◎アリゼオ
○ヴィクトワールピサ
△ペルーサ
△ローズキングダム
△エイシンフラッシュ
△ハンソデバンド
△ゲシュタルト
でも、ピサが勝つね、多分w
今日は久しぶりに三連単買うかも。◎○→◎△→◎△で。てゆーか、これだと◎と○が逆じゃん、て感じだけど。
アリゼオとピサのワイドで勝負だけど、アリゼオから△の馬にもワイド流したい。ペルーサもいいけど、中心に買うのは怖い。
ハンソデは東京得意なので怖い。エイシンは鞍上に注意。ゲシュは名前がかっこいいのと、マイナス材料がないので押さえ程度には。
ま、こんな感じ。
今日は渋谷で映画見て、代々木で才加の出席するシンポジウム参加してきます。
○ヴィクトワールピサ
△ペルーサ
△ローズキングダム
△エイシンフラッシュ
△ハンソデバンド
△ゲシュタルト
でも、ピサが勝つね、多分w
今日は久しぶりに三連単買うかも。◎○→◎△→◎△で。てゆーか、これだと◎と○が逆じゃん、て感じだけど。
アリゼオとピサのワイドで勝負だけど、アリゼオから△の馬にもワイド流したい。ペルーサもいいけど、中心に買うのは怖い。
ハンソデは東京得意なので怖い。エイシンは鞍上に注意。ゲシュは名前がかっこいいのと、マイナス材料がないので押さえ程度には。
ま、こんな感じ。
今日は渋谷で映画見て、代々木で才加の出席するシンポジウム参加してきます。
ホントはもっと前に書くつもりだったんだけど、グズグズしていたら中間発表が出てしまった。それでやる気なくなったけど、マイミクのシズクさんから「やってくれ」と言われたのでやってみます。
まずは、ガチ予想のほうから。
1位:前田敦子
2位:大島優子
3位:渡辺麻友
4位:篠田麻里子
5位:高橋みなみ
6位:板野友美
7位:柏木由紀
8位:小嶋陽菜
9位:宮澤佐江
10位:松井玲奈
11位:高城亜樹
12位:河西智美
13位:北原里英
14位:小野恵令奈
15位:峯岸みなみ
16位:秋元才加
17位:指原莉乃
18位:佐藤亜美菜
19位:松井珠理奈
20位:宮崎美穂
21位:小森美果
現時点での票数を参考にすると、ま、こんなもんじゃないかな、と。
馬連馬券あれば(馬?)、前田-大島はオッズ2.5くらい? 馬単なら前田→大島が3.3倍、逆目なら4.5倍あたりかな。
才加には去年同様のラストスパートを見せてほしい。それでも今年は上がキツいのでこんな感じだと思うけど。
MJはヘタすれば選抜落ちもありえるかも。とはいえ、なんだかんだで今年もこのあたりをキープしそうな気がする。秋元の強引な推しがあって一時期センターをつとめていたけど、ファンの意思はこのくらいなんだろうなぁ。
小森はギリで入りそうな気がして仕方ない。てゆーか、入ってほしいという希望的観測だけど。
さて、以上は普通に予想したわけだけど、次は「おれの総選挙」メンバーをw 順位は上からセンターで、下がるほど後ろに並ぶ感じです。
1位:秋元才加
2位:高橋みなみ
3位:宮澤佐江
4位:篠田麻里子
5位:大島優子
6位:松井珠理奈
7位:内田眞由美
8位:峯岸みなみ
9位:増田有華
10位:松井玲奈
11位:指原莉乃
12位:仁藤萌乃
13位:菊地あやか
14位:片山陽加
15位:梅田彩佳
16位:矢神久美
17位:松原夏海
18位:中塚智実
19位:野中美郷
20位:松井咲子
21位:大家志津香
なんとなく、おれの好みの女のタイプがわかるなw やっぱ、かっこいい女子が好きなんだよなぁ。
才加と高橋は2トップ。身長差があってすごく違和感あるけど、「だが、それがいい」よね。
宮沢、篠田、大島、MJは抜群の存在感。
内田は大抜擢ですよ、これ(おまえが勝手に言ってるだけだけどな)。同じちびっこキャラとして、ぜひ高橋を喰ってほしい。
峯岸、増田、MRは今まで別々のチームだったので三人並べたら面白いかな、と。
指原、仁藤はチームホルモン枠(そんなのあるんだ…)。
菊地にはいろんな思いがあるけれど(笑)、最近きれいになってきたことは事実だし、かっこよさではAKBのトップ10に入るのでは?
片山、梅田は功労賞的な感じ。地味ながらも、この二人だって相当なかっこよさを持っている。
クソガキ矢神も、どちらかというとかわいいよりかっいいに分類されると思う。
17位から下のメンバーは弾けてほしい。この人たちは相当かっこいいのに、「かわいい」が優先される普通の選抜では、まず選ばれないだろうから。って、勝手に妄想しているだけだが。
それにしてもチームK率高いのは許して。かっこいい感じの子を集めたらこうなるでしょ。
あと関係ないけど、今日から始まる握手会、キャラアニの納品書なくした人たちで大混乱しそうな予感。
Mousaの日、内田が出るから行きたいけど平日の18時に成城なんて無理だ!!!
まずは、ガチ予想のほうから。
1位:前田敦子
2位:大島優子
3位:渡辺麻友
4位:篠田麻里子
5位:高橋みなみ
6位:板野友美
7位:柏木由紀
8位:小嶋陽菜
9位:宮澤佐江
10位:松井玲奈
11位:高城亜樹
12位:河西智美
13位:北原里英
14位:小野恵令奈
15位:峯岸みなみ
16位:秋元才加
17位:指原莉乃
18位:佐藤亜美菜
19位:松井珠理奈
20位:宮崎美穂
21位:小森美果
現時点での票数を参考にすると、ま、こんなもんじゃないかな、と。
馬連馬券あれば(馬?)、前田-大島はオッズ2.5くらい? 馬単なら前田→大島が3.3倍、逆目なら4.5倍あたりかな。
才加には去年同様のラストスパートを見せてほしい。それでも今年は上がキツいのでこんな感じだと思うけど。
MJはヘタすれば選抜落ちもありえるかも。とはいえ、なんだかんだで今年もこのあたりをキープしそうな気がする。秋元の強引な推しがあって一時期センターをつとめていたけど、ファンの意思はこのくらいなんだろうなぁ。
小森はギリで入りそうな気がして仕方ない。てゆーか、入ってほしいという希望的観測だけど。
さて、以上は普通に予想したわけだけど、次は「おれの総選挙」メンバーをw 順位は上からセンターで、下がるほど後ろに並ぶ感じです。
1位:秋元才加
2位:高橋みなみ
3位:宮澤佐江
4位:篠田麻里子
5位:大島優子
6位:松井珠理奈
7位:内田眞由美
8位:峯岸みなみ
9位:増田有華
10位:松井玲奈
11位:指原莉乃
12位:仁藤萌乃
13位:菊地あやか
14位:片山陽加
15位:梅田彩佳
16位:矢神久美
17位:松原夏海
18位:中塚智実
19位:野中美郷
20位:松井咲子
21位:大家志津香
なんとなく、おれの好みの女のタイプがわかるなw やっぱ、かっこいい女子が好きなんだよなぁ。
才加と高橋は2トップ。身長差があってすごく違和感あるけど、「だが、それがいい」よね。
宮沢、篠田、大島、MJは抜群の存在感。
内田は大抜擢ですよ、これ(おまえが勝手に言ってるだけだけどな)。同じちびっこキャラとして、ぜひ高橋を喰ってほしい。
峯岸、増田、MRは今まで別々のチームだったので三人並べたら面白いかな、と。
指原、仁藤はチームホルモン枠(そんなのあるんだ…)。
菊地にはいろんな思いがあるけれど(笑)、最近きれいになってきたことは事実だし、かっこよさではAKBのトップ10に入るのでは?
片山、梅田は功労賞的な感じ。地味ながらも、この二人だって相当なかっこよさを持っている。
クソガキ矢神も、どちらかというとかわいいよりかっいいに分類されると思う。
17位から下のメンバーは弾けてほしい。この人たちは相当かっこいいのに、「かわいい」が優先される普通の選抜では、まず選ばれないだろうから。って、勝手に妄想しているだけだが。
それにしてもチームK率高いのは許して。かっこいい感じの子を集めたらこうなるでしょ。
あと関係ないけど、今日から始まる握手会、キャラアニの納品書なくした人たちで大混乱しそうな予感。
Mousaの日、内田が出るから行きたいけど平日の18時に成城なんて無理だ!!!
■決心1-2■
その日、厚い雲に覆われた気分の晴れない天気の朝、ヲタはいつもより早く登校し、プリクラの靴箱の中に「果たし状」を入れた。
「放課後、屋上にて。 指原」
古くさいやりかただったが、ヲタにはこんな方法以外思いつかなかった。相手の都合も考えずに投函してしまったが、まあヤンキーの放課後の用事なんてたいしたことであるわけがない。きっとプリクラは現れるだろう。
ヲタはまだだれも来ていない靴箱の並ぶ玄関から、やや早足で逃げるように離れた。もう、これで後戻りはできない。やるしかねぇ。ヲタの脚は心なしか震えていた。
ヲタはそのあと、登校してきたチームホルモンの仲間を集め、今日の夕方、プリクラとタイマンをはることを告げた。
初耳のアキチャとウナギは、ヲタが決心を伝えると顔を見合わせ、とまどいと喜びの混ざったような表情を見せた。ヲタにはそれがどういう意味を持つものかはわからなかったが、特になにも聞きはしなかった。
昼休みを迎えるころ、教室の窓ガラスにはぽつぽつと水滴が付くようになった。
「天気予報、はずれたな」バンジーが外を見上げて言うと、ムクチが何度も頷いた。「どうすんだよ」
せっかく決心をしたのだ。このくらいのことでやめるわけにはいかない。今日を逃したら、もう心が折れてしまう予感がする。
「関係ねぇよ」ヲタは答えた。
六時間目が終わるころ、雨は傘なしでは歩けないくらいの本降りになっていた。
それでもヲタは屋上に向かった。
ついてこいと言わなくても、チームホルモンのメンバーたちはヲタのあとに続いた。ヲタの気持ちを察してくれたのだろう。あるいはもう言っても聞かないという、あきらめの気持ちもあったのかもしれない。
階段を上る一歩一歩が重かった。後悔も少しあった。どうしてプリクラと戦うなんて言ってしまったのか。勝てるかどうかもわからないのに。いや、今回に限ったことではない。昔からそうだった。勢いでものを言ってしまい、必ずあとから後悔する。
チームホルモンでサマーランドに行ったとき、全員でバンジージャンプをすることになった。発案者はもちろんバンジー。自分以外の四人は怖がりながらも飛んだが、ヲタはどうしても飛べなかった。ジャンプ台までは登れるものの、あと一歩が踏み出せない。安全だとわかっているが体が動かない。脚を前に出そうとしても、体が意志に逆らう。リーダーとしてみっともないところは見せられないと思えば思うほど、体はこわばり、喉がからからになり、手のひらと脇の下にはべっとりと汗が滲む。
飛べなかった悔しさと自分に対する怒りで、ヲタはみんなの前で「リベンジする」と大見得を切った。
特訓もした。まずは椅子の上から、次に机の上から、そして最終的には体操部が使うマットを体育館の床に敷き、壁沿いのキャットウォークから飛び降りるところまで成功した。
ところが一ヵ月後、再びサマーランドを訪れたヲタは、またしても飛べなかった。驚くべきことに、恐怖は倍加していた。「飛ぶ」ことを経験したヲタの脳は、一ヶ月前の無知な状態よりも詳細なシミュレーションが可能になっていたのだ。バンジーが手本を見せるためにまた飛んだが、ヲタはもはや階段を登ることさえできなかった。飛べなかったことよりも、軽々しくリベンジを口にした自分が腹立たしくて、ヲタは「男泣き」をした。
そんなヘタレな自分でも、チームホルモンのみんなは認めてくれている。
だから、もう逃げない。ヲタにはチームホルモンがいる。バンジーリタイアのときと今回は事情がちがう。リーダーとして情けない姿を、これ以上見せるわけにはいかない。そして勝たねばならない。
でも、負けたら?
