。いや、ウナギにもアキチャにも負けるかもしれない。ムクチなら勝てそうだが。
それでもヲタがチームホルモンのリーダー足りえてきたのは、その心意気ゆえだった。ヘタレと言われ、へこたれ、落ち込んでも挑戦をやめない、ヲタのその姿勢に四人はついてきていたのだ。
「だれがリーダーって、それは……」ウナギは言葉を詰まらせた。「だ、だから、てゆーか、そもそもチームの解散を賭けるってことがおかしいって言ってんだよ」
「ヲタ」バンジーが言った。「解散ならまだしも、そいつは飲み込めねえぜ」
そこでヲタはバンジーにこう言った。「おれが負けると思ってんのか?」
バンジーは言葉を詰まらせた。自分が少し前に、反論を無用にするために切り札として使ったセリフだ。言い返せないはずだった。
「ホルモンが解散しても、おまえらはどこかのチームに所属していたほうがいい。そして現実的に考えれば、ホルモン以外に2年を治められるのは純情堕天使しかいねえ。ラッパッパは自治権を純情堕天使に与えるだろう。そのとき、ラッパッパとパイプを持ち、経験もあるおまえら四人がいれば、純情堕天使の力になれる」
「なんであんな女の力になってやらなきゃいけねぇんだ?」もはやバンジーは、タイマンを張るかのような形相で、ヲタに詰め寄っていた。バンジーの前髪から、ぽたぽたと雫が垂れるのがはっきり見える。
「純情堕天使を大きくするんだ。ラッパッパを倒してテッペンを獲れるくらいまで……」ヲタはそこで声を低くした。「そして、そうなったら四人でプリクラを倒せ」
「なんだと……」バンジーは息を呑んだ。
「さっき、ウナギとアキチャは言ったな。おれらは華やかなラッパッパとはちがうって。たしかにおれらに華やかさはねえ。けど、おれたちがいるのは坂の途中なんだ。絶えず進もうとしなくちゃ、下まで転がり落ちる。現に、今の状況がそうじゃねぇか。朝日にやられっぱなしなのは、おれらが自分たちの可能性を信じてないからだ。可能性ってのは、テッペン目指すってことだ。獲れるか獲れねえかじゃねぇ。進もうとすることが大切なんだよ。だから、おれは進む。その結果がどうあれ、おまえらにはそれを受け止めてほしい」
それが、ヲタが考えに考えた末の結論だった。
もう、だれも反論しなかった。
「そろそろ終わりましたか?」ミニスカートのプリーツひとつひとつから雫を垂らしたプリクラが、場の雰囲気を壊すような口調で言った。「青春ごっこなら、またの機会にやってくださいよ」
「ごっこじゃねぇ……」ヲタはプリクラのほうへ振り返った。びしょぬれの前髪から流れた水が頬を伝う。「今からそれを思い知らせてやる」
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。