チームは解散。四人と一緒にいられるのも今日限りだ。四人がそのあとどうするかについても考えてある。みんながそれを受け入れるかどうかはわからないが、ヲタはそうしてほしいと思っている。考えに考えて、四人のためを思って出した結論だった。
だが、それは負けた場合の話だ。勝てばいい。勝てばすべてがうまくいくはずだ。朝日にぼろぼろにされた自信も、少しは回復できるだろう。そしていずれは朝日に再戦を挑みたい。
一番の問題は、プリクラだった。ヲタはあえて、「果たし状」をプリクラが読んだかどうかを確認していない。もしかしたらプリクラは今日は休みかもしれないし、ゴミだらけの靴箱に入っている「果たし状」に気づかなかったかもしれない。あるいはいたずらだと思って中も見ず、その場で破って捨ててしまったかもしれない。
屋上への扉の前で立ち止まり、ヲタは物憂げに言った。「あいつ、来るかな?」
「さぁな」バンジーがつぶやくように言った。
扉を開けると、降り注いだ雨があちこちに水たまりを作っていた。外に出て、ひさしの下で立ち止まる。寒くないのが救いだった。頬にかすかにかかる雨が気持ちよかった。
「――ヲタ」アキチャが、数日ぶりにヲタの顔を見た。「本当にやるのか」
「もちろんだ」
「なんのために?」
「チームホルモンと、おれ自身のためだ」
「あたしとウナギのせいか?」
「それもある」
「じゃあ言っておく。あたしたちはおまえを嫌いになったわけじゃない」
アキチャの言葉に、ウナギが深く頷いた。そして今まで溜まっていたものを一気に吐き出すかのように、ウナギはしゃべりはじめた。「朝日に負けて以来、おまえはおかしくなっちまった。井の中の蛙だってわかっちまったからな。でもな、ヲタ。井の中の蛙でもいいじゃねぇか。あたしらはマジ女のテッペン獲ろうなんて思ってもねえ。自分の力はわかってる。その証拠に、前田にもゲキカラにも負けた。ゲキカラに鉛筆突っ込まれたおまえを見て、あたしは心底ビビったよ。あんなことができなきゃ、テッペンなんて獲れねえ。あたしらにはあそこまではたどり着かねえよ。あたしらとラッパッパの連中は、人間の格がちがう。良くも悪くも」
ウナギの言うことはもっともだった。自分たちにそこまではできない。ゲキカラに襲われたとき、ヲタはそう確信した。ケンカは数え切れないくらいして、数え切れないくらい勝ったり負けたりしたが、命を失うかもしれないと思ったのはあれが初めてだった。
テッペンに立つためには理性と狂気を同時に宿せなければならない。単純な強さだけでいえば、大島優子とサドよりも、ゲキカラのほうが上だろう。しかし、ゲキカラには狂気しかない。それではテッペンには立ち続けられない。
リーダーには資質が必要なのだ。
そして自分にそんなものはない、とヲタは思う。
ウナギが続ける。「だけどな、テッペンを目指すばかりが人生じゃねえ。二番手三番手に甘んじるってのも、ひとつの選択肢だ。ま、あたしたちは十番手くらいだろうけどな」
「おめえの悩みは分不相応なんだよ」アキチャが言った。「うちらなんて所詮、ホルモン喰って、駄話して、ときにはケンカしたり仲裁したりってだけの存在だろ。華やかなラッパッパとはちがうんだ。なのにおまえは、朝日に負けたことでうじうじしやがって。うちら二人はそういうおまえに、ちょっとだけ愛想が尽きたんだよ」
ウナギが頷いた。「でも、さっきも言ったが、嫌いになったわけじゃねえ。気づいてほしかった。おまえはおまえでいいって……」
「――だったら」バンジーがさえぎるように言った。「そう言えばいいだろう。黙ってたらわからねえよ」
「それは反省してる」ウナギは目を伏せた。「でも、あのときは怒りのほうが強かった」
ヲタは嬉しかった。二人はチームホルモンを捨てたわけでも裏切ったわけでもなかった。
ふと、かたわらで、すんすんと鼻をすするような音がした。振り返ると、ムクチが泣いていた。
「おまえ、なんで泣いてんだよ」ヲタはおかしくなって、少しだけ笑いながら言った。
「こんなことで泣くんじゃねえよ、ヤンキーが」バンジーも笑っていた。
「ごめんよ、ムクチ……」ウナギがムクチを抱きしめた。「もう、どこにもいかねえから安心しろ」
どこにもいかねえ――か。ヲタは心の中で、そうつぶやいた。
そのときだった。
階段の踊り場に最初に現れたのは、純情堕天使のメンバー中もっとも背の低いマユミだった。続いてナツミ、サキコ、トモミ、ハルカが立ち止まり、そしてプリクラは最後にゆったりとやってきた。
空気が変わった。触れることができるなら、そうした瞬間に砕けてしまいそうなほど、緊張が張り詰めた。
「大雨じゃないですか」プリクラが言った。「晴れてるときにしましょうよ」
いよいよ、この瞬間が来た。
もう逃げられない。
かすかに震える脚を意識しつつ、ヲタは声を振り絞った。「一日でも早く、てめえとケリをつけたいんだよ」
「私にはそんなことする必要ないんですが……まあ、それで気がすむんならやってあげますよ」
プリクラは今度は先頭に立ち、ゆっくりと階段を登ってきた。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
その日、厚い雲に覆われた気分の晴れない天気の朝、ヲタはいつもより早く登校し、プリクラの靴箱の中に「果たし状」を入れた。
「放課後、屋上にて。 指原」
古くさいやりかただったが、ヲタにはこんな方法以外思いつかなかった。相手の都合も考えずに投函してしまったが、まあヤンキーの放課後の用事なんてたいしたことであるわけがない。きっとプリクラは現れるだろう。
ヲタはまだだれも来ていない靴箱の並ぶ玄関から、やや早足で逃げるように離れた。もう、これで後戻りはできない。やるしかねぇ。ヲタの脚は心なしか震えていた。
ヲタはそのあと、登校してきたチームホルモンの仲間を集め、今日の夕方、プリクラとタイマンをはることを告げた。
初耳のアキチャとウナギは、ヲタが決心を伝えると顔を見合わせ、とまどいと喜びの混ざったような表情を見せた。ヲタにはそれがどういう意味を持つものかはわからなかったが、特になにも聞きはしなかった。
昼休みを迎えるころ、教室の窓ガラスにはぽつぽつと水滴が付くようになった。
「天気予報、はずれたな」バンジーが外を見上げて言うと、ムクチが何度も頷いた。「どうすんだよ」
せっかく決心をしたのだ。このくらいのことでやめるわけにはいかない。今日を逃したら、もう心が折れてしまう予感がする。
「関係ねぇよ」ヲタは答えた。
六時間目が終わるころ、雨は傘なしでは歩けないくらいの本降りになっていた。
それでもヲタは屋上に向かった。
ついてこいと言わなくても、チームホルモンのメンバーたちはヲタのあとに続いた。ヲタの気持ちを察してくれたのだろう。あるいはもう言っても聞かないという、あきらめの気持ちもあったのかもしれない。
階段を上る一歩一歩が重かった。後悔も少しあった。どうしてプリクラと戦うなんて言ってしまったのか。勝てるかどうかもわからないのに。いや、今回に限ったことではない。昔からそうだった。勢いでものを言ってしまい、必ずあとから後悔する。
チームホルモンでサマーランドに行ったとき、全員でバンジージャンプをすることになった。発案者はもちろんバンジー。自分以外の四人は怖がりながらも飛んだが、ヲタはどうしても飛べなかった。ジャンプ台までは登れるものの、あと一歩が踏み出せない。安全だとわかっているが体が動かない。脚を前に出そうとしても、体が意志に逆らう。リーダーとしてみっともないところは見せられないと思えば思うほど、体はこわばり、喉がからからになり、手のひらと脇の下にはべっとりと汗が滲む。
飛べなかった悔しさと自分に対する怒りで、ヲタはみんなの前で「リベンジする」と大見得を切った。
特訓もした。まずは椅子の上から、次に机の上から、そして最終的には体操部が使うマットを体育館の床に敷き、壁沿いのキャットウォークから飛び降りるところまで成功した。
ところが一ヵ月後、再びサマーランドを訪れたヲタは、またしても飛べなかった。驚くべきことに、恐怖は倍加していた。「飛ぶ」ことを経験したヲタの脳は、一ヶ月前の無知な状態よりも詳細なシミュレーションが可能になっていたのだ。バンジーが手本を見せるためにまた飛んだが、ヲタはもはや階段を登ることさえできなかった。飛べなかったことよりも、軽々しくリベンジを口にした自分が腹立たしくて、ヲタは「男泣き」をした。
そんなヘタレな自分でも、チームホルモンのみんなは認めてくれている。
だから、もう逃げない。ヲタにはチームホルモンがいる。バンジーリタイアのときと今回は事情がちがう。リーダーとして情けない姿を、これ以上見せるわけにはいかない。そして勝たねばならない。
でも、負けたら?
チームは解散。四人と一緒にいられるのも今日限りだ。四人がそのあとどうするかについても考えてある。みんながそれを受け入れるかどうかはわからないが、ヲタはそうしてほしいと思っている。考えに考えて、四人のためを思って出した結論だった。
だが、それは負けた場合の話だ。勝てばいい。勝てばすべてがうまくいくはずだ。朝日にぼろぼろにされた自信も、少しは回復できるだろう。そしていずれは朝日に再戦を挑みたい。
一番の問題は、プリクラだった。ヲタはあえて、「果たし状」をプリクラが読んだかどうかを確認していない。もしかしたらプリクラは今日は休みかもしれないし、ゴミだらけの靴箱に入っている「果たし状」に気づかなかったかもしれない。あるいはいたずらだと思って中も見ず、その場で破って捨ててしまったかもしれない。
屋上への扉の前で立ち止まり、ヲタは物憂げに言った。「あいつ、来るかな?」
「さぁな」バンジーがつぶやくように言った。
扉を開けると、降り注いだ雨があちこちに水たまりを作っていた。外に出て、ひさしの下で立ち止まる。寒くないのが救いだった。頬にかすかにかかる雨が気持ちよかった。
「――ヲタ」アキチャが、数日ぶりにヲタの顔を見た。「本当にやるのか」
「もちろんだ」
「なんのために?」
「チームホルモンと、おれ自身のためだ」
「あたしとウナギのせいか?」
「それもある」
「じゃあ言っておく。あたしたちはおまえを嫌いになったわけじゃない」
アキチャの言葉に、ウナギが深く頷いた。そして今まで溜まっていたものを一気に吐き出すかのように、ウナギはしゃべりはじめた。「朝日に負けて以来、おまえはおかしくなっちまった。井の中の蛙だってわかっちまったからな。でもな、ヲタ。井の中の蛙でもいいじゃねぇか。あたしらはマジ女のテッペン獲ろうなんて思ってもねえ。自分の力はわかってる。その証拠に、前田にもゲキカラにも負けた。ゲキカラに鉛筆突っ込まれたおまえを見て、あたしは心底ビビったよ。あんなことができなきゃ、テッペンなんて獲れねえ。あたしらにはあそこまではたどり着かねえよ。あたしらとラッパッパの連中は、人間の格がちがう。良くも悪くも」
ウナギの言うことはもっともだった。自分たちにそこまではできない。ゲキカラに襲われたとき、ヲタはそう確信した。ケンカは数え切れないくらいして、数え切れないくらい勝ったり負けたりしたが、命を失うかもしれないと思ったのはあれが初めてだった。
テッペンに立つためには理性と狂気を同時に宿せなければならない。単純な強さだけでいえば、大島優子とサドよりも、ゲキカラのほうが上だろう。しかし、ゲキカラには狂気しかない。それではテッペンには立ち続けられない。
リーダーには資質が必要なのだ。
そして自分にそんなものはない、とヲタは思う。
ウナギが続ける。「だけどな、テッペンを目指すばかりが人生じゃねえ。二番手三番手に甘んじるってのも、ひとつの選択肢だ。ま、あたしたちは十番手くらいだろうけどな」
「おめえの悩みは分不相応なんだよ」アキチャが言った。「うちらなんて所詮、ホルモン喰って、駄話して、ときにはケンカしたり仲裁したりってだけの存在だろ。華やかなラッパッパとはちがうんだ。なのにおまえは、朝日に負けたことでうじうじしやがって。うちら二人はそういうおまえに、ちょっとだけ愛想が尽きたんだよ」
ウナギが頷いた。「でも、さっきも言ったが、嫌いになったわけじゃねえ。気づいてほしかった。おまえはおまえでいいって……」
「――だったら」バンジーがさえぎるように言った。「そう言えばいいだろう。黙ってたらわからねえよ」
「それは反省してる」ウナギは目を伏せた。「でも、あのときは怒りのほうが強かった」
ヲタは嬉しかった。二人はチームホルモンを捨てたわけでも裏切ったわけでもなかった。
ふと、かたわらで、すんすんと鼻をすするような音がした。振り返ると、ムクチが泣いていた。
「おまえ、なんで泣いてんだよ」ヲタはおかしくなって、少しだけ笑いながら言った。
「こんなことで泣くんじゃねえよ、ヤンキーが」バンジーも笑っていた。
「ごめんよ、ムクチ……」ウナギがムクチを抱きしめた。「もう、どこにもいかねえから安心しろ」
どこにもいかねえ――か。ヲタは心の中で、そうつぶやいた。
そのときだった。
階段の踊り場に最初に現れたのは、純情堕天使のメンバー中もっとも背の低いマユミだった。続いてナツミ、サキコ、トモミ、ハルカが立ち止まり、そしてプリクラは最後にゆったりとやってきた。
空気が変わった。触れることができるなら、そうした瞬間に砕けてしまいそうなほど、緊張が張り詰めた。
「大雨じゃないですか」プリクラが言った。「晴れてるときにしましょうよ」
いよいよ、この瞬間が来た。
もう逃げられない。
かすかに震える脚を意識しつつ、ヲタは声を振り絞った。「一日でも早く、てめえとケリをつけたいんだよ」
「私にはそんなことする必要ないんですが……まあ、それで気がすむんならやってあげますよ」
プリクラは今度は先頭に立ち、ゆっくりと階段を登ってきた。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■日曜は映画『川の底からこんにちは』を見た。けっこう前から、人間はダメでもいいんじゃないかと思っていたが、それを肯定してくれるような作品だった。人間なんてどうせみんなダメなんだから、自分のダメさを棚に上げて他人を責めたりするのやめようよ、とあらためて感じたよ。とはいえ、本当にダメなやつはいるわけだけど。唐沢俊一とか。
ま、おれなんて「中の下」じゃなくて「下の中」ですが。って、なに言ってるか、映画見た人しかわからないでしょうが。
■競馬はハズレつづきで、『エヴァンゲリオン』のブルーレイが買えなくなりました。『マジすか学園』のDVDは買うべきだろう、とは思いつつ、今週のダービーの結果次第では……。ああ、こういうやつをダメ人間っていうんだろうな。
■才加がアンダーガールズに入っているのは納得いかない。選抜漏れならアンダーにも入れなくていい、と思っている人、手を挙げて。
あと日曜に、厚生労働省の禁煙のイベント(?)に才加がなぜか呼ばれていて、しかもカネ払わなくても見られるので行きます。
■『週刊プレイボーイ』の指原のスクール水着姿にドキドキしてしまった。女として見てなかったのに(なんだと思ってたんだ?)、こんな格好しやがって!!! 指原のくせにかわいいじゃねぇか!!!
この現象はアイドリング!!!のメンバーが雑誌とかの水着姿を見たときにも起きる。
■『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』の続きは、もちっと待っててね。
■単焦点のレンズ買いたい。40ミリか20ミリ程度のもの。でも20じゃあ広角すぎるかなぁ。でも、背景のボケとか広角感とかすげえ好きなので少しやりすぎでもいい気はするが……。
あと純正かサードパーティかも悩む。ペンタックスの平たいレンズはめちゃくちゃかっこいいから、これにしようとは思いつつも値段との兼ね合いがあって、いまだ悩み中。
ま、おれなんて「中の下」じゃなくて「下の中」ですが。って、なに言ってるか、映画見た人しかわからないでしょうが。
■競馬はハズレつづきで、『エヴァンゲリオン』のブルーレイが買えなくなりました。『マジすか学園』のDVDは買うべきだろう、とは思いつつ、今週のダービーの結果次第では……。ああ、こういうやつをダメ人間っていうんだろうな。
■才加がアンダーガールズに入っているのは納得いかない。選抜漏れならアンダーにも入れなくていい、と思っている人、手を挙げて。
あと日曜に、厚生労働省の禁煙のイベント(?)に才加がなぜか呼ばれていて、しかもカネ払わなくても見られるので行きます。
■『週刊プレイボーイ』の指原のスクール水着姿にドキドキしてしまった。女として見てなかったのに(なんだと思ってたんだ?)、こんな格好しやがって!!! 指原のくせにかわいいじゃねぇか!!!
この現象はアイドリング!!!のメンバーが雑誌とかの水着姿を見たときにも起きる。
■『マジすか学園vsありえね女子高 AKB48×アイドリング!!!』の続きは、もちっと待っててね。
■単焦点のレンズ買いたい。40ミリか20ミリ程度のもの。でも20じゃあ広角すぎるかなぁ。でも、背景のボケとか広角感とかすげえ好きなので少しやりすぎでもいい気はするが……。
あと純正かサードパーティかも悩む。ペンタックスの平たいレンズはめちゃくちゃかっこいいから、これにしようとは思いつつも値段との兼ね合いがあって、いまだ悩み中。
今さらながら、旧チームKの最終公演を見た。
おれは一昨年あたりからAKBを注目したにわかファンなのだけど、好きなメンバーは旧チームKにたくさんいるので、自分なりの思い入れもある。だから最終公演を見たらきっと悲しくなるだろうなぁと思っていたこともあって、なかなか見られなかった。
けれども、見る前に想像していたりはあっさりと見れて、せいぜい『虫のバラード』で涙ながらに歌う秋元才加にじんときたくらいだった。
公演からかなり時間も経っていたし、もう新生チームKは活動を開始しているから、おれの中でも区切りがついていたのだろう。
でも、いよいよ本当に最後の挨拶というとき、才加が泣いたときにはかなりぐっときていた。そして、そんな才加に宮澤佐江がかけた、「笑って! 才加、なんで泣いてんの。笑顔で!」という言葉で涙腺は決壊した。
二人の仲の良さはいろいろと聞いていたが、このときほどそれを強く感じたことはなかった。才加もいい子だけど、それに負けないくらい佐江ちゃんもいい子だ。というか、やっぱりこの二人は最高だよ!!!
本当に今さらなんだけど、そんなことを感じました。
おれは一昨年あたりからAKBを注目したにわかファンなのだけど、好きなメンバーは旧チームKにたくさんいるので、自分なりの思い入れもある。だから最終公演を見たらきっと悲しくなるだろうなぁと思っていたこともあって、なかなか見られなかった。
けれども、見る前に想像していたりはあっさりと見れて、せいぜい『虫のバラード』で涙ながらに歌う秋元才加にじんときたくらいだった。
公演からかなり時間も経っていたし、もう新生チームKは活動を開始しているから、おれの中でも区切りがついていたのだろう。
でも、いよいよ本当に最後の挨拶というとき、才加が泣いたときにはかなりぐっときていた。そして、そんな才加に宮澤佐江がかけた、「笑って! 才加、なんで泣いてんの。笑顔で!」という言葉で涙腺は決壊した。
二人の仲の良さはいろいろと聞いていたが、このときほどそれを強く感じたことはなかった。才加もいい子だけど、それに負けないくらい佐江ちゃんもいい子だ。というか、やっぱりこの二人は最高だよ!!!
本当に今さらなんだけど、そんなことを感じました。
◎コスモネモシン
○ショウリュウムーン
△アプリコットフィズ
△オウケンサクラ
△アニメイトバイオ
△アパパネ
勝負馬券はコスモの単複。あとゼンノ産駒つながりでコスモとバイオのワイド(笑)。雨でどうなるか。コスモは内枠生かして少し先行しないとヤバいけど。
今日は渋谷に行くつもり。ここのところ渋谷出没率高い。
○ショウリュウムーン
△アプリコットフィズ
△オウケンサクラ
△アニメイトバイオ
△アパパネ
勝負馬券はコスモの単複。あとゼンノ産駒つながりでコスモとバイオのワイド(笑)。雨でどうなるか。コスモは内枠生かして少し先行しないとヤバいけど。
今日は渋谷に行くつもり。ここのところ渋谷出没率高い。
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スカートがふわりと漂う光景は、男なら嫌いな人はいないでしょう。ぼくの場合、それが水中なら激烈に刺激的なわけですがw
この衣装は、前にも説明した通り、スカートの下にペチコートがあるので、水中で漂ったときにかなりの重厚感があります。自然と水面に浮こうとするスカートとペチコートが揺れる様子を、動画でお見せできないのが残念です。
そんな浮遊感も、ちょっと体を水から出しただけで失われてしまうのが「濡れ」表現の面白いところです。水面から出たお尻に、すっかり色変わりしたスカートが密着しています。
今まで重力の束縛を受けていなかったものが、瞬時になにかにとらわれる。この瞬間にも、フェチを刺激するなにかが潜んでいます。
販売開始しました。↓
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スカートをもう少し水没させたときのものと、半分ほど浸かったあとで立ち上がったときの、二枚の写真です。やっぱり濡れた箇所とそうでない箇所の差がはっきりとわかります。おそらく『濡れ娘。』史上かつてない色変わりと濡れ線を描いた衣装です。まさにフェティッシュさ全開な場面ではないでしょうか。
あと、前にも書いたかもしれませんが、写真にロゴを入れているのは転載不可という意味ではありません。転載されたときに、出典を明記されない場合が多いので、写真を見ればどこのものかわかるようにしているというわけです。サンプルに邪魔な文字を入れて、製品版を買わそうとしているわけではありません(これはマジで、そんなつもりはないです)。ご了承ください。
でも買ってくれたら嬉しいw↓
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前回の写真公開から二ヶ月も経ってしまった……。写真目当てで見に来ている方、ごめんなさいっ。
というわけで、今回も陸遊馬さんです。
コスしたキャラクターはマンガやアニメでおなじみ『ぴたテン』の、御手洗薫。御手洗っていう苗字は、自分的にはやっぱり島田荘司の御手洗潔が思い出されるわけですが、ま、それは関係ないスね。
このコスチュームは前回同様、陸さんに持ってきていただいたものなんですが、このスカートの色変わり具合、どうですか? 倉持明日香風に言えば、「いやぁ、すばらしい!!!」ですよね。
水面に没した箇所がすぐにわかり、フェチ心をそそります。この小さなサンプル画像ではわかりにくいですが、安手の衣装ではなく、生地もきちんとしていて重厚感があります。
このシリーズは今日から毎日、二枚ずつ更新していき、週末にはダウンロード販売する予定ですので、お楽しみに!!!
【5月20追記】販売開始しました!!! ↓画像クリックでリンクしてます↓
■決心2-1■
大島優子の、いつ終わるともしれない愛撫が終わると、サドは堪えていたものを一気に放出させた。
涙だった。
泣き顔を見せたくなくて、サドは優子の胸に顔を押し付けた。優子の乳房は水風船みたいに柔らかく、サドをより一層、悲しい気持ちにさせた。
――この人は、もうじきいなくなってしまう。
優子のいたずらな指による快楽の地獄を味わっているとき、サドは全身で優子を感じた。そして感じれば感じるほど、優子を失いたくないという思いが募り、サドを恐怖させた。
優子の指がサドの敏感な部分を執拗に這うのも、優子の舌と自分の舌を絡められるのも、もってあと数ヶ月――。
優子に抱かれているときだけが、サドが自分を解放できる唯一の時間だった。優子のラッパッパを預かる身として、サドは日々ストレスを感じていた。だからこそ、優子に抱いてほしかった。優子が欲しかった。
「サド……」胸に顔をうずめられた優子がとまどうように言った。「泣いてんのか?」
「い、いえ……」サドは顔を離さず答えた。「泣いてません」
「うそつけぇ」優子はおどけた様子でサドの顔を引き離した。そしてサドの涙と鼻水にまみれた頬を見ると、瞬時に強張った表情になった。「――どうしたんだ。なにかあったのか?」
「なんでもありません」サドは必死に鼻をすすり、まぶたを閉じて涙をぬぐった。
それでも喉からせりあがってくるうねりは止められず、サドの息づかいは次第に嗚咽のようになっていった。
――優子さんの前で泣いたらヘンに勘ぐられる。止まれ、止まれよ、涙のクソ野郎……。
必死に涙をこらえようとしているサドのまぶたに、やわらかい何かが触れた。その感触は少しずつ強さと激しさを増し、サドにはやがて、それが優子の口唇だとわかった。
「かわいいなあ、麻里子は……」
優子はサドを名前で呼び、八重歯を見せて微笑んでくれた。
そして優子は、やや尖ったサドの顎をつまむと、顔を自分のほうへ正対させ、今日何度目かわからないキスをした。
看護士が体温を測りに来たとき、サドは優子のために、ココアを作っていた。
そもそも、終わったあとにココアを飲むというのは、優子の習慣だった。一度、なぜそうするのかを聞いたことがあったが、帰ってきた答えは「塩味のものを食べたあとは甘いもので口直しをしたいんだよ」という最低の下ネタだった。優子は引いているサドを見て、「冗談に決まってんだろぉ」と笑った。
西日が眩しかった。窓の向こうには橙色に染まった山々の尾根と、盆地の中の町並みが見える。そろそろ明かりの灯る時間だ。
優子とのタイマンに負け、一緒に神社から夕日を眺めたあの「始まりの日」以来、夕方はサドの一番好きな時間帯だった。その夜に初めて優子と結ばれたことを思い出させてくれるからだった。
サドにとって優子は、初めての女だった。男にはない肌触りの心地よさ、男にはない繊細さ、男にはない吐息の甘さ――。新しい世界に迎え入れてくれた優子は、本当の愛情とはなにかを教えてくれた。
最近はだれにも邪魔されず優子と一緒にいられる時間が増えた。優子が入院したためにそうなったのは皮肉なことだったが、命に別状さえなければずっとこのままでいてほしい、とさえサドは思う。まあ、たまには四天王やアンダーラッパッパの一年たちと会わせてやってもいいけれど。
その一方で、優子には一日も早く健康を取り戻し、学園に復帰してきてほしいという気持ちもある。相反する感情だが、それがサドの偽らざる心境だった。暴れまわる優子こそ、本当の優子の姿だ。
優子からラッパッパとマジ女を預かるサドは、学校にいるあいだは意識的にぴりぴりとしたムードを醸し出している。常に緊張感を漂わすことで、いま学園には存在しない「大島優子」の存在を意識させていた。
マジ女内はほぼ安寧しているとはいえ、細かな紛争はあちこちで起こっていた。生徒会の自治権がないに等しいマジ女では、ラッパッパがその役割を担っている。一旦事あれば、ラッパッパは事態の収拾のため調停役となる。武力を持たない生徒会に、その力はない。
しかし生徒会は予算決定という、最高の権力を持っている。名目上は吹奏楽部であるラッパッパは、活動費がなければ維持していくことができない。部室の使用権も生徒会が握っている。そのため、ラッパッパの部長といえど、生徒会には楯突けない。生徒会がその気になれば、明日にでもラッパッパはなくなる。
生徒会がそうしないのは、自分たちにない「武力」をラッパッパが有しているからだった。ラッパッパをなくせばマジ女内で再び権力闘争が起き、学園は今以上に荒れる。そのために、生徒会はラッパッパを必要としていた。荒れ放題の学園でも、ラッパッパがマジ女に君臨し続ける限り、生徒会そのものも安定を保てるのだ。
サドは以前、生徒会長の峯岸みなみを抱いたことがあった。生徒会への影響力を強くしておくためだ。ところがサドは峯岸に、逆に攻められる結果となった。高速で動く峯岸の舌による全身愛撫には、思わず声を上げてしまったほどだった。
「――はい。いいですよ」看護士は、優子が脇から外した電子体温計を見ると、手元の用紙に数字を書き込んだ。「明日は朝食の後、先生の診察がありますから」
「ね。明日の先生は?」
「戸賀崎先生です」
「えーっ。やだなぁ、あのヒゲ」
「みんなのことを考えてる、いい先生ですよ」
看護士は言いながら、病室を出て行った。
サドはベッドに腰掛けている、ジャージ姿の優子にココアの入ったマグカップを渡した。「どうぞ」
「お。さんきゅ……ん。やっぱり、お前の入れたココアはうめぇな」
「インスタントだから同じですよ、だれが入れても」サドは来客用の丸椅子に座った。
「そりゃそうだな。ははは」と、優子は高笑いをしたあと、急に真顔になってこう言った。「なあ、サド――マジ女でなにが起きてる?」
唐突の質問に、サドは一瞬言葉を詰まらせたが、平静を装った。「――いえ。なにも」
「サド。あたしの目を見ろ」
サドは見た。しかし瞳が動揺していないかどうかには自信がなかった。そして、そう考え始めると、そのことまでも優子に見透かされているような気がして、サドはますます焦燥感を募らせた。
「あたしはラッパッパの部長として、やらなきゃいけないことは必ずやる。たとえ病気であっても。わかるか?」
「わかります」
「それは、わたしが部員たちをどう思っているかとは別――公私混同はいけないという話だ。これが大前提だというのはわかるな?」
「わかります」
「同じ部のダチ同士で一番いけないことはなにか。隠し事だ。ダチ同士での隠し事はお互いを疑心暗鬼にさせる。情報を共有することで、あたしたちは同じ夢を見られる。だが、その前提が狂っていたら、仲間は分裂する。理解できるな?」
「もちろんです」
「特に、自分が見込んだ奴が隠し事をしていたときほど辛いことはない。もしそれがわかれば、あたしはそいつにヤキを入れなくちゃいけなくなるからだ。それも、ハンパねぇヤキをな。トリゴヤがプレイで打たれているような鞭じゃなく、本物の鞭が必要になるだろう。でなければ、他の者たちに示しがつかねえ。でも、あたしはそんなことはしたくない。特にそいつが何度も肌を重ねた相手ならなおさらだ。別のやつに聞けば早いかもしれない。ちょいと締め上げれば、おそらく簡単に口を割るだろう。体に聞くのが一番早い。痛めつけるか、快楽の虜にするか……。人間ってのは、たいていはそのどちらかで落ちる。だけどそれじゃダメなんだ。見込んだ奴から直接聞かなければな。あたしの言っていることにまちがいはあるか?」
「ありません」
「その上で、サド、もう一度だけ聞く。いいか、もう一度だけだ」優子は、サドにぐっと顔を近づけた。もうあと二センチ迫れば、また二人の唇が重なってしまうほどに。「マジ女でなにが起きている?」
サドはすべてを洗いざらい話してしまいたかった。けれど、今の状況では、それはできない。
亜利絵根女子高校から狙われていることを知れば、優子は陣頭指揮を執りたがるだろう。以前の、前田敦子との一件とはわけがちがう。あれは学内闘争で、ラッパッパが一方的に仕掛けたようなものだ。どちらかといえば矢場久根女子高との抗争と似ているが、はっきり言ってヤバ女など比較にならないくらい、アリ女は強い。はっきりとした『戦争』といっていい。
優子は相手が強ければ強いほど燃える。直接、自分が拳を振るうと言い出しかねない。病気だろうがなんだろうが、そうしてしまうのが大島優子という人間なのだ。
しかし今の優子が『戦場』に出れば、自身の命を縮めかねない。
優子にそうさせないためには理由が必要だが、余命一ヶ月であることを告げるのは論外だ。それができるくらいならこんな状況には陥っていない。かといって別の理由を作り上げたところで、嘘の数は変わらない。どこかでだれかが泥を被り、損な役割を担う必要がある。ならばそれは、優子にもっとも近い自分が負うべきだ。サドはそう考えていた。
まして、もうすでにサドは独自の判断で四天王の一人シブヤを動かしてしまっている。本来であれば優子に相談しなければいけなかった。なぜそうしなかったかと聞かれたら、サドには答えようがない。優子さんはあと一ヶ月の命だから精神に負担をかけてはいけないと思い自分で判断しました。そんなことを言えるわけがない。
優子は公私混同はいけない、と言った。でも自分はちがう。優子のためなら命を賭けられる。自分にとってもっとも大切な人が一日でも長く生きられるなら、なんでもする。誰にも口出しはさせない。
そうやって逡巡していたのは、時間にすればおそらく二三秒程度だっただろう。
サドの意思は変わらなかった。この部屋に入る前と、そして出て行くときにも。
「なにもありません」
優子はサドの答えを聞くと、一瞬ののちに破顔した。「――そっか。それならいいんだ」
子供のように無邪気な笑顔だった。愛しい唇が開き、愛しい八重歯がちらりとのぞいた。
この捉えどころのなさこそ、優子の魅力の一つでもあった。どこまでがマジで、どこからが冗談なのかは、まったくわからない。それが優子の心を見えにくくしているが、それでも人を惹きつけるなにかが優子にはあった。
サドは少しだけ安心した。もしかしたら、優子は冗談のつもりで言ったのかもしれない。たとえそうでなくとも、笑顔を見せてくれている今はもう気にしていないはずだった。
「悪りぃな、なんか深刻ぶっちまってよ」優子は照れたように言った。
「いえ。優子さんの立場なら当然です」
「お。それがわかるようになったか。お前にラッパッパを預けたのは正解だったな」
「ありがとうございます」サドは立ち上がった。「それじゃあ、私はそろそろ帰ります。また明日、帰りに寄りますから……」
「毎日毎日、ありがとな」
「いえ……」サドは頭を下げた。
病室を出ようと歩き出すと、優子が扉の前までついてきた。
不意に、優子が口を開いたのは、サドがノブに手をかけたときだった。
「サド……」
深い声だった。
「はい」
サドは後ろ向きのまま、頭を半分だけ動かして横顔で優子を見た。目は合わせられなかった。
「終わったらすべて話せ」
「――失礼します」
サドは逃げるように病室を出た。
――なるべく早く終わらせなければ……。
病院の建物を出てから、サドの歩調は自然と足早になった。いま、早く歩いたところでなにが変わるわけでもないの
に、サドはそうしなくてはいられない気分だった。
サドは三日前のことを思い出す。
シブヤまで投入したというのに、アリ女に勝てる方法は見つかりそうになかった。
山椒姉妹とダンスの写メが送られてきた後、サドはラッパッパ・アンダーのジャンボ、昭和、ライス、アニメを現場に送り込み、事態の収拾に当たらせた。四人の手錠のチェーンをワイヤーカッターで切断したり、シブヤの兵隊たちを病院へ運んだりと、アンダーたちはよく働いてくれた。怪我人は多かったが、致命的な傷を負ったものはなかった。
シブヤの話によれば、相手はたった二人――しかも子供と見間違えるかと思えるくらいの小さかったそうだ。名前は長野と橋本。十傑衆の二人らしい。
優子がなにか不穏な空気を読み取っている今、悠長に構えている理由はサドにはなかった。
四天王を使って一気にケリをつけてしまおう。
だが、それには問題がいくつかあった。
問題その一。ゲキカラが行方不明になっていること。
問題その二。トリゴヤを覚醒させるためには手間がかかり、また相手の懐深く潜入しなくてはならないだけでなく、それだけの苦労をしても実はあまり戦力にならないこと。
ゲキカラは前田との一戦以来、なぜか行方をくらましている。携帯にメールや電話をしても一切の音沙汰がない。四天王の中では攻撃力、耐久力ともにナンバーワンのゲキカラが、今の段階で手元にいないことはかなり痛い。
トリゴヤの特殊能力は、今回の作戦には向かない、とサドは考える。トリゴヤが精神攻撃を有効に使うためにはアリ女校内に潜入するか、アリ女の通学路で網を張るしかない。しかし、そのどちらも「敵」の土地であり、一歩間違えばシブヤのような目に合うだろう。覚醒の解けたトリゴヤが肉弾戦に持ち込まれれば、支援なしでは一分と立っていられないはずだ。
となると、残るはたった一人のみ。
闇夜を味方にするあの女なら、敵の土地に侵入することも脱出することも容易い。
――そうだな。これしかない。
サドは携帯電話を取り出し、ブラック宛のメール作成にとりかかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
大島優子の、いつ終わるともしれない愛撫が終わると、サドは堪えていたものを一気に放出させた。
涙だった。
泣き顔を見せたくなくて、サドは優子の胸に顔を押し付けた。優子の乳房は水風船みたいに柔らかく、サドをより一層、悲しい気持ちにさせた。
――この人は、もうじきいなくなってしまう。
優子のいたずらな指による快楽の地獄を味わっているとき、サドは全身で優子を感じた。そして感じれば感じるほど、優子を失いたくないという思いが募り、サドを恐怖させた。
優子の指がサドの敏感な部分を執拗に這うのも、優子の舌と自分の舌を絡められるのも、もってあと数ヶ月――。
優子に抱かれているときだけが、サドが自分を解放できる唯一の時間だった。優子のラッパッパを預かる身として、サドは日々ストレスを感じていた。だからこそ、優子に抱いてほしかった。優子が欲しかった。
「サド……」胸に顔をうずめられた優子がとまどうように言った。「泣いてんのか?」
「い、いえ……」サドは顔を離さず答えた。「泣いてません」
「うそつけぇ」優子はおどけた様子でサドの顔を引き離した。そしてサドの涙と鼻水にまみれた頬を見ると、瞬時に強張った表情になった。「――どうしたんだ。なにかあったのか?」
「なんでもありません」サドは必死に鼻をすすり、まぶたを閉じて涙をぬぐった。
それでも喉からせりあがってくるうねりは止められず、サドの息づかいは次第に嗚咽のようになっていった。
――優子さんの前で泣いたらヘンに勘ぐられる。止まれ、止まれよ、涙のクソ野郎……。
必死に涙をこらえようとしているサドのまぶたに、やわらかい何かが触れた。その感触は少しずつ強さと激しさを増し、サドにはやがて、それが優子の口唇だとわかった。
「かわいいなあ、麻里子は……」
優子はサドを名前で呼び、八重歯を見せて微笑んでくれた。
そして優子は、やや尖ったサドの顎をつまむと、顔を自分のほうへ正対させ、今日何度目かわからないキスをした。
看護士が体温を測りに来たとき、サドは優子のために、ココアを作っていた。
そもそも、終わったあとにココアを飲むというのは、優子の習慣だった。一度、なぜそうするのかを聞いたことがあったが、帰ってきた答えは「塩味のものを食べたあとは甘いもので口直しをしたいんだよ」という最低の下ネタだった。優子は引いているサドを見て、「冗談に決まってんだろぉ」と笑った。
西日が眩しかった。窓の向こうには橙色に染まった山々の尾根と、盆地の中の町並みが見える。そろそろ明かりの灯る時間だ。
優子とのタイマンに負け、一緒に神社から夕日を眺めたあの「始まりの日」以来、夕方はサドの一番好きな時間帯だった。その夜に初めて優子と結ばれたことを思い出させてくれるからだった。
サドにとって優子は、初めての女だった。男にはない肌触りの心地よさ、男にはない繊細さ、男にはない吐息の甘さ――。新しい世界に迎え入れてくれた優子は、本当の愛情とはなにかを教えてくれた。
最近はだれにも邪魔されず優子と一緒にいられる時間が増えた。優子が入院したためにそうなったのは皮肉なことだったが、命に別状さえなければずっとこのままでいてほしい、とさえサドは思う。まあ、たまには四天王やアンダーラッパッパの一年たちと会わせてやってもいいけれど。
その一方で、優子には一日も早く健康を取り戻し、学園に復帰してきてほしいという気持ちもある。相反する感情だが、それがサドの偽らざる心境だった。暴れまわる優子こそ、本当の優子の姿だ。
優子からラッパッパとマジ女を預かるサドは、学校にいるあいだは意識的にぴりぴりとしたムードを醸し出している。常に緊張感を漂わすことで、いま学園には存在しない「大島優子」の存在を意識させていた。
マジ女内はほぼ安寧しているとはいえ、細かな紛争はあちこちで起こっていた。生徒会の自治権がないに等しいマジ女では、ラッパッパがその役割を担っている。一旦事あれば、ラッパッパは事態の収拾のため調停役となる。武力を持たない生徒会に、その力はない。
しかし生徒会は予算決定という、最高の権力を持っている。名目上は吹奏楽部であるラッパッパは、活動費がなければ維持していくことができない。部室の使用権も生徒会が握っている。そのため、ラッパッパの部長といえど、生徒会には楯突けない。生徒会がその気になれば、明日にでもラッパッパはなくなる。
生徒会がそうしないのは、自分たちにない「武力」をラッパッパが有しているからだった。ラッパッパをなくせばマジ女内で再び権力闘争が起き、学園は今以上に荒れる。そのために、生徒会はラッパッパを必要としていた。荒れ放題の学園でも、ラッパッパがマジ女に君臨し続ける限り、生徒会そのものも安定を保てるのだ。
サドは以前、生徒会長の峯岸みなみを抱いたことがあった。生徒会への影響力を強くしておくためだ。ところがサドは峯岸に、逆に攻められる結果となった。高速で動く峯岸の舌による全身愛撫には、思わず声を上げてしまったほどだった。
「――はい。いいですよ」看護士は、優子が脇から外した電子体温計を見ると、手元の用紙に数字を書き込んだ。「明日は朝食の後、先生の診察がありますから」
「ね。明日の先生は?」
「戸賀崎先生です」
「えーっ。やだなぁ、あのヒゲ」
「みんなのことを考えてる、いい先生ですよ」
看護士は言いながら、病室を出て行った。
サドはベッドに腰掛けている、ジャージ姿の優子にココアの入ったマグカップを渡した。「どうぞ」
「お。さんきゅ……ん。やっぱり、お前の入れたココアはうめぇな」
「インスタントだから同じですよ、だれが入れても」サドは来客用の丸椅子に座った。
「そりゃそうだな。ははは」と、優子は高笑いをしたあと、急に真顔になってこう言った。「なあ、サド――マジ女でなにが起きてる?」
唐突の質問に、サドは一瞬言葉を詰まらせたが、平静を装った。「――いえ。なにも」
「サド。あたしの目を見ろ」
サドは見た。しかし瞳が動揺していないかどうかには自信がなかった。そして、そう考え始めると、そのことまでも優子に見透かされているような気がして、サドはますます焦燥感を募らせた。
「あたしはラッパッパの部長として、やらなきゃいけないことは必ずやる。たとえ病気であっても。わかるか?」
「わかります」
「それは、わたしが部員たちをどう思っているかとは別――公私混同はいけないという話だ。これが大前提だというのはわかるな?」
「わかります」
「同じ部のダチ同士で一番いけないことはなにか。隠し事だ。ダチ同士での隠し事はお互いを疑心暗鬼にさせる。情報を共有することで、あたしたちは同じ夢を見られる。だが、その前提が狂っていたら、仲間は分裂する。理解できるな?」
「もちろんです」
「特に、自分が見込んだ奴が隠し事をしていたときほど辛いことはない。もしそれがわかれば、あたしはそいつにヤキを入れなくちゃいけなくなるからだ。それも、ハンパねぇヤキをな。トリゴヤがプレイで打たれているような鞭じゃなく、本物の鞭が必要になるだろう。でなければ、他の者たちに示しがつかねえ。でも、あたしはそんなことはしたくない。特にそいつが何度も肌を重ねた相手ならなおさらだ。別のやつに聞けば早いかもしれない。ちょいと締め上げれば、おそらく簡単に口を割るだろう。体に聞くのが一番早い。痛めつけるか、快楽の虜にするか……。人間ってのは、たいていはそのどちらかで落ちる。だけどそれじゃダメなんだ。見込んだ奴から直接聞かなければな。あたしの言っていることにまちがいはあるか?」
「ありません」
「その上で、サド、もう一度だけ聞く。いいか、もう一度だけだ」優子は、サドにぐっと顔を近づけた。もうあと二センチ迫れば、また二人の唇が重なってしまうほどに。「マジ女でなにが起きている?」
サドはすべてを洗いざらい話してしまいたかった。けれど、今の状況では、それはできない。
亜利絵根女子高校から狙われていることを知れば、優子は陣頭指揮を執りたがるだろう。以前の、前田敦子との一件とはわけがちがう。あれは学内闘争で、ラッパッパが一方的に仕掛けたようなものだ。どちらかといえば矢場久根女子高との抗争と似ているが、はっきり言ってヤバ女など比較にならないくらい、アリ女は強い。はっきりとした『戦争』といっていい。
優子は相手が強ければ強いほど燃える。直接、自分が拳を振るうと言い出しかねない。病気だろうがなんだろうが、そうしてしまうのが大島優子という人間なのだ。
しかし今の優子が『戦場』に出れば、自身の命を縮めかねない。
優子にそうさせないためには理由が必要だが、余命一ヶ月であることを告げるのは論外だ。それができるくらいならこんな状況には陥っていない。かといって別の理由を作り上げたところで、嘘の数は変わらない。どこかでだれかが泥を被り、損な役割を担う必要がある。ならばそれは、優子にもっとも近い自分が負うべきだ。サドはそう考えていた。
まして、もうすでにサドは独自の判断で四天王の一人シブヤを動かしてしまっている。本来であれば優子に相談しなければいけなかった。なぜそうしなかったかと聞かれたら、サドには答えようがない。優子さんはあと一ヶ月の命だから精神に負担をかけてはいけないと思い自分で判断しました。そんなことを言えるわけがない。
優子は公私混同はいけない、と言った。でも自分はちがう。優子のためなら命を賭けられる。自分にとってもっとも大切な人が一日でも長く生きられるなら、なんでもする。誰にも口出しはさせない。
そうやって逡巡していたのは、時間にすればおそらく二三秒程度だっただろう。
サドの意思は変わらなかった。この部屋に入る前と、そして出て行くときにも。
「なにもありません」
優子はサドの答えを聞くと、一瞬ののちに破顔した。「――そっか。それならいいんだ」
子供のように無邪気な笑顔だった。愛しい唇が開き、愛しい八重歯がちらりとのぞいた。
この捉えどころのなさこそ、優子の魅力の一つでもあった。どこまでがマジで、どこからが冗談なのかは、まったくわからない。それが優子の心を見えにくくしているが、それでも人を惹きつけるなにかが優子にはあった。
サドは少しだけ安心した。もしかしたら、優子は冗談のつもりで言ったのかもしれない。たとえそうでなくとも、笑顔を見せてくれている今はもう気にしていないはずだった。
「悪りぃな、なんか深刻ぶっちまってよ」優子は照れたように言った。
「いえ。優子さんの立場なら当然です」
「お。それがわかるようになったか。お前にラッパッパを預けたのは正解だったな」
「ありがとうございます」サドは立ち上がった。「それじゃあ、私はそろそろ帰ります。また明日、帰りに寄りますから……」
「毎日毎日、ありがとな」
「いえ……」サドは頭を下げた。
病室を出ようと歩き出すと、優子が扉の前までついてきた。
不意に、優子が口を開いたのは、サドがノブに手をかけたときだった。
「サド……」
深い声だった。
「はい」
サドは後ろ向きのまま、頭を半分だけ動かして横顔で優子を見た。目は合わせられなかった。
「終わったらすべて話せ」
「――失礼します」
サドは逃げるように病室を出た。
――なるべく早く終わらせなければ……。
病院の建物を出てから、サドの歩調は自然と足早になった。いま、早く歩いたところでなにが変わるわけでもないの
に、サドはそうしなくてはいられない気分だった。
サドは三日前のことを思い出す。
シブヤまで投入したというのに、アリ女に勝てる方法は見つかりそうになかった。
山椒姉妹とダンスの写メが送られてきた後、サドはラッパッパ・アンダーのジャンボ、昭和、ライス、アニメを現場に送り込み、事態の収拾に当たらせた。四人の手錠のチェーンをワイヤーカッターで切断したり、シブヤの兵隊たちを病院へ運んだりと、アンダーたちはよく働いてくれた。怪我人は多かったが、致命的な傷を負ったものはなかった。
シブヤの話によれば、相手はたった二人――しかも子供と見間違えるかと思えるくらいの小さかったそうだ。名前は長野と橋本。十傑衆の二人らしい。
優子がなにか不穏な空気を読み取っている今、悠長に構えている理由はサドにはなかった。
四天王を使って一気にケリをつけてしまおう。
だが、それには問題がいくつかあった。
問題その一。ゲキカラが行方不明になっていること。
問題その二。トリゴヤを覚醒させるためには手間がかかり、また相手の懐深く潜入しなくてはならないだけでなく、それだけの苦労をしても実はあまり戦力にならないこと。
ゲキカラは前田との一戦以来、なぜか行方をくらましている。携帯にメールや電話をしても一切の音沙汰がない。四天王の中では攻撃力、耐久力ともにナンバーワンのゲキカラが、今の段階で手元にいないことはかなり痛い。
トリゴヤの特殊能力は、今回の作戦には向かない、とサドは考える。トリゴヤが精神攻撃を有効に使うためにはアリ女校内に潜入するか、アリ女の通学路で網を張るしかない。しかし、そのどちらも「敵」の土地であり、一歩間違えばシブヤのような目に合うだろう。覚醒の解けたトリゴヤが肉弾戦に持ち込まれれば、支援なしでは一分と立っていられないはずだ。
となると、残るはたった一人のみ。
闇夜を味方にするあの女なら、敵の土地に侵入することも脱出することも容易い。
――そうだな。これしかない。
サドは携帯電話を取り出し、ブラック宛のメール作成にとりかかった。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■決心1-1■
プリクラとの一件があってから、チームホルモンのなにかが変化していた。
まず、アキチャが放課後、一人で下校した。
それまで五人は、いつも一緒だった。駅までの登下校の途中、ときにはケンカの相手を探したり、喫茶店や焼肉店に寄り道をしたりという、いつもの生活パターンが変わった。
それからアキチャは休み時間にも別の教室に行ったり、授業中の「ホルモンタイム」でも口数が少なくなった。ヲタが話しかけても気の無い返事をし、自分から話題を振ることもなくなった。
そしてウナギがそれに続き、アキチャと行動を共にするようになった。バンジーが放課後に誘っても先約があると断り、アキチャと町へ消えた。
ムクチは相変わらずだったが、今まで以上に寡黙になり、笑顔が薄くなっていった。
バンジーは、アキチャとウナギの「離反」に苛立っているのか、二人に対しての言葉遣いが荒くなった。
他の生徒からの目も変わった。
今まで挨拶をしてきた一、二年生たちの、メンバーを見る目つきがちがっていた。今までどおり頭を下げるものの、その角度は明らかに浅くなっていたし、声も小さい。気のせいか、こちらをあざ笑っているような表情に見えることさえある。
ラッパッパから二年を仕切ることを許されているチームホルモンとしては、これは由々しき事態だった。この現状がサドの耳に入れば、チームホルモンは格下げされ、プリクラ率いる純情堕天使が新たに二年を仕切ることになるかもしれない。
それはもっとも嫌なことだった。
こうなった原因は、朝日奈央と戦った、あの放課後にある。
自分がもっと強ければ負けなかっただろう。現状を解決するには、朝日奈央と再戦して勝ち、リーダーとしての威信を取り戻すしかない。
――けど、勝てんのかよ?
自問の答えは考えるまでもなかった。
かといって何ができるわけでもなく、ヲタはずるずると結論を先延ばしにすることしかできなかった。それは、認めたくなかったが、ヲタのそれまでの生き方そのものだった。ヲタは自分のそんな部分は嫌いだったし、どうにかしたいとは思っている。
しかし思っているだけ。
行動するきっかけがないからだ。とことん追い詰められればできる。自分はできるはず。でも、まだ今はそのときではない。そこまで追い詰められてはいない。人生はこの先、まだまだ長い。焦ったって仕方ない。
そうして今日も、ヲタは自分をごまかしていた。
ある日の放課後、通学路にある整備された土手から川面に降りる階段でダベっていたヲタとバンジーとムクチの三人のところに、鬼塚だるまがやってきた。
「お前ら、最近、様子がおかしいな」だるまは片手に、パックに入った八個入りのたこ焼きを持っていた。「高城と北原、いつもおらんやないか」
その日もアキチャとウナギは終業のチャイムと同時に帰ってしまっていた。
「別になんでもねえ」
ヲタがたこ焼きに手を伸ばすと、バンジーとムクチも当然といった仕草で続いた。
「ちょっ……、だれが食うてええ言うた?」
「いいじゃねぇか。みんなで食べたほうがおいしいって、前に言ってただろ」
「――ったく……。一個だけやで」
「うん、熱々でうめぇな……」濃いめのソース味の効いたたこ焼きは、ヲタをつかの間幸せにした。「お前こそ、今日は金魚の糞みたいに前田にくっついてなくていいのかよ」
「あつ姐は今日はバイトや」
「ま、今までだってお前がいたところで意味なかったけどな」
「そうそう」バンジーが頷いた。
ムクチはまだたこ焼きを口の中に入れず、不思議そうな顔をしてそれを空に掲げて眺めていた。
「俺のことはええ。お前らのことを聞きたいんや」
「おれらのこと?」
「そうや、チームホルモンのことや。あつ姐も心配しとったで」
「前田が……なんで?」
「本当に強い人ってのは、優しさも半端なく大きいんや」
たしかにそうかもしれない、とヲタは思う。
――案外、いい奴かもしれないな、前田。
だが、口を突いて出てきた言葉は、反射的な照れ隠しとなってしまった。「――前田に伝えておけ。関係ないことに口出しすんなって」
「関係なくはないやんか。クラスメイトなんやから」
「だったら前田が直接来いよ」
「だから、あつ姐は今日はアルバイトで忙しいから、俺が代わって様子を聞きに来たんや。とは言っても、あつ姐がそうしろ言うたわけやないで。おれが勝手にやったことや」だるまはそこから神妙な顔つきになって、「――近頃のおまえら、なんかあったんか?」
「だからなんにもねぇって……」
と、ヲタはだるまの言葉を否定したが、言い終わる前にバンジーが口を挟んだ。
「先々週、おれたちが亜利絵根女子高の朝日って奴にボコられたのはお前もウワサで聞いてただろう? しかも二回もやられたんだ。それ以来、こいつが落ち込んじまってよ……」と、バンジーはヲタを親指で示した。「それでアキチャとウナギがあきれちまったってわけさ」
「二回もやられたんか」
「ああ。本当だ」
「なら、その朝日って奴とまたタイマン張ればええやないか。負けて負けて負け続けても、勝てるまでやったらええんや」
「勝てるわけがねえ」ヲタは言った。「あいつは強え」
「そいつはあつ姐より強いんか?」
「それはわからねぇけど……」
「だったらいつかは勝てるんとちゃうか。というか、朝日が強いんやなくて、お前が弱いんちゃうか?」
そのだるまの言葉は、ヲタの胸に突き刺さった。
――そう。弱いのは自分だ……。
ヲタはわかっていた。わかっていたからこそ、考えたくなかった。
自分には、本当は二年を統べる力などない……。
だるまから目を逸らすと、バンジーと目が合った。
たこ焼きが中に入っているらしく、右側の頬が丸く膨らんでいるムクチとも。
二人の無言の肯定が、ヲタには痛かった。
過去、チームホルモンは純情堕天使と、二年の覇権を争った。勝ったほうがラッパッパの元に承認されることになっていたが、力は均衡していたため、決着はなかなか着かなかった。
チームホルモンにとって幸いだったのは、膠着状態に入ったとき、プリクラが不純異性交遊で停学になったことだった。
一時的とはいえ、リーダーを失った純情堕天使に勝つのは容易かった。ナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカもそれなりに強かったが、やはり「それなり」でしかなかった。
もしブリクラが停学にならなければ、チームホルモンは今のような大きな顔はできなかったのだ。
「そうか……。それが引っかかってたんだな」
ヲタは独り言をつぶやいた。
「なにが引っかかってたんや?」
「お前には関係ない。というか、お前がこの学校に来る前の話しだ」
「良かったら、力貸すで」
「いや。それはいらない。自分たちでケリをつけなければ意味ないんだ」
「ヲタ、なにするつもりだ」バンジーが怪訝な表情になった。
「だるまの言うとおり、おれは弱いのかもしれない」
「んなことはねぇ。おい、だるま。訂正しろ」
「なんでおれが修正せなならんのや?」
「いいんだ、バンジー。ちょっと聞いてくれ」ヲタは神妙になった。「プリクラの停学が解けてマジ女に戻ってきた今、おれたちには戦う義務があるし、あいつらには戦う権利がある」
「そんなことは関係ねぇ」バンジーが言った。「プリクラがいようといまいと、おれたちは勝った」
「たしかにそうだ。でも、おれにはそのことがずっと引っかかっていたんだ。それでいいのかって」
「ラッパッパの大島さんからも承認を受けたし……」
「ちがうんだ。そういうことじゃないだろう……その、戦うってことは」
「ちがわねぇ」
「ビビってんのか?」
「ビビってなんかいねぇ」
「だったらやるべきだ。戦うってのは、単に覇権をどちらが取るかってことじゃない」
「プリクラか?」
ヲタは少し考えてから、
「――そうだ」
と認めた。
「なるほどな。それなら納得がいく」バンジーは言った。「おまえにも自信をつけさせてやりたいし。ちょうどいいかもしれないな」
「だが、本気でやるために、ひとつ条件を設定する」
「なんだ、その条件って?」
「負けたらチームホルモンは解散する」
ヲタは静かに言った。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
プリクラとの一件があってから、チームホルモンのなにかが変化していた。
まず、アキチャが放課後、一人で下校した。
それまで五人は、いつも一緒だった。駅までの登下校の途中、ときにはケンカの相手を探したり、喫茶店や焼肉店に寄り道をしたりという、いつもの生活パターンが変わった。
それからアキチャは休み時間にも別の教室に行ったり、授業中の「ホルモンタイム」でも口数が少なくなった。ヲタが話しかけても気の無い返事をし、自分から話題を振ることもなくなった。
そしてウナギがそれに続き、アキチャと行動を共にするようになった。バンジーが放課後に誘っても先約があると断り、アキチャと町へ消えた。
ムクチは相変わらずだったが、今まで以上に寡黙になり、笑顔が薄くなっていった。
バンジーは、アキチャとウナギの「離反」に苛立っているのか、二人に対しての言葉遣いが荒くなった。
他の生徒からの目も変わった。
今まで挨拶をしてきた一、二年生たちの、メンバーを見る目つきがちがっていた。今までどおり頭を下げるものの、その角度は明らかに浅くなっていたし、声も小さい。気のせいか、こちらをあざ笑っているような表情に見えることさえある。
ラッパッパから二年を仕切ることを許されているチームホルモンとしては、これは由々しき事態だった。この現状がサドの耳に入れば、チームホルモンは格下げされ、プリクラ率いる純情堕天使が新たに二年を仕切ることになるかもしれない。
それはもっとも嫌なことだった。
こうなった原因は、朝日奈央と戦った、あの放課後にある。
自分がもっと強ければ負けなかっただろう。現状を解決するには、朝日奈央と再戦して勝ち、リーダーとしての威信を取り戻すしかない。
――けど、勝てんのかよ?
自問の答えは考えるまでもなかった。
かといって何ができるわけでもなく、ヲタはずるずると結論を先延ばしにすることしかできなかった。それは、認めたくなかったが、ヲタのそれまでの生き方そのものだった。ヲタは自分のそんな部分は嫌いだったし、どうにかしたいとは思っている。
しかし思っているだけ。
行動するきっかけがないからだ。とことん追い詰められればできる。自分はできるはず。でも、まだ今はそのときではない。そこまで追い詰められてはいない。人生はこの先、まだまだ長い。焦ったって仕方ない。
そうして今日も、ヲタは自分をごまかしていた。
ある日の放課後、通学路にある整備された土手から川面に降りる階段でダベっていたヲタとバンジーとムクチの三人のところに、鬼塚だるまがやってきた。
「お前ら、最近、様子がおかしいな」だるまは片手に、パックに入った八個入りのたこ焼きを持っていた。「高城と北原、いつもおらんやないか」
その日もアキチャとウナギは終業のチャイムと同時に帰ってしまっていた。
「別になんでもねえ」
ヲタがたこ焼きに手を伸ばすと、バンジーとムクチも当然といった仕草で続いた。
「ちょっ……、だれが食うてええ言うた?」
「いいじゃねぇか。みんなで食べたほうがおいしいって、前に言ってただろ」
「――ったく……。一個だけやで」
「うん、熱々でうめぇな……」濃いめのソース味の効いたたこ焼きは、ヲタをつかの間幸せにした。「お前こそ、今日は金魚の糞みたいに前田にくっついてなくていいのかよ」
「あつ姐は今日はバイトや」
「ま、今までだってお前がいたところで意味なかったけどな」
「そうそう」バンジーが頷いた。
ムクチはまだたこ焼きを口の中に入れず、不思議そうな顔をしてそれを空に掲げて眺めていた。
「俺のことはええ。お前らのことを聞きたいんや」
「おれらのこと?」
「そうや、チームホルモンのことや。あつ姐も心配しとったで」
「前田が……なんで?」
「本当に強い人ってのは、優しさも半端なく大きいんや」
たしかにそうかもしれない、とヲタは思う。
――案外、いい奴かもしれないな、前田。
だが、口を突いて出てきた言葉は、反射的な照れ隠しとなってしまった。「――前田に伝えておけ。関係ないことに口出しすんなって」
「関係なくはないやんか。クラスメイトなんやから」
「だったら前田が直接来いよ」
「だから、あつ姐は今日はアルバイトで忙しいから、俺が代わって様子を聞きに来たんや。とは言っても、あつ姐がそうしろ言うたわけやないで。おれが勝手にやったことや」だるまはそこから神妙な顔つきになって、「――近頃のおまえら、なんかあったんか?」
「だからなんにもねぇって……」
と、ヲタはだるまの言葉を否定したが、言い終わる前にバンジーが口を挟んだ。
「先々週、おれたちが亜利絵根女子高の朝日って奴にボコられたのはお前もウワサで聞いてただろう? しかも二回もやられたんだ。それ以来、こいつが落ち込んじまってよ……」と、バンジーはヲタを親指で示した。「それでアキチャとウナギがあきれちまったってわけさ」
「二回もやられたんか」
「ああ。本当だ」
「なら、その朝日って奴とまたタイマン張ればええやないか。負けて負けて負け続けても、勝てるまでやったらええんや」
「勝てるわけがねえ」ヲタは言った。「あいつは強え」
「そいつはあつ姐より強いんか?」
「それはわからねぇけど……」
「だったらいつかは勝てるんとちゃうか。というか、朝日が強いんやなくて、お前が弱いんちゃうか?」
そのだるまの言葉は、ヲタの胸に突き刺さった。
――そう。弱いのは自分だ……。
ヲタはわかっていた。わかっていたからこそ、考えたくなかった。
自分には、本当は二年を統べる力などない……。
だるまから目を逸らすと、バンジーと目が合った。
たこ焼きが中に入っているらしく、右側の頬が丸く膨らんでいるムクチとも。
二人の無言の肯定が、ヲタには痛かった。
過去、チームホルモンは純情堕天使と、二年の覇権を争った。勝ったほうがラッパッパの元に承認されることになっていたが、力は均衡していたため、決着はなかなか着かなかった。
チームホルモンにとって幸いだったのは、膠着状態に入ったとき、プリクラが不純異性交遊で停学になったことだった。
一時的とはいえ、リーダーを失った純情堕天使に勝つのは容易かった。ナツミ、サキコ、トモミ、マユミ、ハルカもそれなりに強かったが、やはり「それなり」でしかなかった。
もしブリクラが停学にならなければ、チームホルモンは今のような大きな顔はできなかったのだ。
「そうか……。それが引っかかってたんだな」
ヲタは独り言をつぶやいた。
「なにが引っかかってたんや?」
「お前には関係ない。というか、お前がこの学校に来る前の話しだ」
「良かったら、力貸すで」
「いや。それはいらない。自分たちでケリをつけなければ意味ないんだ」
「ヲタ、なにするつもりだ」バンジーが怪訝な表情になった。
「だるまの言うとおり、おれは弱いのかもしれない」
「んなことはねぇ。おい、だるま。訂正しろ」
「なんでおれが修正せなならんのや?」
「いいんだ、バンジー。ちょっと聞いてくれ」ヲタは神妙になった。「プリクラの停学が解けてマジ女に戻ってきた今、おれたちには戦う義務があるし、あいつらには戦う権利がある」
「そんなことは関係ねぇ」バンジーが言った。「プリクラがいようといまいと、おれたちは勝った」
「たしかにそうだ。でも、おれにはそのことがずっと引っかかっていたんだ。それでいいのかって」
「ラッパッパの大島さんからも承認を受けたし……」
「ちがうんだ。そういうことじゃないだろう……その、戦うってことは」
「ちがわねぇ」
「ビビってんのか?」
「ビビってなんかいねぇ」
「だったらやるべきだ。戦うってのは、単に覇権をどちらが取るかってことじゃない」
「プリクラか?」
ヲタは少し考えてから、
「――そうだ」
と認めた。
「なるほどな。それなら納得がいく」バンジーは言った。「おまえにも自信をつけさせてやりたいし。ちょうどいいかもしれないな」
「だが、本気でやるために、ひとつ条件を設定する」
「なんだ、その条件って?」
「負けたらチームホルモンは解散する」
ヲタは静かに言った。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
◎サウンドバリアー
○ダノンシャンティ
△コスモセンサー
△ニシノメイゲツ
△キングレオポルド
ピンクカメオの再演、期待してるぜ、内田!!!
ダノンはしゃあない。
コスモ、ニシノは厳しいけど3着くらいなら?
キングは消去法で残ったので……。でもまあ、ダメだろうな、一応買うけど。
○ダノンシャンティ
△コスモセンサー
△ニシノメイゲツ
△キングレオポルド
ピンクカメオの再演、期待してるぜ、内田!!!
ダノンはしゃあない。
コスモ、ニシノは厳しいけど3着くらいなら?
キングは消去法で残ったので……。でもまあ、ダメだろうな、一応買うけど。
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新しい、顔出し不可のモデルさんです。
時間はけっこうあったのに、たった3着しか撮れなかった……。その分、思い入れてるつもりですが。
それにしても顔出しできないのがもどかしい!!! とってもかわいいモデルさんなんです。アップの写真は撮っても公開できないんですが、あとから見返してみるとけっこうアップが多かったw
あと、制服系の衣装は、中にスクール水着を着用していて、ブラウスに透けさせたりしています。これは前からやりたかったんだけど、水着のサイズが合う人がいなかったりして、やっと実現できたシチュエーションでした。
公開はまだまだ先になるとは思いますが、とりあえずフェチ的な行動もしてるぞという存在証明ということでw
連休最後の今日は池袋で『ミュージカル ミンキーモモ 鏡の国のプリンセス』を見てきた。AKB48の秋元才加が準主役で出演していたからだ。
チケット代は手数料とか含めて7000円……。でも、これも才加の出演料の一部になるなら、と馬券を買う金を節約して支払った。
広井王子が脚本なのだから面白いわけはない。そんなのはAKB歌劇団を見た段階でわかっていた。それでも才加が出るなら見ないわけにはいかない。辛い生き方だな、ヲタって。
それで千秋楽の舞台を見たわけだが、これが予想以上にひどかった。
才加はいい。与えられた役割をちゃんと演じていたし、おそらく見た人すべての心の中に留まるだろう。
でも、一番の問題は、その演技が物語にまったく生かされていないことだ。
すべてが浅い。
基本的に、これは子供向けのミュージカルだ(もっとも、製作側が予想した以上に親子連れは少なかったと思うが)。でも、だからこそちゃんと作るべきではないだろうか。
夢がテーマだからって、「夢を持つことはすばらしい」と連呼するのは一番ダメな作り方だと思う。戦争反対がテーマの物語で「戦争はよくない」と台詞で言わせるのはかっこ悪いでしょう。
子供向けだからそれでいい、というのであれば、それこそ子供を馬鹿にしている。
子供向けであればこそ、大人が見ても耐ええるきちんとしたものでなければいけないよ。
子供には人間の姿をありのまま見せるべきだ。
この物語には、人間は善良さと悪の部分を併せ持つということが描かれていない。
世界には、どうやら「いい人」しかいないようだ。
本気で腹が立ったのは、泥棒をしても正直に謝れば許されるばかりか得をするというエピソード。子供には、罪は罪だと教えないといけない。償いというのは正直に謝ることではない(この問題は本作に限ったことではなく、いろんな映画や小説やマンガに見られる根深い問題ではあるのだが、それはまたいずれ……)。
人間は不完全だ。でも、だからこそ希望を持てる。
大人だって不完全なんだから、子供は不完全に決まっているし、それでいい。お互いにダメな部分も良い部分も認め合って折り合いをつけていくのが、世の中を生きていくってことだ。
子供に見せるべきは、そういうものではないのだろうか。
広井王子はアニメの『魔法のプリンセス ミンキーモモ』を見てないと思う。
きちんと見ていたら、こんなものに仕上がるわけがない。
『ミンキーモモ』は「魔法では夢は叶わない。夢は自分自身で叶えるもの」という作品だ。
そして魔法を描きながらも、現実というものを核に置いている。
ことさらに神格化する気はないけど、第42話「間違いだらけの大作戦」を巡るエピソードは今でも鮮烈に覚えている。打ち切りになった場合、スタッフはこのエピソードで物語を終わらせるつもりだったそうだ。この42話は、くだらない間違いから核爆弾が落とされ核戦争が起こり地球が滅亡するというストーリーで(ミンキーモモは核戦争を防げない)、もし、これが本当になっていたら、それはアニメ史上もっとも印象的な最終回になっただろう。いや、本当の最終回も充分、衝撃的ではあるけれど。
大人たちが本気で子供たちに伝えたいと思って作っていたアニメだからこそ、何十年もみんなが覚えているのだ。
原点と違うものを作りたいというのなら、まあそれでもいい。
ただ、それならちゃんとしたものを作ってくださいよ。
でも、「テレビ東京のマイナー番組だったミンキーモモが立派になった」とか言って喜んでる人もいるから、そんなこと気にするおれがおかしいんだろうな、きっと。
『鏡の国のプリンセス』のモモはなにをしたか。
なにもしていない。
その場しのぎに変身しているだけ。
そして空虚なことを言い放つ。責任感のかけらもなく。
「夢はきっと叶う」とか……。
では、夢が叶わなかった人は、そのあとどう生きればいいんだろうか?
このモモには答えられないだろう。
ナイトメアは何者で、最終的に何をしたかったのだろうか。まるでわからない。
ぼんやりとした悪役像を、あそこまで演じた才加はすばらしい。
ちゃんとした脚本なら、もっとすごい芝居ができるだろう。
一刻も早く「広井ファミリー」からの卒業を、おれは本気で願っている。
チケット代は手数料とか含めて7000円……。でも、これも才加の出演料の一部になるなら、と馬券を買う金を節約して支払った。
広井王子が脚本なのだから面白いわけはない。そんなのはAKB歌劇団を見た段階でわかっていた。それでも才加が出るなら見ないわけにはいかない。辛い生き方だな、ヲタって。
それで千秋楽の舞台を見たわけだが、これが予想以上にひどかった。
才加はいい。与えられた役割をちゃんと演じていたし、おそらく見た人すべての心の中に留まるだろう。
でも、一番の問題は、その演技が物語にまったく生かされていないことだ。
すべてが浅い。
基本的に、これは子供向けのミュージカルだ(もっとも、製作側が予想した以上に親子連れは少なかったと思うが)。でも、だからこそちゃんと作るべきではないだろうか。
夢がテーマだからって、「夢を持つことはすばらしい」と連呼するのは一番ダメな作り方だと思う。戦争反対がテーマの物語で「戦争はよくない」と台詞で言わせるのはかっこ悪いでしょう。
子供向けだからそれでいい、というのであれば、それこそ子供を馬鹿にしている。
子供向けであればこそ、大人が見ても耐ええるきちんとしたものでなければいけないよ。
子供には人間の姿をありのまま見せるべきだ。
この物語には、人間は善良さと悪の部分を併せ持つということが描かれていない。
世界には、どうやら「いい人」しかいないようだ。
本気で腹が立ったのは、泥棒をしても正直に謝れば許されるばかりか得をするというエピソード。子供には、罪は罪だと教えないといけない。償いというのは正直に謝ることではない(この問題は本作に限ったことではなく、いろんな映画や小説やマンガに見られる根深い問題ではあるのだが、それはまたいずれ……)。
人間は不完全だ。でも、だからこそ希望を持てる。
大人だって不完全なんだから、子供は不完全に決まっているし、それでいい。お互いにダメな部分も良い部分も認め合って折り合いをつけていくのが、世の中を生きていくってことだ。
子供に見せるべきは、そういうものではないのだろうか。
広井王子はアニメの『魔法のプリンセス ミンキーモモ』を見てないと思う。
きちんと見ていたら、こんなものに仕上がるわけがない。
『ミンキーモモ』は「魔法では夢は叶わない。夢は自分自身で叶えるもの」という作品だ。
そして魔法を描きながらも、現実というものを核に置いている。
ことさらに神格化する気はないけど、第42話「間違いだらけの大作戦」を巡るエピソードは今でも鮮烈に覚えている。打ち切りになった場合、スタッフはこのエピソードで物語を終わらせるつもりだったそうだ。この42話は、くだらない間違いから核爆弾が落とされ核戦争が起こり地球が滅亡するというストーリーで(ミンキーモモは核戦争を防げない)、もし、これが本当になっていたら、それはアニメ史上もっとも印象的な最終回になっただろう。いや、本当の最終回も充分、衝撃的ではあるけれど。
大人たちが本気で子供たちに伝えたいと思って作っていたアニメだからこそ、何十年もみんなが覚えているのだ。
原点と違うものを作りたいというのなら、まあそれでもいい。
ただ、それならちゃんとしたものを作ってくださいよ。
でも、「テレビ東京のマイナー番組だったミンキーモモが立派になった」とか言って喜んでる人もいるから、そんなこと気にするおれがおかしいんだろうな、きっと。
『鏡の国のプリンセス』のモモはなにをしたか。
なにもしていない。
その場しのぎに変身しているだけ。
そして空虚なことを言い放つ。責任感のかけらもなく。
「夢はきっと叶う」とか……。
では、夢が叶わなかった人は、そのあとどう生きればいいんだろうか?
このモモには答えられないだろう。
ナイトメアは何者で、最終的に何をしたかったのだろうか。まるでわからない。
ぼんやりとした悪役像を、あそこまで演じた才加はすばらしい。
ちゃんとした脚本なら、もっとすごい芝居ができるだろう。
一刻も早く「広井ファミリー」からの卒業を、おれは本気で願っている。
■追撃―2の1■
森田涼花たちが倒れている三人の中学生の元に駆け寄った。「あんたら、大丈夫か?」
少女たちは一様に、背中を押さえていた。森田涼花の言葉に、小さく大丈夫です、と応えた。
――隙ありっ……。
小歌舞伎は駆け出した。
しかし森田涼花をかばうように、橘ゆりかが戦闘態勢に入った。橘ゆりかは大きく脚を広げて回し蹴りを繰り出してきた。小歌舞伎には、それが当てる気のない、デモンストレーションとしての見せ技だとわかった。
「罪のない子たちを、こんなひどい目に合わせて……」森田涼花が倒れた女の子たちから視線を歌舞伎シスターズに移した。「あんたら、クズ……いや、外道やな」
「外道――いい響きですね。私たちにふさわしいじゃないですか」大歌舞伎が言った。
森田涼花が歌舞伎シスターズめがけて走り出した。
両手には、いつの間にか赤樫で作られたらしい小太刀の木刀が握られていた。
――いつの間にあんなものをっ。
小歌舞伎は大歌舞伎の前に出て、森田涼花の攻撃を受け止める体勢に入った。これは、先に攻撃をしかけられたときのいつもの陣形だった。
しかし、こちらは素手――小歌舞伎はたじろいだ。
「成敗したるっ」森田涼花が小太刀を突き出す。
小歌舞伎は体をねじってそれをかわし、花吹雪の描かれたスカートの袖を大きく振った。
相手の視界の一部を塞ぎ、それが開けたときに後方から大歌舞伎が掌底を打ち込むという戦法である。
小歌舞伎は森田涼花と行きちがった。すぐに振り返ると、大歌舞伎が深く沈みこむ姿勢をとっていた。森田涼花の木刀はその上の空間を旋回していた。
――よし、空振ったっ。
小歌舞伎は次の瞬間、森田涼花の顎に大歌舞伎の掌底がボクシングのアッパーカットのようにめり込むことを確信した。
大歌舞伎が低い姿勢から、必殺の掌底を放った。
だが、森田涼花はそれを予測していたかのように、まず小太刀を放ると、背を弓のように反らしてバク転をした。まるで特撮ヒーローのアクションみたいに華麗な動きだった。
「ふざけやがって……」大歌舞伎は森田涼花を追った。
森田涼花は、再び掌底を打ってきた大歌舞伎を紙一重でかわし、みずから横転すると転がっていた小太刀を手にした。
「あんたの技、それしかないんか?」
「ごたごた言ってんじゃねぇよっ」
大歌舞伎は、ドスを効かせるには迫力の足りない、か細い声で叫び、もはやヤケクソ気味に掌底を連打した。
掌底にいかに打撃力があろうとも、当たらなければ意味はない。また、必殺の一撃を連打すれば、そこには隙が生まれる。
森田涼花が大歌舞伎と交差したとき、小太刀が一閃した。大歌舞伎の腹部へ、強烈な一打を打ち込んだのだ。
大歌舞伎は白目を向いて倒れた。
「姉貴っ」
小歌舞伎が大歌舞伎の元へ走り出したとき、橘ゆりかの回し蹴りが襲いかかってきた。プリーツスカートがふわりと浮き、きれいな円を描いた。
小歌舞伎の円運動と、橘ゆりかの円運動はそれぞれ真逆の方向を向いていた。カウンターの一撃を加えられたのは、リーチの差で橘ゆりかの蹴りだった。
右肩に激痛が走り、小歌舞伎は地に倒された。
「なあんや、大したことないやんか。歌舞伎シスターズ」
「痛てぇじゃねぇか……この、出っ歯」小歌舞伎は悔し紛れに言った。
「はあ? 私が出っ歯ぁ? あんたのほうが出っ歯やん」
それは小歌舞伎が最も気にしている、自分の身体的特徴だった。
かちん――と、頭の中でなにかが弾けた。
『欠点』を指摘されたことによって、急激にアドレナリンが放出されたのか、小歌舞伎は右肩の痛みを感じなくなった。手をついて立ち上がり、怒りに任せて橘ゆりかに突進した。
いつの間にか大川藍が背後に回りこんでいたと知ったのは、その直後だった。セーラー服の襟を引っ張られたのだ。
「――てめっ」小歌舞伎は振り返りざま、裏拳を叩き込むべく手首に力を入れた。
しかしそれは見事なほどの空振りで、小歌舞伎は落ちる寸前の竹とんぼみたいにだらしなくくるりと回り、倒れた。
そこにやってきた橘ゆりかが先ほど痛打した、小歌舞伎の右肩を踏みつけた。
小歌舞伎は絶叫した。
「そんなに出っ歯が気になるなら、抜いたろか」橘ゆりかが笑った。
もはや小歌舞伎には立つ気力がなかった。少しでも動こうとすると、右肩に乗せられている橘ゆりかの脚がぐりぐりと動き、痛みを倍増させたからだ。
「でも、歯を抜くのはかわいそうやで、ゆりか」
「そうやな。でも、わたしを辱めた分は反省してもらわんとあかん」
「そらそうや」大川藍はそう言うと、ブレザーの内ポケットからカッターナイフを取り出した。
チキチキと音を立てて伸びる刃が、太陽の光を反射した。
小歌舞伎は、四天王のゲキカラに一方的にやられたときのことを思い出し、恐怖に駆られた。
「この、飾り立てられたきれいな制服、やったるか」
橘ゆりかは言い、セーラー服の上着の腹部の裾に刃を当てたかと思うと、そのまま一気に襟まで裂いた。顔面に刃が迫ってきたとき、小歌舞伎はひぃっと声を上げてしまい、顔を反らせた。
縦に裂かれたセーラー服が、はらりと風に舞うように小歌舞伎の無防備な胸を露にした。
「洒落たブラ付けとるやん。あんたには似合わへんよ、こんなん」
橘ゆりかは胸の谷間に刃を差し込むように入れた。ひんやりとした刃の感触があった。
――やめて……。
もはや「女」に戻ってしまった小歌舞伎には、搾り出す声もなかった。
カッターの刃がブラジャーのレースを引き裂いていく。やがてそれがプチンと弾けると、豊満な胸が開放された。
橘ゆかりは爆笑し、小歌舞伎から離れた。反撃のチャンスだったが、もはや小歌舞伎にその気力は残っていなかった。ケンカは拳だけでするものではない、と小歌舞伎は悟った。
小歌舞伎は上半身を起こした。セーラー服の上着とブラジャーがだらりと垂れ下がり、胸が無防備になっていた。小歌舞伎は反射的に手で胸を隠した。
それまで一歩離れた場所で見ていた森田涼花が近づいてきた。
「あんたらが今までしてきたことを考えたらこんなもんじゃすまへんけど、今日は初めてやから、このくらいにしといたる」森田涼花は言った。「これにて一件落着ってとこやな」
橘ゆりかと大川藍が笑った。
小歌舞伎には、その声がどこか遠くから聞こえてくるように思えた。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
森田涼花たちが倒れている三人の中学生の元に駆け寄った。「あんたら、大丈夫か?」
少女たちは一様に、背中を押さえていた。森田涼花の言葉に、小さく大丈夫です、と応えた。
――隙ありっ……。
小歌舞伎は駆け出した。
しかし森田涼花をかばうように、橘ゆりかが戦闘態勢に入った。橘ゆりかは大きく脚を広げて回し蹴りを繰り出してきた。小歌舞伎には、それが当てる気のない、デモンストレーションとしての見せ技だとわかった。
「罪のない子たちを、こんなひどい目に合わせて……」森田涼花が倒れた女の子たちから視線を歌舞伎シスターズに移した。「あんたら、クズ……いや、外道やな」
「外道――いい響きですね。私たちにふさわしいじゃないですか」大歌舞伎が言った。
森田涼花が歌舞伎シスターズめがけて走り出した。
両手には、いつの間にか赤樫で作られたらしい小太刀の木刀が握られていた。
――いつの間にあんなものをっ。
小歌舞伎は大歌舞伎の前に出て、森田涼花の攻撃を受け止める体勢に入った。これは、先に攻撃をしかけられたときのいつもの陣形だった。
しかし、こちらは素手――小歌舞伎はたじろいだ。
「成敗したるっ」森田涼花が小太刀を突き出す。
小歌舞伎は体をねじってそれをかわし、花吹雪の描かれたスカートの袖を大きく振った。
相手の視界の一部を塞ぎ、それが開けたときに後方から大歌舞伎が掌底を打ち込むという戦法である。
小歌舞伎は森田涼花と行きちがった。すぐに振り返ると、大歌舞伎が深く沈みこむ姿勢をとっていた。森田涼花の木刀はその上の空間を旋回していた。
――よし、空振ったっ。
小歌舞伎は次の瞬間、森田涼花の顎に大歌舞伎の掌底がボクシングのアッパーカットのようにめり込むことを確信した。
大歌舞伎が低い姿勢から、必殺の掌底を放った。
だが、森田涼花はそれを予測していたかのように、まず小太刀を放ると、背を弓のように反らしてバク転をした。まるで特撮ヒーローのアクションみたいに華麗な動きだった。
「ふざけやがって……」大歌舞伎は森田涼花を追った。
森田涼花は、再び掌底を打ってきた大歌舞伎を紙一重でかわし、みずから横転すると転がっていた小太刀を手にした。
「あんたの技、それしかないんか?」
「ごたごた言ってんじゃねぇよっ」
大歌舞伎は、ドスを効かせるには迫力の足りない、か細い声で叫び、もはやヤケクソ気味に掌底を連打した。
掌底にいかに打撃力があろうとも、当たらなければ意味はない。また、必殺の一撃を連打すれば、そこには隙が生まれる。
森田涼花が大歌舞伎と交差したとき、小太刀が一閃した。大歌舞伎の腹部へ、強烈な一打を打ち込んだのだ。
大歌舞伎は白目を向いて倒れた。
「姉貴っ」
小歌舞伎が大歌舞伎の元へ走り出したとき、橘ゆりかの回し蹴りが襲いかかってきた。プリーツスカートがふわりと浮き、きれいな円を描いた。
小歌舞伎の円運動と、橘ゆりかの円運動はそれぞれ真逆の方向を向いていた。カウンターの一撃を加えられたのは、リーチの差で橘ゆりかの蹴りだった。
右肩に激痛が走り、小歌舞伎は地に倒された。
「なあんや、大したことないやんか。歌舞伎シスターズ」
「痛てぇじゃねぇか……この、出っ歯」小歌舞伎は悔し紛れに言った。
「はあ? 私が出っ歯ぁ? あんたのほうが出っ歯やん」
それは小歌舞伎が最も気にしている、自分の身体的特徴だった。
かちん――と、頭の中でなにかが弾けた。
『欠点』を指摘されたことによって、急激にアドレナリンが放出されたのか、小歌舞伎は右肩の痛みを感じなくなった。手をついて立ち上がり、怒りに任せて橘ゆりかに突進した。
いつの間にか大川藍が背後に回りこんでいたと知ったのは、その直後だった。セーラー服の襟を引っ張られたのだ。
「――てめっ」小歌舞伎は振り返りざま、裏拳を叩き込むべく手首に力を入れた。
しかしそれは見事なほどの空振りで、小歌舞伎は落ちる寸前の竹とんぼみたいにだらしなくくるりと回り、倒れた。
そこにやってきた橘ゆりかが先ほど痛打した、小歌舞伎の右肩を踏みつけた。
小歌舞伎は絶叫した。
「そんなに出っ歯が気になるなら、抜いたろか」橘ゆりかが笑った。
もはや小歌舞伎には立つ気力がなかった。少しでも動こうとすると、右肩に乗せられている橘ゆりかの脚がぐりぐりと動き、痛みを倍増させたからだ。
「でも、歯を抜くのはかわいそうやで、ゆりか」
「そうやな。でも、わたしを辱めた分は反省してもらわんとあかん」
「そらそうや」大川藍はそう言うと、ブレザーの内ポケットからカッターナイフを取り出した。
チキチキと音を立てて伸びる刃が、太陽の光を反射した。
小歌舞伎は、四天王のゲキカラに一方的にやられたときのことを思い出し、恐怖に駆られた。
「この、飾り立てられたきれいな制服、やったるか」
橘ゆりかは言い、セーラー服の上着の腹部の裾に刃を当てたかと思うと、そのまま一気に襟まで裂いた。顔面に刃が迫ってきたとき、小歌舞伎はひぃっと声を上げてしまい、顔を反らせた。
縦に裂かれたセーラー服が、はらりと風に舞うように小歌舞伎の無防備な胸を露にした。
「洒落たブラ付けとるやん。あんたには似合わへんよ、こんなん」
橘ゆりかは胸の谷間に刃を差し込むように入れた。ひんやりとした刃の感触があった。
――やめて……。
もはや「女」に戻ってしまった小歌舞伎には、搾り出す声もなかった。
カッターの刃がブラジャーのレースを引き裂いていく。やがてそれがプチンと弾けると、豊満な胸が開放された。
橘ゆかりは爆笑し、小歌舞伎から離れた。反撃のチャンスだったが、もはや小歌舞伎にその気力は残っていなかった。ケンカは拳だけでするものではない、と小歌舞伎は悟った。
小歌舞伎は上半身を起こした。セーラー服の上着とブラジャーがだらりと垂れ下がり、胸が無防備になっていた。小歌舞伎は反射的に手で胸を隠した。
それまで一歩離れた場所で見ていた森田涼花が近づいてきた。
「あんたらが今までしてきたことを考えたらこんなもんじゃすまへんけど、今日は初めてやから、このくらいにしといたる」森田涼花は言った。「これにて一件落着ってとこやな」
橘ゆりかと大川藍が笑った。
小歌舞伎には、その声がどこか遠くから聞こえてくるように思えた。
【つづく】
・某テレビドラマのパロディ小説です。パロ嫌いな人は読まないでね。
・あとから矛盾とか出てきたらこっそり書き直します。
・著者の上戸に格闘技経験はないので、おかしな箇所があったらこっそり教えてください。こっそり書き直します。
■追撃―2■
今日の獲物は隣の地区にある中学校の、ジャンパースカートの制服を着た女子生徒三人だった。
小歌舞伎はその三人を人通りの多い街道沿いから、大歌舞伎の待つ陸橋下の暗がりに連れてきた。
「姉貴ぃ。お客さん、到着でぇす」小歌舞伎は朗らかな口調で言った。
コンクリの支柱に寄りかかり座っていた大歌舞伎が立ち上がると、三人の中学生が震え上がったのがわかった。小歌舞伎は楽しくなってきた。
無抵抗な相手を脅して遊ぶことは、なによりも楽しい。
そのために必要なのは、まず「舐められないこと」、「先手を取ること」だ。小歌舞伎と大歌舞伎――歌舞伎シスターズが顔に化粧をし、着物のように改造したセーラー服で「武装」しているのは、そういう意味からだった。
初対面の相手は、その大抵が二人の異様さに恐怖を感じる。気勢を上げ、相手の優位に立ち、そのまま自分たちのペースに持ち込み、勝つ。これが歌舞伎シスターズの戦法だった。
今日の三人は、それがハマりすぎるほどハマった。怯えた少女たちの表情が、より一層、小歌舞伎のサドっ気を刺激する。それはこのあと、大歌舞伎を抱くときの(二人の関係はベッドの上では逆転する)、いい刺激だった。
最近の歌舞伎シスターズのターゲットは、中学生だった。前田に負けて以来、対等な年代の相手と戦うのが怖くなったからだ。ヤバ女との抗争も激化している今、『ヤバ女狩り』もリスクが多い。自分たちはケンカをしたいわけではなく、弱い者をいたぶりたいだけなのだから、不要な戦いは避けたかった。
「あのさぁ」小歌舞伎が三人の周囲を回りながらしゃべり始めた。「だれに断ってこのへん歩いてんの?」
「だれにって……」
「通行料」
「え?」
「このあたりは、あたしら歌舞伎シスターズのシマなんだよ。知らなかった?」
「し、知りませんでした……」
「あ、そうなんだ。じゃあ覚えておきな」
「はい、すみません。気を付けます……さ、行こ……」
三人のリーダー格らしき少女が言い、他の二人の手を引っ張って立ち去ろうとした。
その行く手を、大歌舞伎の脚が防いだ。陸橋のコンクリ支柱から突如生えたかのように思えるほど、すばやい動きだった。小歌舞伎は三人の背後に位置し、逃げられないよう退路を塞いだ。
「知りませんでしたで済むならヤンキーはいらないんですよ」
普通は「警察」というところを「ヤンキー」と言い換えた大歌舞伎は、「うまいことを言ったでしょ」といった自信有り気な表情を浮かべ、小歌舞伎を見た。正直、まったくうまいとは思えなかったが、小歌舞伎は笑みを作った。
「とにかく通行料を出してくれればいいってこと」
この理不尽な要求には、まともに話しても意味がないと思ったのか、それとも恐怖からなのかはわからなかったが、三人組の少女たちは顔を見合わせ、やがてリーダー格の少女がこう言った。
「いくら払えばいいんですか?」
「決まってるじゃないですか」大歌舞伎が言った。「いま持ってる現金すべてですよ」
「――そんな……」
面倒くさいので、小歌舞伎は実力行使に出ることにした。
三人の背中に、次々とパンチを浴びせていく。
不意打ちを食らった少女たちは呻き声を上げ、地面に倒れていった。小歌舞伎はさらに抵抗できなくなるまでキックを続けた。ケンカなどしたことのないであろう少女たちは、まったくの無抵抗だった。小歌舞伎はそれが楽しくて仕方なかった。踏みつけると弾力のある尻の感覚が伝わってくる。そこに力を込めていくと、少女はあのときと区別のつかない歓喜にも似た声を出した。それは小歌舞伎に、このあとの大歌舞伎との房事を連想させた。小歌舞伎はそれでまた一層興奮し、力が入った。
大歌舞伎はその小歌舞伎の「虐殺」を眺めていた。いつものように、大歌舞伎は虐げられている少女たちに自分を投影しているのだろう。メイクを落とせば淫靡な目つきの大歌舞伎だが、今はそれがさらに艶と輝きを増していた。やや厚めの口唇は少し開き、そこから甘い吐息が漏れている。
やがて、瀕死の虫みたいになった三人から、小歌舞伎はバッグを奪い取った。中を開け、財布を取り出す。「やめてください」という微かな声が、地べたのほうから聞こえたような気がしたが空耳だろう。「通行料」は、三人合わせても二万円もなかった。
「姉貴、たったこれだけでした」小歌舞伎は略奪した札をひらひらと示した。「シケてますね」
「今は不景気だからな。今度は援交してそうなの狙うか」
「そうですね」
いま少女たちから徴収した「通行料」は、これから行くホテル代として消えることになる。
「んじゃ、行くか」
と――二人がその場を去ろうとしたとき、
「待ちなさいっ」
突然、背後から若い女の声がした。
小歌舞伎が振り返ると、そこにはブレザーとチェックのプリーツスカートという制服姿の少女が仁王立ちしていた。
その両脇には同じ制服を着た少女が二人、膝立ちの姿勢で寄り添っている。真ん中の少女とは対等の関係ではなく、主君と従者といった雰囲気があった。
小歌舞伎はその制服に見覚えがあった。最近、マジ女の名だたる不良グループを片っ端から襲っているという、亜利絵根女子高の制服だ。
「あれぇ……」大歌舞伎が馴れ馴れしい口調で言った。「だれかと思ったら、ウワサのアリ女の生徒さんたちじゃないですか」
「あんたら、この子たちになにをしたん?」少女の声には訛りがあった。イントネーションから推測するに、京都のほうのものらしい。
「ちょっと気晴らしに、中坊つかまえて言いがかりをつけてたんですよ」大歌舞伎はあっさりと言ってのけた。「――聞くところによると、アリ女の十傑集とやらがうちの生徒をボコってるらしいんですけど、なにか知ってますか?」
「うちも十傑集の一人――森田涼花や」
森田涼花が見栄をきるように言うと、侍従していた二人も声を上げた。
「同じく十傑集、橘ゆりか」
「同じく十傑集、大川藍」
チャンスだ、と小歌舞伎は思った。ここで十傑集とやらに勝てば、前田に負けた汚名を返上できる。「姐貴、やっちまいましょう」
「言われなくてもそのつもりですよ」大歌舞伎がにやりと笑うと、頬に描いた青い隈取りが歪んで異様な表情を作った。
【つづく】
今日の獲物は隣の地区にある中学校の、ジャンパースカートの制服を着た女子生徒三人だった。
小歌舞伎はその三人を人通りの多い街道沿いから、大歌舞伎の待つ陸橋下の暗がりに連れてきた。
「姉貴ぃ。お客さん、到着でぇす」小歌舞伎は朗らかな口調で言った。
コンクリの支柱に寄りかかり座っていた大歌舞伎が立ち上がると、三人の中学生が震え上がったのがわかった。小歌舞伎は楽しくなってきた。
無抵抗な相手を脅して遊ぶことは、なによりも楽しい。
そのために必要なのは、まず「舐められないこと」、「先手を取ること」だ。小歌舞伎と大歌舞伎――歌舞伎シスターズが顔に化粧をし、着物のように改造したセーラー服で「武装」しているのは、そういう意味からだった。
初対面の相手は、その大抵が二人の異様さに恐怖を感じる。気勢を上げ、相手の優位に立ち、そのまま自分たちのペースに持ち込み、勝つ。これが歌舞伎シスターズの戦法だった。
今日の三人は、それがハマりすぎるほどハマった。怯えた少女たちの表情が、より一層、小歌舞伎のサドっ気を刺激する。それはこのあと、大歌舞伎を抱くときの(二人の関係はベッドの上では逆転する)、いい刺激だった。
最近の歌舞伎シスターズのターゲットは、中学生だった。前田に負けて以来、対等な年代の相手と戦うのが怖くなったからだ。ヤバ女との抗争も激化している今、『ヤバ女狩り』もリスクが多い。自分たちはケンカをしたいわけではなく、弱い者をいたぶりたいだけなのだから、不要な戦いは避けたかった。
「あのさぁ」小歌舞伎が三人の周囲を回りながらしゃべり始めた。「だれに断ってこのへん歩いてんの?」
「だれにって……」
「通行料」
「え?」
「このあたりは、あたしら歌舞伎シスターズのシマなんだよ。知らなかった?」
「し、知りませんでした……」
「あ、そうなんだ。じゃあ覚えておきな」
「はい、すみません。気を付けます……さ、行こ……」
三人のリーダー格らしき少女が言い、他の二人の手を引っ張って立ち去ろうとした。
その行く手を、大歌舞伎の脚が防いだ。陸橋のコンクリ支柱から突如生えたかのように思えるほど、すばやい動きだった。小歌舞伎は三人の背後に位置し、逃げられないよう退路を塞いだ。
「知りませんでしたで済むならヤンキーはいらないんですよ」
普通は「警察」というところを「ヤンキー」と言い換えた大歌舞伎は、「うまいことを言ったでしょ」といった自信有り気な表情を浮かべ、小歌舞伎を見た。正直、まったくうまいとは思えなかったが、小歌舞伎は笑みを作った。
「とにかく通行料を出してくれればいいってこと」
この理不尽な要求には、まともに話しても意味がないと思ったのか、それとも恐怖からなのかはわからなかったが、三人組の少女たちは顔を見合わせ、やがてリーダー格の少女がこう言った。
「いくら払えばいいんですか?」
「決まってるじゃないですか」大歌舞伎が言った。「いま持ってる現金すべてですよ」
「――そんな……」
面倒くさいので、小歌舞伎は実力行使に出ることにした。
三人の背中に、次々とパンチを浴びせていく。
不意打ちを食らった少女たちは呻き声を上げ、地面に倒れていった。小歌舞伎はさらに抵抗できなくなるまでキックを続けた。ケンカなどしたことのないであろう少女たちは、まったくの無抵抗だった。小歌舞伎はそれが楽しくて仕方なかった。踏みつけると弾力のある尻の感覚が伝わってくる。そこに力を込めていくと、少女はあのときと区別のつかない歓喜にも似た声を出した。それは小歌舞伎に、このあとの大歌舞伎との房事を連想させた。小歌舞伎はそれでまた一層興奮し、力が入った。
大歌舞伎はその小歌舞伎の「虐殺」を眺めていた。いつものように、大歌舞伎は虐げられている少女たちに自分を投影しているのだろう。メイクを落とせば淫靡な目つきの大歌舞伎だが、今はそれがさらに艶と輝きを増していた。やや厚めの口唇は少し開き、そこから甘い吐息が漏れている。
やがて、瀕死の虫みたいになった三人から、小歌舞伎はバッグを奪い取った。中を開け、財布を取り出す。「やめてください」という微かな声が、地べたのほうから聞こえたような気がしたが空耳だろう。「通行料」は、三人合わせても二万円もなかった。
「姉貴、たったこれだけでした」小歌舞伎は略奪した札をひらひらと示した。「シケてますね」
「今は不景気だからな。今度は援交してそうなの狙うか」
「そうですね」
いま少女たちから徴収した「通行料」は、これから行くホテル代として消えることになる。
「んじゃ、行くか」
と――二人がその場を去ろうとしたとき、
「待ちなさいっ」
突然、背後から若い女の声がした。
小歌舞伎が振り返ると、そこにはブレザーとチェックのプリーツスカートという制服姿の少女が仁王立ちしていた。
その両脇には同じ制服を着た少女が二人、膝立ちの姿勢で寄り添っている。真ん中の少女とは対等の関係ではなく、主君と従者といった雰囲気があった。
小歌舞伎はその制服に見覚えがあった。最近、マジ女の名だたる不良グループを片っ端から襲っているという、亜利絵根女子高の制服だ。
「あれぇ……」大歌舞伎が馴れ馴れしい口調で言った。「だれかと思ったら、ウワサのアリ女の生徒さんたちじゃないですか」
「あんたら、この子たちになにをしたん?」少女の声には訛りがあった。イントネーションから推測するに、京都のほうのものらしい。
「ちょっと気晴らしに、中坊つかまえて言いがかりをつけてたんですよ」大歌舞伎はあっさりと言ってのけた。「――聞くところによると、アリ女の十傑集とやらがうちの生徒をボコってるらしいんですけど、なにか知ってますか?」
「うちも十傑集の一人――森田涼花や」
森田涼花が見栄をきるように言うと、侍従していた二人も声を上げた。
「同じく十傑集、橘ゆりか」
「同じく十傑集、大川藍」
チャンスだ、と小歌舞伎は思った。ここで十傑集とやらに勝てば、前田に負けた汚名を返上できる。「姐貴、やっちまいましょう」
「言われなくてもそのつもりですよ」大歌舞伎がにやりと笑うと、頬に描いた青い隈取りが歪んで異様な表情を作った。
【つづく】
◎メイショウベルーガ
○ジャミール
△トウカイトリック
△ナムラクレセント
△トーセンクラウン
勝負馬券はメイショウベルーガの複勝w
穴をあける日経賞組のナムラクレセントとトーセンクラウンはワイドで。
○ジャミール
△トウカイトリック
△ナムラクレセント
△トーセンクラウン
勝負馬券はメイショウベルーガの複勝w
穴をあける日経賞組のナムラクレセントとトーセンクラウンはワイドで。